「……なんで、こうなったんだ?本当に最悪なんだけど。」
と、三つのベットが用意された客室で、桔梗は大きなソファに座ってテレビゲームをしてる結とショウの後ろ姿を眺めながらブスくれていた。
「…みんな同じ部屋で寝かされるとか考えてなかったし、まさかショウや桔梗の家に泊まる事になるなんて思いもよらなかったよ。」
ソファの後ろにはダイニングテーブルがあり、そこで蓮は何でこうなったんだ?と、ため息をついていた。
部屋に備え付けてある冷蔵庫から、桔梗はショウと結に出す為の飲み物を用意していた。それを見て
「…へえ、M魔道士だから、食べ物や飲み物も魔道でポーンと出すのかと思ったよ。わざわざ、飲み物を冷蔵庫から取り出すなんて、本当はM魔道士とか嘘なんじゃないの?そもそも、M魔道士なんて聞いた事ないし。」
と、蓮は嫌味を言うと
「……そこまで堕落した生活してたら病気(肥満)になるだろ。それに、日常生活も魔道で過ごしてしまったら体の動かし方を忘れてしまうからね。だから、できる限り日常生活は魔道を使わないようにしてるだけだよ。」
何か妙な誤解だけはされたくないので、桔梗は普通に蓮の質問に答えた。
つまらない回答が返ってきて、蓮は何か嫌味な事でも言われるのかと身構えていたが普通の答えが返ってきて少し気が抜けたが
普通に考えたらそうだよね。魔道ばかり使って生活するとそうなっちゃうか。確かになと納得した。
ちなみに、結と蓮がショウ宅に泊まる事になった経緯は、使用人達の提案からであった。
あまりに闇深い結の心と、蓮のどうしようもない恋愛事情はもう少ししっかり話した方がいいのでは?お泊まりOKでーす♪みたいな、軽いノリで
桔梗が止めるのも聞かず、使用人の何人かでショウに
“今までショウ様は、お友達とお泊まりした事なかったよね?どうせなら今日お泊まり会しちゃいません?”
と、いう提案をした所ショウは凄くノリノリで“
“結ちゃんとお泊まりしたい!”
の一言で、お泊まりが決定したのであった。
二人で壁一面の画面で、車のレースで白熱している。
結は画面に合わせて体ごと動いてしまうタイプらしく、面白い動きをしてるし、
ショウなんてゲームはあんまりやった事がないとの事で、体どころか腕ごと手を色んな場所に動かしたり急に立ち上がったり、座ったまま勢い余って軽く転んだりと忙しない。
…多分、毎日このゲームをさせたらショウは痩せられるんじゃないかと蓮は失礼な事を考えてたが。
だが、それにしても
二人の奇妙な動きが面白すぎて、思わず笑ってしまう桔梗と蓮だった。
「…ショウ、かわいいすぎ!今すぐにでもギュッて抱き締めていっぱいキスしたい。」
なんて、ショウの面白い動きにクスクス笑いが止まらない様子の桔梗は、そんな事を言っていた。
それを聞いて、蓮は
俺も二人が真剣になって変な動きするから、我慢できなくて笑っちゃってるけど
ショウだけじゃなくて、結も面白い動きしてるのに
…こいつ、本当にショウしか見えてないな
頭、イカれてるるんじゃないの?
と、ショウの事を愛おしげに見ながらクスクス笑っている桔梗を見て、蓮は思わずドキリとしてしまった。
マスクで大きく顔を隠しても分かる桔梗の美貌。そして、色っぽくショウを見つめ艶やかなフェロモンがダダ漏れている婀娜っぽい雰囲気。
あまりの美しさに、真っ赤になりながら桔梗から視線を逸らし自分を落ち着かせようと冷たい飲み物で喉を潤した。…だって、こんな雰囲気の桔梗を直視しちゃったから蓮のレンくんが大きく反応しちゃったから。
鎮まれぇ〜、鎮まれぇ〜と、とひたすらに蓮のレンくんが落ち着くのを待った。
…ドキドキ…
その時、桔梗は蓮に思わぬ提案をしてきた。
「お前の相談な。結もそんなもんって思ってるみたいだし、やってみたら?」
なんて、よく分からない話をされ思わず桔梗を見た蓮に
「ダメ元で振られても振られても自分の気が済むまで、自分の気持ちを颯真にぶつけてみたら?」
「…は?」
思わぬ提案に、蓮は桔梗に対し不快感を露わにした。
「お前は颯真の事、どうしようもないくらい凄く好きなんだろ?何をどう努力しても忘れなれないくらい好きで堪らないんだろ?
そこまで本気なら颯真に告白すればいい。どうでもしないと、お前ずっとこのままだよ?」
と、ショウを楽しげに眺めながら桔梗はそんな提案をしてきた。
「…だ、だって、向こうは妻子持ちだよ?」
なんて焦る、蓮に
「だったら、尚更いいんじゃない?だって、お前から聞く颯真は凄く大人みたいだからさ。
家庭が大事なら、いくらお前が颯真にアタックし続けた所で上手にかわして、お前が納得するまでしっかりとお前の気持ちを尊重しながら断り続けてくれるはずだよ。
俺が颯真の立場なら、ショウと俺に危害が加えられないように容赦なくお前の心をズッタズタにぶった斬って二度と俺達の前に来れないようにするけどね。ただの告白程度なら、無視するだけだけどね。」
なんて、言ってきた桔梗に
桔梗だけは絶対に好きになりたくないと心の底から思った。
…わ…冷酷過ぎる…
…恋愛にトラウマできるどころか人間不信になりそう…
だけど、桔梗のこの提案になるほどと納得出来る部分も多くやってみるか。とにかく、動かなきゃ何も始まらない!と、蓮は颯真に告白する気持ちが固まったのだった。
「…ああ、告白するにあたって“本当の姿”で気持ち良く玉砕できるように、お前が納得できるまで颯真に告白し続ける間は“呪い”を解いてあげる。」
と、桔梗が言った瞬間
あんなに何をどうやってもビクともしなかった呪いのアンクレットは、呆気なく取れて桔梗の手元に戻った。
「その間だけ、コレは預かっとくな。」
ちょっと、桔梗の言葉遣いがチグハグになってきた事も気になるが、
その呪いのアンクレットは預かるんじゃなくて返してこなくていいから!
そもそも、俺の魔具じゃないし!
と、蓮は心の中で叫んだ。
だけど、本当の姿を手に入れた蓮は不安と期待で颯真への気持ちが昂っていた。
「……本当、お前は運がいいぜ?
