急ではあったものの、ひょんなことから結と蓮はショウの家に泊まる事になったのだが。
夕飯の時は、健康を考えて野菜中心で消化にいい食べ物が出されたのだが、そのどれもが素材一つ一つにこだわっていて…何より殆ど見た事も食べた事のないような食べ物や味付けだった。
食器から何から、やはり特注品ばかりなのか素人目にも値段のつけられないような高価なもので溢れている事も分かる。
食事は見た目もそれはそれはとても美しく、今まで食べた事もないような絶品ばかりで夢中になって食べてしまった。
それは、いいとして…目の前のバカップルだよ…
そこにも特大の椅子が置かれ、桔梗はピットリとショウにくっ付きショウにご飯を食べさせてあげている。その合間に、器用に自分もご飯を食べながら。
ショウは少し好き嫌いが多いらしく、口に含んでみてあまり好みでない食べ物の時。結や蓮には全然分からなかったのだが
「ショウ、それ苦手だった?」
即座にショウの異変に気がつき、桔梗はショウに口づけると
先程までショウが食べていた物を、桔梗がショウの口の中から口と舌を器用に使い取り出すと自分が代わりに食べていた。それも当たり前のように、ショウも桔梗も楽しそうに食事を続けている。
これも、この家ではいつもと変わらない普通の事のようだ。
それを見ていた結と蓮は、桔梗のあまりのエロティックさにドギマギしつつも
アレは絶対ワザとだ!と、確信していた。
なぁ〜にが、“それ苦手だった?”だ!絶対、確信犯だろ。白々しいったらありゃしない。
だって、ショウの事なら全て熟知してる桔梗がショウの好き嫌いが分からない訳がない。
多分、ショウにバレないように小細工してショウの苦手な食材を料理の一部に混ぜ込んでるに違いないと考え
フルコースの皿を取り替えに来た使用人に、コッソリ結はその事について触れてみた。
すると、使用人は少し苦笑いして
「ショウ様の料理に紛れ込んでるのは、“桔梗特製の食べ物”なんですよ。ショウ様とイチャイチャしたいのももちろんあると思いますが。
それ以上に、“桔梗特製の食べ物”のあまりの不味さに、大好きなショウ様の口から受け取る事で気を紛らわして食べてるんですよ。あんな不味い食べ物は、私達はいくら“美容に良い”からといっても絶対食べたくないです。」
…え!?
桔梗は、そんな回りくどい真似しなきゃ食べられないくらいゲロマズな食べ物を食べるっての?
いくら、美容に良いからってそこまでして食べる必要あるの!?
と、結と蓮が驚いてると、使用人は小さくクスクス笑いながら
「“桔梗特製の食べ物”は、入手困難なありとあらゆる希少な食材が使われてる“美容成分の塊”です。その為、桔梗自らがその食材を採取したり取引で入手してるんです。ただ、効果の程は絶大なので、美容にとても関心がある方々は喉から手が出る程までに欲しがるかなり希少で値段もつけられないくらい程の高価な代物なのですが。…なにせ、ゲロマズなので…」
何回も“ゲロマズ”という事は、よっぽど不味い食べ物なのだろうと、結と蓮は簡単に考えていたが
「それは現在研究で分かっている最高峰の美容食ではありますが、それをひと舐めしただけで、あまりの不味さに意識がぶっ飛び泡を吹いてしまうくらいです。しかも、あまりの不味さにショックを受け亡くなったケースも少なくありません。」
…えぇーーーーーッッッ!!!?
あまりの不味さで◯んじゃた人もいるの!?
しかも、この話ぶりじゃ一人や二人じゃないよね…?
と、使用人の話を聞いて、結と蓮は…ゾッとした。
「そもそも、その食材全てを揃える事自体、無理な話なんですが…うちの桔梗は全部揃えちゃいますからね。」
なんて、苦笑いしつつも“うちの桔梗”なんて言って誇らしげな使用人を見て、ショウももちろんだけど桔梗もこの家の人達にとても愛されてるなぁとホッコリする結だった。
「それは置いといてです。なので、全ての食材を揃えるのは困難。全て揃えても、あまりの不味さに食べられないという事もあり、美容にとても関心がある力や金、権力を持った人達は、その食材の中で自分が一番欲してる成分のある食材を幾つか集め、味の濃い食べ物か飲み物に少しだけ混ぜて何とか食してるそうです。」
いくつかの食材を少し混ぜて何とか飲食できるって、どんだけ不味いんだよ!
と、結と蓮は思った。
「桔梗は全ての食材を採取して、一日に必要かつ適量な分量を研究しました。そして、どうにかその適量分を全て食す事ができないかと大学で研究に研究を重ね、何とかゲロマズでも食べられなくない不味い食べ物を作る事に成功したんです。
ですが、桔梗はそのレシピを誰にも教えるつもりは無いみたいです。何故なら、希少な食材のどれかが入手できなくなる恐れがあるからです。」
どうして、そこまでして美容にこだわるの?
桔梗は、強制的に蓮に装着させた
“容姿含めて全ての能力が格段に劣化する魔具”
の最上級魔具を装着してると聞いた。
そんな桔梗からすれば、蓮に装着させたその魔具はオモチャみたいな物らしい。それでも、蓮にとっては効果絶大であったが。
今現在結達が見てる桔梗の姿は
常に全てを劣化させる最上級の魔具を装着している為、【本当の美貌】から程遠い桔梗の劣化版の姿らしい。
では、桔梗の本来の能力や力もそうだが、美貌はどれほどのものなのだろう?…全くもって想像がつかない。
だって、今でさえ桔梗のあまりの美貌に
桔梗を初めて見た人やあまり見慣れない人達が、腰を抜かしたり酷い時は稀に失神する人まで居るのだから。
もはや、この世の人間の美貌ではないとさえ思う。
だから、それを防止する為に大きなマスクで殆どの顔を覆って隠してるっていうのにだ。だから、【桔梗の本来の姿】は想像もつかないのだ。
そんな桔梗が、ゲロマズな美容食材を無理して食べる必要などないと思うんだけど……?
