クズとブスの恋愛事情。

そんな二人の会話を聞いていて、何を思ったかショウは


「結ちゃん、恋とか恋愛、結婚したくないの?」

何を考えてるか分からない表情で質問してきた。


「うん。色々考えた結果な、すっごく嫌だって思った。
それでも、自分はもう関係ないけど他人の恋沙汰見たり聞いたりするのもウンザリだよな。気色悪いだけだし何より“怖い”って感じるんだ。
だってさ。どうせ、みんな色んな人を取っ替え引っ替えするよね。中には、浮気や不倫、セフレ作る奴なんかも居る。これは、美人に限った事じゃないんだけどさ。
特に美人なら、より取り見取りで選び放題で恋人やセフレに困らないだろ?

それで、みんな苦しんで家庭崩壊させたり子供に残酷な事したりさ。…もう、見てらんないし聞いてらんない。
できるなら、恋愛沙汰のない世界で生きたいもんだよ。」

と、苦笑いする結に


「結ちゃんの目標だった帝王軍の差別的行動にも幻滅しちゃったんだよね?言ってる事と実際にやってる事も全然違ってたりして…。
そんなの見ちゃったら、ガッカリもいいところだよね?」

「そうそう!それで、私の夢も希望も目標すら失ってしまった感じだよ。せっかくの生き甲斐、やりがいも全て断たれて私はどう生きたらいいんだってさ。
もう、私には何にもない…ないんだよ…。お先真っ暗だよ。あはは!」

「…そっか、そうだよね?…う〜ん…
じゃあ、結ちゃん。バーサーカ(狂戦士)になっちゃう?」


なんて、おかしな事を聞いてきた。

その言葉を聞いた途端に、桔梗は青ざめギョッとした顔でショウの顔を見ていた。

その様子から、あの桔梗が驚くだけでなく青ざめるなんて、ショウは何かやばい事を言ってるんじゃないかと蓮は恐ろしい胸騒ぎを覚えた。


「…ん?バーサーカって、なんだ?」

キョトンとして、結はショウに説明を求めると


「バーサーカは、ずっと戦い続ける人の事だよ。
うーんと…説明はちょっと難しいんだけど。

“一つの目的の為だけに戦い続ける”

例えばね。この世界と別の世界の狭間があって、別の世界から悪さをしようとこの世界に狭間を越えて来ようとする悪者がいっぱいいるんだ。その悪者達を退治していく感じかな?

だけど、そういう悪者が多過ぎるんだ。だから、たまにバーサーカ達やバーサーカを束ねる人達が取り逃しちゃって大変な事になっちゃう事もあるんだって。

だから、少しでも多くのバーサーカが欲しいって言ってる人がいたから、格闘技が大好きな結ちゃんにピッタリかなって思ったの。」


どう、いい考えでしょ!と、少しドヤ顔するショウに

「……へえ。いいね、それ!
だって、それってさ。戦う事以外何も考えないで、強い相手といっぱい戦えるって事なんだよな?」

最高だよ、と、言わんばかりにショウの話に乗ろうとした結にまさかの相手から待ったがかかった。


「…やめた方がいい!」
『それは、いけない。』

桔梗といきなり姿を現したオブシディアンの結を止める声だった。

いきなり現れたオブシディアンに、結と蓮はビックリして声を上げた事は置いといて

「…どうして、ダメなの?」


と、いい事考えついたのになと少しブスくれるショウと、何がダメなのか教えてほしそうな結がいた。


「まず、バーサーカになるには“バトルするという闘争心”以外の心を無くさなければならない。」

桔梗の説明に

「…え?別に、それでもいいんだけど。」

と、結は何てことないように言うが、“心を無くす”という言葉を聞いて蓮はゾッとしたし、結が平然とそれを受け入れてた事実にも恐怖した。

「戦う為だけの人の形をした化け物。
戦う事に飢え、戦う事だけを望み戦う事だけを楽しみ、興奮し、歓喜しエクスタシーを感じる。
痛覚は無く、腕や足が取れても色んな箇所を刺され抉られ喰われても戦い続ける。」