ショウの大切な友達の友達だから特別だ。実際にやったら、やべー事でも“幻術”でそれを体験すれば、どんな“結果”“未来”になるのか分かるからな。」
そう言ってきた桔梗に、
「…は?どういう事?」
と、蓮は狐につままれたような顔で桔梗を見てきた。
「俺の“幻術は特別”だ。様々な情報と設定で、夢の中で“リアル”を体験できる。
例え、夢の中であっても、その行動を起こせばどうなるのかが分かる未来視の様なものだ。やるだろ?
…それとも、マジで現実に颯真に告白すんの?そればっかはどうなっても責任持てねーぜ?」
そう言ってきた桔梗の口調は、ショウといる時とはまるで別人で、とても野蛮でガラつきの悪い感じがした。だけど、何故だかこっちの方がしっくりくるのは、これが桔梗の本来の姿なのだろう。
だが、ショウといる時もしっくりくる。
ああ、そうか!ショウから離れている時の桔梗がしっくりこないのは、みんなの前で猫を被ってるからか!
…けど、ショウといる時の桔梗もしっくりくるのは、どうしてだろう?
と、蓮は桔梗の態度と言葉遣いの激変っぷりに驚き、そんな事を考えていた。すると
「どっちも、俺だよ。今の俺も本当、ショウと一緒に居る俺も本当。だけど、世間体を気にする場所ではメチャクチャ猫被ってるだけ。
だってさ、そこで態度が悪かったりしたらショウに傷が付くし、ショウをガッカリさせるだろ?そんな嫌な思いさせたくねーんだよ。それに、猫被りなんて大小様々あるだろうが、みんなやってんだろ。」
なんて、カウンター席に後ろ向きで両肘を置いて物凄く態度が悪いヤンキーの様な格好で蓮を見下ろしていた。
見た目も相まって、もはやヴィランだ。
…うわっ…
怖いとは思ってたけど、桔梗の本性はヤンキーだったんだ!
怖いはずだ
そして、ショウとこの差は違いすぎでしょぉ〜
二重人格かよぉ〜
と、蓮は更に桔梗に対し恐怖心が増した。
「…で、どうすんの?“幻術”で未来視する?愚かなにも、マジで颯真にアタックすんの?どっち?」
桔梗は、早くしろよとあからさまにイライラして怖かったので
「…幻術の方で…」
そう答えてしまった。
「…あ、ちなみにだけど。俺以外にも“幻術”使えるやついるけど、そいつらは“リアル”や“未来視”なんてできなねーから騙されんなよ?
俺が知ってる限り、この幻術使えんのは俺とショウのお母さんだけだからな。あと、呪いのアンクレットつけたままだと、それもしっかり幻術に影響出てしまうから外しただけだからな。」
なんか、もの凄い事を聞かされた気がしたけど…
「もう一つだけ。全部体験させる幻術は結構疲れるからな。そこまで、テメーの為に労力使いたくねーから【ダイジェスト】で、コンパクトに短縮すっから。」
と、怠そうに言っていたが、そんな事まで調整できるもんなのか?と、蓮はただただ驚くばかりだった。時短は嬉しいが。
俺が行動する事で、どんな風になるのか
どんな未来が待ってるのか分かるなら
願ってもない有り難い申し出だ
桔梗に頼るってのは癪だけど、背に腹は代えられないからな
それが決定した瞬間、蓮は天井が見えてビックリした。驚いて周りを見ると
どうやら自分は、用意してあったベットの一番端に仰向けに寝かされたらしい。
いつの間に!!と、驚くと同時に
『さっさと始める。』
と、いう脳内に響く桔梗の声と一緒にあれよあれよという間に蓮は何も考える隙間すら与えられず幻術の中に入ってしまっていた。
---幻術の中〜蓮の告白〜---
あれから、ショウの家にお泊まりしてから数日経っていた。
蓮は自室のベットに寝転びながら悶々と考えていた。
桔梗に告白を勧められたのはいいとして、なかなか勇気が出ないし…やっぱり、颯真の家族の事やこの告白の事が父や母の耳に入ったらと色々考えてしまってもう一歩という所でなかなか告白に踏み出せないでいた。
もう一つの理由はやっぱり振られたくない。告白をしてからの颯真との関係性がどう変わってしまうのか怖かった。…告白をして、家庭があるのに何を考えてるんだと幻滅されて嫌われるのも嫌だ。
…どうしよう…!
と、ぐるぐる悩んで悩んで…いつもの様に、自分を慰める為にサイトで出会った男(できるだけ、容姿や年齢が颯真に似てる男を選んでいる)と、ラブホテルに向かおうとした時だった。
「…おい!何をしているんだ?その子は、どこからどう見ても未成年ですよね?警察に通報しますよ?」
聞き覚えのある声が聞こえて振り向くと
……ゾッ!!!
そこには、好きで好きで堪らない颯真の姿があった。颯真の出現によりサイトで男は
「…ち、違うんです!その子が迷子になってたようなんで道を教えてただけなんです!ね?」
と、焦ったように蓮に問いかけ、呆気に取られながらも「…え?…あ、はい…」そう、蓮が返事をした途端に男は一目散に逃げて行ってしまった。
残された蓮に、冷たい視線と声色で颯真は蓮を連れ近くの喫茶店に入った。
「…あれは、どこからどう見ても援交だった。
蓮に何か不満や悩み事があるんだったら、教えてくれないかな?」
颯真は意外にも蓮を咎める事はなく、逆に蓮に何か心の問題があるのかもしれないと心配して優しく問い掛けてくれた。
…トクン…!
その颯真の優しさに思わず蓮の目には涙が溢れ、ボロボロと溢れていった。下を俯き顔を真っ赤にしながら歯を食いしばり、膝の上に置き強く握っていた拳も力が入り過ぎてブルブル震えた。
「どんな事でも相談に乗るよ?俺達は家族なんだ。
…大丈夫、今は無理でもいつだって話は聞くよ?」
そう優しく声を掛けられたら、もう駄目だった。
それに、家以外で颯真と二人きりなんてなかなかないチャンスでもあった。おそらく、この機会を逃せばきっと颯真にこの気持ちを伝える事何できず苦しみばかりの毎日に戻ってしまう!