と、結と蓮が首を傾げていると
「クスクス。恋する男心ってやつですよ。
桔梗はショウ様に、少しでもカッコよく見られたい、良く思われたいんです。
それに食べれなくないとはいえ、あまりの不味さに桔梗はシェフに頼んで、ショウ様の料理のどこにその食材が入ってるか分からないようシャッフルで出すように頼んでるみたいです。
目に見えて“アレがその食材か”と分かってしまえば、楽しい食事も楽しめませんからね。
あと、ショウ様がその食材を食べたとき、何故わざわざ桔梗に知らせてるか分かります?」
なんて、急に問題出されたって全然分からない。
なので、結は分からないよとフルフルと顔を横に振ると
「ちなみに、桔梗特製の食べ物の名前は私達の間では“強欲食”って呼んでるんです。ありとあらゆる希少な食材ばかりを凝縮した贅沢品だから、私達が勝手にそんな名前付けちゃったんですよ。
あ、話がそれちゃいましたね!
ショウ様が、桔梗の強欲食を口に含んだ時、桔梗はすかさずねっとり濃厚にキスをしてると思いますが実はアレ、理にかなってりんです。」
「そうそう!強欲食は、ゆっくり少しづつ体に取り入れると効き目抜群!口の中に長く留めておく事でお口の中全ての病気予防までできる優れもの!
それに、二人で不味さを払い退けるくらいの快楽に酔う事で、知らずのうちにショウ様も強欲食を食べちゃってる。つまり、ショウ様の料理に出されてる強欲食は実はショウ様と桔梗の“二人分”ってわけ!」
「強欲食は、美容成分だけでなく血流促進やあらゆる健康効果もありますからね。それもあって、桔梗は自分だけでなくどうしてもショウ様にも強欲食を食べさせたいみたいなんですよね。」
「それに、強欲食の凄い所は抗菌作用はもちろんだけど、体臭にも絶大な効果があるんだ。
体臭が取れるだけじゃなくて、女性なら甘くて爽やかな香り男性なら清潔で上品な香りがほんのり体中から香るよ。」
と、何処からともなくひょっこり現れた使用人の説明に
だから、ショウも桔梗も香水付けてる訳でもないのにとても良い香りがするのかと結と蓮は納得していた。
「汗や排泄物もそのいい香りがするから臭くないんだ。ちなみに、そうくるとアソコの匂いもいい匂いなんだろうね。」
「けど、それは強欲食全ての材料を揃えて緻密に計算された配分量があって、はじめて生まれる効果だから桔梗の作る強欲食ででしか出ない効果ですよね。」
なんて、聞くと汗や排泄物…アソコの匂いまで、いい匂いがするって羨ましい限りだし、何より桔梗はマジで何者だよと驚くばかりの結と蓮だった。
「そんな超万能美容食だから、強欲食の不味さを誤魔化し誤魔化しショウ様と一緒に食してるって事なんです。
けど、最近の桔梗は強欲食の不味さを紛らわすというより、ショウ様との戯れの時間が楽しみに変わってしまったようで、その時間を心待ちにしてるようですけどね。」
と、別の使用人までも参戦して、強欲食について教えてくれた。
その時だった。
ショウが
「あ!これ、凄く美味しい!」
なんてショウが食べ物を絶賛すると
「俺も味がみたい。」
と、ショウに深く口付けて口内を存分に味わうと
「…ふふ。本当だ、これ凄く美味しいね。」
なんて、妖艶に笑いかけると、うっとりした表情で食事の感想を答え名残惜しくて何度も小さくショウの唇を食べるかのようにカプカプと吸い付いていた。
そして、さりげなくショウが気に入った食べ物を自分の皿からショウの皿に移し替えている。
だけど、桔梗とのチュウでいっぱいいっぱいなショウは、そんな事がされてるとも気づかず桔梗の卓越した超絶技巧チュウを必死になって受け止めていた…というより、受け止めるのが精一杯でアップアップしていた。
ちょっと、二人の漏れ出すピンク色な音や声は下手なエッチな動画よりもずっとずっと刺激的であった。
…ドキドキ!!?
食事が終わり、歯磨きの時もショウは桔梗によって丁寧に歯を磨いてもらっているのを見て結と蓮は驚いて思わず自分の持ってる歯ブラシを落としてしまった。
と、いう事があり
「食事の時、いつもあんな感じなの?
歯を磨く時も、専用のベットで桔梗の膝枕でショウは桔梗に歯を磨いてもらってるの?」
冗談だろとでも言いたげに聞いてくる蓮に
「…え?私、何かおかしい事してた!?」
ショウは、普段通りにしてたのに何かヘマでもしたのかと考えていた。
「今回の食事は、お前達の手前いつもよりイチャつかないようにしたけど?だいぶ、抑えてたから俺はちょっとイライラしてるよ。
歯磨きの時だって……クソッ!お前達がいるせいで、いつも通りできなくて不満しかないよ!」
なんて、不機嫌そうに答える桔梗に
…え?
これで、だいぶ抑えてるって普段どんなに凄い事しちゃってるの!?
と、結と蓮はドキドキしながらショウと桔梗を凝視していた。
食事が終わると、お風呂を用意されていたのだが
結と蓮は、ショウと桔梗とは別のお風呂を用意されていて見た事も聞いた事もない幻想的なお風呂体験ができて、驚きと感動があったのだが
お風呂から上がると
廊下の方で、またも桔梗と使用人が言い争ってるのが聞こえた。
「せっかく、お友達が来てくれてるのに別々のお風呂とかあり得ない!絶対、ショウ様だって結お嬢様と一緒に入りたかったはずだよ!