それを聞いて、蓮は恐怖で全身が凍てつく程の寒気が走り失禁してしまいそうになった。…だが…


「別に、いいよ。それで、正義に貢献して尽きるならそれはそれで本望さ。…こんな、汚い世界に居たくないよ私は。もし、可能であれば是非ともお願いするよ。」

結は揺るぎない心でショウを見てきた。

それに、“うん”と、ショウが返事をする前に


「…ちょっとだけ待って!ショウ、これはもう少し考えてから判断するべき話だよ。せめて、結が大学を卒業するまで待ってくれないかな?」

慌てたように、ショウに待ったをかける桔梗に


「何でだ?今、直ぐにでもお願いしたいんだけどな。」

なんて、結は首を傾げながら聞いてきたが、桔梗はそんな結の言葉は無視してあくまでショウに話しかける。


「だって、せっかくの学生生活。ショウだって、せっかく結や陽毬、フジ達と友達になれたんだ。
学生でしか味わえない友達同士の苦楽を共にして楽しまないと勿体無いよ?
それに学生の時期ってあっという間だし何者にも変えがたい友情も育める貴重な時間だよ?それを今すぐに投げ捨てるなんて残念だよ?」

あの桔梗がショウの心に刺さりそうな言葉を並べて必死になってショウを説得してるあたり、話を聞いてる以上に想像が付かない程までにバーサーカになるという事は本当にヤバイという事だけは蓮にも容易に想像できた。

しかし、さすがは桔梗。

ショウの事は何でも熟知しているらしい。

桔梗の話を目をキラキラさせながらショウは、うんうんうなづいて聞いていた。


「それに、色んな経験を経て人は“変われる人は”変われる生き物だから。だから、結も学生生活を謳歌しているうちに考え方も変わってくるかもしれないよ?
だから、後になって後悔するより、急がなくても学生の間ゆっくり考えて決めてもいいんじゃないかかな?」

と、言った所でショウの気持ちは固まったようだ。


「私ね、桔梗の話聞いてて納得しちゃった!
私、結ちゃんともっと一緒にいいたい!結ちゃんといっぱいいっぱい遊んだり色んな事したいよ!すぐに、離れ離れは…悲しい…」

最初は意気揚々と最後ら辺しょんぼりと、ショウがそんな事を言うものだから

結は、

ショウは癒し系でほんわか可愛いなぁ

と、ほっこりしつつ、心から結という一人の人間と一緒に居たいと友達でいたいと言ってくれたショウの気持ちが嬉しくて

まだ、綺麗なものがあるじゃないか

ショウ達が居るなら、もう少しこの世界にいてもいいかもな


そう思えた結は


「うん、そうするよ。バーサーカになるか別の道を見つけてそこへ進むかは、学生の間ゆっくり考えて決める事にするよ。その間、ショウ達と目いっぱい学生生活楽しまなきゃな!」

と、ニカッと笑って見せたのを見て、桔梗とオブシディアン、蓮は緊張して固まっていた体の力が抜けホッとしていた。

ショウのとんでもない提案のせいで周りは慌てふためていたが、だけど…


…ああ、私には“バーサーカ(狂戦士)”って、選択肢が一つ増えたんだな

と、ショウのとんでも発言に結の心は救われていた。
自分にとってとても生きにくい何かがあっても、いつだって私はバーサーカになれるんだぞ!と。
そんな風に思う事で結の心に逃げ道ができて、とても楽になった気持ちになった。

と、ここで蓮が何かを思い出したかのように


「話を蒸し返すけど、結の言ってた災害の話は俺も知ってるかもしれない。結の話してる事とはだいぶかけ離れた事がニュースに流れてたけど…。」

夏休みに入る数週間前の土曜か日曜日。いつもの様に、結は意気揚々といつものように軍の学生達に混じって訓練しに行っていたはずだ。

その日、帰ってきた時の結は怪我だらけで帰って来て両親達を心配させていたが、今思えばだが何だかいつもと様子が違い落ち込んでいた様に思う。
その時は、何とも思わなかったが、今思い返してみればである。