そう思ったら
「…好きなんです…」
そこまで言ったら、もう全てを吐き出すだけだった。
「…俺っ!本気で颯真さんの事が好きなんです。もちろん、恋愛対象として…!」
と、告白した蓮に、颯真はとても驚いた表情を浮かべていたが、すぐにいつもの表情に戻り静かに蓮の心の中に溜まっていた颯真への気持ちを全て吐き出す蓮の言葉を静かに聞いていた。
そして、涙を流しながら自分の気持ちを伝えた蓮の涙を颯真はハンカチでそっと拭き
「まずは、俺の事を好きになってくれてありがとう。
そして、俺には大事な妻と子供がいるからね。君の気持ちには応えてあげる事はできない。」
と、かなり年下であるはずの蓮に対して茶化す訳でもなく年上ぶるわけでもなく、対等に真剣に答えて丁寧に頭を下げてくれた。
その誠意がまた、かっこよくてますます蓮は颯真の事が好きになってしまった。
「…俺、やっぱり颯真さんの事が凄く好きです。諦めきれないから、家族の邪魔はしないので好きでいる事だけは許してください。話を聞いてくれて、ありがとうございました。」
蓮は、そう言って無理矢理に笑みを浮かべ、颯真に頭を下げてその場から去って行った。
それから、やっぱり蓮と颯真の空気は気まずいぎこちない雰囲気になってしまい、蓮は颯真を避けるようになってしまった。
そして、やっぱり颯真似の男を漁っては、どうしようもない自分のモヤモヤを取っ払おうと一瞬だけの温もりを求め彷徨い続けた。
そんなある日、転機は訪れた。
いつものように、男とラブホテルに向かっている最中
「…いい加減にしなさい!」
と、いう颯真の怒号が聞こえて思わず蓮はビクッと体が飛び跳ね硬直してしまった。固まっている蓮に、何故か後ろから温かくも力強いものを感じ見ると
「……君は、本当に困った子だ。」
そう言って、蓮の唇にキスをしてくる颯真の姿が目に写った。
…トクン!
…え?
…う、うそっ!?
どうして?
ドキドキドキ…!
と、戸惑うも念願叶って、どうしてか分からないが好きで堪らない颯真とキスができている事に幸せを感じ、思わず蓮は颯真の背中に震える手でこの人を離すまいと必死にしがみついた。
それに合わせて、颯真のキスは深くなっていきその場で長い間熱く情熱的なキスを交わし
二人は当たり前のように、ホテルに入っていき遂に二人は一線を超えたのだった。
蓮は今まで感じた事のない情熱的で多幸感溢れる激しくも優しい熱に浮かされ、幸せいっぱいに気を失った。
蓮が目を覚ますと
…ドキッ!
情事があった事がしっかり分かる様な色気たっぷりの颯真が、自分の顔の直ぐ目の前にありドキドキして思わず目を逸らしてしまった。
ドキドキドキ…
すると
「…可愛い事をしてくれるな。」
と、颯真の声と同時に、チュッと頬にキスをされて
キュン!!
蓮はもう、すっかり颯真に骨抜きにされ夢中になっていた。
…大好き!
何を失ってでも、この幸せは守りたい!!
蓮が気を失っている間に、色々と綺麗にしてくれたのであろう気遣いにも照れ臭くも、ああ、自分は愛されてるんだと嬉しくて心のの中ではしゃぎまくっていた。
嬉しくて嬉しくて、そして蓮はまだまだ若いので好奇心の塊でイタズラっこのように颯真にニコっと笑って見せると布団の中に潜り込んで……
「…あ、こら!蓮っ……っ!…っ!」
本当に幸せ過ぎた。
こんな時がいつまでも続けばいいなと…
それから、数年が経ち
蓮は大学生になり、まだ颯真との秘密の関係を続けていた時だった。
大学生になった蓮は、大学が遠い事もあって家を出て一人暮らしをしていたので颯真を家に連れ込んで、まるで新婚夫婦の様に幸せに暮らしていた。
そんな、ある日の事だった。
蓮のポストに、法律事務所からの封筒が届き
何か嫌な予感がしつつも、封筒を開けるとそこには…
不倫の慰謝料請求と、不倫の証拠だと突きつけられた
自分と颯真がイチャついたりホテルに入っていく様子、挙げ句どこでこんなの入手したんだというエッチの最中の写真や動画、音声までもが入っていた。
どうやら、颯真と付き合って直ぐから颯真の奥さんにはバレていたらしく、その当時から今に至るまでの全てが事細かに入っていた。
それを見て顔面蒼白になりながら、蓮は急いで颯真に連絡した。連絡したが全然繋がらない。
今の時間は、仕事中だろうから出ないのは当たり前かと考えていると父親からの電話があり出てみると
「……蓮には幻滅させられたよ。…いや、君だけじゃない。一番悪いのは、颯真だ。
妻と子供がいるにも関わらず、当時まだ子供だった蓮に手を出して……うぅ……。私たちの育て方が悪かったんだ。幼い蓮にこんな……」
最後らへん、泣いているのか言葉を詰まらせ言葉にならない言葉で何かを言っている父。代わりに、母が教えてくれた。
「…颯真のせいで、西園寺家は崩壊よ。颯真と蓮の関係を知ったメグちゃん(颯真の妻)は、私達には普段通りを装ってたけど心はボロボロだったみたい。
子供だけでも守らなきゃって一心で、一生懸命に颯真や蓮と家族である様に演技し続けて心の中では、あなた達を“恨んで恨んでどうやって苦しめて殺してやろう”と、憎しみ悔しみ…メグちゃんの取った行動は、最初から気づいてたというあなた達への不倫の証拠を送りつけると同時に自らの命を断つ事だったみたい…。
…もっと、酷いのが…
嫌だと恐怖するチーちゃん(颯真の子供)を無理矢理に
“あの汚い人の血が流れてるなんて穢らわしい”
と、叫びながらチーちゃんを……包丁で何度も何度も滅多刺しにしてチーちゃんは……うっ……
その亡き骸と一緒に、家の屋上から飛び降りて自らの命を断ったわ。」
と、いう残酷な知らせであった。
颯真にもその知らせが届き、妻と子の亡き骸を見た颯真は泣き叫びひとしきり暴れるとスイッチが切れたかの様にストンと床に座り込んで動かなくなってしまったらしい。
今は家の部屋の中に膝を抱えて、ブツブツと独り言を言っているらしい。
今現在は、そんな颯真の為に精神科医とカウンセラーを呼び颯真を診てもらっている最中らしい。
次の日、何気にテレビを付けた蓮に見たくもなかったニュースが流れていた。
“なんて残酷極まりない恐ろしい殺人鬼なんでしょう!自分の幼い娘を何十ヶ所も滅多刺しにする母親!!
同じ親として絶対に許せません!”