スケベな桔梗の我が儘で…もう!だから、せめてアロママッサージと美容ケアはお友達と一緒に受けてもらうからね。その為の部屋も特別に用意したからね!」
「ふざけんじゃねー!オレ様は、いつも通りのマッサージ部屋でいつも通りショウのマッサージと美容ケアしたいのに!!それじゃ、いつも通りって訳にはいかねーじゃねーか!!最悪!!!」
「もう、決定事項ですー。文句あるなら、桔梗のお父様とお母様に言って下さーい。」
「……チッ!クソッ!!」
なんて、やり取りがあり
癒し空間のマッサージ部屋で、結や蓮もマッサージを受けている訳なのだが…
結と蓮は、今まで感じた事のないようなマッサージに最適な心地いいベットと枕、タオルケットに包まれ夢見心地ではあるが
同じ室内ではあるが、結達からだいぶ離れた場所にショウ達はいて、ショウの特別製のマッサージセットを見て結と蓮はビビりまくってしまった。
だって、何処からどう見てもショウの乗ってるベットはふわふわの雲そのものに見える。…ぷかぷか浮いてるし…
何より、ショウをアロママッサージしたり爪やお肌など細部までケアをしてるのが桔梗であった。
見ていると、たまに戯れついたり何だか怪しい雰囲気になったりちょくちょくキスしちゃったり、ヤバかったのが桔梗がショウの至る所にキスしまくってたって事!
「桔梗は、毎日ショウのマッサージや美容のケアまでしてあげてるの?まさかとは思うけど…お風呂の世話までしてるって事はないよね?」
蓮は、入念にショウのマッサージや美容ケアをしている桔梗にまさかとは思いつつも、あり得そうだと気になってその事を聞いてみた。結も絶賛、気になって仕方ない様子。
「え?そんなの一緒に入ってるんだから、ショウのお風呂のケアするの当たり前だよね?」
どうやら桔梗にとってショウのお世話をする事は、呼吸する事と同じくらい至極当然当たり前の事らしい。
「だからかぁ〜。ショウちゃんの髪や爪まで至るところまできめ細やかで艶々で綺麗だし、肌なんていつまでも触っていたくなるくらいのモチモチつるつるの赤ちゃん肌だもんね。その秘訣がよく分かったよ。
だけど、問題は桔梗くんだよ!
桔梗くんは、ショウちゃんに付きっきりでショウちゃんの世話してんのにさ。桔梗くんの細部までわたって隅々まで全部綺麗なのはどうしてなの?何もしなくても、そんな感じなの?」
と、聞く結に
「まさか。俺だって全身の美容ケアは欠かさないよ。
もちろん、美容だけじゃなくて勉強や魔道、武術のトレーニングは欠かさないし、週に2、3回はダンスやマナーの練習や勉強もするよ。
やっぱり、好きな人にはずっとカッコいいって思われたいだろ?それに、いざって時に好きな人を守れないなんて最悪だろ?」
なんて、好きな人の為に努力を惜しまない桔梗の話を聞いて、こんな完璧な人でも誰よりも努力を惜しまず頑張ってるんだなと、結は桔梗に対しとても好感が持てた。
そして、そんな桔梗に一途に愛されてるショウが心底羨ましくて仕方なかった。
これは、幼い頃から少し前までフジが桔梗に執拗に付き纏い、ショウに意地悪な事ばかりしたがる気持ちも分かる気がする。
だって、ちょっと性格に難はあるが…こんなに完璧な人が自分に夢中になって尽くしてくれるなんて夢のような話だ。羨ましくない筈がないと、ショウちゃんが羨ましいなぁなんて思う結だった。
蓮の場合は、この話を聞いてかなりショックを受けていた。
桔梗は何の努力もしなくても、何でもできてしまうムカつく奴だとばかり思ってたのに
蓋を開けてみれば、自分の能力に溺れる事はなくひたすらに上を向いてショウの為に様々な分野において惜しみない努力をし続けている。
加えての異常なまでのショウのお世話。いや、ショウのお世話の合間に様々な努力をしているのだ。
学校へ行ってる時も思ったけど
プライベートだと学校にいる時の比ではないくらいに、ショウを中心に桔梗が廻っている
桔梗の全てはショウだと言っても過言ではない
なんで、こんなデブス(蓮の美への基準は相当なまでに高いのだ。しかも蓮に言わせれば、美形レベルが上以下はブサイク。体重が42Kg以上ある女性はデブらしい。)に、夢中になれるのか不明だけど…桔梗が言うには
ショウの容姿の美醜レベルは正確に把握はしてる
だけど、そんなのどうでもよくなるくらいに
ショウの全てが好き過ぎて、狂おしいくらいに愛おしく尊いから自然とショウの容姿も自分の超ド級のドストライクになったんだとか
けど、仮にショウに似た容姿の人が現れても自分の好みに反するとも言っていた
桔梗は恋愛対象・性的対象はショウ以外あり得ないと断言している
そんな馬鹿なと笑ってやったが…
いつまで経っても凄く仲のいい二人を見て、
表向きはかなり否定的な態度をとってる蓮だけど、内心…認めたくないけど…
本当に嫌だけど、お互いにこんなにも思い思われる関係って心の底から羨ましいと感じていた。
しかも、生まれた時からずっと一緒でずっとこんな感じなんだって聞いた時は、腰が抜けるくらいビックリしたけど。
そんなに一緒に居て飽きないの?って。
使用達によって、強制的に四人一緒の部屋に寝る事になって絶賛不機嫌な桔梗と嫌な雰囲気を漂わせてる蓮をよそに
結とショウは、キャッキャはしゃぎながら女子トークをしていた。
ショウには服の一部かのように桔梗がべったりとくっ付いてるし、蓮は用意された自分のベットに寝転んで自分は関係ありません、勝手にしてと言わんばかりに結達に背を向けてアプリ携帯をいじっている。
「そーなの!?フジちゃんと陽毬ちゃん、夏休みの最後あたりから海外に留学予定なんだ!でも、どうして?
二人で海外留学なんてさ。何をどう考えたって、二人に共通の接点が無さそうに感じるんだけど?
