夏休みに入り、結はエライ事になってしまったと頭を抱えていた。
九条 蓮が、西園寺家に世話になってるのはいいとしてだ。自分が招いた結果、自業自得ではあるが蓮が女性不信に陥り
挙げ句
あまり見目の良くない人達に対して、見下し馬鹿にする蓮の言動に結達みんなが強い不快感を抱いていた。
そんなある日に、いい加減我慢の限界がきた桔梗によって、容姿や全体的な能力を大きく低下させる魔具のアンクレットを蓮の足首に装着させられた事により
なんと、性格はクソカスだが眉目秀麗だった蓮の姿は、
あっという間に平凡な姿になり
スタイルも平均的な男性と同じくなったので、手足や首は短くなり座高が高くなった。顔の大きさも平均的な大きさになり大きくなった。
運動神経や勉強も以前のようには出来なくなり平均的に。
つまり蓮は魔具のせいで、全体を通して平々凡々になってしまったのだ。
だが、この魔具の素晴らしい所は容姿を含め全てにおいて能力を大幅に低下させる効果があるが、それでもしっかり蓮だと分かる事。
ちゃんと、蓮の超劣化版だと分かる。素晴らしくよく出来た魔具であった。
そのせいで、蓮は今まで感じた事のない屈辱と物凄い苦労をしなければならない日々を送る事になった。制服のサイズも変えなきゃいけないし色々と大変だ。
この魔具は、桔梗か聖女くらいしか外せない呪われた魔具らしく、どうあがいても外れない魔具に蓮はイライラしていた。
桔梗に外してくれと頼むも、桔梗の気の済むまでそのままの状態にすると言われ却下(無視)され続け
桔梗がとても苦手な蓮は、ついに魔具を外す事を諦めてしまった。どうせ、桔梗の気が済むまでの間だ。
あいつに近づくのも嫌だし仕方ない。このまま生活するしかないと腹を括ったのであった。
そうして、迎えた夏休み。
両親から見捨てらた蓮を、一旦西園寺家で預かり蓮の今後については、蓮の様子や気持ちを尊重して決めたいという西園寺家夫妻であったが
あれから、数ヶ月経ち蓮は普通に西園寺に馴染んでしまっていた。しかも、暇さえあれば結の兄である颯真(ふうま)から以前紹介された養護施設でのボランティア活動をしている。
蓮のいい所悪い所も含めて、徐々に受け入れられるようになり今では実の子のように情が芽生えてしまった結の両親は最近、蓮を含めた家族会議を開き
蓮を自分達の養子にする事に決定したのだった。
そこで、九条家の夫婦にその話を持ち掛けると、
最悪な事に九条家夫婦は、九条家の問題児を厄介払いできると両手をあげて喜んでいた。胸糞悪い話である。
あまりに、胸糞悪すぎて九条家とは一切関わり合いたくないと思った西園寺家夫妻は
“そちらの問題児を引き取るのだから感謝していただきたい。だから、今後何があろうとも西園寺家とうちの蓮とは一切関わらないでいただきたい。縁を切ったいただきたい。”
そういった趣旨の内容の付いた契約書にサインをさせて、規約を破った時には……と、九条家では到底払えそうにない額の金額を条件に出した所、九条家夫婦はかなり怒り文句を言っていたが
“あなた方は望んで蓮を捨てたんだ。そんな、あなた方が蓮に関わる事なんて今後ないでしょう。
だから、こんな規約なんてあってないようなもの。
ただ、私達はあなた方に愛想が尽きましてな。こうでもしなければ、気が済まないのですよ。厄介者を引き受けるこっちの身としては”
と、決して蓮の事は厄介者など思ってはいないが、それこそ九条家が今後厄介事を持ってきそうな予感しかないので、敢えてそう言ってこちらが優位な立場である事を示し恩を着せた形で話を持っていったのである。
その内容は、後でこの話の内容がが蓮の耳に入り深く傷付けてしまう事を考慮し、家族会議の時に蓮を含めみんなで話し合って決めた内容でもある。
そして、弁護士を交えた話し合いは長く掛かってしまったが、無事に決着がつき成立した。
契約書はしっかりと裁判所へ提出して裁判所へと保管した。その足で西園寺家と九条家は役所へ向かい九条家は蓮を捨てる手続きをし承認され、しっかりその確認をした上で西園寺家は蓮を養子に迎え入れたのだった。
結に、同い年の兄ができてしまった。(蓮の誕生日が結より早い為)
それから、西園寺家の家族の一員となった蓮は今では、普通に西園寺家で悠々自適に暮らしている。なかなか図太い男である。
そして、結の軍候補生達の強化合宿が2日後と迫ってきた、ある日。
…コンコン!
と、結の部屋にノックの音が響き、出てみるとそこには一週間程前に家族になったばかりの兄、蓮の姿があった。
いくら、兄弟とはいえ年頃の二人なので他の家族に余計な心配は掛けられないと、
(もちろん、蓮にとって結は恋愛対象外もいい所で絶対にあり得ないし、結だってこんな女にだらしない男は勘弁である。
だが、いくら本人達がそう思っても周りの目は違う。)
結に相談したい事があると蓮が話を持ち掛けた所で、周りに知られたくない内容らしいので
今現在、結達はショウの家へと遊びに来ていた。
共通の友達がいるという事と、ショウ達の話も結は両親やきょうだい達によく話していたので両親は何の疑いもなく、たくさん遊んでおいでと微笑ましそうに結達を見送ったのだった。
そして、ショウの家に来て門の外から見たショウの家は大したことない何ら辺鉄もない家に見えたが、いざ二重の門を潜れば外で見えた景色とはまるで違う別世界が結と蓮の目に飛び込んできてかなり驚いた。
…あれ?