“まだ幼い娘さんは、さぞかし怖かったでしょう、痛かったでしょう。それも、大好きな母親から…あんまりだ…娘さんの事を思うと心が引き裂かれる気持ちですよ!”
と、颯真の奥さんを悪魔、殺人鬼と罵倒するコメントばかりで、何をどう思えばいいのかもう訳も分からなくなって絶え切れずテレビを消した。
「……俺のせいだ……どうしよう……」
それから、暫くして
西園寺家は貴族から抜け一般人になり、自分達を知らないであろうド田舎へ引っ越した。颯真は田舎の綺麗な空気と自然に囲まれていれば心も穏やかになってくれるだろうと、田舎の精神科へ入院しているのだが…
田舎にさえ引っ越せばなんて、それも浅はかな考えであって何故だか引っ越してあっという間に、近所中の人達の悪い噂話が絶えず仲間外れにされたら嫌がらせをされたりで
夫妻は怖くて、家から一歩も出られず引きこもってしまったらしい。
数年後には
姉の菫は、“不純な血が流れてる穢らわしい”“兄弟で不倫してた見境のないヤリ◯◯一家”だと罵られ、屋敷の使用人達や貴族が集団で菫を強姦し続け、遂には幼い娘にまで手を出されそうだったので菫は娘を守るために身分や全てを捨てて整形までして海外へ逃げたらしい。
今、菫と菫の子供がどうなったか不明である。
軍で頑張っていた結も、実家の不祥事の内容が内容なだけに軍でできた友達も一気に居なくなり孤独になった結を仲間だったはずの者達に毎日の様に罵声罵倒を浴びせられ酷い暴力まで振るわれるようになった。
そして、“どうせ、処女なんだろ?可哀想に”と、クスクス笑いながら集団で結を囲い込み、拷問で使われていた卑猥な道具を使い結を拷問して“処女卒業おめでとう!”と高笑いしながら集団は結を拷問し続け笑っていたらしい。
結の乳房は引きちぎられたり刻まれていたりで、股や尻もズタズタで内臓も破裂や切り裂かれ悲惨な状態の亡き骸と蓮はご対面していた。
何故、蓮だけが結の亡き骸と対面したのかは……察しがつくであろう。
行方不明の菫と精神崩壊して入院中の颯真以外、生存している結の家族は蓮しかいなかったのだから。
「…なんで、こんな酷い残酷な事ができるんだ?結は全然関係ないのに…どうして、こんな事に……ウゥッ……」
そうして、蓮一人だけに見送られながら結は焼かれ小さな壺に入れられ西園寺家代々のお墓へと入っていった。
…あの丈夫な結が、こんな小さな壺に入っちゃうなんて…俺が軽く持てるまでに軽くなっちゃうなんて…
…信じられない…
結の元気いっぱいだった頃の笑顔とパワフルな言動が思い浮かんでくる。
何処からから、『どうしたんだ?元気ないぞ!』なんて言って今にもひょっこりと元気な姿で自分の前に現れそうな気持ちだ。
…けど、いくら待っても結の姿はなく時間になり、結が入ってるという信じられないくらい小さな壺の中から白い大小様々な大きさと粉がバラバラとお墓の中に入れられる。
…これは、一体何なんだろう…?
蓮は現実を現実として受け入れられず、ただただお葬式の案内人の指示通りに動くだけだった。
参列者が蓮ただ一人という寂しいお葬式が終わると蓮はアパートの部屋で、ただただボーとしていた。
そして、たまに思い出したかの様に怒りが湧いてきて
あんなに、いい子がどうしてこんな仕打ちを受けなければならないんだと悲しくも悔しい気持ち。そして、結に残酷極まりない拷問をした奴ら全てに天罰を!!!と、強く願った。
それから、少し落ち着いた頃
蓮は思い切って、颯真の入院する病院を訪ねていた。
鉄柵に覆われた部屋はまるで牢獄の様で、その中に小さく縮こまりブツブツと独り言を言ってる男がいた。
その男は蓮に気がつくなり
「…お、おまえのせいだ!お前が俺を誘惑したせいで、妻と子供を失った!!…消え失せろ!疫病神めっ!!」
と、蓮に向かって泣き叫び
蓮は居た堪れなくなって、その場から立ち去ろうとした瞬間…
「…蓮…蓮、助けてくれ!俺には、もうお前しかいないんだ。…愛してる。」
悲痛な声で、名前を呼ばれ助けを求められた。思わず、颯真の側に駆け寄るも、昔のようなクール系イケメンはなりを潜めみすぼらしく小汚いただのおじさんに成り下がっていた。
その姿を見て、蓮の心は罪悪感しかなく
そして、あんなに好きで好きで堪らなかった颯真への気持ちも冷めてしまい……可哀想だと思いつつも
自分の罪から逃れたくて、颯真を捨てて蓮は海外へ逃げた。海外へ逃げて、ようやく心が落ち着いた時素敵な女性と巡り会い結婚して子供にも恵まれたのだが…
…因果応報…
なんと結婚しても蓮は浮気や不倫のスリリングさと背徳感、そして
旦那、嫁から奪ってやった。自分の旦那、嫁より、俺の方が全然いいって!好きだって!愛してるって!
旦那、嫁はもう異性として見れないってさ。
と、優越感に浸りとても気分が良かった。最高だと思い、浮気相手の旦那や嫁を馬鹿にして嘲笑っていた。
ところがだ。
自分の嫁も不倫していた事が発覚!
とても裏切られた気持ちになり、嫁をこれでもかというほど罵倒し妻と相手を恨み憎しみ…恨んでやる!
呪ってやると怒り狂い、妻と浮気相手が自宅で性行為をしてる最中を見計らい
二人に熱湯をぶっかけ、相手の陰部をハサミで切って嫁のお股全体に熱湯をドバドバと掛け使い物にならなくしてやった。
もちろん、警察に捕まったが後悔はしない。
だって、不倫してこの俺を裏切ってたんだよ?
絶対の絶対に許せないよね?
これくらいで済んで良かったくらいだよね?
と、裏切られた怒りが落ち着いてきた時に…あれ?と、思った。
……浮気や不倫を楽しんでた
自分は……?