そもそもの問題、私と同じくらい陽毬ちゃん勉強苦手なのに何でまた留学なんて突拍子もない話になったの!?普通にどう考えたって陽毬に留学は厳しいんじゃない?」
と、いう話題に、これにはさすがの蓮も無視できなくて無関心を装いながらも、ちゃっかりと二人の会話を聞いて驚いていた。
「これは、フジちゃんの計画でまだ陽毬ちゃんには話してないんだって。」
「…えーっ!?”フジちゃんの暴走”って、悪い癖が出ちゃってる!陽毬ちゃんがこの計画知ったら泡吹いてひっくり返っちゃうんじゃない?」
「…あ〜、確かに急にそんな話されたらビックリしちゃうね!フジちゃんが言うにはね。
陽毬ちゃんにこの計画を話すのは、フジちゃんが納得するくらい陽毬がダイエットに成功して痩せた時に話すみたいだよ!
【フジ&陽毬の世界トップモデル計画】!」
大興奮しながら、フジと陽毬の近況について結に報告するショウに、結は思わず吹き出してしまった。
もちろん、無関心を装ってる蓮も。
「…けどさ。フジちゃんがモデルってのは分かるけど。陽毬ちゃんがモデルって…大丈夫なの?
…えっと、ちょっと言いづらいけど、ダイエットで痩せてきてはいたけど…私が最後見た頃の陽毬ちゃんは、まだまだ標準体型には程遠かったよね?ダイエットって、そんな一気に痩せるものだと思えないし、痩せるってかなり難しいって話聞くんだけど…」
と、少し言いづらそうに言ってきた。
それには、蓮も心の中で大きくうなづき(ついでに、ドブスだしな)と、懸命に笑いを堪えながら考えていた。
ところが
「それがね。フジちゃんの話だと、陽毬ちゃんの体質からすると夏休み中が正念場なんだって。
実は陽毬ちゃん、痩せやすいし太りやすくもある体質だから頑張ると夏休みの終わりくらいには標準体型になりそうだって張り切って教えてくれたよ。」
なんて、ショウは力説してきた。
それでもだ。
「……いやぁ、もし陽毬ちゃんが標準体型まで痩せられてもだよ?モデルってなれば、ガリガリまで痩せてる人ばっかじゃん。
その中に、標準体型の人が混じったら…全然太ってもないのにデブに思われるんじゃないかなぁ?…あと、手足の長さとか、顔の小ささとか…ね?」
と、フジの突拍子もない計画のせいで、陽毬が酷く傷付く想像しかできなくて結はどうにかフジの無謀な計画を中止できないものかとやんわりショウに訴えかけた。
その後ろで
…ブフッ!ブハハハハハッ!!
…な、なんだよ!
なんか、とんでもない面白い話になってない?
あの超ド級デブスメガネの陽毬が、モデル?
あり得ないよぉ〜!しかも、読者タレントモデルも絶対的に無理があるのに!
それだって、めちゃくちゃ可愛い美人な子の中でも選びに選ばれたごく僅かな子しかなれないのに
それを飛び越えて世界的なモデルになるって!?
夢を見てもいいけど、現実を見ろって言いたいよ
勘違いも甚しくて、笑いが止まらないぃぃぃ〜〜〜!!!
と、蓮は腹を抱えて、声を押し殺しても笑いが止まらなくて大変だ。
「…えっと、フジちゃんが言うには、陽毬ちゃんはダイエット成功すれば、超がつく小顔になるし今は肉に埋もれて分からない人達も多いと思うけど。
首も長くて手足、指も長いらしいよ?それに、
【陽毬ちゃんは痩せると化ける、絶対に化ける!】って、フジちゃんが興奮して説明してた。」
それを聞いて、結も蓮も絶対嘘だって。無理があるでしょ、そんな話と心の中で思っていた。
蓮の大爆笑に拍車が掛かる。
「あとね、
【陽毬ちゃんは本来顔も整ってるんだけど、化粧のやり方一つで色んな美女に大変身できる凄い恵まれた顔もしてるんだから!】
って、いっぱいいっぱい陽毬ちゃんの事褒めてたよ?
【陽毬ちゃんは、“虹色に光り輝くダイヤモンドの原石”だから、このままにしておくのがもったいない!】
【せっかく、モデルとして恵まれた容姿なんだから、陽毬ちゃんはこんなに凄いんだって世界中…ううん、本人に知ってもらい】たいんだって。
陽毬ちゃんにモデル計画にはもう一つ理由があってね、【いつも自分に自信が無くて、卑屈で周りを敵対視ばかりいる陽毬ちゃんに自分に自信を持ってほしい】って言ってた。」
なんて、話を聞くと
強引で突っ走る癖はあるけど、フジの人柄の良さがもの凄く伝わって応援したい気持ちもあるのだが…
フジが、陽毬の容姿を褒めちぎってるのは
単にフジが、陽毬のダイエットに付きっきりのサポートをして陽毬と一緒になって頑張ってるフジの欲目にしか思えない。
こればかりはなんて言ったらいいのか…苦笑いするしかない結。その後ろの一番奥のベットでは
「…あ、あの超ド級デブスの陽毬が
【虹色に光り輝くダイヤモンドの原石】
って…ブフゥーーーッッッ!!!
ヒ〜〜〜、これ以上笑わせないでよ!」
と、とても寝心地のいい大きく広いふっわふわなベットをユサユサ揺らしながら、蓮が大爆笑していた。
蓮の事を注意したい結でさえ、今声を出してしまったら蓮のように大爆笑してしまいそうで笑わないように必死に堪えた。
別に、陽毬の容姿がどうとかそんな事じゃない。
ただ、ありふれた一般的な容姿の女の子が、無謀にも世界で活躍するモデルになるというあまりに奇想天外予想もしなかった話に
陽毬とモデルじゃ住む世界が違いすぎて、陽毬は直ぐに追い出されて恥をかくだけだし惨めで可哀想な思いをするんじゃないかと心配になった。
…あと、やっぱりモデルと陽毬が並んでる姿を想像するなんて失礼だと思いつつも馬鹿にしてる訳でもないのに、あまりの違いに
…ごめんな、陽毬ちゃん!
本当にバカにしてる訳じゃないんだよ
でも、勝手に頭の中にモデルと陽毬ちゃんを並んだ姿が浮かんじゃって…!