外と中が全然違う気がするんだけど…気のせいかな?目の錯覚かな?と思うほど。
一つ目の門は、どうやら配達物や回覧板などの受け渡し場所らしい。
そして、二つ目の門を開ければ別世界が広がっている。
唯達貴族の豪邸に比べたら小さな家であったが、どこを一つとっても手入れなど丁寧に施してあり
そこで働く使用人達も、とても品があり小さな所まで気がつくような優秀な者達ばかりであった。
しかも、使用人達みんな驚く程に揃いも揃って超美形揃い!!蓮や大樹、大地レベルの美形がゴロゴロいるが、この家ではそれが平均レベルらしく、
フジレベルの美形も何人か見かけた時は結と蓮は腰を抜かしかける程にビビった。
何なんだ、ここは!?と。
ショウ達の家は、他の貴族達に比べたら大分コンパクトではあるが、代わりに城や豪邸などの比ではないくらいに美しくも神々しいコンパクトな豪邸であった。
つまり、いくらコンパクトな家とはいえ
城、豪邸が大きいだけの下手な王族や貴族達よりも、
次元違いにどれを取っても一つ一つの値段がつけられないであろうくらいに高価そうだ。
こんな所誰が見るんだ?という細かい所まで手が加えられている。それに、どこを見ても綺麗に整備や掃除など行き届いていて抜かりがない。
何よりも、ここに住んでみたいと憧れを抱く程に、一つ一つどれをとっても全体を通して見ても美しい造りになっている。
細やかな細工された柱や床、壁…言ったらキリがないが、どれを取ってもセンスが良すぎて
人気があり過ぎて予約すら取る事が困難な世界的天才建築家にでも頼んだかのような素晴らしい小さな豪邸であった。
だが、敷地は貴族である結達から見てもとても広く感じた。おそらく、ショウ達の住んでる小さな豪邸から結構離れた場所に、ショウ達の住む豪邸の3倍以上あろうかという結達が住んでいる豪邸と同じくらい大きな豪邸がいくつか建てられている。その為もあって敷地が広いのだろう。
その豪邸が気になった結は、あそこはショウの祖父母の住む離れなのかと聞けば
そこは、使用人や庭師、料理人達が住んでいる家だという。
おそらく使用人達の寮的なものなんだろうが、それにしたって使用人達が暮らすにしてはあまりに豪華過ぎる寮である。寮というか…やはり豪邸だ。
結と蓮は興味があり使用人達の寮の中を見せてもらったが、もはや資産家が住んでもおかしくない様な超高級マンションであった。
それぞれの部屋には使用人達の希望にそって、本格的な調理場があったりプールがあったりジムがついてたりカラオケルームがあったりと、それぞれがとても住みやすく心地よい空間となっているようだ。
下手をすれば、自分達よりもここで働いている使用人達の方がいい暮らしをしているようにさえ思えてくる。
ショウの家はとにかく、人も含め異常なまでに美しいもので溢れかえっていた。
そんな中で圧倒されてる時に、フとショウを見れば……もの凄い違和感しか感じなかった。
酷い言い方ではあるが…一人だけ“異物”が紛れ込んでるみたいな。遠回しにやんわりと比喩してもそうとしか例えようがない。
結と蓮は、ショウの家の極一部しか見ていないけど、それだけでも分かる。ショウの家は只者じゃない感じが否めない。
ショウは、“私のお父さんが凄いお金持ちみたいだね”と、他人事みたいに自分の家の事を言ってた事があったが、絶対にそれだけじゃない、ショウの家族は何か大きな秘密があるに違いない筈だと蓮は生唾を飲み込んでいた。
そもそもの話だ。
どういう訳か、ショウ達の家の門をくぐりショウ達の家の敷地内に入った瞬間から
何と表現したらいいものか…
今まで感じた事のない心地よい空間の中にいる様な、マイナスイオンだらけなんじゃないかというほどまでに澄んだ空気。汚い心までも浄化してしまう様な自分達の知る空気、空間とはまるで違う何かを感じた。
しかも、空気や建造物だけでなく
何気に咲いてる花や草木など、見た事もない様な美しいものばかり。その中に、不自然に自分達のよく知る花も植えられたりはしているが
敷地内の道に使われている石はただの石ではなく、どうやら宝石の原石を使っているようだ。
噴水も水晶の様なものでできており、光の当たり具合で何色にも変化する噴水の中には、大小さまざまな大きさの丸い宝石らしきものが色とりどりに輝いていて美しい。
そして、石を使う場所全てに宝石が使われている事にも驚きを隠せない。
自分達が全然知らない様な見た事もない様な宝石だらけで妙に緊張してしまう。
なんだか、この世でない天国かどこかに迷い込んで来た様な錯覚を起こしてしまいそうになる。
ここに来て良かったのか?と、疑問を抱く程
結と蓮は色々とビビり散らしていた。
そこで、二人は大広間に通され
(自分達の部屋には絶対入れたくない!という、桔梗の気持ちから。)
そこで、人数は増えてしまったが、害はないであろうショウと桔梗も交え蓮のお悩み相談が開幕したのだった。
そこで、最初に声を出したのは結で
「蓮の相談って何さ。」
蓮の脳内を読みもう既に知っている桔梗はとても不愉快そうに顰めっ面していて、この話はショウに聞かせても大丈夫なのかどうか頭を悩ませていた。
そんな、桔梗に
「どうしたの?体調悪い?」
と、心配そうにショウが桔梗の顔を覗き込んできた。そんなショウに「大丈夫だよ。」と、笑みを浮かべ
特別製の大きな椅子に後ろからショウを抱き締めた状態で桔梗は座っており
甘えるようにややぽっちゃり気味のショウのお腹に手を回し、ショウの頬に自分の顔の一部が触れるような感じで座っている。時折、ショウへの愛がプチ爆発して
頬をスリスリしたり頭や頬などにキスしたり、ショウと手を絡ませるように繋いでみたり
…まあ、いつもの光景であるが桔梗を見てると
飼い主大好きな猫が、超甘えモードになって大好き!大好き!!堪んないくらい大好きぃ〜〜〜!!!って、体全体でアピールしてるように見えてしまう。
飲み物や茶菓子を用意してくれてる使用人達の様子を見ても、これが二人の通常運転の様で二人を気にした様子は見受けられない。
それどころか、裏の方で
「桔梗が、今の可愛らしい程度の状態で我慢できるなら嬉しいんだけどねー。」
「そうですよね。いつも、ショウ様への愛が暴走して大変な事になりますからね。ショウ様を大好きなのはいいんですが、我々がいるという事にも少しは配慮してもらいたいですよ。」
「…はあ。度の超えるイチャイチャは二人きりの時にしてもらいたいよな。……いや、それでも桔梗にとってはかなり押さえてる方なんだろうけどさ。アイツ、メチャクチャ性欲強いからな。」
「…いいなぁ…」
「やめよ、やめよ!そんな事、想像したってキリがなくなるぜ?ただただ、羨ましくなるだけだ。」
なんて、ヒソヒソ話をする会話が聞こえてきた。
結は人並外れた運動神経を持ってるせいか聴覚にも優れていて、使用人達のヒソヒソ話もガッツリ聞こえてしまい
……えぇ〜〜〜!!?