それは、後に自分の子供によって廃人になるくらいまでに恨み辛みを晴らすかの様に残虐非道なやり方で殺されてしまうのだから。
意識が途絶えようとした時に、走馬灯の様に自分の過去を思い出し……これくらいされて当然か…と、涙を流し自分のせいでこれから悲惨な運命しかない自分の子供を憐れんで意識は途絶えた。
ーーー幻術終了ーーー
と、三つのベットが用意された客室で、桔梗は大きなソファに座ってテレビゲームをしてる結とショウの後ろ姿を眺めながらブスくれていた。
「…みんな同じ部屋で寝かされるとか考えてなかったし、まさかショウや桔梗の家に泊まる事になるなんて思いもよらなかったよ。」
ソファの後ろにはダイニングテーブルがあり、そこで蓮は何でこうなったんだ?と、ため息をついていた。
部屋に備え付けてある冷蔵庫から、桔梗はショウと結に出す為の飲み物を用意していた。それを見て
「…へえ、M魔道士だから、食べ物や飲み物も魔道でポーンと出すのかと思ったよ。わざわざ、飲み物を冷蔵庫から取り出すなんて、本当はM魔道士とか嘘なんじゃないの?そもそも、M魔道士なんて聞いた事ないし。」
と、蓮は嫌味を言うと
「……そこまで堕落した生活してたら病気(肥満)になるだろ。それに、日常生活も魔道で過ごしてしまったら体の動かし方を忘れてしまうからね。だから、できる限り日常生活は魔道を使わないようにしてるだけだよ。」
何か妙な誤解だけはされたくないので、桔梗は普通に蓮の質問に答えた。
つまらない回答が返ってきて、蓮は何か嫌味な事でも言われるのかと身構えていたが普通の答えが返ってきて少し気が抜けたが
普通に考えたらそうだよね。魔道ばかり使って生活するとそうなっちゃうか。確かになと納得した。
ちなみに、結と蓮がショウ宅に泊まる事になった経緯は、使用人達の提案からであった。
あまりに闇深い結の心と、蓮のどうしようもない恋愛事情はもう少ししっかり話した方がいいのでは?お泊まりOKでーす♪みたいな、軽いノリで
桔梗が止めるのも聞かず、使用人の何人かでショウに
“今までショウ様は、お友達とお泊まりした事なかったよね?どうせなら今日お泊まり会しちゃいません?”
と、いう提案をした所ショウは凄くノリノリで“
“結ちゃんとお泊まりしたい!”
の一言で、お泊まりが決定したのであった。
二人で壁一面の画面で、車のレースで白熱している。
結は画面に合わせて体ごと動いてしまうタイプらしく、面白い動きをしてるし、
ショウなんてゲームはあんまりやった事がないとの事で、体どころか腕ごと手を色んな場所に動かしたり急に立ち上がったり、座ったまま勢い余って軽く転んだりと忙しない。
…多分、毎日このゲームをさせたらショウは痩せられるんじゃないかと蓮は失礼な事を考えてたが。
だが、それにしても
二人の奇妙な動きが面白すぎて、思わず笑ってしまう桔梗と蓮だった。
「…ショウ、かわいいすぎ!今すぐにでもギュッて抱き締めていっぱいキスしたい。」
なんて、ショウの面白い動きにクスクス笑いが止まらない様子の桔梗は、そんな事を言っていた。
それを聞いて、蓮は
俺も二人が真剣になって変な動きするから、我慢できなくて笑っちゃってるけど
ショウだけじゃなくて、結も面白い動きしてるのに
…こいつ、本当にショウしか見えてないな
頭、イカれてるるんじゃないの?
と、ショウの事を愛おしげに見ながらクスクス笑っている桔梗を見て、蓮は思わずドキリとしてしまった。
マスクで大きく顔を隠しても分かる桔梗の美貌。そして、色っぽくショウを見つめ艶やかなフェロモンがダダ漏れている婀娜っぽい雰囲気。
あまりの美しさに、真っ赤になりながら桔梗から視線を逸らし自分を落ち着かせようと冷たい飲み物で喉を潤した。…だって、こんな雰囲気の桔梗を直視しちゃったから蓮のレンくんが大きく反応しちゃったから。
鎮まれぇ〜、鎮まれぇ〜と、とひたすらに蓮のレンくんが落ち着くのを待った。
…ドキドキ…
その時、桔梗は蓮に思わぬ提案をしてきた。
「お前の相談な。結もそんなもんって思ってるみたいだし、やってみたら?」
なんて、よく分からない話をされ思わず桔梗を見た蓮に
「ダメ元で振られても振られても自分の気が済むまで、自分の気持ちを颯真にぶつけてみたら?」
「…は?」
思わぬ提案に、蓮は桔梗に対し不快感を露わにした。
「お前は颯真の事、どうしようもないくらい凄く好きなんだろ?何をどう努力しても忘れなれないくらい好きで堪らないんだろ?
そこまで本気なら颯真に告白すればいい。どうでもしないと、お前ずっとこのままだよ?」
と、ショウを楽しげに眺めながら桔梗はそんな提案をしてきた。
「…だ、だって、向こうは妻子持ちだよ?」
なんて焦る、蓮に
「だったら、尚更いいんじゃない?だって、お前から聞く颯真は凄く大人みたいだからさ。
家庭が大事なら、いくらお前が颯真にアタックし続けた所で上手にかわして、お前が納得するまでしっかりとお前の気持ちを尊重しながら断り続けてくれるはずだよ。
俺が颯真の立場なら、ショウと俺に危害が加えられないように容赦なくお前の心をズッタズタにぶった斬って二度と俺達の前に来れないようにするけどね。ただの告白程度なら、無視するだけだけどね。」
なんて、言ってきた桔梗に
桔梗だけは絶対に好きになりたくないと心の底から思った。
…わ…冷酷過ぎる…
…恋愛にトラウマできるどころか人間不信になりそう…
だけど、桔梗のこの提案になるほどと納得出来る部分も多くやってみるか。とにかく、動かなきゃ何も始まらない!と、蓮は颯真に告白する気持ちが固まったのだった。
「…ああ、告白するにあたって“本当の姿”で気持ち良く玉砕できるように、お前が納得できるまで颯真に告白し続ける間は“呪い”を解いてあげる。」
と、桔梗が言った瞬間
あんなに何をどうやってもビクともしなかった呪いのアンクレットは、呆気なく取れて桔梗の手元に戻った。
「その間だけ、コレは預かっとくな。」
ちょっと、桔梗の言葉遣いがチグハグになってきた事も気になるが、
その呪いのアンクレットは預かるんじゃなくて返してこなくていいから!
そもそも、俺の魔具じゃないし!
と、蓮は心の中で叫んだ。
だけど、本当の姿を手に入れた蓮は不安と期待で颯真への気持ちが昂っていた。
「……本当、お前は運がいいぜ?
