そして、何人か部屋に入ってくると
「はじめましてだな。我はショウ様の父だ、娘と仲良くしてくれてありがとう。」
と、色白で短髪のよく似合うヤンチャそうな……12才前後の美少年がニッと元気いっぱいの笑顔で結と蓮に挨拶してきた。
結と蓮が…え?と疑問を持つ前に
「少々驚かせてしまいますが、俺もショウ様の父です。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。」
全体的に白銀色、耳の先が空色、前足の先は朝日色、後ろ脚は夕日色、フサフサの尻尾は夜色をしている見た事も聞いた事もない二本足で立てば5mありそうな雪豹とも狼にも似たような…でも、全然違うとても美しい獣が人間の言葉を流暢に喋っていた。
「今日は珍しく妾を含め、ショウ様の親が三人も揃うなど滅多にないゆえお主達は妾達三人を見れて運が良いのぉ〜。オーホホホ!
…おや、言い忘れておった。妾はショウ様の母様じゃ、特別に妾の美しい姿をその見窄らしくも小汚い目にに映すは勿体無いが、ショウ様のトモダチとあらば仕方あるまい。その卑しい目にとくと妾の美貌をよぉ〜く焼き付けておくが良い。妾を目にできるとは、ほんに運がよい者達よのぉ〜。オーホホホ!」
お前何様だよ!というくらいに高飛車な若い女性は、セクシーな服がとても似合うとても妖艶な美女で、彼女が自分の容姿に絶対の自信がありそんな事を言ってもその通りだなと納得してしまうくらいに彼女はとてつもない美貌の持ち主だ。
こんな事を言って許されるのは、彼女と桔梗くらいであろうと結と蓮は彼女に圧倒されポカーンとしていた。
そんな中、ショウはパァ!と、全身から嬉しいオーラが一気に飛び出し
「パパ、ママ!」
と、喜びの声を出して、桔梗の腕から飛び出しショウのパパ二人とママに勢いよく抱きついて喜んでいた。
ショウが桔梗の腕をすり抜けた時
「…あっ…」
桔梗の可哀想な声が小さく漏れて、それを見ていた結や蓮、桔梗のきょうだい達とまだ挨拶されてない二人は、気の毒そうに桔梗を見て苦笑いするしかなかった。
「まーた、可愛さ倍増してないか?可愛いなぁ、我のショウ様は。」
「フフ!毎日会っているというのに、俺のショウ様は本当に甘えん坊ですね。そこがまた愛らしくも愛おしいのですが。フフ。」
「まっこと、妾のこの上ない愛おしい愛おしい娘はかわゆいのぉ〜。ほんに、かわゆ過ぎて妾はどうにかなってしまいそうじゃ。」
と、この会話を聞く限り、ショウの育ての親6人はずっとこの家にいるような話ぶりだ。
そんな様子の結と蓮の心を読んだかのように
「挨拶が遅れた。俺は、桔梗の父だ。
そして、ショウ様と桔梗の育ての親に任命された我々は、この家にずっと住み続けている。ショウ様がこの家に居る限りではあるがな。」
美丈夫で強面の若い男性がそう言った後
「私はこの人の妻で、そこにいる子達の母です。息子がいつもお世話になってみたいで…。うちの子達の中で桔梗は末っ子なせいか我が儘さんに育っちゃったみたいなんです。
あと、人よりちょーっと頭がいいせいか、ちょーっと魔道が得意なせいか調子に乗っちゃってお天狗さんになっているので、お友達のみなさんに不快な思いをさせてないか心配で…もし、既に嫌な気持ちにさせていたなら本当にごめんなさい。
その時は、遠慮なく宝来家に電話下さい。内容によっては、しっかりとキツく叱りますので。」
おっとりとした、ほんわか優しそうな若い美女が心配そうに結や蓮に謝ってきた。
「…え?…いえいえ、桔梗くんにはいつもお世話になってまして…」
結は慌てて、桔梗の両親に大丈夫だという趣旨の言葉を述べペコペコ頭を下げていた。
「…ちょっ!!?お母さん、やめてよね!なんで、そんな事言うのさ!」
桔梗は母親に向かって、恥ずかしそうにそれ以上何も言わないで!と、必死に止めていた。それを見て、ゲラゲラ笑うきょうだい達に父親は「コラ!」と、叱りつけ
桔梗の家族は、何処からどう見ても極々普通の幸せそうな家族であった。
ショウの家族は…超溺愛が過ぎてかなり引くレベルだ。
だが、ショウの産みの親は置いておいて
他に、三人の育ての親がいるらしいが…忙しいのだろうか?と、結と蓮は首を傾げていると
「ショウ様の他の親三人は、“極度の人見知り”だからな。ショウ様と桔梗の友達と言えど、挨拶に来れない。奴らの代わりに謝ろう。」
なんて、桔梗の父親が言うものだから、結と蓮は慌てて「大丈夫です」という言葉を連呼した。
しかし、やはりというか…
ショウの親達も、桔梗の両親もこの世の者とは思えない程の美貌でぶっちゃけ結と蓮は腰が抜けて動けないでいる。ベットの上で壁に寄りかかるように座ってて良かったと思う結と、やたらと座り心地の良すぎる椅子に深々と腰を下ろしていて良かったと思う蓮であった。
そこに
「もう、妾のオッパイは飲まないのかえ?妾のオッパイはズゥ〜ッとショウ様がチュウチュウ飲んでくれんで寂しごうとるよ?」
なんて、色気ムンムンにショウのママは、露出の高い服の胸の紐を解くとボボーンともの凄い巨乳なのに、とても形も良くピンクの突起の付いた理想的なオッパイを惜しげもなく出してショウの口元にグイグイとくっ付けてきた。
「…ああ〜〜んっ!忘れられぬ…この甘美な……ここを触ってコレをチュウチュウ吸いてほしいぃ〜〜!
