クズとブスの恋愛事情。

一方のアンジェラは、二週間という長い軍の合同合宿を終えて別荘でゆっくりと疲れた体と心を癒していた。

だが、別荘に来てから少し違和感。

大好きな恋人のエバンに、合宿から帰って来た事を伝える為電話をしたのだがいくら鳴らしても出ない。
忙しいのかもしれないとメールを送ったら

[お疲れ様。ゆっくり、心と体を休めて。]

と、アンジェラを労る言葉だけ送られ、それ以外に何も書かれていなかった。いつもなら、エバンの日程を詳しく教えてきてアンジェラの日程と照らし合わせ、会える日にデートの約束をする。

電話やメールだって、マメにしてきていたのに何だか違和感。

なので、珍しくアンジェラの方から自分の日程を教えるメールを送りエバンに会いたい趣旨を伝えた。…だが…

[講習やボランティア、セミナーで忙しい。ごめん。]

と、だけメールが届いて、

何それ!?夏休みは長いでしょ!

アンジェラは、そんな風にメールを送ったのだが、お坊ちゃんお嬢様学校と一般の夏休みの期間が違う事を説明され、自分が合宿に行ってる間にエバンの夏休みが終わりかけている事に気付き

お坊ちゃんお嬢様学校と一般学校は、こうも違うものなのかとショックを受けていた。

こればっかりは、どうしようもない。


しかし、これからアンジェラは様々において、これから徐々に違和感を覚えていく事になる。


そんなある日、アンジェラはミキからミキの好きな子が夏休み後半に海外留学している事。そして、その子に会いに暇を見つけては、その子に会いに海外に行ってる話を聞いて

エバンに会えない憂さ晴らしに、アンジェラはミキの好きな子がどんなデブス眼鏡の根暗オタクか見てやろうとミキに着いて行く事にした。

そして、ミキと一緒に有名お菓子のお土産を持ってその子がその子の友達とルームシェアしてるという、その子の友達の別荘へとやってきた。

その別荘は、とてもオシャレで素敵な別荘だしセキュリティに優れていて、それだけでもその子の友達は只者じゃない事が分かった。

ちょっとドキドキしつつも、自分にとても自信のあるアンジェラはミキと共に別荘の中へと通された。

中も、アンジェラの別荘とは比較にならない程立派過ぎる豪邸で、思わずアンジェラは

「…ねえ、ミキ。もしかして、この別荘の持ち主ってかなり格上の家柄?」

恐る恐る、聞いてみると

「…あ、あ〜、めちゃくちゃ身分高いかも。」

なんて、たった今思い出したかの様な反応をして、でも全然大丈夫だよーと軽い調子で答えた。

…え…?

デブス眼鏡オタクは、貴族の中でも最下位の地位でお金に困ってると聞いていたのでアンジェラは
てっきり、そんなど底辺デブスの友達なんだから同類なのだろうと勝手に決めつけ、笑ってやろうと思い意気揚々とやってきた訳何だが…

確かに、ミキの好きな子とその友達の事を詳しく聞かなかった自分も悪いけど、そんな凄い相手なら事前に教えてくれても良かったんじゃないかとミキを睨みつけた。

それに気がついたミキは、…え!?何で怒ってるの?と驚いた顔をしてから、少し考えアンジェラの考えてる事が分かったらしい。申し訳なさそうな顔をして、アンジェラに謝り説明しようと口を開こうとしたバットタイミングで


「…ミキくんとミキのだ、だだ大親友のアンジェラさんですな。遠い所からよくぞ、い、いいらっしゃって下さりありがとうございまする。」

と、カミカミの変な言葉遣いの野暮ったい女の子が、慌てて部屋から出て来て

「本当は、友達と一緒に、げ、玄関まで迎えに行こうと思っていたのですが…ちょっと、トイレに行ってる間に…いやはや!友達もちょうど、大事な電話が掛かってきてしまいましてな。
何ともかんとも、タイミングが合わず…申し訳ございませぬ!」

なんて、声は可愛らしいのに喋り方は変だし、緊張し過ぎて噛みまくるで色々と台無しな女の子。

ダサい深緑色のジャージがぱんぱんに膨らんでいて、分厚い丸眼鏡。ベリーショートの白金…


…ブフッ!