ショウの大切な友達の友達だから特別だ。実際にやったら、やべー事でも“幻術”でそれを体験すれば、どんな“結果”“未来”になるのか分かるからな。」
そう言ってきた桔梗に、
「…は?どういう事?」
と、蓮は狐につままれたような顔で桔梗を見てきた。
「俺の“幻術は特別”だ。様々な情報と設定で、夢の中で“リアル”を体験できる。
例え、夢の中であっても、その行動を起こせばどうなるのかが分かる未来視の様なものだ。やるだろ?
…それとも、マジで現実に颯真に告白すんの?そればっかはどうなっても責任持てねーぜ?」
そう言ってきた桔梗の口調は、ショウといる時とはまるで別人で、とても野蛮でガラつきの悪い感じがした。だけど、何故だかこっちの方がしっくりくるのは、これが桔梗の本来の姿なのだろう。
だが、ショウといる時もしっくりくる。
ああ、そうか!ショウから離れている時の桔梗がしっくりこないのは、みんなの前で猫を被ってるからか!
…けど、ショウといる時の桔梗もしっくりくるのは、どうしてだろう?
と、蓮は桔梗の態度と言葉遣いの激変っぷりに驚き、そんな事を考えていた。すると
「どっちも、俺だよ。今の俺も本当、ショウと一緒に居る俺も本当。だけど、世間体を気にする場所ではメチャクチャ猫被ってるだけ。
だってさ、そこで態度が悪かったりしたらショウに傷が付くし、ショウをガッカリさせるだろ?そんな嫌な思いさせたくねーんだよ。それに、猫被りなんて大小様々あるだろうが、みんなやってんだろ。」
なんて、カウンター席に後ろ向きで両肘を置いて物凄く態度が悪いヤンキーの様な格好で蓮を見下ろしていた。
見た目も相まって、もはやヴィランだ。
…うわっ…
怖いとは思ってたけど、桔梗の本性はヤンキーだったんだ!
怖いはずだ
そして、ショウとこの差は違いすぎでしょぉ〜
二重人格かよぉ〜
と、蓮は更に桔梗に対し恐怖心が増した。
「…で、どうすんの?“幻術”で未来視する?愚かなにも、マジで颯真にアタックすんの?どっち?」
桔梗は、早くしろよとあからさまにイライラして怖かったので
「…幻術の方で…」
そう答えてしまった。
「…あ、ちなみにだけど。俺以外にも“幻術”使えるやついるけど、そいつらは“リアル”や“未来視”なんてできなねーから騙されんなよ?
俺が知ってる限り、この幻術使えんのは俺とショウのお母さんだけだからな。あと、呪いのアンクレットつけたままだと、それもしっかり幻術に影響出てしまうから外しただけだからな。」
なんか、もの凄い事を聞かされた気がしたけど…
「もう一つだけ。全部体験させる幻術は結構疲れるからな。そこまで、テメーの為に労力使いたくねーから【ダイジェスト】で、コンパクトに短縮すっから。」
と、怠そうに言っていたが、そんな事まで調整できるもんなのか?と、蓮はただただ驚くばかりだった。時短は嬉しいが。
俺が行動する事で、どんな風になるのか
どんな未来が待ってるのか分かるなら
願ってもない有り難い申し出だ
桔梗に頼るってのは癪だけど、背に腹は代えられないからな
それが決定した瞬間、蓮は天井が見えてビックリした。驚いて周りを見ると
どうやら自分は、用意してあったベットの一番端に仰向けに寝かされたらしい。
いつの間に!!と、驚くと同時に
『さっさと始める。』
と、いう脳内に響く桔梗の声と一緒にあれよあれよという間に蓮は何も考える隙間すら与えられず幻術の中に入ってしまっていた。
---幻術の中〜蓮の告白〜---
あれから、ショウの家にお泊まりしてから数日経っていた。
蓮は自室のベットに寝転びながら悶々と考えていた。
桔梗に告白を勧められたのはいいとして、なかなか勇気が出ないし…やっぱり、颯真の家族の事やこの告白の事が父や母の耳に入ったらと色々考えてしまってもう一歩という所でなかなか告白に踏み出せないでいた。
もう一つの理由はやっぱり振られたくない。告白をしてからの颯真との関係性がどう変わってしまうのか怖かった。…告白をして、家庭があるのに何を考えてるんだと幻滅されて嫌われるのも嫌だ。
…どうしよう…!
と、ぐるぐる悩んで悩んで…いつもの様に、自分を慰める為にサイトで出会った男(できるだけ、容姿や年齢が颯真に似てる男を選んでいる)と、ラブホテルに向かおうとした時だった。
「…おい!何をしているんだ?その子は、どこからどう見ても未成年ですよね?警察に通報しますよ?」
聞き覚えのある声が聞こえて振り向くと
……ゾッ!!!
そこには、好きで好きで堪らない颯真の姿があった。颯真の出現によりサイトで男は
「…ち、違うんです!その子が迷子になってたようなんで道を教えてただけなんです!ね?」
と、焦ったように蓮に問いかけ、呆気に取られながらも「…え?…あ、はい…」そう、蓮が返事をした途端に男は一目散に逃げて行ってしまった。
残された蓮に、冷たい視線と声色で颯真は蓮を連れ近くの喫茶店に入った。
「…あれは、どこからどう見ても援交だった。
蓮に何か不満や悩み事があるんだったら、教えてくれないかな?」
颯真は意外にも蓮を咎める事はなく、逆に蓮に何か心の問題があるのかもしれないと心配して優しく問い掛けてくれた。
…トクン…!
その颯真の優しさに思わず蓮の目には涙が溢れ、ボロボロと溢れていった。下を俯き顔を真っ赤にしながら歯を食いしばり、膝の上に置き強く握っていた拳も力が入り過ぎてブルブル震えた。
「どんな事でも相談に乗るよ?俺達は家族なんだ。
…大丈夫、今は無理でもいつだって話は聞くよ?」
そう優しく声を掛けられたら、もう駄目だった。
それに、家以外で颯真と二人きりなんてなかなかないチャンスでもあった。おそらく、この機会を逃せばきっと颯真にこの気持ちを伝える事何できず苦しみばかりの毎日に戻ってしまう!