妾のオッパイはショウ様だけのものゆえ、誰にも触れさせてはおらぬ。ショウ様がいつチュウチュウ吸うてもよいように、毎日入念に洗ってケアも怠っておらぬぞ?
ショウ様に挨拶のキスをするこの唇と、いつでもショウ様が飲んでも良いように、ショウ様以外誰にも触れさせてはおらぬゆえ、な?いつでも、いっぱい甘えて良いのだぞ?」
なんて、ショウの顔中にたくさんキスしながらオッパイを吸わせようとする姿に、桔梗以外の男性陣は釘付けで
桔梗の父親も釘付けになっていたが、桔梗の母親によってあたふたと一生懸命に言い訳をして許しを乞うていた。
「…わ!毎回毎回性懲りも無くバカだろ、お前!
ショウはもう中学生だから、お前のオッパイは飲まねーんだよ!」
と、ショウのママからショウを引き剥がす桔梗は、鋭い目でショウのママを睨み付けていた。
「……じゃが、妾にとってショウ様はいつまで経っても可愛い赤子じゃ。ショウ様を思うとまだ母乳がたくさん出てくるんじゃ。そんなに、睨まんでもよかろうに。」
ショウのママは、ションボリしながら残念な事に美しい巨乳を薄っぺらく面積の狭い布で隠した。…と、思ったらショウをぎゅうと抱きしめショウのほっぺにチュッチュッチュッチュッ!ぷっくりエロエロな唇で
「妾の娘がこんなに可愛い!どこぞの生意気なクソガキになどお嫁にだしたくなどないわ!」
と、キスしまくっているのを、またも桔梗が邪魔して
「本当にやめてよね!ショウの親みんなさ。朝昼晩ってショウと会う度に挨拶のキスするのもどうかって思うんだよね!音鳴らすんじゃなくてマジでキスしてるのもおかしいから。
しかも、両ほっぺはまだマシだけど最後口にキスしてるってさすがにおかしいからね!
特に、そこのエロ女!!あんた、隙あらばショウにディープキスしてんのヤバイから!!本当にそれだけは、やめて!それは、恋人兼未来の夫である俺だけの特権なんだからね!」
桔梗は、ショウのママから隠すようにショウを自分の後ろに隠した。
桔梗のとんでもない爆弾を発言に、結と蓮はビックリしてしまって…なんて羨ま…じゃなかった。卑猥な内容なんだろうとドキマギしながら、桔梗とショウのママのやり取りを釘付けになって見ていた。
「そこは、仕方なかろうて。あまりにショウ様が可愛くて愛しゅうて愛しゅうて、ちょーっと舌と舌でチュウしただけではないか。それくらい許されるであろう。」
なんて、プンプン怒るショウのママに
「それ、アウトだから!自分の子供とディープキスする親なんていねーよ。それ、常識ぶっ飛んでるイカれヤローでキモイだけだからな。自分の子供にって、キモすぎてヤベー吐き気もんなのも分かんねーの!?」
すこぶる気持ち悪いとオエーッと、桔梗はジェスチャーして見せた。
「じゃが!その舌と舌を絡ませる愛情表現を、赤子ながらに魔道を使って妾の愛情表現をいつもいつも桔梗も周りの者達も邪魔しおってからに!舌と舌を絡ませる愛情表現は一度もできた事などないわ!」
とんでもない発言をぶっ放すショウママに
「「「「「「当たり前だ!!!(です!)」」」」」
桔梗以外にも、ショウパパ’ズや桔梗の両親も気持ちは同じだったようだ。見事に、ショウママに掛ける怒りの言葉とタイミングが被った。
「あとさ、ショウが赤ちゃんの時!あれってさーーー」
怒りのままに、ショウママに対して日頃の鬱憤を晴らすかのように彼女に物申そうとして喋り始める桔梗に
「もう、やめなさい。言ったら、キリがない。」
と、桔梗の父親は深い溜め息を吐きながら桔梗が怒りの言葉を吐き出すのを止めた。
「だってさ!コイツッ…!!」
桔梗が怒りのままに、ショウのママを指差すと
「コイツじゃない。ショウ様のママだ。
ショウ様のママは寝る間を惜しみ大好きな男漁りもせず仕事もより一層サボるのは…良くないが…ゴホンッ…!とにかくショウのママは、今まで見た事見た事もないくらいに真面目かつ熱心に育児の勉強をし悪戦苦闘しながらも、誰にも負けないくらいにショウ様に愛情を注ぎ大切に子育てしてきたのを我々はよく知っている。
そんな彼女の事を悪く言う事は決して許さない。」
と、鬼の形相で桔梗を睨み叱った。
次に桔梗の父親は、桔梗の比ではないくらいショウのママをギロっと睨みつけると
「お前もお前だ!いい大人が子供に向かってなんて言い草だ。これ以上、ここに居たらショウ様と桔梗の友達に迷惑がかかる。自分の部屋に帰るぞ!