う、嘘だろ!?
これで、かなりイチャイチャを押さえてる方って…これ以上のイチャイチャがあるっての!!?
なんて、結は顔を真っ赤にしながらショウと桔梗のイチャイチャについて悶々と考えてしまった。
蓮の方は結程ではないにしろ、敏感に周りを警戒する様な事ばかりしてきたせいか地獄耳になってしまった。
…目の前のイチャイチャだけでもゲロゲロだってのに、俺達が居なくなったらこれ以上のイチャつきが始まるのかよ…キモッ!
と、今まで自分が歴代の恋人達としてきた公害級のイチャイチャ…歩く18禁な事は棚に上げて、ショウと桔梗のイチャイチャを見て
…おえぇ〜〜〜っっっ!!!?
桔梗(最近、このメンバーの中に暫くいるのに苗字呼びに違和感あるという結やフジに言われ、結達の事を名前呼びする事となった。)は、よくショウみたいな“デブス”なんかを好きになれるよね
マジであり得ない
桔梗って正常な美醜の判断できてるの?美的感覚が狂ってるんじゃない?
それとも、ブス専ってやつ?
それより、場を弁えろよな
桔梗はともかく、ショウみたいなデブスがイチャつく姿なんて少し目に入っただけで気持ち悪いだけなんだよ
…本当、目の毒過ぎて目と脳が腐りそう
なんて、ショウの事を心の中で誹謗中傷していた。
その時、桔梗からもの凄い形相で睨まれ
……ゾッ!!?
…コイツ!?
俺の心が読める…訳ないよね
タイミングよく、こっち睨んできたからビックリしちゃったよ
それにしても、タイミングがバッチリ合いすぎるもの怖すぎだろ
…やっぱり、桔梗は苦手だ…
と、蓮は桔梗に対し、更に苦手意識が強くなり恐怖心まで芽生えてしまった。
…いや、桔梗と知り合ってからちょくちょく、そんな事を考える度にタイミングよく桔梗に嫌味を言われたり睨まれたりしている蓮である。
数ヶ月前には、容姿を含め全ての能力を大幅に劣化させてしまうといった魔具(呪われている)であるアンクレットを装着させられて酷い目にあっている。最悪も最悪である。
早く桔梗の気持ちが晴れるか飽きて、この呪いのアンクレットを外してほしいものだ。
そんな風に考えていると
「……今のお前、変わった様であんま変わってねーからまだまだ外さねーからな。“俺判断”で、お前が“マシになった”って感じたら外してやるよ。」
…ゾワワ…ッッッ!!?
ま、まただ!
マジで、心読まれてるみたいで怖すぎるんだよ!!
それに、桔梗判断ってなんだよ
かなりの上から目線だしさ!
マジで、お前何様なんだよ!!
すっっっごいムカつくけど、怖すぎて何にも言い返せないのがまた腹が立つ!!
と、蓮は全身に寒気が走っていた。
「……え?さっきから、みんな静かになっちゃってどうしたの?蓮くんのお悩み相談で集まってるんだよね?」
なんて、それぞれが色々な事情で言葉を出せないでいた時に、一人何も分かってないショウが聞いてきた。
それに対し蓮は、本当は結に相談したかったんだけど色々事情があって仕方なくショウの家に来ただけなんだよ!