絶対、コイツだ!

コイツが、ミキの好きな子の“デブス眼鏡オタク”!

笑えちゃうぅぅ〜〜〜

本当にこんな残念なド底辺いるんだぁ!

ビックリしちゃうぅぅ〜〜〜!

来て良かったぁぁ!!!


と、アンジェラはミキの好きな子を見て、心の中ですこぶる馬鹿にして嘲笑っていた。一目見ただけで、面白くてたまらない。

そんなアンジェラに


「あ、、、自己紹介を忘れてましたぞ。申し訳ありませぬ!私は、財前 陽毬。中学一年生であります。」

と、慌ててぺこぺこ頭を下げる陽毬が面白くて、ようやく頭を上げて妙に距離感の近いミキとアンジェラを見た陽毬に

「ああ、気にしないで?ミキとは、悪友とでもいうのかな?昔からの腐れ縁でさ、よく誤解されるんだけどそういうのじゃないから安心してね?
私には恋人もいるし。ミキとは、う〜ん…そうだなぁ?
男女の壁を超えた大親友ってヤツかな?
私って、男も女も平等に接しちゃうからよく誤解されやすいの。だから、気にしないで?」

なーんて、いつぞや聞いた事のある言葉をニヤニヤしながら陽毬に言ってきた。

なので、前々から考えてた言葉を陽毬は言ってやったのだ。…上手く言えるかは別として。


「ああ!全然、ご心配要りませぬぞ?私とミキくんとは、“ただの友達であり、それ以上でもそれ以下でもございませぬ。”
ミキくんとアンジェラさん達のように、お互い知らない所がない何でも知り尽くしている大親友という訳ではございませんぞ?だから、私の事など気にせず、安心していつも通りのお二人でいてかまいませぬぞ?」

陽毬は強く自分とミキとのあらぬ関係を否定した上で、ミキとアンジェラ二人の関係を肯定してきた事に、ミキは驚いたように大きく目を見開き陽毬を凝視していた。

そんなミキの異変に気がついたアンジェラは


「…え?あなた、何を言ってるの?
ミキとただの友達って…」

戸惑いを隠せないアンジェラ。

「…え?それ以上何があると言うのですかな?
あ、そういう事ですな!?一言足りませんでしたな。
ミキくんは、私の大切な友人達“達”の一人ですぞ!」

なんて、ドヤ顔で答える陽毬に


「…大切な友人“達”って…」

と、あからさまにショックを受けるミキ。

そこに、こっちに向かってくる綺麗な足音が聞こえてきた。そこに、現れたのは


「いらっしゃい。ミキ君とミキ君の大親友のアンジェラさんで良かったかしら?」

と、透明感が有りつつも凛とした声が聞こえ、思わずドキッとして声のする方を向いた。


すると


ドキィィーーーーッッッ!!!!?


同じ人間とは思えない程の、今まで見た事もない様な気品溢れる絶世の美少女が現れた。

どこもかしこも、桁外れに美しく体や部分的な細かいところまで、自分達とは別次元に美しく綺麗である。

ただ、立っているだけだというのに、値段のつけられない最高傑作の美術品の様にひたすらに美しい。

そして、自分が知っていた頃と雰囲気と言動が違い過ぎて今の今まで気がつけなかったが、この絶世の美少女は…!!!


常盤 フジ!!!

海外の王族の血を引き、自国でも王族に次ぐ地位なので実質的に王族と言っても過言ではない。

アンジェラも身分は結構高い方ではあるが、フジとアンジェラとでは全くと言っていい程身分が違い過ぎる。
そして、才色兼備であり高飛車の傲慢我儘女王様!…と、名高い常盤 フジ。