そして、お前がサボりにサボって溜まっている仕事をしろ!お前の部下達が嘆いてるぞ!」
そう言って、ショウのママの首根っこを掴み
まだまだいい足りないと暴れるショウのママを引きずって何処かへ行ってしまった。
「騒がしくして申し訳なかったね。コレ(ショウのママ)は、連れて帰るから安心してゆっくりしてくれ。おやすみ。」
と、桔梗の父親が結と蓮に謝り挨拶をして出て行った。
「二度と来んな、クソババー」
自分達の親達の姿が見えなくなったところで、桔梗は顰めっ面をしながら悪態をついていた。
だが、今まであまりに大人びていた桔梗が、年相応に見えてなんだかホッとする結と蓮であった。
なんだ、コイツもちゃんと子供らしい所あるんだな
と、なんだか少しだけ結と蓮は、桔梗に親近感が出てきたところで桔梗はグッタリ疲れたように椅子に腰掛け
「…悪かったな。俺らの親達がさ…。」
なんて、らしくもない事を言い出し驚きなんて声を掛けようかと結はアタフタしながら声を出そうとした時だ。
「俺とショウの友達が家に来たから、どうせ、あいつらの事だから“俺らに相応しい友達かどうか見定めに来た”だけだろ。」
なんて、なんだかイラッとするような発言をしてきた。
…は?ショウと桔梗にふさわしい友達かどうか見定めるってなんなんだよ!?
これ、本気で言ってるの?
蓮は疑わしそうな目で桔梗を見ていると
「おかしいと思わねーのかよ。あいつら、同じ家にずっと居たんだぜ?にも、関わらず昼や夕飯の時でさえ姿を現さなかった。いつもなら、どんなに忙しくてもあいつら飯時は必ず俺らと飯食うってのにさ。
それに、今来た親達だって“人見知り”なんて誤魔化してるけど“大の中界人嫌い”だからな。もちろん、お前らの事も穢らわしく悍ましい汚物だと思ってるぜ?」
なんて、酷い言われように結も蓮も、冗談にしても言っていい事と悪い事があるだろ!と、桔梗に対し不快感を露わにした。
「ここに来なかった残り三人の親達は、“実際に会うまでもない”とか言って来もしなかったんだぜ?あいつらの考えそうな事だ。」
なんて、ウンザリしたように少し項垂れる桔梗の様子に、なんだか信憑性が出てきて結達は何も言えなくなっていた。
だって、そんな親達の行動を良く思ってない事が桔梗の様子から窺い知れたから。
「多分さ。今の話聞いて、かなりムカついてると思うけど。あいつらの“その考え方”は、例えて言えば
王族や貴族によくありがちな
“自分達は高貴な血が流れていて金も権力持ってるから、一般市民のような小汚い低俗、底辺風情が気軽に近寄れない素晴らしい存在だ”
って、考え方や、容姿や才能・能力に恵まれてる奴が
“自分は美人だから何をやっても許されるカースト上位の勝ち組。美形や何かかしらの特化した才能・能力、コミュ力がある者だけは自分達と同等。
それ以外はゴミ・奴隷だから、何やってもいい存在。どうでもいい存在”
オレ様からしたら、それらに近い考え方してんだと思う。
つまり、同等とみなさず周りを見下し蔑んで汚物扱いしてる感じだろうな。だから、少なくとも美醜で人を判断する蓮も、ショウと家族、親友以外ゴミみたいに思ってるオレ様もあいつらに何も言えた立場じゃねーって事でもあるんだよな。」
桔梗はそんな事を言ってきたので、ハッとした蓮はもう何も言えないどころか物凄い自己嫌悪に陥ってしまった。
「……ただ、あいつらみんな“中界人が反吐が出るくらい毛嫌いしてる”し、特にナラカ人(底人)……は話は別か。…まあ、それでもさ。
俺らにとっては、あんま言いたかねーがいい親達なんだぜ?あいつらや、他のやつら含めてオレ様とショウは温かい優しい家族に恵まれて幸せにやれてっからさ…一応…感謝はしてんだぜ?
…まあ、喧嘩ばっかだけど、それも含めて……あれ…?
…あっ!?…コレは!?」
そう気恥ずかしそうに話す桔梗に、結と蓮は桔梗に人間味を感じ家族の事をそんな風に考えていたなんて凄く良い子だと桔梗に対して好感度がグーーーンっと上がった。
ところが!
そこまで話して、急に桔梗はハッ!とした顔をして自分の口を押さえると急にキッと廊下を睨みつけて
「…クソッ!?麗紅華(れいこうか)ママか!?」
「オーホホホ!桔梗がねぇ、そんな風に妾達の事を思うてくれておったとはな。妾は嬉しいぞえ?お主の両親やきょうだい達も喜ぶであろう【本音】じゃ。
しかし、こんな術に簡単に引っ掛かりおって。まだまだじゃのぉ。妾の狂おしくも愛おしい娘を護りたいになら、もっと鍛錬する事じゃな。」
なんて指摘され、悔しそうにしている桔梗を無視しショウのママはドア越しに
「妾の可愛い可愛いショウ様。妾はショウ様を見ると離れがたいがゆえ、ここからの挨拶ですまぬの。
おやすみ、妾の愛おしいショウ様。…ちゅっ!」
なんて声が聞こえ、ショウもそこに向かって
「ママ、おやすみなさい。いい夢みてね。ちゅっ!」
と、おやすみなさいの挨拶とママの真似をして、両目をギュッとつむり口を尖らせてリップ音を出した。
その不器用な姿に、桔梗だけでなく結や蓮までも
…きゅん!
として、かわいいなぁとショウを見ていた。
…が、桔梗はあまりの可愛らしさに我慢できず、ショウがむにゅっと突き出した唇に唇を合わせようとしていた所を結と蓮は
…ま、まさか、ここでおっ始めるつもりじゃ…!!!?