その次の日に、帝王軍のトップ達がたまたま視察に訪れていた時に災害が起き、帝王軍の迅速な対応により被害を最小限に抑えられ多くの人達が救われたという報道だった。

中には、助からなかった命も数名程いたし重傷を負っている人も結構いたらしいが

それでも、帝王軍のトップでなければ

殆どの命は失われ災害を抑制できず、そこの地域は壊滅的になっていただろう。

と、帝王軍トップ達を称賛するニュースが数週間にわたり大々的に、取り上げられ彼らがいかに素晴らしく優秀なのか称賛の嵐であった。
現地での取材に答えた被害者達も泣きながら、偶然の出来事だったが彼らが居てくれていかに自分達はラッキーだったのか、泣きながら帝王軍のトップ達にカメラに向かってお礼を言っている人達の姿が映し出されていた。

しかも、広さ的には小規模とはいえ災害に遭った場所は甚大な被害があったはずなのに、復興作業はとんでもないスピードで進められ既に、その地域では普通の生活ができるようになっているらしい。

もはや、凄いとしか言いようがないくらいに被害者の人達だけでなく、ニュースなどで報道を見ていた人達にとっても、帝王軍トップはとても有り難く力強い希望や光そのものように思えていた。

連日報道されたそのニュースは、軍に興味のない蓮でも凄い、カッコいいと憧れを抱く程で結が帝王軍に入団したがっている気持ちも分かった様な気持ちになっていた。

もちろん、そのニュースを見ていた結の両親や兄夫婦も蓮と同じ様な気持ちで、胸を熱くさせながらその報道を食い入るように見ていた。

そして、ニュースの中にオマケのように、

“たまたまそこで訓練していた未来の兵士達も彼らの手伝いをしていた。

きっと、たまたまそこに居合わせた運のいい未来の兵士達も、帝王軍トップの活躍をその目に焼き付け手伝う事ができさぞかし光栄だったであろう。

その特別な経験を活かし、将来に向かって彼らの様になれるよう頑張ってもらいたい。

頑張れ!未来の兵士候補達!!応援してるぞ!!!”

なんて、熱のこもったナレーションが流れていた。


「そうみたいだな。その時の事を結は言っていて、実際に目の当たりした光景を見て帝王軍に幻滅してしまったみたいだね。」

と、少し複雑そうな顔をして桔梗は言ったところに


「ちなみに、その帝王軍のトップは何部隊か分かりますか?」

なんて、お茶のお代わりを持ってきた使用人の男性が気さくに声を掛けてきた。

「…え!?」

使用人が客人に気軽に声かけてきて事に驚いて、蓮は思わず声を上げてその使用人を見た。

悔しいが、蓮も認めざる得ない程のイケメンだ。
だが、使用人ごときが客人に気軽に声かけて無礼じゃないのかとイラッとしたのだが

そんな蓮の気持ちを読んだかの様に


「…ああ、“この家は特別”だから。ここに住んでる人達みんな、血は繋がってないけど俺達の“家族”みたいなものだからさ。多分、身分だけで言えば結や蓮よりもずっと上だよ。だから、気にしなくて大丈夫だよ。
間違っても“無礼”ではないし、うちじゃなくても結や蓮の所で働いてる使用人達も“ごとき”じゃないからね。」

なんて、軽蔑しているかのように蓮を見ていた。


…イラッ!

本当に、何様だよ!

本当に本当に、コイツは大嫌いだ!!