と、心の中で陽毬に謝っても笑いが込み上げてくる自分に罪悪感を感じる結であった。
夕飯の時は、健康を考えて野菜中心で消化にいい食べ物が出されたのだが、そのどれもが素材一つ一つにこだわっていて…何より殆ど見た事も食べた事のないような食べ物や味付けだった。
食器から何から、やはり特注品ばかりなのか素人目にも値段のつけられないような高価なもので溢れている事も分かる。
食事は見た目もそれはそれはとても美しく、今まで食べた事もないような絶品ばかりで夢中になって食べてしまった。
それは、いいとして…目の前のバカップルだよ…
そこにも特大の椅子が置かれ、桔梗はピットリとショウにくっ付きショウにご飯を食べさせてあげている。その合間に、器用に自分もご飯を食べながら。
ショウは少し好き嫌いが多いらしく、口に含んでみてあまり好みでない食べ物の時。結や蓮には全然分からなかったのだが
「ショウ、それ苦手だった?」
即座にショウの異変に気がつき、桔梗はショウに口づけると
先程までショウが食べていた物を、桔梗がショウの口の中から口と舌を器用に使い取り出すと自分が代わりに食べていた。それも当たり前のように、ショウも桔梗も楽しそうに食事を続けている。
これも、この家ではいつもと変わらない普通の事のようだ。
それを見ていた結と蓮は、桔梗のあまりのエロティックさにドギマギしつつも
アレは絶対ワザとだ!と、確信していた。
なぁ〜にが、“それ苦手だった?”だ!絶対、確信犯だろ。白々しいったらありゃしない。
だって、ショウの事なら全て熟知してる桔梗がショウの好き嫌いが分からない訳がない。
多分、ショウにバレないように小細工してショウの苦手な食材を料理の一部に混ぜ込んでるに違いないと考え
フルコースの皿を取り替えに来た使用人に、コッソリ結はその事について触れてみた。
すると、使用人は少し苦笑いして
「ショウ様の料理に紛れ込んでるのは、“桔梗特製の食べ物”なんですよ。ショウ様とイチャイチャしたいのももちろんあると思いますが。
それ以上に、“桔梗特製の食べ物”のあまりの不味さに、大好きなショウ様の口から受け取る事で気を紛らわして食べてるんですよ。あんな不味い食べ物は、私達はいくら“美容に良い”からといっても絶対食べたくないです。」
…え!?
桔梗は、そんな回りくどい真似しなきゃ食べられないくらいゲロマズな食べ物を食べるっての?
いくら、美容に良いからってそこまでして食べる必要あるの!?
と、結と蓮が驚いてると、使用人は小さくクスクス笑いながら
「“桔梗特製の食べ物”は、入手困難なありとあらゆる希少な食材が使われてる“美容成分の塊”です。その為、桔梗自らがその食材を採取したり取引で入手してるんです。ただ、効果の程は絶大なので、美容にとても関心がある方々は喉から手が出る程までに欲しがるかなり希少で値段もつけられないくらい程の高価な代物なのですが。…なにせ、ゲロマズなので…」
何回も“ゲロマズ”という事は、よっぽど不味い食べ物なのだろうと、結と蓮は簡単に考えていたが
「それは現在研究で分かっている最高峰の美容食ではありますが、それをひと舐めしただけで、あまりの不味さに意識がぶっ飛び泡を吹いてしまうくらいです。しかも、あまりの不味さにショックを受け亡くなったケースも少なくありません。」
…えぇーーーーーッッッ!!!?
あまりの不味さで◯んじゃた人もいるの!?
しかも、この話ぶりじゃ一人や二人じゃないよね…?
と、使用人の話を聞いて、結と蓮は…ゾッとした。
「そもそも、その食材全てを揃える事自体、無理な話なんですが…うちの桔梗は全部揃えちゃいますからね。」
なんて、苦笑いしつつも“うちの桔梗”なんて言って誇らしげな使用人を見て、ショウももちろんだけど桔梗もこの家の人達にとても愛されてるなぁとホッコリする結だった。
「それは置いといてです。なので、全ての食材を揃えるのは困難。全て揃えても、あまりの不味さに食べられないという事もあり、美容にとても関心がある力や金、権力を持った人達は、その食材の中で自分が一番欲してる成分のある食材を幾つか集め、味の濃い食べ物か飲み物に少しだけ混ぜて何とか食してるそうです。」
いくつかの食材を少し混ぜて何とか飲食できるって、どんだけ不味いんだよ!
と、結と蓮は思った。
「桔梗は全ての食材を採取して、一日に必要かつ適量な分量を研究しました。そして、どうにかその適量分を全て食す事ができないかと大学で研究に研究を重ね、何とかゲロマズでも食べられなくない不味い食べ物を作る事に成功したんです。
ですが、桔梗はそのレシピを誰にも教えるつもりは無いみたいです。何故なら、希少な食材のどれかが入手できなくなる恐れがあるからです。」
どうして、そこまでして美容にこだわるの?
桔梗は、強制的に蓮に装着させた
“容姿含めて全ての能力が格段に劣化する魔具”
の最上級魔具を装着してると聞いた。
そんな桔梗からすれば、蓮に装着させたその魔具はオモチャみたいな物らしい。それでも、蓮にとっては効果絶大であったが。
今現在結達が見てる桔梗の姿は
常に全てを劣化させる最上級の魔具を装着している為、【本当の美貌】から程遠い桔梗の劣化版の姿らしい。
では、桔梗の本来の能力や力もそうだが、美貌はどれほどのものなのだろう?…全くもって想像がつかない。
だって、今でさえ桔梗のあまりの美貌に
桔梗を初めて見た人やあまり見慣れない人達が、腰を抜かしたり酷い時は稀に失神する人まで居るのだから。
もはや、この世の人間の美貌ではないとさえ思う。
だから、それを防止する為に大きなマスクで殆どの顔を覆って隠してるっていうのにだ。だから、【桔梗の本来の姿】は想像もつかないのだ。
そんな桔梗が、ゲロマズな美容食材を無理して食べる必要などないと思うんだけど……?