と、心の中で悪態を吐き、またも桔梗に睨まれてしまった。
「…あ!そうそう、そうだった、そうだった。
で?何を悩んでるんだ?」
仕切り直しとばかりに、結は気を取り直して隣の席に座っている蓮に質問した。
ぶっちゃけ、悩み相談とかそういった類は結一人では何も答えを導き出せないと考えていたので、この場に頼りになる桔梗がいてくれて助かると心からホッとしていた。
そして、何故か桔梗の事が大の苦手らしい蓮だし、桔梗も蓮を嫌ってるっぽいので、ここに桔梗の心を穏やかにしてくれる唯一の存在であるショウも居てくれて大いに助かったと結は安堵していた。
「…あ、ああ。」
そう、返事を返す蓮の雰囲気は何処となく沈んでいる様に感じたし、都合悪そうにチラチラと結の顔を見て。
それから、下を俯いてしまって何も言わなくなった。
…相談しようと思ったけど、やっぱり事が事なだけに結に相談すべきじゃない。相談できるような信用できる友達もいないし、あまりに切羽詰まり過ぎて自分の辛い胸の内を誰かに聞いてほしかった。
できれば、解決方法を教えてほしいと縋る気持ちで結に相談しようと考えたのだったが。
いざ、実際に相談をしようとした時になって冷静になって頭が冷えてきたのだ。
…ヤバイ!相談相手を間違えてしまった
いや、他に相談できる相手なんていないんだけどさ
と、蓮が頭の中であれこれ悩んでいると
「蓮は、結の兄の颯真を好きになってしまった。
だけど、颯真には妻子がいて幸せそうだ。
でも、諦めなきゃって思えば思うほど、諦めもつかないどころかますます好きになっていくばかり。」
急に桔梗が、そんな事を語り始め結とショウはそれを冗談と思ったらしく、何、おかしな事言ってるの?と、笑えない冗談に苦笑いしていたが
結は、あれ?と、思った。
私、みんなにお兄ちゃんの名前言った事あったっけ?と、疑問が湧いた。だが、何かで兄の名前を出した事があったかもしれない。それを、記憶力が半端ない桔梗が覚えていても不思議じゃないかと考え終わった。
だが、隣の空気の異変に気づき蓮を見れば
「……は?…え??」
と、困惑しているようだった。
多分、同性愛者でもないのに、颯真を好きとか思わぬ方向の事を言われて頭が追いついていないのかもしれない。
そりゃ、そうだ
なんて、いくら蓮が嫌いだからって桔梗はなんて事言ってんだかと結は呆れていた。
…だが…
「どうしようもなくなった蓮は、颯真を諦める為に颯真に抱かれる想像をしながらナンパしてきた男に処女を捧げた。男に抱かれてる時は、目を瞑り颯真を想像して抱かれるけどヤリ終わると…何か違う。
そんな風に思えて虚しさばかりが募り、なんて事してるんだと罪悪感と虚無感を感じ自分は最低だと感じる。
こんな事したって何にもならない。こんな馬鹿な事はやめよう。
そう何度思っても、一度男に抱かれた体は女とは違う男の温もりを求めてしまう。いけないと思いつつそれを繰り返してる。どうしよう?って、相談だろ?」
なんて、蓮の全てを見てきたかのような桔梗の口ぶりに、蓮は青ざめて口をパクパクさせていた。
まるで、何でそこまで知っているんだとでも言っているようだ。
そんな様子の蓮を見て、結とショウは蓮の悩みごとが何かハッキリ分かってしまった。
そして、結は蓮の相談事を丸々言い当てた桔梗にビビりまくってしまった。
…え?
桔梗って、M級魔道士ってだけじゃなくて人の心を読む事までできてしまうのか?
…スゲェ〜〜〜!!!
だけど、結が思う事はやっぱり
「……え?蓮って、お兄ちゃんの事好きなの?奥さんと子供までいるよ?」
だった。
…蓮は中性的な容姿をしてるけど男だよな?
お兄ちゃんだって男だ
……ん?じゃあ、蓮って同性愛者なのか?
いやいや!
今まで、数えきないくらいの女性経験あるよな
そもそも、お兄ちゃんには奥さんと子供までいるのに何でお兄ちゃんが好きなの?
今まで恋をした事のない結は、蓮の話にいまいちピンときてなくて何をどう声を掛ければいいのか分からなかった。
それで出たのが、先程蓮に言った素朴な疑問であった。
「…俺だって、まさか颯真さんを好きになるなんて思いもしなかったよ!」
感情剥き出しに叫ぶ蓮に、結は
…えぇ〜…
何で、そんなに怒っちゃってんの?
怒るような事聞いたつもりなかったんだけどなぁ…
…こわっ!
と、叫ぶように答えた蓮にビックリしたし…ドン引きしていた。
「…だけど、颯真さんと接する度、颯真さんを知る度にどんどん颯真さんに惹かれていって…。
…最初の辺りは自分は颯真さんに憧れてるんだなくらいにしか思ってなかったよ!けど、どんどん惹かれていくうちに途中でその気持ちに気が付いても気が付かないふりした。」
…“恋”って気が付いたのに、“恋だって気がつかないフリ”したって?
…なんで?
なんで、わざわざ気が付かないフリするんだ?
わっかんないなぁ〜
と、蓮の言葉を聞けば聞くほど、結は頭を捻った。
「…違う!これは“恋”なんかじゃないって。俺は、同性愛者じゃないから男を好きになるなんてあり得ないって何度も何度も自分を否定したさ!
何度も何度も否定して……けど、無駄な足掻きだった。颯真さんが、奥さんや他の女性と一緒に居たり会話をしてるのを見る度に傷付くんだ。」
…ええ?
お兄ちゃんだって、仕事や何かかしらで女と関わる事はあるだろ〜
しかも、奥さんと一緒に居たって何ら不思議じゃないだろ〜夫婦なんだからさ。むしろ、奥さんと一緒に居ない方がおかしな話だろ〜
と、結は心の中でツッコんでいた。
ショウと桔梗はどんな様子で、蓮の話を聞いてるんだろ?と、蓮の詰まらなく下らない話に早くも飽きてきた結は二人の様子をチラ見した。
どうせ、飽き飽きして欠伸でもしてるんじゃないかと。…が…!
なんと、ショウは今にも泣き出しそうな表情で真剣に蓮の話を聞いてるし、あの桔梗も眉間に皺を寄せ複雑そうな顔でちゃんと蓮の話を聞いているようだった。
…あれ?
ここで、結は自分に対して違和感を感じた。
蓮が必死になって訴えてくるが、全然感情が伝わってこないし考える必要もない感じない。どうでも、いい話にしか思えない。
…これって、私がおかしいのか?