と、桔梗の嫌味っぽい言い方に蓮はイライラした。


「…え?あ、ああ。分かるよ、あれはトップ中のトップ。帝王軍第一部隊の隊長、副隊長、その他にも数名いたけど、多分第一部隊のトップレベルの実力者達だと思う。全員ってなると何万人もいるからさ。」

そう、答える結に


「……そう、第一部隊っていうと……」

使用人はとても渋い顔をして桔梗を見た。桔梗も顰めっ面をして、使用人と何かアイコンタクトをして頷いている。そこで、桔梗は


「…あのクソクズヤローがっ!“あの人が居ない”だけでこのザマかよ!マジで、クソクズじゃねーか!」

怒りを露わにしていた。


「多分ですけど“あの方”がいらっしゃるか、身分を隠して活動している聖騎士団であれば、命を落とす人達は居なかったんでしょうね。それに、重傷、中傷者も出なかったかもしれませんね。
そこにいるお嬢様の話を聞いていたら、そうとしか考えられないです。」

使用人は冷静な口調で、そんな話をしてきて

「全くもって、その通りだよ。救える命を救わなかったどころか…見捨てたり後回しにするなんてあり得ないよね。」

それに桔梗は頷いていた。

その様子をポカーンと聞いていた結と蓮であったが、その使用人は結に向かってこう言った。


「お嬢様、世界のトップである帝王軍に幻滅しないでほしいです。あなたが見たトップ達が、たまたまクソクズが多かっただけです。
本当に、運が悪くたまたま最低最悪なバカヤロー達を見てしまった。そりゃ、幻滅するのもおかしくないし人間不信にも陥りますよ。お嬢様は何も悪くないですし、お嬢様が感じた悲しみや不条理、悔しさは絶対に間違ってないです。あなたの正義は決して間違ってない。」

表情も声も穏やかなまま、そんな事を言われて結は胸に何か込み上げるものがあり涙が溢れてしまった。

だが、結は自分が涙を溢している事にも気付いてないようで


「…私は、間違ってない…?」

と、小さく言葉を漏らしていた。


「はい、絶対に。ちなみに、災害時にお嬢様の訓練学校の先生はどのように対応されてましたか?そして、お嬢様達はその時どんな指示を受けましたか?」

力強く結は間違ってないと断言してから、使用人は結達の訓練学校の先生の動きについて聞いてきた。

なんで、そんな事を聞いてくるのだろうと思いつつも結はその時の事を思い出しながら


「先生は、“候補生達といえど、お前達は学生の身!別の先生の引率で速やかにここから避難しろ。大事な未来の希望達に何かあったら困る。”
そう言って、私達を逃がそうとしてくれたんだけど、目の前に困ってる人達が居て少しでも手伝える、助けられるなら救助活動したいという意見が多くてさ。
時間もなかったし人手不足もあって、私達は先生達に指名された泥を掘ったり瓦礫を取り除いたり危険性の少ない場所で作業をしてたよ。」


「賢明な判断ですね。素晴らしい先生です。」

と、使用人は結達の先生の行動を褒めてきたので、結は自分の事じゃないのに何だか嬉しい気持ちになった。


「…けどさ。先生達は、私達に教えた通りの救助活動をしていたんだけど…けど…」

結は、次の言葉を言うのがとても辛そうで、きっとこの先が結がさらに帝王軍に幻滅した何かがあるとみんな直感していた。


「迅速で丁寧に救助活動をしていく先生達に、いきなり帝王軍は怒鳴ってきたんだ。」

結から見ても、迅速かつ丁寧な仕事をしていた先生方に何を怒鳴る必要があるのか。もしかしたら、トップでしか分からない様な何か大事な所が抜けていたのかもしれない。

いくら、訓練で鍛えたり経験豊富な先生方といえど人間だ。一刻を争う中で、何か見落としがあってもおかしくないと蓮は考えていたのだが…


「“お前ら、何をやっている!そんな事をしている暇があったら、そこで泣いている男性を救助しろ!”と、
土砂に埋まった崩壊した家の中から“助けて”と、泣いてる幼い声の子ども達を救おうと頑張ってる先生に向かってそう怒鳴ってきたんだ。