と、結と蓮が首を傾げていると
「クスクス。恋する男心ってやつですよ。
桔梗はショウ様に、少しでもカッコよく見られたい、良く思われたいんです。
それに食べれなくないとはいえ、あまりの不味さに桔梗はシェフに頼んで、ショウ様の料理のどこにその食材が入ってるか分からないようシャッフルで出すように頼んでるみたいです。
目に見えて“アレがその食材か”と分かってしまえば、楽しい食事も楽しめませんからね。
あと、ショウ様がその食材を食べたとき、何故わざわざ桔梗に知らせてるか分かります?」
なんて、急に問題出されたって全然分からない。
なので、結は分からないよとフルフルと顔を横に振ると
「ちなみに、桔梗特製の食べ物の名前は私達の間では“強欲食”って呼んでるんです。ありとあらゆる希少な食材ばかりを凝縮した贅沢品だから、私達が勝手にそんな名前付けちゃったんですよ。
あ、話がそれちゃいましたね!
ショウ様が、桔梗の強欲食を口に含んだ時、桔梗はすかさずねっとり濃厚にキスをしてると思いますが実はアレ、理にかなってりんです。」
「そうそう!強欲食は、ゆっくり少しづつ体に取り入れると効き目抜群!口の中に長く留めておく事でお口の中全ての病気予防までできる優れもの!
それに、二人で不味さを払い退けるくらいの快楽に酔う事で、知らずのうちにショウ様も強欲食を食べちゃってる。つまり、ショウ様の料理に出されてる強欲食は実はショウ様と桔梗の“二人分”ってわけ!」
「強欲食は、美容成分だけでなく血流促進やあらゆる健康効果もありますからね。それもあって、桔梗は自分だけでなくどうしてもショウ様にも強欲食を食べさせたいみたいなんですよね。」
「それに、強欲食の凄い所は抗菌作用はもちろんだけど、体臭にも絶大な効果があるんだ。
体臭が取れるだけじゃなくて、女性なら甘くて爽やかな香り男性なら清潔で上品な香りがほんのり体中から香るよ。」
と、何処からともなくひょっこり現れた使用人の説明に
だから、ショウも桔梗も香水付けてる訳でもないのにとても良い香りがするのかと結と蓮は納得していた。
「汗や排泄物もそのいい香りがするから臭くないんだ。ちなみに、そうくるとアソコの匂いもいい匂いなんだろうね。」
「けど、それは強欲食全ての材料を揃えて緻密に計算された配分量があって、はじめて生まれる効果だから桔梗の作る強欲食ででしか出ない効果ですよね。」
なんて、聞くと汗や排泄物…アソコの匂いまで、いい匂いがするって羨ましい限りだし、何より桔梗はマジで何者だよと驚くばかりの結と蓮だった。
「そんな超万能美容食だから、強欲食の不味さを誤魔化し誤魔化しショウ様と一緒に食してるって事なんです。
けど、最近の桔梗は強欲食の不味さを紛らわすというより、ショウ様との戯れの時間が楽しみに変わってしまったようで、その時間を心待ちにしてるようですけどね。」
と、別の使用人までも参戦して、強欲食について教えてくれた。
その時だった。
ショウが
「あ!これ、凄く美味しい!」
なんてショウが食べ物を絶賛すると
「俺も味がみたい。」
と、ショウに深く口付けて口内を存分に味わうと
「…ふふ。本当だ、これ凄く美味しいね。」
なんて、妖艶に笑いかけると、うっとりした表情で食事の感想を答え名残惜しくて何度も小さくショウの唇を食べるかのようにカプカプと吸い付いていた。
そして、さりげなくショウが気に入った食べ物を自分の皿からショウの皿に移し替えている。
だけど、桔梗とのチュウでいっぱいいっぱいなショウは、そんな事がされてるとも気づかず桔梗の卓越した超絶技巧チュウを必死になって受け止めていた…というより、受け止めるのが精一杯でアップアップしていた。
ちょっと、二人の漏れ出すピンク色な音や声は下手なエッチな動画よりもずっとずっと刺激的であった。
…ドキドキ!!?
食事が終わり、歯磨きの時もショウは桔梗によって丁寧に歯を磨いてもらっているのを見て結と蓮は驚いて思わず自分の持ってる歯ブラシを落としてしまった。
と、いう事があり
「食事の時、いつもあんな感じなの?
歯を磨く時も、専用のベットで桔梗の膝枕でショウは桔梗に歯を磨いてもらってるの?」
冗談だろとでも言いたげに聞いてくる蓮に
「…え?私、何かおかしい事してた!?」
ショウは、普段通りにしてたのに何かヘマでもしたのかと考えていた。
「今回の食事は、お前達の手前いつもよりイチャつかないようにしたけど?だいぶ、抑えてたから俺はちょっとイライラしてるよ。
歯磨きの時だって……クソッ!お前達がいるせいで、いつも通りできなくて不満しかないよ!」
なんて、不機嫌そうに答える桔梗に
…え?
これで、だいぶ抑えてるって普段どんなに凄い事しちゃってるの!?
と、結と蓮はドキドキしながらショウと桔梗を凝視していた。
食事が終わると、お風呂を用意されていたのだが
結と蓮は、ショウと桔梗とは別のお風呂を用意されていて見た事も聞いた事もない幻想的なお風呂体験ができて、驚きと感動があったのだが
お風呂から上がると
廊下の方で、またも桔梗と使用人が言い争ってるのが聞こえた。
「せっかく、お友達が来てくれてるのに別々のお風呂とかあり得ない!絶対、ショウ様だって結お嬢様と一緒に入りたかったはずだよ!