と、ドキドキしながら、自分達はどうすればいいんだと脳内パニックを起こしてたところ
『桔梗。ショウ様は可愛いね。だけど、お友達が居るんだから我を忘れちゃいけないよ?』
なんて、男と女の混じった様な声と同時にいつの間にか現れたいつか見た黒服めの性別不明な人が、桔梗の唇にハンカチを押し当てショウへのキスを止めていた。
『多分、今、キスしちゃうと止められなくなっちゃいそうだったからね。人前では気をつけて?』
そう、桔梗に注意するとショウの頭を優しく撫でて微笑み掛けてからショウの影の中に消えてしまった。
もしかしたらとドキドキしていた結と蓮は、ショウの影から現れた謎の人に桔梗の暴走は阻止され…ちょっとガッカリした様なホッとしたような拍子抜けした様な何とも微妙な気持ちになっていた。
同時に、宝来家は知れば知るほど謎が深まってくる不思議な家だと結と蓮は思っていた。
…しかし、色々気になるが
今、一番気になるのはやっぱり
「ショウのご両親…あ、“産みの親の方”。ショウと年に数回しか会えないくらい忙しいって、どういったお仕事をしてるの?」
と、蓮はずっと気になっていた質問を投げ掛けた。
するとショウは、少し困った顔をして
「…う〜ん?私も知らないんだ。お父さんやお母さんに聞いても教えてくれないから。けど、とっても忙しいお仕事だから滅多に会えないし、お仕事しなきゃお金が入ってこないの。私達家族が生活できるように、お父さんとお母さんはお仕事頑張ってるって聞いたよ。」
と、小さく笑って答えてくれた。
両親揃ってそんなに忙しい仕事してるって…ショウの両親は同じ仕事をしているんだろうか?
子供を作るだけ作って、使用人達に子育てさせるとか…跡継ぎの為とはいえ…う〜ん…?いや、仕事内容教えてないあたりショウは跡継ぎじゃない?
じゃあ、どうして…?
そう蓮は考えて
「あのさ、ショウは将来ご両親の跡を継ぐの?」
そう、ショウに聞いてみた。
「…え?継がないよ?お父さんもお母さんも、自分達のお仕事は私や桔梗に継がせる事は絶対にないって言ってた。でも、お父さん達は凄くお金持ってるから将来私が好きなように自由に暮らしていいって言ってくれてるよ?」
跡継ぎで子供を作った訳じゃないのに、子供を作るだけ作って放置か…とんでもない親だな
ここに関しては、結も蓮も似た様な事を考えていた様だ。聞いてて、いい気分がしない。
「う〜ん?でもね、私のお父さんが“魂が入れ変わっちゃった”から、本当の子供じゃない私にあんまり会いたくないのは仕方ないのかな?」
なんてショウの発言に、結や蓮だけでなく桔梗までも驚きを隠せず
「……え!?ショウ、それってどういう事?」
思わず、桔梗がショウに聞いてみると
「……え?…えっと、お父さんと“私を作った男の人”と魂は似てるし血に繋がりはあるけど別人だよ?
私がお母さんのお腹の中に来たら、“私を作った男の人”は何処かへ消えちゃって、代わりにお父さんが戻ってきたの。」
なんて、チグハグな話をしてきて、みんなちんぷんかんだった。…だが…
「…そ、そういう事か!つまり、ショウのお父さんはショウが産まれる前に、“誰かに体を乗っ取られて、その誰かとショウのお母さんとの間にショウが出来た”。
けど、ショウが出来た瞬間に“その誰か”は何処かに消えて、元のショウのお父さんの魂が戻ってきた。そんな感じかな?」
と、桔梗は青ざめた顔をしながらショウに聞くと
「うん!」
にっこり笑って肯定してきた。
それに対して、「…マジかよ…。このオレ様さえ全然気が付かなかった。」と、桔梗は頭を抱え込んでしまっていた。
つまり、ショウは“その誰か”とマナの子供であって、リュウキの子供ではないという事。…いや、体はリュウキなのでリュウキと血は繋がっているのでリュウキの子供でもあるが。
と、いうことは
まさかとは思うが、いつの日か分からないがリュウキは何者かによって体を乗っ取られ
リュウキの体を乗っ取った相手とマナが出会い、恋をして結婚までしてショウが出来たという事になる。
おそらくだが、その間何年かその何者かが帝王の仕事もこなしていたという事になる。
確か、何年かは帝王の評判がすこぶる良く様々な偉業や功績を上げ続け“鬼神”“軍事王”“覇王”など、異名まで持ち合わせる程だったとか。何よりも切れ者で頭脳で帝王相手にできるものは居なかった程だったとか。
世界中が信仰し崇める様な凄い人物だったと聞いた事がある。
だが、その偉業や功績も数年でピタリと止み、確かに優秀ではあるがかつての帝王の姿はどこに行ったかという程人格も似ている様でやっぱり違う。変わってしまったという噂も聞いた事がある。
桔梗は、リュウキが女にうつつを抜かし仕事にも手を抜いてる世界線なんだろうと思い、今まで気にもしなかったがショウの言葉によって違うのだと知った。
…やっぱり、リュウキはどの世界線でも絶対的な王たる人物だったのだと。
と、言っても、たくさんの世界線はあっても
ショウとリュウキ、マナだけは、始まりの世界にしか存在しないはずなのだが。
現在、桔梗の居る世界線にショウやリュウキ、マナが存在するのは“ある事情”からできたイレギュラーだ。
だから、ここのマナやリュウキが“不完全”であっても当たり前だと考えていたのだ。
だが、どうやら桔梗のその考えは大きく外れたらしい。
じゃあ、今を生きているリュウキは一体何者で、一時期リュウキの体を乗っ取った人物はなんだったのか?