自分が社交界で遠くから見た時も人を選んで見下すし傲慢で我儘放題で自分が気に入った話しか聞き入れないまさに女王様といった感じだった。

いつだったか、風の噂で常盤 フジは心が成長したんだろう。今までとはまるで別人の素晴らしい女性へと成長しているなんて、風の噂で薄っすらと聞いた事はあったのだが。

目の前のいるフジの様子を見てアンジェラは思った。噂は本当だったと。

とんでもないない所に来てしまったと、今さらながらに大後悔するアンジェラ。

それに、ミキの精神状態がとても心配だ。

…だって、ミキのこんなにも不安気で酷く傷付いた表情を見たのはこれが初めてだから。

そんなミキの腕に手を触れ


「…大丈夫?」

と、心配そうにアンジェラはミキに声を掛けた。そんな二人を見てフジは


「…あら?大親友というより熟年夫婦みたいね。」

なんて、驚いた顔をすると

「本当ですな!…まあ、これから先更なるダイエット地獄が始まる私にとっては、恋だの恋愛だの言ってられませぬが…。そもそも、私を好きになる変人なんて居ないのは確定ですがな!
自分で言ってて悲しくなってくるでありますよ。…あはは…」

フジの横で、ダイエットと美容地獄真っ只中の陽毬はドヨ〜ンとした顔をしていた。あと、自分に自信が無さすぎて自虐して勝手に自爆している。

その様子を見て、ミキとアンジェラは


…なんだ、そういう事か…

と、ホッと胸を撫で下ろした。

「それなら、ここにいるじゃん。未来のひーちゃんの旦那候補がさ。」

いつものように軽い調子で陽毬を口説くミキに


「…あ、あわわ!冗談でもそんな事は言ってはなりませぬぞ?そもそも、私とミキくんでは全く釣り合わないし周りのいい笑い者になってしまうであります。
せっかくこんなにイケメンに生まれてきたのだから、ミキくんは自分に見合ったアンジェラさんのような素敵な相手を探すべきですぞ!」

なんて、いつもの様に陽毬は真っ赤になりながら慌てふためいていた。いつもと違うのは、アンジェラと一緒に居るので例え話によくミキとアンジェラが使われる事だ。

…何だか複雑な気持ちだと感じるミキだった。


「…二人の気持ちを不快に思わせたらごめんなさい。
ミキ君から親友を連れて来るという話を聞いて了承したのだけど。
…二人の価値観と私の価値観が違い過ぎるか、私が狭量で頭でっかちなだけかもしれないわ。
だけど、二人を見てるとどうしても長く付き合ってる恋人か夫婦にしか見えないただならぬ関係にしか見えないの。
いくら、男性と女性平等に接してると言われた所で説得力の欠片もなくて、私から見たらやっぱり恋人にしか見えないわ。…それに、確かアンジェラさんには婚約者のクリシュナさんがいたわよね?彼の前でも、ミキ君とそんな感じなの?」

と、困ったように首を傾げながらアンジェラに質問してくるフジに

フジ様は、私に喧嘩売ってる?

なんか鼻に付く感じがするんだけど


「…ミキとクリシュナ様は面識がありませんので…」

と、フジの毅然としたした振る舞いにタジタジになりながらアンジェラは答えた。


「…そう。アンジェラさんの交友関係にどやかく言えないけど。もし、自分がクリシュナさんの立場だったら、いくら大親友と言われて信じようって思っても、どうしても二人の仲を疑って疑心暗鬼になってしまうわ。
だって、大親友だからどんなにくっ付いて戯れあっても許されるという感覚で恋人のように振る舞ってる二人を見せつけられたら、とてもではないけど恋人や婚約者として一緒に居る事は絶対に無理だわ。結婚なんて言語道断よ?
私と陽毬ちゃんだって大親友だけど、一度だってミキ君とアンジェラさんのように恋人に見られた事なんてないわ。」

ミキとアンジェラを見て、不愉快そうにう〜んと考える素振りをするフジ。

そして、ミキやアンジェラが何か言いそうになる前に


「…例え話になってしまうけど。
私が、二人のどちらかに恋をしていたり…ましてや、恋人、婚約者であったなら前提の例え話よ?
いくら二人に疾しい事がないとしても二人の関係を疑わざる得ないし、嫉妬と憎悪、二人への不信感でどうにかなってしまいそうになると思うわ。
幼児ではないのだから、いくら大親友とはいえ良識があるなら節度と良識を持って行動するべきだと考えるわ。
ましてや、アンジェラさんには婚約者がいるのだから。」

フジは自分の考えを伝え、さらに


「それでも、一般的な枠にハマらない、周りの目なんて気にしない。二人が何がなんでも、どんな修羅の道を通ろうとも我が道を突き通すというなら、これ以上私は何も言えないわ。言えるはずもない。
だけど、社交の場で