スケベな桔梗の我が儘で…もう!だから、せめてアロママッサージと美容ケアはお友達と一緒に受けてもらうからね。その為の部屋も特別に用意したからね!」
「ふざけんじゃねー!オレ様は、いつも通りのマッサージ部屋でいつも通りショウのマッサージと美容ケアしたいのに!!それじゃ、いつも通りって訳にはいかねーじゃねーか!!最悪!!!」
「もう、決定事項ですー。文句あるなら、桔梗のお父様とお母様に言って下さーい。」
「……チッ!クソッ!!」
なんて、やり取りがあり
癒し空間のマッサージ部屋で、結や蓮もマッサージを受けている訳なのだが…
結と蓮は、今まで感じた事のないようなマッサージに最適な心地いいベットと枕、タオルケットに包まれ夢見心地ではあるが
同じ室内ではあるが、結達からだいぶ離れた場所にショウ達はいて、ショウの特別製のマッサージセットを見て結と蓮はビビりまくってしまった。
だって、何処からどう見てもショウの乗ってるベットはふわふわの雲そのものに見える。…ぷかぷか浮いてるし…
何より、ショウをアロママッサージしたり爪やお肌など細部までケアをしてるのが桔梗であった。
見ていると、たまに戯れついたり何だか怪しい雰囲気になったりちょくちょくキスしちゃったり、ヤバかったのが桔梗がショウの至る所にキスしまくってたって事!
「桔梗は、毎日ショウのマッサージや美容のケアまでしてあげてるの?まさかとは思うけど…お風呂の世話までしてるって事はないよね?」
蓮は、入念にショウのマッサージや美容ケアをしている桔梗にまさかとは思いつつも、あり得そうだと気になってその事を聞いてみた。結も絶賛、気になって仕方ない様子。
「え?そんなの一緒に入ってるんだから、ショウのお風呂のケアするの当たり前だよね?」
どうやら桔梗にとってショウのお世話をする事は、呼吸する事と同じくらい至極当然当たり前の事らしい。
「だからかぁ〜。ショウちゃんの髪や爪まで至るところまできめ細やかで艶々で綺麗だし、肌なんていつまでも触っていたくなるくらいのモチモチつるつるの赤ちゃん肌だもんね。その秘訣がよく分かったよ。
だけど、問題は桔梗くんだよ!
桔梗くんは、ショウちゃんに付きっきりでショウちゃんの世話してんのにさ。桔梗くんの細部までわたって隅々まで全部綺麗なのはどうしてなの?何もしなくても、そんな感じなの?」
と、聞く結に
「まさか。俺だって全身の美容ケアは欠かさないよ。
もちろん、美容だけじゃなくて勉強や魔道、武術のトレーニングは欠かさないし、週に2、3回はダンスやマナーの練習や勉強もするよ。
やっぱり、好きな人にはずっとカッコいいって思われたいだろ?それに、いざって時に好きな人を守れないなんて最悪だろ?」
なんて、好きな人の為に努力を惜しまない桔梗の話を聞いて、こんな完璧な人でも誰よりも努力を惜しまず頑張ってるんだなと、結は桔梗に対しとても好感が持てた。
そして、そんな桔梗に一途に愛されてるショウが心底羨ましくて仕方なかった。
これは、幼い頃から少し前までフジが桔梗に執拗に付き纏い、ショウに意地悪な事ばかりしたがる気持ちも分かる気がする。
だって、ちょっと性格に難はあるが…こんなに完璧な人が自分に夢中になって尽くしてくれるなんて夢のような話だ。羨ましくない筈がないと、ショウちゃんが羨ましいなぁなんて思う結だった。
蓮の場合は、この話を聞いてかなりショックを受けていた。
桔梗は何の努力もしなくても、何でもできてしまうムカつく奴だとばかり思ってたのに
蓋を開けてみれば、自分の能力に溺れる事はなくひたすらに上を向いてショウの為に様々な分野において惜しみない努力をし続けている。
加えての異常なまでのショウのお世話。いや、ショウのお世話の合間に様々な努力をしているのだ。
学校へ行ってる時も思ったけど
プライベートだと学校にいる時の比ではないくらいに、ショウを中心に桔梗が廻っている
桔梗の全てはショウだと言っても過言ではない
なんで、こんなデブス(蓮の美への基準は相当なまでに高いのだ。しかも蓮に言わせれば、美形レベルが上以下はブサイク。体重が42Kg以上ある女性はデブらしい。)に、夢中になれるのか不明だけど…桔梗が言うには
ショウの容姿の美醜レベルは正確に把握はしてる
だけど、そんなのどうでもよくなるくらいに
ショウの全てが好き過ぎて、狂おしいくらいに愛おしく尊いから自然とショウの容姿も自分の超ド級のドストライクになったんだとか
けど、仮にショウに似た容姿の人が現れても自分の好みに反するとも言っていた
桔梗は恋愛対象・性的対象はショウ以外あり得ないと断言している
そんな馬鹿なと笑ってやったが…
いつまで経っても凄く仲のいい二人を見て、
表向きはかなり否定的な態度をとってる蓮だけど、内心…認めたくないけど…
本当に嫌だけど、お互いにこんなにも思い思われる関係って心の底から羨ましいと感じていた。
しかも、生まれた時からずっと一緒でずっとこんな感じなんだって聞いた時は、腰が抜けるくらいビックリしたけど。
そんなに一緒に居て飽きないの?って。
使用達によって、強制的に四人一緒の部屋に寝る事になって絶賛不機嫌な桔梗と嫌な雰囲気を漂わせてる蓮をよそに
結とショウは、キャッキャはしゃぎながら女子トークをしていた。
ショウには服の一部かのように桔梗がべったりとくっ付いてるし、蓮は用意された自分のベットに寝転んで自分は関係ありません、勝手にしてと言わんばかりに結達に背を向けてアプリ携帯をいじっている。
「そーなの!?フジちゃんと陽毬ちゃん、夏休みの最後あたりから海外に留学予定なんだ!でも、どうして?
二人で海外留学なんてさ。何をどう考えたって、二人に共通の接点が無さそうに感じるんだけど?