と、首を傾げる結を、目を見開きかなり驚いた様子で結を見る桔梗とバッチリ目が合ってしまった。
「……嘘だろ……!?」
結を凝視しながら、思わずポロリと溢れた桔梗の言葉に
「…え?」
今、蓮が一生懸命どうでもいい話をしてるのに、
何でそんなに驚いた顔で自分を見てくるのかと、逆に結も驚いて桔梗の顔を見てしまった。
九条 蓮が、西園寺家に世話になってるのはいいとしてだ。自分が招いた結果、自業自得ではあるが蓮が女性不信に陥り
挙げ句
あまり見目の良くない人達に対して、見下し馬鹿にする蓮の言動に結達みんなが強い不快感を抱いていた。
そんなある日に、いい加減我慢の限界がきた桔梗によって、容姿や全体的な能力を大きく低下させる魔具のアンクレットを蓮の足首に装着させられた事により
なんと、性格はクソカスだが眉目秀麗だった蓮の姿は、
あっという間に平凡な姿になり
スタイルも平均的な男性と同じくなったので、手足や首は短くなり座高が高くなった。顔の大きさも平均的な大きさになり大きくなった。
運動神経や勉強も以前のようには出来なくなり平均的に。
つまり蓮は魔具のせいで、全体を通して平々凡々になってしまったのだ。
だが、この魔具の素晴らしい所は容姿を含め全てにおいて能力を大幅に低下させる効果があるが、それでもしっかり蓮だと分かる事。
ちゃんと、蓮の超劣化版だと分かる。素晴らしくよく出来た魔具であった。
そのせいで、蓮は今まで感じた事のない屈辱と物凄い苦労をしなければならない日々を送る事になった。制服のサイズも変えなきゃいけないし色々と大変だ。
この魔具は、桔梗か聖女くらいしか外せない呪われた魔具らしく、どうあがいても外れない魔具に蓮はイライラしていた。
桔梗に外してくれと頼むも、桔梗の気の済むまでそのままの状態にすると言われ却下(無視)され続け
桔梗がとても苦手な蓮は、ついに魔具を外す事を諦めてしまった。どうせ、桔梗の気が済むまでの間だ。
あいつに近づくのも嫌だし仕方ない。このまま生活するしかないと腹を括ったのであった。
そうして、迎えた夏休み。
両親から見捨てらた蓮を、一旦西園寺家で預かり蓮の今後については、蓮の様子や気持ちを尊重して決めたいという西園寺家夫妻であったが
あれから、数ヶ月経ち蓮は普通に西園寺に馴染んでしまっていた。しかも、暇さえあれば結の兄である颯真(ふうま)から以前紹介された養護施設でのボランティア活動をしている。
蓮のいい所悪い所も含めて、徐々に受け入れられるようになり今では実の子のように情が芽生えてしまった結の両親は最近、蓮を含めた家族会議を開き
蓮を自分達の養子にする事に決定したのだった。
そこで、九条家の夫婦にその話を持ち掛けると、
最悪な事に九条家夫婦は、九条家の問題児を厄介払いできると両手をあげて喜んでいた。胸糞悪い話である。
あまりに、胸糞悪すぎて九条家とは一切関わり合いたくないと思った西園寺家夫妻は
“そちらの問題児を引き取るのだから感謝していただきたい。だから、今後何があろうとも西園寺家とうちの蓮とは一切関わらないでいただきたい。縁を切ったいただきたい。”
そういった趣旨の内容の付いた契約書にサインをさせて、規約を破った時には……と、九条家では到底払えそうにない額の金額を条件に出した所、九条家夫婦はかなり怒り文句を言っていたが
“あなた方は望んで蓮を捨てたんだ。そんな、あなた方が蓮に関わる事なんて今後ないでしょう。
だから、こんな規約なんてあってないようなもの。
ただ、私達はあなた方に愛想が尽きましてな。こうでもしなければ、気が済まないのですよ。厄介者を引き受けるこっちの身としては”
と、決して蓮の事は厄介者など思ってはいないが、それこそ九条家が今後厄介事を持ってきそうな予感しかないので、敢えてそう言ってこちらが優位な立場である事を示し恩を着せた形で話を持っていったのである。
その内容は、後でこの話の内容がが蓮の耳に入り深く傷付けてしまう事を考慮し、家族会議の時に蓮を含めみんなで話し合って決めた内容でもある。
そして、弁護士を交えた話し合いは長く掛かってしまったが、無事に決着がつき成立した。
契約書はしっかりと裁判所へ提出して裁判所へと保管した。その足で西園寺家と九条家は役所へ向かい九条家は蓮を捨てる手続きをし承認され、しっかりその確認をした上で西園寺家は蓮を養子に迎え入れたのだった。
結に、同い年の兄ができてしまった。(蓮の誕生日が結より早い為)
それから、西園寺家の家族の一員となった蓮は今では、普通に西園寺家で悠々自適に暮らしている。なかなか図太い男である。
そして、結の軍候補生達の強化合宿が2日後と迫ってきた、ある日。
…コンコン!
と、結の部屋にノックの音が響き、出てみるとそこには一週間程前に家族になったばかりの兄、蓮の姿があった。
いくら、兄弟とはいえ年頃の二人なので他の家族に余計な心配は掛けられないと、
(もちろん、蓮にとって結は恋愛対象外もいい所で絶対にあり得ないし、結だってこんな女にだらしない男は勘弁である。
だが、いくら本人達がそう思っても周りの目は違う。)
結に相談したい事があると蓮が話を持ち掛けた所で、周りに知られたくない内容らしいので
今現在、結達はショウの家へと遊びに来ていた。
共通の友達がいるという事と、ショウ達の話も結は両親やきょうだい達によく話していたので両親は何の疑いもなく、たくさん遊んでおいでと微笑ましそうに結達を見送ったのだった。
そして、ショウの家に来て門の外から見たショウの家は大したことない何ら辺鉄もない家に見えたが、いざ二重の門を潜れば外で見えた景色とはまるで違う別世界が結と蓮の目に飛び込んできてかなり驚いた。
…あれ?