そう思ったら
「…好きなんです…」
そこまで言ったら、もう全てを吐き出すだけだった。
「…俺っ!本気で颯真さんの事が好きなんです。もちろん、恋愛対象として…!」
と、告白した蓮に、颯真はとても驚いた表情を浮かべていたが、すぐにいつもの表情に戻り静かに蓮の心の中に溜まっていた颯真への気持ちを全て吐き出す蓮の言葉を静かに聞いていた。
そして、涙を流しながら自分の気持ちを伝えた蓮の涙を颯真はハンカチでそっと拭き
「まずは、俺の事を好きになってくれてありがとう。
そして、俺には大事な妻と子供がいるからね。君の気持ちには応えてあげる事はできない。」
と、かなり年下であるはずの蓮に対して茶化す訳でもなく年上ぶるわけでもなく、対等に真剣に答えて丁寧に頭を下げてくれた。
その誠意がまた、かっこよくてますます蓮は颯真の事が好きになってしまった。
「…俺、やっぱり颯真さんの事が凄く好きです。諦めきれないから、家族の邪魔はしないので好きでいる事だけは許してください。話を聞いてくれて、ありがとうございました。」
蓮は、そう言って無理矢理に笑みを浮かべ、颯真に頭を下げてその場から去って行った。
それから、やっぱり蓮と颯真の空気は気まずいぎこちない雰囲気になってしまい、蓮は颯真を避けるようになってしまった。
そして、やっぱり颯真似の男を漁っては、どうしようもない自分のモヤモヤを取っ払おうと一瞬だけの温もりを求め彷徨い続けた。
そんなある日、転機は訪れた。
いつものように、男とラブホテルに向かっている最中
「…いい加減にしなさい!」
と、いう颯真の怒号が聞こえて思わず蓮はビクッと体が飛び跳ね硬直してしまった。固まっている蓮に、何故か後ろから温かくも力強いものを感じ見ると
「……君は、本当に困った子だ。」
そう言って、蓮の唇にキスをしてくる颯真の姿が目に写った。
…トクン!
…え?
…う、うそっ!?
どうして?
ドキドキドキ…!
と、戸惑うも念願叶って、どうしてか分からないが好きで堪らない颯真とキスができている事に幸せを感じ、思わず蓮は颯真の背中に震える手でこの人を離すまいと必死にしがみついた。
それに合わせて、颯真のキスは深くなっていきその場で長い間熱く情熱的なキスを交わし
二人は当たり前のように、ホテルに入っていき遂に二人は一線を超えたのだった。
蓮は今まで感じた事のない情熱的で多幸感溢れる激しくも優しい熱に浮かされ、幸せいっぱいに気を失った。
蓮が目を覚ますと
…ドキッ!
情事があった事がしっかり分かる様な色気たっぷりの颯真が、自分の顔の直ぐ目の前にありドキドキして思わず目を逸らしてしまった。
ドキドキドキ…
すると
「…可愛い事をしてくれるな。」
と、颯真の声と同時に、チュッと頬にキスをされて
キュン!!
蓮はもう、すっかり颯真に骨抜きにされ夢中になっていた。
…大好き!
何を失ってでも、この幸せは守りたい!!
蓮が気を失っている間に、色々と綺麗にしてくれたのであろう気遣いにも照れ臭くも、ああ、自分は愛されてるんだと嬉しくて心のの中ではしゃぎまくっていた。
嬉しくて嬉しくて、そして蓮はまだまだ若いので好奇心の塊でイタズラっこのように颯真にニコっと笑って見せると布団の中に潜り込んで……
「…あ、こら!蓮っ……っ!…っ!」
本当に幸せ過ぎた。
こんな時がいつまでも続けばいいなと…
それから、数年が経ち
蓮は大学生になり、まだ颯真との秘密の関係を続けていた時だった。
大学生になった蓮は、大学が遠い事もあって家を出て一人暮らしをしていたので颯真を家に連れ込んで、まるで新婚夫婦の様に幸せに暮らしていた。
そんな、ある日の事だった。
蓮のポストに、法律事務所からの封筒が届き
何か嫌な予感がしつつも、封筒を開けるとそこには…
不倫の慰謝料請求と、不倫の証拠だと突きつけられた
自分と颯真がイチャついたりホテルに入っていく様子、挙げ句どこでこんなの入手したんだというエッチの最中の写真や動画、音声までもが入っていた。
どうやら、颯真と付き合って直ぐから颯真の奥さんにはバレていたらしく、その当時から今に至るまでの全てが事細かに入っていた。
それを見て顔面蒼白になりながら、蓮は急いで颯真に連絡した。連絡したが全然繋がらない。
今の時間は、仕事中だろうから出ないのは当たり前かと考えていると父親からの電話があり出てみると
「……蓮には幻滅させられたよ。…いや、君だけじゃない。一番悪いのは、颯真だ。
妻と子供がいるにも関わらず、当時まだ子供だった蓮に手を出して……うぅ……。私たちの育て方が悪かったんだ。幼い蓮にこんな……」
最後らへん、泣いているのか言葉を詰まらせ言葉にならない言葉で何かを言っている父。代わりに、母が教えてくれた。
「…颯真のせいで、西園寺家は崩壊よ。颯真と蓮の関係を知ったメグちゃん(颯真の妻)は、私達には普段通りを装ってたけど心はボロボロだったみたい。
子供だけでも守らなきゃって一心で、一生懸命に颯真や蓮と家族である様に演技し続けて心の中では、あなた達を“恨んで恨んでどうやって苦しめて殺してやろう”と、憎しみ悔しみ…メグちゃんの取った行動は、最初から気づいてたというあなた達への不倫の証拠を送りつけると同時に自らの命を断つ事だったみたい…。
…もっと、酷いのが…
嫌だと恐怖するチーちゃん(颯真の子供)を無理矢理に
“あの汚い人の血が流れてるなんて穢らわしい”
と、叫びながらチーちゃんを……包丁で何度も何度も滅多刺しにしてチーちゃんは……うっ……
その亡き骸と一緒に、家の屋上から飛び降りて自らの命を断ったわ。」
と、いう残酷な知らせであった。
颯真にもその知らせが届き、妻と子の亡き骸を見た颯真は泣き叫びひとしきり暴れるとスイッチが切れたかの様にストンと床に座り込んで動かなくなってしまったらしい。
今は家の部屋の中に膝を抱えて、ブツブツと独り言を言っているらしい。
今現在は、そんな颯真の為に精神科医とカウンセラーを呼び颯真を診てもらっている最中らしい。
次の日、何気にテレビを付けた蓮に見たくもなかったニュースが流れていた。
“なんて残酷極まりない恐ろしい殺人鬼なんでしょう!自分の幼い娘を何十ヶ所も滅多刺しにする母親!!
同じ親として絶対に許せません!”