その男性は身なりが良くて如何にも“お金持ち”って感じだった。別に怪我とかしてなくて…ただ、あまりのショックで腰が抜けちゃったみたいでさ。

そこで先生は、怒鳴ってきた帝王軍の兵に
“大丈夫です。その男性を避難させる為に人を要請してありますので、直ぐに来ます!”
って、言ったんだけどさ。

怒鳴ってきた兵士と仲間3、4人いたっけかな?人数まではしっかり覚えてないけど、自分達の持ち場を離れて先生の所までやってきて先生を思いっきり殴ったんだ。

先生も驚いて兵士達を見たんだけど

兵士の数名は、瓦礫や土に人が生き埋めになってるかもしれないそこを何も気を使う事なく平然と走って、その男性を優しく丁寧に救助していたよ。

そして、先生を殴った兵士とそこに残った兵士は先生を罵倒しながら暴力を振るった。

先生は“何をするんですか!?いま、ここに救わなければならない命があります。救助活動が終わったら、いくらでも折檻を受けても構いません!
ですから、今は私達が出来る限りの救助をさせて下さい!”と、懸命に懇願しても、それが生意気だと言ってその兵士達は救助そっちのけで先生を罵倒しながら暴力を振るい続けた。

でも、他の帝王軍達はそれを見て見ぬふりで。
他の先生方が、その異変に気がついて駆けつけて土下座して何も悪くないのに謝って謝って…ようやく、その先生は暴力から解放されたんだ。

その時には、先生に意識は無くて…

それでも、“自分なんかよりも早くこの下にいる幼いこども達を…”って、意識が途切れるその時まで、生き埋めになって助けを求める子供達の心配をしてたんだ。

それを見て、兵士達は何を思ったのか幼い子供達の
“怖いよ、痛いよ、助けて”
って、泣き叫ぶ崩壊した家に向かって魔道か何か使ったのか私達には分からなかったけど何かしたんだ!

そしたら、一気にそこは完全に潰れて…子供達の声が聞こえなくなってしまった。

…多分、自分達に反抗してきた先生への見せしめだったんだと思う。

危ないからって、一定距離以上現場に入れないようバリアーが張ってあったせいで、私達も何もできないままただただその光景を見て泣き叫ぶ事しかできなかった。

そして、帝王軍に対して正当な事を叫んだ訓練生も…帝王軍の耳に入ったみたいでさ。酷い暴力を受けて…見た目のいい子達は何処かに連れて行かれて……、次の訓練からその子達の姿が見えなくなってたんだ。」


と、泣きながら話してくる結に、ショウは走り寄ってギュッと結を抱き締めた。


「……それは、本当に本当に酷い事だよ。結ちゃんはよく頑張ったよ!みんなを守る為の存在が、人を選んでとってもとっても酷い事するなんて……絶対に許せないね。……許せない……許されない……!」

ショウも結のあまりに残酷で酷い話に心苦しくなって、その時の状況を想像して大泣きした。

二人で抱き合って大泣きして、だんだんと落ちついてきた時

ショウの目は、メラメラと怒りと憎しみで満ちていた。

その雰囲気を感じとった結と、それを見た蓮は何故か全身にとてつもない寒気が走り嫌な感じに心がソワソワして怖く感じていた。


「…そいつら、終わったな。ご愁傷様だね。」

「はい、そのようで。」

「信じられないですよ!人を守るべき人が、人いたぶって消すとか!!」

「……しかも、帝王軍の一番隊っすよね?あり得ねー…。こんなのが、トップなんてよぉ〜」

「…人を選んじゃうってのもなぁ〜。あっていい筈ないよ。差別もいい所だよ。平等って、言葉どこ行っちゃったんだよ。」


と、廊下で聞き耳立てていた使用人が、いつの間に何人か部屋に入り込んで怒りを露わにしていた。

いつの間に入り込んでたんだよ!と、結と蓮はビックリしたが

まだまだ見習いだし学生の身ではあるが、軍の訓練生で厳しいトレーニングを重ねている結が一切の気配も感じ取れなかった事に対し、


ここの使用人達みんな只者じゃないんじゃないか?

それに、ショウちゃんの家に圧倒されてて聞き流してたけど、思い返したら桔梗君何気にとんでもない事言ってなかったか?

“少なくとも、ここにいる使用人達は結や蓮よりずっと身分は上だぜ?”みたいな事、言ってたよね?


…え?

なに、ここ?

ショウちゃんの家、どうなってるの?