おそらく、これはショウも桔梗も知らなくていい事だろうがマナは違う。マナは知らなければならないはずだ。
マナの壊れかけた心の為にも。
マナの心が病んでしまえば、ショウがとても悲しむのが目に見えるから。それだけは、どうしても阻止したいところである。
「はじめましてだな。我はショウ様の父だ、娘と仲良くしてくれてありがとう。」
と、色白で短髪のよく似合うヤンチャそうな……12才前後の美少年がニッと元気いっぱいの笑顔で結と蓮に挨拶してきた。
結と蓮が…え?と疑問を持つ前に
「少々驚かせてしまいますが、俺もショウ様の父です。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。」
全体的に白銀色、耳の先が空色、前足の先は朝日色、後ろ脚は夕日色、フサフサの尻尾は夜色をしている見た事も聞いた事もない二本足で立てば5mありそうな雪豹とも狼にも似たような…でも、全然違うとても美しい獣が人間の言葉を流暢に喋っていた。
「今日は珍しく妾を含め、ショウ様の親が三人も揃うなど滅多にないゆえお主達は妾達三人を見れて運が良いのぉ〜。オーホホホ!
…おや、言い忘れておった。妾はショウ様の母様じゃ、特別に妾の美しい姿をその見窄らしくも小汚い目にに映すは勿体無いが、ショウ様のトモダチとあらば仕方あるまい。その卑しい目にとくと妾の美貌をよぉ〜く焼き付けておくが良い。妾を目にできるとは、ほんに運がよい者達よのぉ〜。オーホホホ!」
お前何様だよ!というくらいに高飛車な若い女性は、セクシーな服がとても似合うとても妖艶な美女で、彼女が自分の容姿に絶対の自信がありそんな事を言ってもその通りだなと納得してしまうくらいに彼女はとてつもない美貌の持ち主だ。
こんな事を言って許されるのは、彼女と桔梗くらいであろうと結と蓮は彼女に圧倒されポカーンとしていた。
そんな中、ショウはパァ!と、全身から嬉しいオーラが一気に飛び出し
「パパ、ママ!」
と、喜びの声を出して、桔梗の腕から飛び出しショウのパパ二人とママに勢いよく抱きついて喜んでいた。
ショウが桔梗の腕をすり抜けた時
「…あっ…」
桔梗の可哀想な声が小さく漏れて、それを見ていた結や蓮、桔梗のきょうだい達とまだ挨拶されてない二人は、気の毒そうに桔梗を見て苦笑いするしかなかった。
「まーた、可愛さ倍増してないか?可愛いなぁ、我のショウ様は。」
「フフ!毎日会っているというのに、俺のショウ様は本当に甘えん坊ですね。そこがまた愛らしくも愛おしいのですが。フフ。」
「まっこと、妾のこの上ない愛おしい愛おしい娘はかわゆいのぉ〜。ほんに、かわゆ過ぎて妾はどうにかなってしまいそうじゃ。」
と、この会話を聞く限り、ショウの育ての親6人はずっとこの家にいるような話ぶりだ。
そんな様子の結と蓮の心を読んだかのように
「挨拶が遅れた。俺は、桔梗の父だ。
そして、ショウ様と桔梗の育ての親に任命された我々は、この家にずっと住み続けている。ショウ様がこの家に居る限りではあるがな。」
美丈夫で強面の若い男性がそう言った後
「私はこの人の妻で、そこにいる子達の母です。息子がいつもお世話になってみたいで…。うちの子達の中で桔梗は末っ子なせいか我が儘さんに育っちゃったみたいなんです。
あと、人よりちょーっと頭がいいせいか、ちょーっと魔道が得意なせいか調子に乗っちゃってお天狗さんになっているので、お友達のみなさんに不快な思いをさせてないか心配で…もし、既に嫌な気持ちにさせていたなら本当にごめんなさい。
その時は、遠慮なく宝来家に電話下さい。内容によっては、しっかりとキツく叱りますので。」
おっとりとした、ほんわか優しそうな若い美女が心配そうに結や蓮に謝ってきた。
「…え?…いえいえ、桔梗くんにはいつもお世話になってまして…」
結は慌てて、桔梗の両親に大丈夫だという趣旨の言葉を述べペコペコ頭を下げていた。
「…ちょっ!!?お母さん、やめてよね!なんで、そんな事言うのさ!」
桔梗は母親に向かって、恥ずかしそうにそれ以上何も言わないで!と、必死に止めていた。それを見て、ゲラゲラ笑うきょうだい達に父親は「コラ!」と、叱りつけ
桔梗の家族は、何処からどう見ても極々普通の幸せそうな家族であった。
ショウの家族は…超溺愛が過ぎてかなり引くレベルだ。
だが、ショウの産みの親は置いておいて
他に、三人の育ての親がいるらしいが…忙しいのだろうか?と、結と蓮は首を傾げていると
「ショウ様の他の親三人は、“極度の人見知り”だからな。ショウ様と桔梗の友達と言えど、挨拶に来れない。奴らの代わりに謝ろう。」
なんて、桔梗の父親が言うものだから、結と蓮は慌てて「大丈夫です」という言葉を連呼した。
しかし、やはりというか…
ショウの親達も、桔梗の両親もこの世の者とは思えない程の美貌でぶっちゃけ結と蓮は腰が抜けて動けないでいる。ベットの上で壁に寄りかかるように座ってて良かったと思う結と、やたらと座り心地の良すぎる椅子に深々と腰を下ろしていて良かったと思う蓮であった。
そこに
「もう、妾のオッパイは飲まないのかえ?妾のオッパイはズゥ〜ッとショウ様がチュウチュウ飲んでくれんで寂しごうとるよ?」
なんて、色気ムンムンにショウのママは、露出の高い服の胸の紐を解くとボボーンともの凄い巨乳なのに、とても形も良くピンクの突起の付いた理想的なオッパイを惜しげもなく出してショウの口元にグイグイとくっ付けてきた。
「…ああ〜〜んっ!忘れられぬ…この甘美な……ここを触ってコレをチュウチュウ吸いてほしいぃ〜〜!