外と中が全然違う気がするんだけど…気のせいかな?目の錯覚かな?と思うほど。
一つ目の門は、どうやら配達物や回覧板などの受け渡し場所らしい。
そして、二つ目の門を開ければ別世界が広がっている。
唯達貴族の豪邸に比べたら小さな家であったが、どこを一つとっても手入れなど丁寧に施してあり
そこで働く使用人達も、とても品があり小さな所まで気がつくような優秀な者達ばかりであった。
しかも、使用人達みんな驚く程に揃いも揃って超美形揃い!!蓮や大樹、大地レベルの美形がゴロゴロいるが、この家ではそれが平均レベルらしく、
フジレベルの美形も何人か見かけた時は結と蓮は腰を抜かしかける程にビビった。
何なんだ、ここは!?と。
ショウ達の家は、他の貴族達に比べたら大分コンパクトではあるが、代わりに城や豪邸などの比ではないくらいに美しくも神々しいコンパクトな豪邸であった。
つまり、いくらコンパクトな家とはいえ
城、豪邸が大きいだけの下手な王族や貴族達よりも、
次元違いにどれを取っても一つ一つの値段がつけられないであろうくらいに高価そうだ。
こんな所誰が見るんだ?という細かい所まで手が加えられている。それに、どこを見ても綺麗に整備や掃除など行き届いていて抜かりがない。
何よりも、ここに住んでみたいと憧れを抱く程に、一つ一つどれをとっても全体を通して見ても美しい造りになっている。
細やかな細工された柱や床、壁…言ったらキリがないが、どれを取ってもセンスが良すぎて
人気があり過ぎて予約すら取る事が困難な世界的天才建築家にでも頼んだかのような素晴らしい小さな豪邸であった。
だが、敷地は貴族である結達から見てもとても広く感じた。おそらく、ショウ達の住んでる小さな豪邸から結構離れた場所に、ショウ達の住む豪邸の3倍以上あろうかという結達が住んでいる豪邸と同じくらい大きな豪邸がいくつか建てられている。その為もあって敷地が広いのだろう。
その豪邸が気になった結は、あそこはショウの祖父母の住む離れなのかと聞けば
そこは、使用人や庭師、料理人達が住んでいる家だという。
おそらく使用人達の寮的なものなんだろうが、それにしたって使用人達が暮らすにしてはあまりに豪華過ぎる寮である。寮というか…やはり豪邸だ。
結と蓮は興味があり使用人達の寮の中を見せてもらったが、もはや資産家が住んでもおかしくない様な超高級マンションであった。
それぞれの部屋には使用人達の希望にそって、本格的な調理場があったりプールがあったりジムがついてたりカラオケルームがあったりと、それぞれがとても住みやすく心地よい空間となっているようだ。
下手をすれば、自分達よりもここで働いている使用人達の方がいい暮らしをしているようにさえ思えてくる。
ショウの家はとにかく、人も含め異常なまでに美しいもので溢れかえっていた。
そんな中で圧倒されてる時に、フとショウを見れば……もの凄い違和感しか感じなかった。
酷い言い方ではあるが…一人だけ“異物”が紛れ込んでるみたいな。遠回しにやんわりと比喩してもそうとしか例えようがない。
結と蓮は、ショウの家の極一部しか見ていないけど、それだけでも分かる。ショウの家は只者じゃない感じが否めない。
ショウは、“私のお父さんが凄いお金持ちみたいだね”と、他人事みたいに自分の家の事を言ってた事があったが、絶対にそれだけじゃない、ショウの家族は何か大きな秘密があるに違いない筈だと蓮は生唾を飲み込んでいた。
そもそもの話だ。
どういう訳か、ショウ達の家の門をくぐりショウ達の家の敷地内に入った瞬間から
何と表現したらいいものか…
今まで感じた事のない心地よい空間の中にいる様な、マイナスイオンだらけなんじゃないかというほどまでに澄んだ空気。汚い心までも浄化してしまう様な自分達の知る空気、空間とはまるで違う何かを感じた。
しかも、空気や建造物だけでなく
何気に咲いてる花や草木など、見た事もない様な美しいものばかり。その中に、不自然に自分達のよく知る花も植えられたりはしているが
敷地内の道に使われている石はただの石ではなく、どうやら宝石の原石を使っているようだ。
噴水も水晶の様なものでできており、光の当たり具合で何色にも変化する噴水の中には、大小さまざまな大きさの丸い宝石らしきものが色とりどりに輝いていて美しい。
そして、石を使う場所全てに宝石が使われている事にも驚きを隠せない。
自分達が全然知らない様な見た事もない様な宝石だらけで妙に緊張してしまう。
なんだか、この世でない天国かどこかに迷い込んで来た様な錯覚を起こしてしまいそうになる。
ここに来て良かったのか?と、疑問を抱く程
結と蓮は色々とビビり散らしていた。
そこで、二人は大広間に通され
(自分達の部屋には絶対入れたくない!という、桔梗の気持ちから。)
そこで、人数は増えてしまったが、害はないであろうショウと桔梗も交え蓮のお悩み相談が開幕したのだった。
そこで、最初に声を出したのは結で
「蓮の相談って何さ。」
蓮の脳内を読みもう既に知っている桔梗はとても不愉快そうに顰めっ面していて、この話はショウに聞かせても大丈夫なのかどうか頭を悩ませていた。
そんな、桔梗に
「どうしたの?体調悪い?」
と、心配そうにショウが桔梗の顔を覗き込んできた。そんなショウに「大丈夫だよ。」と、笑みを浮かべ
特別製の大きな椅子に後ろからショウを抱き締めた状態で桔梗は座っており
甘えるようにややぽっちゃり気味のショウのお腹に手を回し、ショウの頬に自分の顔の一部が触れるような感じで座っている。時折、ショウへの愛がプチ爆発して
頬をスリスリしたり頭や頬などにキスしたり、ショウと手を絡ませるように繋いでみたり
…まあ、いつもの光景であるが桔梗を見てると
飼い主大好きな猫が、超甘えモードになって大好き!大好き!!堪んないくらい大好きぃ〜〜〜!!!って、体全体でアピールしてるように見えてしまう。
飲み物や茶菓子を用意してくれてる使用人達の様子を見ても、これが二人の通常運転の様で二人を気にした様子は見受けられない。
それどころか、裏の方で
「桔梗が、今の可愛らしい程度の状態で我慢できるなら嬉しいんだけどねー。」
「そうですよね。いつも、ショウ様への愛が暴走して大変な事になりますからね。ショウ様を大好きなのはいいんですが、我々がいるという事にも少しは配慮してもらいたいですよ。」
「…はあ。度の超えるイチャイチャは二人きりの時にしてもらいたいよな。……いや、それでも桔梗にとってはかなり押さえてる方なんだろうけどさ。アイツ、メチャクチャ性欲強いからな。」
「…いいなぁ…」
「やめよ、やめよ!そんな事、想像したってキリがなくなるぜ?ただただ、羨ましくなるだけだ。」
なんて、ヒソヒソ話をする会話が聞こえてきた。
結は人並外れた運動神経を持ってるせいか聴覚にも優れていて、使用人達のヒソヒソ話もガッツリ聞こえてしまい
……えぇ〜〜〜!!?