“大樹君そっくりの大樹君の使用人とアンジェラさんは恋人同士で目も当てられない程に仲睦まじい。
…だけど、アンジェラさんには婚約者がいるってのに、堂々と浮気をして周りに見せつけてるらしい。非常識もいい所だ。”

なんて、批判の声をよく聞くわ。だから、アンジェラさんの婚約者であるクリシュナさんは、その話を聞いてどう思っているのかしら?
そして、その事についてクリシュナさんが色々な人達に問い詰められてるのを何度か見た事があるわ。その時クリシュナさんはどんな気持ちだったのかしら?
その気持ちを想像しただけでクリシュナさんが不憫でたまらないわ。」


そんな事を打ち明けてきたのだ。

まさか社交の場で自分達にそんな噂が立っていたとは梅雨とも知らず、今までを過ごしてきたミキとアンジェラは驚きのあまりポカーンとした顔をしていた。

何故、そんな話が出ているのかと

そんな二人の気持ちを覗き見たかの様に、フジは今まさに二人が欲しがっている答えを話し始めてきた。


「少し考えてみて?ミキ君とアンジェラさんは有名な軍隊学校へ通っているようだけど、その学校はどんな生徒さん達が入学しているのかしら?」


と、フジが言った所で二人は、ようやくハッとした表情をしたのだった。

「そうね。二人とも気がついてくれて良かったわ。
軍の学校は全国にあってそれぞれ、もちろんの事だけどセレブの通う学校もあれば一般人が通う学校もあるわ。
あなた達が通う学校は、一流学校でしかもセレブ校よ?体力や能力に自信があったり、政治などに携わりたい様々な御曹司やお嬢様方が通う学校なの。」


…ドックン…


ミキとアンジェラは、お気楽気分から一気に不安とある種の恐怖に、弁解したくても弁解する言葉も見つからず声を出せずいた。


「…そうね。きっと、今、ミキ君とアンジェラさんが感じているだろう不安の通りかもしれないわ。
いくら、あなた方が自分達だけの常識の枠内で話をしても、納得できない人達が数多くいたようね。
同じ学校或いは、合宿に参加した別の学校の生徒さん達…誰かは分からないけど、あなた方の行動が異常であまりに非常識に思えていたのかしら?」

と、考える素振りをしながら話すフジに、ミキもアンジェラもただただ呆然としていて、まだフジの話している内容を飲み込めずいた。


「同じ貴族内のお友達に相談したり愚痴を言って、あなた方の話題をよくしていたのかまでは分からないけど。
こんなにも、社交の場でよく話題に上がる程あなた方はいい話題のネタにされて、面白おかしく脚色された話も数多く耳にする事もあるわ。」

まさか、そこまで自分達が面白ネタとして、いい格好の餌食になっていたなんてショック過ぎるてアンジェラは今にも泣き出しそうになっていた。

いつもなら、そんなアンジェラを隠れて手でも握って安心させるミキであるが、今回ばかりはそんな事などできなかった。できる筈もなかったのだ。


「…あなた方と同じ気持ちとは言いがたいけど。
少し前の私も、自分勝手が過ぎて周りの人達の気持ちも考えず傲慢で我が儘な事ばかりしていたわ。
…そうね…。自分が楽しければいい。他人なんて関係ないとでも、その時までの私は思っていたのかしら?
そこまで自分の気持ちや言動まで考えた事なんてなかったけど。こうして、当時の自分を振り返って自分の気持ちを思い出してもあまり出てこないという事は…。
その時、その場で、何の考えも無しに自分の思うがままに行動してという事だわ。…さほど、何にも考えてなかったって事ね。…恥ずかしい限りだわ。」


なんてミキとアンジェラを気の毒に思ったのか、フジは自分の思い出したくもない過去の酷い振る舞いをして周りを不愉快な気持ちにさせていた頃の話をしてきた。


「その頃は自分の考えばかり押し通して、周りの人達の意見や話は全く聞き入れない。少しでも正論を言われると癇癪を起こして怒り散らして自分は悪くないと現実逃避。

その頃は、相当なまでにつけ上がってたわ。

それに、あんなにも自分の悪い噂が充満して飛び交ってたというのに、その事に気が付いてなかったの。
…気が付かないフリか現実逃避でもしていたのかもしれない。自分が調子付いている時ほど、自分ばかりで周りが見えなくなるものよね。」