妾のオッパイはショウ様だけのものゆえ、誰にも触れさせてはおらぬ。ショウ様がいつチュウチュウ吸うてもよいように、毎日入念に洗ってケアも怠っておらぬぞ?
ショウ様に挨拶のキスをするこの唇と、いつでもショウ様が飲んでも良いように、ショウ様以外誰にも触れさせてはおらぬゆえ、な?いつでも、いっぱい甘えて良いのだぞ?」
なんて、ショウの顔中にたくさんキスしながらオッパイを吸わせようとする姿に、桔梗以外の男性陣は釘付けで
桔梗の父親も釘付けになっていたが、桔梗の母親によってあたふたと一生懸命に言い訳をして許しを乞うていた。
「…わ!毎回毎回性懲りも無くバカだろ、お前!
ショウはもう中学生だから、お前のオッパイは飲まねーんだよ!」
と、ショウのママからショウを引き剥がす桔梗は、鋭い目でショウのママを睨み付けていた。
「……じゃが、妾にとってショウ様はいつまで経っても可愛い赤子じゃ。ショウ様を思うとまだ母乳がたくさん出てくるんじゃ。そんなに、睨まんでもよかろうに。」
ショウのママは、ションボリしながら残念な事に美しい巨乳を薄っぺらく面積の狭い布で隠した。…と、思ったらショウをぎゅうと抱きしめショウのほっぺにチュッチュッチュッチュッ!ぷっくりエロエロな唇で
「妾の娘がこんなに可愛い!どこぞの生意気なクソガキになどお嫁にだしたくなどないわ!」
と、キスしまくっているのを、またも桔梗が邪魔して
「本当にやめてよね!ショウの親みんなさ。朝昼晩ってショウと会う度に挨拶のキスするのもどうかって思うんだよね!音鳴らすんじゃなくてマジでキスしてるのもおかしいから。
しかも、両ほっぺはまだマシだけど最後口にキスしてるってさすがにおかしいからね!
特に、そこのエロ女!!あんた、隙あらばショウにディープキスしてんのヤバイから!!本当にそれだけは、やめて!それは、恋人兼未来の夫である俺だけの特権なんだからね!」
桔梗は、ショウのママから隠すようにショウを自分の後ろに隠した。
桔梗のとんでもない爆弾を発言に、結と蓮はビックリしてしまって…なんて羨ま…じゃなかった。卑猥な内容なんだろうとドキマギしながら、桔梗とショウのママのやり取りを釘付けになって見ていた。
「そこは、仕方なかろうて。あまりにショウ様が可愛くて愛しゅうて愛しゅうて、ちょーっと舌と舌でチュウしただけではないか。それくらい許されるであろう。」
なんて、プンプン怒るショウのママに
「それ、アウトだから!自分の子供とディープキスする親なんていねーよ。それ、常識ぶっ飛んでるイカれヤローでキモイだけだからな。自分の子供にって、キモすぎてヤベー吐き気もんなのも分かんねーの!?」
すこぶる気持ち悪いとオエーッと、桔梗はジェスチャーして見せた。
「じゃが!その舌と舌を絡ませる愛情表現を、赤子ながらに魔道を使って妾の愛情表現をいつもいつも桔梗も周りの者達も邪魔しおってからに!舌と舌を絡ませる愛情表現は一度もできた事などないわ!」
とんでもない発言をぶっ放すショウママに
「「「「「「当たり前だ!!!(です!)」」」」」
桔梗以外にも、ショウパパ’ズや桔梗の両親も気持ちは同じだったようだ。見事に、ショウママに掛ける怒りの言葉とタイミングが被った。
「あとさ、ショウが赤ちゃんの時!あれってさーーー」
怒りのままに、ショウママに対して日頃の鬱憤を晴らすかのように彼女に物申そうとして喋り始める桔梗に
「もう、やめなさい。言ったら、キリがない。」
と、桔梗の父親は深い溜め息を吐きながら桔梗が怒りの言葉を吐き出すのを止めた。
「だってさ!コイツッ…!!」
桔梗が怒りのままに、ショウのママを指差すと
「コイツじゃない。ショウ様のママだ。
ショウ様のママは寝る間を惜しみ大好きな男漁りもせず仕事もより一層サボるのは…良くないが…ゴホンッ…!とにかくショウのママは、今まで見た事見た事もないくらいに真面目かつ熱心に育児の勉強をし悪戦苦闘しながらも、誰にも負けないくらいにショウ様に愛情を注ぎ大切に子育てしてきたのを我々はよく知っている。
そんな彼女の事を悪く言う事は決して許さない。」
と、鬼の形相で桔梗を睨み叱った。
次に桔梗の父親は、桔梗の比ではないくらいショウのママをギロっと睨みつけると
「お前もお前だ!いい大人が子供に向かってなんて言い草だ。これ以上、ここに居たらショウ様と桔梗の友達に迷惑がかかる。自分の部屋に帰るぞ!