う、嘘だろ!?
これで、かなりイチャイチャを押さえてる方って…これ以上のイチャイチャがあるっての!!?
なんて、結は顔を真っ赤にしながらショウと桔梗のイチャイチャについて悶々と考えてしまった。
蓮の方は結程ではないにしろ、敏感に周りを警戒する様な事ばかりしてきたせいか地獄耳になってしまった。
…目の前のイチャイチャだけでもゲロゲロだってのに、俺達が居なくなったらこれ以上のイチャつきが始まるのかよ…キモッ!
と、今まで自分が歴代の恋人達としてきた公害級のイチャイチャ…歩く18禁な事は棚に上げて、ショウと桔梗のイチャイチャを見て
…おえぇ〜〜〜っっっ!!!?
桔梗(最近、このメンバーの中に暫くいるのに苗字呼びに違和感あるという結やフジに言われ、結達の事を名前呼びする事となった。)は、よくショウみたいな“デブス”なんかを好きになれるよね
マジであり得ない
桔梗って正常な美醜の判断できてるの?美的感覚が狂ってるんじゃない?
それとも、ブス専ってやつ?
それより、場を弁えろよな
桔梗はともかく、ショウみたいなデブスがイチャつく姿なんて少し目に入っただけで気持ち悪いだけなんだよ
…本当、目の毒過ぎて目と脳が腐りそう
なんて、ショウの事を心の中で誹謗中傷していた。
その時、桔梗からもの凄い形相で睨まれ
……ゾッ!!?
…コイツ!?
俺の心が読める…訳ないよね
タイミングよく、こっち睨んできたからビックリしちゃったよ
それにしても、タイミングがバッチリ合いすぎるもの怖すぎだろ
…やっぱり、桔梗は苦手だ…
と、蓮は桔梗に対し、更に苦手意識が強くなり恐怖心まで芽生えてしまった。
…いや、桔梗と知り合ってからちょくちょく、そんな事を考える度にタイミングよく桔梗に嫌味を言われたり睨まれたりしている蓮である。
数ヶ月前には、容姿を含め全ての能力を大幅に劣化させてしまうといった魔具(呪われている)であるアンクレットを装着させられて酷い目にあっている。最悪も最悪である。
早く桔梗の気持ちが晴れるか飽きて、この呪いのアンクレットを外してほしいものだ。
そんな風に考えていると
「……今のお前、変わった様であんま変わってねーからまだまだ外さねーからな。“俺判断”で、お前が“マシになった”って感じたら外してやるよ。」
…ゾワワ…ッッッ!!?
ま、まただ!
マジで、心読まれてるみたいで怖すぎるんだよ!!
それに、桔梗判断ってなんだよ
かなりの上から目線だしさ!
マジで、お前何様なんだよ!!
すっっっごいムカつくけど、怖すぎて何にも言い返せないのがまた腹が立つ!!
と、蓮は全身に寒気が走っていた。
「……え?さっきから、みんな静かになっちゃってどうしたの?蓮くんのお悩み相談で集まってるんだよね?」
なんて、それぞれが色々な事情で言葉を出せないでいた時に、一人何も分かってないショウが聞いてきた。
それに対し蓮は、本当は結に相談したかったんだけど色々事情があって仕方なくショウの家に来ただけなんだよ!