そもそもの問題、私と同じくらい陽毬ちゃん勉強苦手なのに何でまた留学なんて突拍子もない話になったの!?普通にどう考えたって陽毬に留学は厳しいんじゃない?」
と、いう話題に、これにはさすがの蓮も無視できなくて無関心を装いながらも、ちゃっかりと二人の会話を聞いて驚いていた。
「これは、フジちゃんの計画でまだ陽毬ちゃんには話してないんだって。」
「…えーっ!?”フジちゃんの暴走”って、悪い癖が出ちゃってる!陽毬ちゃんがこの計画知ったら泡吹いてひっくり返っちゃうんじゃない?」
「…あ〜、確かに急にそんな話されたらビックリしちゃうね!フジちゃんが言うにはね。
陽毬ちゃんにこの計画を話すのは、フジちゃんが納得するくらい陽毬がダイエットに成功して痩せた時に話すみたいだよ!
【フジ&陽毬の世界トップモデル計画】!」
大興奮しながら、フジと陽毬の近況について結に報告するショウに、結は思わず吹き出してしまった。
もちろん、無関心を装ってる蓮も。
「…けどさ。フジちゃんがモデルってのは分かるけど。陽毬ちゃんがモデルって…大丈夫なの?
…えっと、ちょっと言いづらいけど、ダイエットで痩せてきてはいたけど…私が最後見た頃の陽毬ちゃんは、まだまだ標準体型には程遠かったよね?ダイエットって、そんな一気に痩せるものだと思えないし、痩せるってかなり難しいって話聞くんだけど…」
と、少し言いづらそうに言ってきた。
それには、蓮も心の中で大きくうなづき(ついでに、ドブスだしな)と、懸命に笑いを堪えながら考えていた。
ところが
「それがね。フジちゃんの話だと、陽毬ちゃんの体質からすると夏休み中が正念場なんだって。
実は陽毬ちゃん、痩せやすいし太りやすくもある体質だから頑張ると夏休みの終わりくらいには標準体型になりそうだって張り切って教えてくれたよ。」
なんて、ショウは力説してきた。
それでもだ。
「……いやぁ、もし陽毬ちゃんが標準体型まで痩せられてもだよ?モデルってなれば、ガリガリまで痩せてる人ばっかじゃん。
その中に、標準体型の人が混じったら…全然太ってもないのにデブに思われるんじゃないかなぁ?…あと、手足の長さとか、顔の小ささとか…ね?」
と、フジの突拍子もない計画のせいで、陽毬が酷く傷付く想像しかできなくて結はどうにかフジの無謀な計画を中止できないものかとやんわりショウに訴えかけた。
その後ろで
…ブフッ!ブハハハハハッ!!
…な、なんだよ!
なんか、とんでもない面白い話になってない?
あの超ド級デブスメガネの陽毬が、モデル?
あり得ないよぉ〜!しかも、読者タレントモデルも絶対的に無理があるのに!
それだって、めちゃくちゃ可愛い美人な子の中でも選びに選ばれたごく僅かな子しかなれないのに
それを飛び越えて世界的なモデルになるって!?
夢を見てもいいけど、現実を見ろって言いたいよ
勘違いも甚しくて、笑いが止まらないぃぃぃ〜〜〜!!!
と、蓮は腹を抱えて、声を押し殺しても笑いが止まらなくて大変だ。
「…えっと、フジちゃんが言うには、陽毬ちゃんはダイエット成功すれば、超がつく小顔になるし今は肉に埋もれて分からない人達も多いと思うけど。
首も長くて手足、指も長いらしいよ?それに、
【陽毬ちゃんは痩せると化ける、絶対に化ける!】って、フジちゃんが興奮して説明してた。」
それを聞いて、結も蓮も絶対嘘だって。無理があるでしょ、そんな話と心の中で思っていた。
蓮の大爆笑に拍車が掛かる。
「あとね、
【陽毬ちゃんは本来顔も整ってるんだけど、化粧のやり方一つで色んな美女に大変身できる凄い恵まれた顔もしてるんだから!】
って、いっぱいいっぱい陽毬ちゃんの事褒めてたよ?
【陽毬ちゃんは、“虹色に光り輝くダイヤモンドの原石”だから、このままにしておくのがもったいない!】
【せっかく、モデルとして恵まれた容姿なんだから、陽毬ちゃんはこんなに凄いんだって世界中…ううん、本人に知ってもらい】たいんだって。
陽毬ちゃんにモデル計画にはもう一つ理由があってね、【いつも自分に自信が無くて、卑屈で周りを敵対視ばかりいる陽毬ちゃんに自分に自信を持ってほしい】って言ってた。」
なんて、話を聞くと
強引で突っ走る癖はあるけど、フジの人柄の良さがもの凄く伝わって応援したい気持ちもあるのだが…
フジが、陽毬の容姿を褒めちぎってるのは
単にフジが、陽毬のダイエットに付きっきりのサポートをして陽毬と一緒になって頑張ってるフジの欲目にしか思えない。
こればかりはなんて言ったらいいのか…苦笑いするしかない結。その後ろの一番奥のベットでは
「…あ、あの超ド級デブスの陽毬が
【虹色に光り輝くダイヤモンドの原石】
って…ブフゥーーーッッッ!!!
ヒ〜〜〜、これ以上笑わせないでよ!」
と、とても寝心地のいい大きく広いふっわふわなベットをユサユサ揺らしながら、蓮が大爆笑していた。
蓮の事を注意したい結でさえ、今声を出してしまったら蓮のように大爆笑してしまいそうで笑わないように必死に堪えた。
別に、陽毬の容姿がどうとかそんな事じゃない。
ただ、ありふれた一般的な容姿の女の子が、無謀にも世界で活躍するモデルになるというあまりに奇想天外予想もしなかった話に
陽毬とモデルじゃ住む世界が違いすぎて、陽毬は直ぐに追い出されて恥をかくだけだし惨めで可哀想な思いをするんじゃないかと心配になった。
…あと、やっぱりモデルと陽毬が並んでる姿を想像するなんて失礼だと思いつつも馬鹿にしてる訳でもないのに、あまりの違いに
…ごめんな、陽毬ちゃん!
本当にバカにしてる訳じゃないんだよ
でも、勝手に頭の中にモデルと陽毬ちゃんを並んだ姿が浮かんじゃって…!
と、心の中で陽毬に謝っても笑いが込み上げてくる自分に罪悪感を感じる結であった。