そして、お前がサボりにサボって溜まっている仕事をしろ!お前の部下達が嘆いてるぞ!」
そう言って、ショウのママの首根っこを掴み
まだまだいい足りないと暴れるショウのママを引きずって何処かへ行ってしまった。
「騒がしくして申し訳なかったね。コレ(ショウのママ)は、連れて帰るから安心してゆっくりしてくれ。おやすみ。」
と、桔梗の父親が結と蓮に謝り挨拶をして出て行った。
「二度と来んな、クソババー」
自分達の親達の姿が見えなくなったところで、桔梗は顰めっ面をしながら悪態をついていた。
だが、今まであまりに大人びていた桔梗が、年相応に見えてなんだかホッとする結と蓮であった。
なんだ、コイツもちゃんと子供らしい所あるんだな
と、なんだか少しだけ結と蓮は、桔梗に親近感が出てきたところで桔梗はグッタリ疲れたように椅子に腰掛け
「…悪かったな。俺らの親達がさ…。」
なんて、らしくもない事を言い出し驚きなんて声を掛けようかと結はアタフタしながら声を出そうとした時だ。
「俺とショウの友達が家に来たから、どうせ、あいつらの事だから“俺らに相応しい友達かどうか見定めに来た”だけだろ。」
なんて、なんだかイラッとするような発言をしてきた。
…は?ショウと桔梗にふさわしい友達かどうか見定めるってなんなんだよ!?
これ、本気で言ってるの?
蓮は疑わしそうな目で桔梗を見ていると
「おかしいと思わねーのかよ。あいつら、同じ家にずっと居たんだぜ?にも、関わらず昼や夕飯の時でさえ姿を現さなかった。いつもなら、どんなに忙しくてもあいつら飯時は必ず俺らと飯食うってのにさ。
それに、今来た親達だって“人見知り”なんて誤魔化してるけど“大の中界人嫌い”だからな。もちろん、お前らの事も穢らわしく悍ましい汚物だと思ってるぜ?」
なんて、酷い言われように結も蓮も、冗談にしても言っていい事と悪い事があるだろ!と、桔梗に対し不快感を露わにした。
「ここに来なかった残り三人の親達は、“実際に会うまでもない”とか言って来もしなかったんだぜ?あいつらの考えそうな事だ。」
なんて、ウンザリしたように少し項垂れる桔梗の様子に、なんだか信憑性が出てきて結達は何も言えなくなっていた。
だって、そんな親達の行動を良く思ってない事が桔梗の様子から窺い知れたから。
「多分さ。今の話聞いて、かなりムカついてると思うけど。あいつらの“その考え方”は、例えて言えば
王族や貴族によくありがちな
“自分達は高貴な血が流れていて金も権力持ってるから、一般市民のような小汚い低俗、底辺風情が気軽に近寄れない素晴らしい存在だ”
って、考え方や、容姿や才能・能力に恵まれてる奴が
“自分は美人だから何をやっても許されるカースト上位の勝ち組。美形や何かかしらの特化した才能・能力、コミュ力がある者だけは自分達と同等。
それ以外はゴミ・奴隷だから、何やってもいい存在。どうでもいい存在”
オレ様からしたら、それらに近い考え方してんだと思う。
つまり、同等とみなさず周りを見下し蔑んで汚物扱いしてる感じだろうな。だから、少なくとも美醜で人を判断する蓮も、ショウと家族、親友以外ゴミみたいに思ってるオレ様もあいつらに何も言えた立場じゃねーって事でもあるんだよな。」
桔梗はそんな事を言ってきたので、ハッとした蓮はもう何も言えないどころか物凄い自己嫌悪に陥ってしまった。
「……ただ、あいつらみんな“中界人が反吐が出るくらい毛嫌いしてる”し、特にナラカ人(底人)……は話は別か。…まあ、それでもさ。
俺らにとっては、あんま言いたかねーがいい親達なんだぜ?あいつらや、他のやつら含めてオレ様とショウは温かい優しい家族に恵まれて幸せにやれてっからさ…一応…感謝はしてんだぜ?
…まあ、喧嘩ばっかだけど、それも含めて……あれ…?
…あっ!?…コレは!?」
そう気恥ずかしそうに話す桔梗に、結と蓮は桔梗に人間味を感じ家族の事をそんな風に考えていたなんて凄く良い子だと桔梗に対して好感度がグーーーンっと上がった。
ところが!
そこまで話して、急に桔梗はハッ!とした顔をして自分の口を押さえると急にキッと廊下を睨みつけて
「…クソッ!?麗紅華(れいこうか)ママか!?」
「オーホホホ!桔梗がねぇ、そんな風に妾達の事を思うてくれておったとはな。妾は嬉しいぞえ?お主の両親やきょうだい達も喜ぶであろう【本音】じゃ。
しかし、こんな術に簡単に引っ掛かりおって。まだまだじゃのぉ。妾の狂おしくも愛おしい娘を護りたいになら、もっと鍛錬する事じゃな。」
なんて指摘され、悔しそうにしている桔梗を無視しショウのママはドア越しに
「妾の可愛い可愛いショウ様。妾はショウ様を見ると離れがたいがゆえ、ここからの挨拶ですまぬの。
おやすみ、妾の愛おしいショウ様。…ちゅっ!」
なんて声が聞こえ、ショウもそこに向かって
「ママ、おやすみなさい。いい夢みてね。ちゅっ!」
と、おやすみなさいの挨拶とママの真似をして、両目をギュッとつむり口を尖らせてリップ音を出した。
その不器用な姿に、桔梗だけでなく結や蓮までも
…きゅん!
として、かわいいなぁとショウを見ていた。
…が、桔梗はあまりの可愛らしさに我慢できず、ショウがむにゅっと突き出した唇に唇を合わせようとしていた所を結と蓮は
…ま、まさか、ここでおっ始めるつもりじゃ…!!!?