と、心の中で悪態を吐き、またも桔梗に睨まれてしまった。
「…あ!そうそう、そうだった、そうだった。
で?何を悩んでるんだ?」
仕切り直しとばかりに、結は気を取り直して隣の席に座っている蓮に質問した。
ぶっちゃけ、悩み相談とかそういった類は結一人では何も答えを導き出せないと考えていたので、この場に頼りになる桔梗がいてくれて助かると心からホッとしていた。
そして、何故か桔梗の事が大の苦手らしい蓮だし、桔梗も蓮を嫌ってるっぽいので、ここに桔梗の心を穏やかにしてくれる唯一の存在であるショウも居てくれて大いに助かったと結は安堵していた。
「…あ、ああ。」
そう、返事を返す蓮の雰囲気は何処となく沈んでいる様に感じたし、都合悪そうにチラチラと結の顔を見て。
それから、下を俯いてしまって何も言わなくなった。
…相談しようと思ったけど、やっぱり事が事なだけに結に相談すべきじゃない。相談できるような信用できる友達もいないし、あまりに切羽詰まり過ぎて自分の辛い胸の内を誰かに聞いてほしかった。
できれば、解決方法を教えてほしいと縋る気持ちで結に相談しようと考えたのだったが。
いざ、実際に相談をしようとした時になって冷静になって頭が冷えてきたのだ。
…ヤバイ!相談相手を間違えてしまった
いや、他に相談できる相手なんていないんだけどさ
と、蓮が頭の中であれこれ悩んでいると
「蓮は、結の兄の颯真を好きになってしまった。
だけど、颯真には妻子がいて幸せそうだ。
でも、諦めなきゃって思えば思うほど、諦めもつかないどころかますます好きになっていくばかり。」
急に桔梗が、そんな事を語り始め結とショウはそれを冗談と思ったらしく、何、おかしな事言ってるの?と、笑えない冗談に苦笑いしていたが
結は、あれ?と、思った。
私、みんなにお兄ちゃんの名前言った事あったっけ?と、疑問が湧いた。だが、何かで兄の名前を出した事があったかもしれない。それを、記憶力が半端ない桔梗が覚えていても不思議じゃないかと考え終わった。
だが、隣の空気の異変に気づき蓮を見れば
「……は?…え??」
と、困惑しているようだった。
多分、同性愛者でもないのに、颯真を好きとか思わぬ方向の事を言われて頭が追いついていないのかもしれない。
そりゃ、そうだ
なんて、いくら蓮が嫌いだからって桔梗はなんて事言ってんだかと結は呆れていた。
…だが…
「どうしようもなくなった蓮は、颯真を諦める為に颯真に抱かれる想像をしながらナンパしてきた男に処女を捧げた。男に抱かれてる時は、目を瞑り颯真を想像して抱かれるけどヤリ終わると…何か違う。
そんな風に思えて虚しさばかりが募り、なんて事してるんだと罪悪感と虚無感を感じ自分は最低だと感じる。
こんな事したって何にもならない。こんな馬鹿な事はやめよう。
そう何度思っても、一度男に抱かれた体は女とは違う男の温もりを求めてしまう。いけないと思いつつそれを繰り返してる。どうしよう?って、相談だろ?」
なんて、蓮の全てを見てきたかのような桔梗の口ぶりに、蓮は青ざめて口をパクパクさせていた。
まるで、何でそこまで知っているんだとでも言っているようだ。
そんな様子の蓮を見て、結とショウは蓮の悩みごとが何かハッキリ分かってしまった。
そして、結は蓮の相談事を丸々言い当てた桔梗にビビりまくってしまった。
…え?
桔梗って、M級魔道士ってだけじゃなくて人の心を読む事までできてしまうのか?
…スゲェ〜〜〜!!!
だけど、結が思う事はやっぱり
「……え?蓮って、お兄ちゃんの事好きなの?奥さんと子供までいるよ?」
だった。
…蓮は中性的な容姿をしてるけど男だよな?
お兄ちゃんだって男だ
……ん?じゃあ、蓮って同性愛者なのか?
いやいや!
今まで、数えきないくらいの女性経験あるよな
そもそも、お兄ちゃんには奥さんと子供までいるのに何でお兄ちゃんが好きなの?
今まで恋をした事のない結は、蓮の話にいまいちピンときてなくて何をどう声を掛ければいいのか分からなかった。
それで出たのが、先程蓮に言った素朴な疑問であった。
「…俺だって、まさか颯真さんを好きになるなんて思いもしなかったよ!」
感情剥き出しに叫ぶ蓮に、結は
…えぇ〜…
何で、そんなに怒っちゃってんの?
怒るような事聞いたつもりなかったんだけどなぁ…
…こわっ!
と、叫ぶように答えた蓮にビックリしたし…ドン引きしていた。
「…だけど、颯真さんと接する度、颯真さんを知る度にどんどん颯真さんに惹かれていって…。
…最初の辺りは自分は颯真さんに憧れてるんだなくらいにしか思ってなかったよ!けど、どんどん惹かれていくうちに途中でその気持ちに気が付いても気が付かないふりした。」
…“恋”って気が付いたのに、“恋だって気がつかないフリ”したって?
…なんで?
なんで、わざわざ気が付かないフリするんだ?
わっかんないなぁ〜
と、蓮の言葉を聞けば聞くほど、結は頭を捻った。
「…違う!これは“恋”なんかじゃないって。俺は、同性愛者じゃないから男を好きになるなんてあり得ないって何度も何度も自分を否定したさ!
何度も何度も否定して……けど、無駄な足掻きだった。颯真さんが、奥さんや他の女性と一緒に居たり会話をしてるのを見る度に傷付くんだ。」
…ええ?
お兄ちゃんだって、仕事や何かかしらで女と関わる事はあるだろ〜
しかも、奥さんと一緒に居たって何ら不思議じゃないだろ〜夫婦なんだからさ。むしろ、奥さんと一緒に居ない方がおかしな話だろ〜
と、結は心の中でツッコんでいた。
ショウと桔梗はどんな様子で、蓮の話を聞いてるんだろ?と、蓮の詰まらなく下らない話に早くも飽きてきた結は二人の様子をチラ見した。
どうせ、飽き飽きして欠伸でもしてるんじゃないかと。…が…!
なんと、ショウは今にも泣き出しそうな表情で真剣に蓮の話を聞いてるし、あの桔梗も眉間に皺を寄せ複雑そうな顔でちゃんと蓮の話を聞いているようだった。
…あれ?
ここで、結は自分に対して違和感を感じた。
蓮が必死になって訴えてくるが、全然感情が伝わってこないし考える必要もない感じない。どうでも、いい話にしか思えない。
…これって、私がおかしいのか?
と、首を傾げる結を、目を見開きかなり驚いた様子で結を見る桔梗とバッチリ目が合ってしまった。
「……嘘だろ……!?」
結を凝視しながら、思わずポロリと溢れた桔梗の言葉に
「…え?」
今、蓮が一生懸命どうでもいい話をしてるのに、
何でそんなに驚いた顔で自分を見てくるのかと、逆に結も驚いて桔梗の顔を見てしまった。