そういえば、幼い頃からショウちゃんの家に遊びに来てたってフジちゃんと陽毬ちゃんも、何回ショウちゃんの家きても謎だらけだって言ってたな

……確かに、謎が多すぎる……


ショウちゃんの家って一体何なの?


と、結も蓮もこの家に疑問を持った時

蓮はある事を思い出した。


「そういえば。その災害の時、いい話もあったらしいね。」

蓮は、悪い事ばかりじゃないと少しでも結の心を軽くしてあげるつもりで


「災害のニュースが落ち着いてきた頃にさ。
“災害の時に私(俺)が見た感動秘話”
みたいな特集やっててね。それ見たら、俺もこんなドラマみたいな事もあるんだなって感動した話があったんだけど。

災害が大きい所から離れた場所で災害の被害に遭ってる人達がいたんだけど、場所が分かりづらいし結構離れた場所だったりでいくら大事出しても助けを呼んでも気付いてもらえなくてさ。
救助隊の人達も、その人達の存在に気がつけないでいたらしいんだ。

そこに、“まさかの事態に備えて、遠くまで見回りに来た”救助隊の人が、その人達を見つけたんだけど。

救助隊の目の前には、崩れた建物の一部に足を挟まれて動けない女性。

そこから少し離れた場所には、土砂で窓やドアといった出入り口が塞がれて家から出られない状態で取り残された二人の中年男性の声が聞こえていたらしい。

救助隊は、この状況を迅速に連絡して他の救助隊が来るまでの間、崩れた建物の一部に足を挟まれた女性を救出する事にした。何故なら、まだ崩れていない建物は今にも崩れ落ちそうになっているから少しの判断ミスで女性の命が消えてしまう可能性があったから。

そして、女性に大丈夫だと声を掛けながら救助隊の男が、女性を助けようとした時

「私よりも先に、建物に取り残された人達を助けてあげて!」

ってさ。自分の足が建物に押し潰されてて見るからに足も青黒くなってて凄く痛い筈なのに、自分の足が痛くてもいつ崩れてきてもおかしくない建物への恐怖もあっただろうにその女性は自分の危険も顧みず他の人を優先させようとしたんだ。

それには救助隊の男も驚いたらしいけど

「安心して下さい。我が軍は世界の誇るトップ。
状況に合わせた迅速かつ的確な救助を心掛けています。
だから、俺達を信じて下さい。」

そう言って、魔道で他の建物が崩れないようバリアーを張って建物の一部を浮かせると無事にその女性を救出したらしいよ。

建物に取り残された人達も、救助隊の男が女性を説得してるうちにも何人かきて的確な作業をして家の中に閉じ込められた人達も無事に救出されたらしい。

しかも、そのやり取りがキッカケで女の人と救助隊の男は何だかいい雰囲気だったらしいよ。
多分、そのあと二人は結ばれたのかな?とか、それを見てた人達が色めき立ってたよ。」

と、その再現ドラマを思い出して、

蓮はいいよね、そういう話

なんて、感動していたが…


「…どうせ、足挟まれた女性は美人だったんだろ?救助隊の男はどうか分からないけど。」

結は、そこで恋愛に発展するような雰囲気に見えたなら、多分そうだろうと勝手に決めつけていた。


「…まあ、目撃者の人達(野次馬)の話だと、救助隊の男は赤い髪と目が印象的なワイルドイケメンで、足を挟まれて動けなかった女性も女優かと思うくらいの美人だったらしい…けど…。…若い美男美女だったって…」

と、ここで、いい話で結の心を和ごなせるつもりが逆効果だったと、今さらだが、こんな話するんじゃなかったと蓮は頭を抱えてしまった。

その話を聞いて


「……なんか、嫌な予感するんですけど。」

「…私も…そんな気がする…」

「「「………………」」」

何故か、嫌な雰囲気に騒つく使用人達。

そして、何故か額に手を当て呆れたように溜め息を吐く桔梗の姿があった。


…え?

なに?俺、そんなマズイ事言った?


と、一人焦る蓮であった。