フジの話は、今までの自分達の行いにとても突き刺さる話ばかりで、ミキとアンジェラはこれから自分達はどういう風に周りの人達と接していけばいいのか分からなくなってしまった。

みんな、自分達と交友的でとても仲良くしていたと思うし、その中の中心的存在がミキやアンジェラだと思っていたし実際にそうなのだが

それなのに、もしかしたらその中に自分達の言動を良く思わず噂を広げた人物がいるかもしれないと思うと、誰を信じて誰を疑えばいいのか人間不信になってしまいそうだ。

…フジに、ここまで言われて

ようやく、自分達の言動を思い出すと…確かにフジの言いたい事が分かる気がしないでもなかった。

だが、やはり

ミキとアンジェラは、二人の間は誰にも邪魔できない程の“特別な友情”で結ばれていて、それを否定される覚えなどないという気持ちも大きく納得できない部分も強くあった。

それを誰も理解できないだけ。

どうして、そんな事も理解できないのか理解に苦しむミキとアンジェラだ。


「…今は、とても反省しているわ。その頃の自分を思い出したくもないくらい。その頃の私を思い返すと黒歴史でしかなくて。恥ずかし過ぎて消し去りたい過去よ。」

と、苦笑いして見せたフジ。

フジが話し終えたところでアンジェラは、今の自分の気持ちや考えを率直に伝えたのだが

その内容は、フジと陽毬にはとても受け入れがたい事で二人は驚いた顔をして顔を見合わせると


「……ショウちゃんが、言ってた事はこういう事だったんですな。…なるほど、なるほど。」

陽毬は、妙に納得したようにうなづき


「……私達の親友の一人が、たまに未来視できる特別な力を持ってる子がいるのだけど。
あなた方のその“特殊な考え方”を改めないと、“あなた方の今までの行いが、将来そのまま自分達にそっくりそのまま返ってくる”と、言っていたわ。
私達には、これ以上あなた方に何も言えないしアドバイスなんて烏滸がましい事もできない。だけど、このままでは、あなた方は……」

と、フジが言いかけた時。


……バンッッッ!!!

強くテーブルを叩き立ち上がり、鬼の形相でフジと陽毬を睨みつけるアンジェラの姿があった。


「…不愉快過ぎるわ!いくら、フジ様といえど私達の友情に口を挟むのはおかしいし、自分の勝手な物差しで物事を言わないでほしいわ!!
本当、傲慢過ぎてどうしようもない我が儘女王様ね!
何の権限があって、私達を説教するわけ?私達は何も悪い事なんてしてないのに酷い人!噂通りの最悪女だわ、何様のつもりよ!!!帰りましょ、ミキ!
こんな、最低最悪な所一刻も早く立ち去りたいわ!!」



…何よ!私とミキの事、何にも知らないくせに分かった風に言わないでよね!

あんた達に、私達の何が分かるって言うのよ!!


アンジェラは怒り爆発といった感じに、早く帰ろうとミキの手を取った。

…だが、全く動く気配のないミキに疑問を感じて後ろを振り返ると

深刻な表情を浮かべたミキが首を横に振った。

…え?

と、アンジェラの頭にクエッションマークが浮かんでいる所に


「…アンジェラ、落ち着いて。フジちゃんが、何の差別もなく自分達を交友的に受け入れて気さくに話してくれてるから忘れてしまいがちで、つい調子に乗った言葉や態度をしがちだけど。
ここは、どこなのか、アンジェラが喧嘩を売った相手が誰なのかよく考えた方がいい。
曲がりなりにもアンジェラだって貴族なんだ。社交の場に行く機会もあるんだからもう少し考えて行動した方がいい。
もう一つの理由として、フジちゃんとアンジェラは友達でも何でもない。俺のただの付き添いできただけの人間。本来なら、フジちゃんと言葉を交わす事やこの別荘に入る事すら恐れ多いって事も忘れないで?
…ちゃんと自分の立場をわきまえた方がいい。」


なんて、アンジェラを向く素振りを見せないまま淡々とアンジェラを説得するミキの姿に、アンジェラはこんなミキの姿なんて知らない…それほどまでに自分はマズイ事をしたのでは?