と、ドキドキしながら、自分達はどうすればいいんだと脳内パニックを起こしてたところ
『桔梗。ショウ様は可愛いね。だけど、お友達が居るんだから我を忘れちゃいけないよ?』
なんて、男と女の混じった様な声と同時にいつの間にか現れたいつか見た黒服めの性別不明な人が、桔梗の唇にハンカチを押し当てショウへのキスを止めていた。
『多分、今、キスしちゃうと止められなくなっちゃいそうだったからね。人前では気をつけて?』
そう、桔梗に注意するとショウの頭を優しく撫でて微笑み掛けてからショウの影の中に消えてしまった。
もしかしたらとドキドキしていた結と蓮は、ショウの影から現れた謎の人に桔梗の暴走は阻止され…ちょっとガッカリした様なホッとしたような拍子抜けした様な何とも微妙な気持ちになっていた。
同時に、宝来家は知れば知るほど謎が深まってくる不思議な家だと結と蓮は思っていた。
…しかし、色々気になるが
今、一番気になるのはやっぱり
「ショウのご両親…あ、“産みの親の方”。ショウと年に数回しか会えないくらい忙しいって、どういったお仕事をしてるの?」
と、蓮はずっと気になっていた質問を投げ掛けた。
するとショウは、少し困った顔をして
「…う〜ん?私も知らないんだ。お父さんやお母さんに聞いても教えてくれないから。けど、とっても忙しいお仕事だから滅多に会えないし、お仕事しなきゃお金が入ってこないの。私達家族が生活できるように、お父さんとお母さんはお仕事頑張ってるって聞いたよ。」
と、小さく笑って答えてくれた。
両親揃ってそんなに忙しい仕事してるって…ショウの両親は同じ仕事をしているんだろうか?
子供を作るだけ作って、使用人達に子育てさせるとか…跡継ぎの為とはいえ…う〜ん…?いや、仕事内容教えてないあたりショウは跡継ぎじゃない?
じゃあ、どうして…?
そう蓮は考えて
「あのさ、ショウは将来ご両親の跡を継ぐの?」
そう、ショウに聞いてみた。
「…え?継がないよ?お父さんもお母さんも、自分達のお仕事は私や桔梗に継がせる事は絶対にないって言ってた。でも、お父さん達は凄くお金持ってるから将来私が好きなように自由に暮らしていいって言ってくれてるよ?」
跡継ぎで子供を作った訳じゃないのに、子供を作るだけ作って放置か…とんでもない親だな
ここに関しては、結も蓮も似た様な事を考えていた様だ。聞いてて、いい気分がしない。
「う〜ん?でもね、私のお父さんが“魂が入れ変わっちゃった”から、本当の子供じゃない私にあんまり会いたくないのは仕方ないのかな?」
なんてショウの発言に、結や蓮だけでなく桔梗までも驚きを隠せず
「……え!?ショウ、それってどういう事?」
思わず、桔梗がショウに聞いてみると
「……え?…えっと、お父さんと“私を作った男の人”と魂は似てるし血に繋がりはあるけど別人だよ?
私がお母さんのお腹の中に来たら、“私を作った男の人”は何処かへ消えちゃって、代わりにお父さんが戻ってきたの。」
なんて、チグハグな話をしてきて、みんなちんぷんかんだった。…だが…
「…そ、そういう事か!つまり、ショウのお父さんはショウが産まれる前に、“誰かに体を乗っ取られて、その誰かとショウのお母さんとの間にショウが出来た”。
けど、ショウが出来た瞬間に“その誰か”は何処かに消えて、元のショウのお父さんの魂が戻ってきた。そんな感じかな?」
と、桔梗は青ざめた顔をしながらショウに聞くと
「うん!」
にっこり笑って肯定してきた。
それに対して、「…マジかよ…。このオレ様さえ全然気が付かなかった。」と、桔梗は頭を抱え込んでしまっていた。
つまり、ショウは“その誰か”とマナの子供であって、リュウキの子供ではないという事。…いや、体はリュウキなのでリュウキと血は繋がっているのでリュウキの子供でもあるが。
と、いうことは
まさかとは思うが、いつの日か分からないがリュウキは何者かによって体を乗っ取られ
リュウキの体を乗っ取った相手とマナが出会い、恋をして結婚までしてショウが出来たという事になる。
おそらくだが、その間何年かその何者かが帝王の仕事もこなしていたという事になる。
確か、何年かは帝王の評判がすこぶる良く様々な偉業や功績を上げ続け“鬼神”“軍事王”“覇王”など、異名まで持ち合わせる程だったとか。何よりも切れ者で頭脳で帝王相手にできるものは居なかった程だったとか。
世界中が信仰し崇める様な凄い人物だったと聞いた事がある。
だが、その偉業や功績も数年でピタリと止み、確かに優秀ではあるがかつての帝王の姿はどこに行ったかという程人格も似ている様でやっぱり違う。変わってしまったという噂も聞いた事がある。
桔梗は、リュウキが女にうつつを抜かし仕事にも手を抜いてる世界線なんだろうと思い、今まで気にもしなかったがショウの言葉によって違うのだと知った。
…やっぱり、リュウキはどの世界線でも絶対的な王たる人物だったのだと。
と、言っても、たくさんの世界線はあっても
ショウとリュウキ、マナだけは、始まりの世界にしか存在しないはずなのだが。
現在、桔梗の居る世界線にショウやリュウキ、マナが存在するのは“ある事情”からできたイレギュラーだ。
だから、ここのマナやリュウキが“不完全”であっても当たり前だと考えていたのだ。
だが、どうやら桔梗のその考えは大きく外れたらしい。
じゃあ、今を生きているリュウキは一体何者で、一時期リュウキの体を乗っ取った人物はなんだったのか?
おそらく、これはショウも桔梗も知らなくていい事だろうがマナは違う。マナは知らなければならないはずだ。
マナの壊れかけた心の為にも。
マナの心が病んでしまえば、ショウがとても悲しむのが目に見えるから。それだけは、どうしても阻止したいところである。