“まだ幼い娘さんは、さぞかし怖かったでしょう、痛かったでしょう。それも、大好きな母親から…あんまりだ…娘さんの事を思うと心が引き裂かれる気持ちですよ!”
と、颯真の奥さんを悪魔、殺人鬼と罵倒するコメントばかりで、何をどう思えばいいのかもう訳も分からなくなって絶え切れずテレビを消した。
「……俺のせいだ……どうしよう……」
それから、暫くして
西園寺家は貴族から抜け一般人になり、自分達を知らないであろうド田舎へ引っ越した。颯真は田舎の綺麗な空気と自然に囲まれていれば心も穏やかになってくれるだろうと、田舎の精神科へ入院しているのだが…
田舎にさえ引っ越せばなんて、それも浅はかな考えであって何故だか引っ越してあっという間に、近所中の人達の悪い噂話が絶えず仲間外れにされたら嫌がらせをされたりで
夫妻は怖くて、家から一歩も出られず引きこもってしまったらしい。
数年後には
姉の菫は、“不純な血が流れてる穢らわしい”“兄弟で不倫してた見境のないヤリ◯◯一家”だと罵られ、屋敷の使用人達や貴族が集団で菫を強姦し続け、遂には幼い娘にまで手を出されそうだったので菫は娘を守るために身分や全てを捨てて整形までして海外へ逃げたらしい。
今、菫と菫の子供がどうなったか不明である。
軍で頑張っていた結も、実家の不祥事の内容が内容なだけに軍でできた友達も一気に居なくなり孤独になった結を仲間だったはずの者達に毎日の様に罵声罵倒を浴びせられ酷い暴力まで振るわれるようになった。
そして、“どうせ、処女なんだろ?可哀想に”と、クスクス笑いながら集団で結を囲い込み、拷問で使われていた卑猥な道具を使い結を拷問して“処女卒業おめでとう!”と高笑いしながら集団は結を拷問し続け笑っていたらしい。
結の乳房は引きちぎられたり刻まれていたりで、股や尻もズタズタで内臓も破裂や切り裂かれ悲惨な状態の亡き骸と蓮はご対面していた。
何故、蓮だけが結の亡き骸と対面したのかは……察しがつくであろう。
行方不明の菫と精神崩壊して入院中の颯真以外、生存している結の家族は蓮しかいなかったのだから。
「…なんで、こんな酷い残酷な事ができるんだ?結は全然関係ないのに…どうして、こんな事に……ウゥッ……」
そうして、蓮一人だけに見送られながら結は焼かれ小さな壺に入れられ西園寺家代々のお墓へと入っていった。
…あの丈夫な結が、こんな小さな壺に入っちゃうなんて…俺が軽く持てるまでに軽くなっちゃうなんて…
…信じられない…
結の元気いっぱいだった頃の笑顔とパワフルな言動が思い浮かんでくる。
何処からから、『どうしたんだ?元気ないぞ!』なんて言って今にもひょっこりと元気な姿で自分の前に現れそうな気持ちだ。
…けど、いくら待っても結の姿はなく時間になり、結が入ってるという信じられないくらい小さな壺の中から白い大小様々な大きさと粉がバラバラとお墓の中に入れられる。
…これは、一体何なんだろう…?
蓮は現実を現実として受け入れられず、ただただお葬式の案内人の指示通りに動くだけだった。
参列者が蓮ただ一人という寂しいお葬式が終わると蓮はアパートの部屋で、ただただボーとしていた。
そして、たまに思い出したかの様に怒りが湧いてきて
あんなに、いい子がどうしてこんな仕打ちを受けなければならないんだと悲しくも悔しい気持ち。そして、結に残酷極まりない拷問をした奴ら全てに天罰を!!!と、強く願った。
それから、少し落ち着いた頃
蓮は思い切って、颯真の入院する病院を訪ねていた。
鉄柵に覆われた部屋はまるで牢獄の様で、その中に小さく縮こまりブツブツと独り言を言ってる男がいた。
その男は蓮に気がつくなり
「…お、おまえのせいだ!お前が俺を誘惑したせいで、妻と子供を失った!!…消え失せろ!疫病神めっ!!」
と、蓮に向かって泣き叫び
蓮は居た堪れなくなって、その場から立ち去ろうとした瞬間…
「…蓮…蓮、助けてくれ!俺には、もうお前しかいないんだ。…愛してる。」
悲痛な声で、名前を呼ばれ助けを求められた。思わず、颯真の側に駆け寄るも、昔のようなクール系イケメンはなりを潜めみすぼらしく小汚いただのおじさんに成り下がっていた。
その姿を見て、蓮の心は罪悪感しかなく
そして、あんなに好きで好きで堪らなかった颯真への気持ちも冷めてしまい……可哀想だと思いつつも
自分の罪から逃れたくて、颯真を捨てて蓮は海外へ逃げた。海外へ逃げて、ようやく心が落ち着いた時素敵な女性と巡り会い結婚して子供にも恵まれたのだが…
…因果応報…
なんと結婚しても蓮は浮気や不倫のスリリングさと背徳感、そして
旦那、嫁から奪ってやった。自分の旦那、嫁より、俺の方が全然いいって!好きだって!愛してるって!
旦那、嫁はもう異性として見れないってさ。
と、優越感に浸りとても気分が良かった。最高だと思い、浮気相手の旦那や嫁を馬鹿にして嘲笑っていた。
ところがだ。
自分の嫁も不倫していた事が発覚!
とても裏切られた気持ちになり、嫁をこれでもかというほど罵倒し妻と相手を恨み憎しみ…恨んでやる!
呪ってやると怒り狂い、妻と浮気相手が自宅で性行為をしてる最中を見計らい
二人に熱湯をぶっかけ、相手の陰部をハサミで切って嫁のお股全体に熱湯をドバドバと掛け使い物にならなくしてやった。
もちろん、警察に捕まったが後悔はしない。
だって、不倫してこの俺を裏切ってたんだよ?
絶対の絶対に許せないよね?
これくらいで済んで良かったくらいだよね?
と、裏切られた怒りが落ち着いてきた時に…あれ?と、思った。
……浮気や不倫を楽しんでた
自分は……?
それは、後に自分の子供によって廃人になるくらいまでに恨み辛みを晴らすかの様に残虐非道なやり方で殺されてしまうのだから。
意識が途絶えようとした時に、走馬灯の様に自分の過去を思い出し……これくらいされて当然か…と、涙を流し自分のせいでこれから悲惨な運命しかない自分の子供を憐れんで意識は途絶えた。
ーーー幻術終了ーーー