と、ようやく気がつき始めた。

「フジちゃんの一声で、アンジェラだけじゃなくてアンジェラの家族や親戚たちみんな貴族を追放されて路頭に迷わせるなんて、朝飯を食べるくらい簡単な話だって事分かってのフジちゃんに対しての無礼と愚かな行動してる?」

なんて、言われてカッと熱くなっていた気持ちが一気に冷め、全身からスゥー…と血の気が引いていくのが分かった。

後悔先に立たずである。

とりあえず、席に戻るようミキに促され力無く席に戻り、先程とは打って変わってビクビクしながらフジの様子を窺っているアンジェラの姿があった。

普段なら、そんな不安がるアンジェラを抱き寄せるか優しく背中をポンポン叩いて“大丈夫、大丈夫!”と、小さな声でチャラいが陽気に励ましてくれるミキなのに、一切そんな素振りは見せず

アンジェラをチラリとも見る事もなく、いつになく真剣な表情で陽毬を見ていた。


「さっき、フジちゃんが言ってたショウちゃんの話。
俺達について他に何か言ってなかった?もし、何か言ってたなら教えてほしいんだけど。」

と、聞いてきたミキの質問に、思わずフジと陽毬は顔を見合わせてミキは一体どうしちゃったのかと不思議に感じたものの、陽毬をジッと見て聞いてきたので人見知りな陽毬はアンジェラがいるので全部フジに丸投げしたかったのだが

陽毬の気持ちを察しながらも、“仕方ないわよ。ミキ君は陽毬ちゃんの口から話が聞きたいみたいだから。頑張って!”と、フジは苦笑いしながらもアイコンタクトしてきた。

二人がモダモダしてる間にミキは、すぐ横に座るアンジェラだけに聞こえる声で言った。


「…ショウは“特別な存在”。その特別が何かは未だに、ハッキリと教えてもらえないけど。それにショウに関しては俺が知ってる事でも例え家族や恋人でさえ余計な事は言えない。…そして…
そのショウの“予言”は絶対の100%。絶対に外れる事はない。」

と、軍特有の暗号言葉で話して、これはよほど知られてはいけない事なのだとアンジェラはゴクリと生唾を飲み込んだ。

と、いうか…“ショウ”って、誰?とも思ったが、今はそれどころではないので、大人しくミキの話を聞いた。


「だけど、ショウちゃんの“ソレ”は、どういった時に未来、過去が視えるのかは本人ですら分からないし、視える事は本当に稀な事だからショウちゃんの予言は凄く貴重な事だよ。だから、聞ける分しっかり聞いた方がいい。それに、ショウちゃんがいうには

“ちょっとしたキッカケで運命が変わる新たな道ができる事も多い”

“運命を変える事は、とても難しい事だけどできる”

とも、言ってた。その人の運命が変わった時もショウちゃんには、“運命が変わった事が分かって、その未来も視えてしまう”本人が望んでなくてもね。

ショウちゃんが、未来や過去が見えて人に話すだけでも宇宙のエネルギーの起動が乱れて何かバグみたいな事も起こるから、だから話したくてもむやみに人に話せないらしいよ。

そんなショウちゃんが、視えたその人の未来の事をバグが起こらないように全部は言わないだろうけど。
たくさんのヒントを出して強く喋るって事は……それだけ、俺とアンジェラの近い未来か遠い未来かは分からないけどとんでもない地獄を見続けて抜け出せない悲惨な状態になるって可能性が高い。」


なんて、話をされ100%の予言なんて…絶対なんてないわよ!と、アンジェラは疑いつつも、そんな事を言われてしまうと人間の殆ど誰しもがとても気になるものだ。

アンジェラは、予言なんてと疑いつつドキドキしながら陽毬が話すのを待った。

しかし、ミキの説明の後半ではあまりに不穏な事ばかり言うので、アンジェラは有名な預言者でもあるまいしそこまで真剣に考える必要もないと思いつつも

やっぱり、怖くなって不安な気持ちでミキを見るが…いつものような行動はしてくれなかったしアンジェラの顔も一切見てもくれなかった。


…ズキン…


どうして?

いつものように、私を一番に見て?


と、いつもと違ってミキが冷たいので、不安と寂しさでアンジェラは泣きたい気持ちでいる。