聖騎士団の中にエンペラーエルフがいる事自体異常だが、彼女の話ぶりからすれば
考えたくないが、四天王や上層部の中には彼女と同等な存在がいるのかもしれない
…いや、下手をすれば超最難関である聖騎士団のテストを受かっている事自体、もはや……
…知りたくなかったが知れて良かった
まさか、こんな頼もしい味方がいるなんて考えも及ばなかった
リュウキは、聖騎士団は特殊に凄い集団だと認識していたが、まさか自分が考えも及ばない程までに次元が違う集団だとは今の今まで知らなかった。
思わぬ、朗報である。
「本人は気付いていないが、人間族から生まれてきてはいるが風雷副騎士団長も人間族ではない。」
そう言ってきた、ゲンブの言葉にみんな驚きを隠しきれず思わずゲンブを凝視した。
「ハナ団長は……」
…ドキドキ…
やはり、ハナも人間ではない別の種族か?それならば、ハナの力を考えれば“獣人族”の可能性が極めて高いな
と、リュウキは予測し見立てていた。
「ハナ団長は、どこからどう見ても人間族で間違いない。」
なんて、言ってきたゲンブにリュウキはズッコケそうになった。
「……しかし、残酷でひ弱なうえ頭の弱い種族というのが、我々の常識であったが…
ハナ団長はどこからどう見ても人間族に変わりはないはずなのに、我々ですら太刀打ちできない程の圧倒的な力を持ち何より美しく清らかで寛大な心の持ち主だ。」
と、ウットリとした表情でハナを見るゲンブに、つい
「…少し、待て。ハナが“美しく清らかで寛大な心”って…ブハッ!
お前達の美醜感覚は我が人間族とは違うのか?それに、“清らかで寛大”って、何処をどう見ればそうなるんだ?何を考えてるのか分からない掴みどころのない馬鹿の間違いじゃないのか?」
リュウキは、ツッコミを入れてしまった。
それに対しゲンブは、「…これだから、人間族は嫌いだ」と、呟き
「我らも美醜感覚は、人間族と至って近い感覚を持っている。ワラワが言いたいのはハナ団長の人なり、内面の話だ。ハナ団長の内面は極めて素晴らしく、そこに好感を持てば外側だって常から愛嬌があり愛おしく感じるも様々な場面に合わせて愛らしくも勇ましくも見える。それすらも分からないのか?…愚かな人間族めが。
…これ以上、帝王と話していても時間の無駄とみた。
だから、本来伝えるべき事だけ伝えワラワは仕事へと戻る。」
リュウキのハナをあまりに軽んじる雰囲気や言動に、ゲンブは怒りを通り越して呆れてしまっていた。
…こんな奴が、人間族のトップ…
まだまだ若く恐れ知らずにして経験不足
…おそらくは、多くの仕事をこなす為に
自分の仕事を最大限まで抑え、自分以外の者達でも解決できる所まできたら次の仕事をする
実に効率良く無駄のない仕事さばきだ
しかし、その為に大事なものを見落とし続けている
それに気づこうともせず、どんどん仕事さえこなしていけばいい。仕事はこなしてもこなしても新たな問題が出てきて無くならない。さっさと仕事をこなさなければ、増える一方だ
そう考えているだろうさ
実に理想的かつ迅速に対応解決していく様は、理想の帝王であろう
だが、それは帝王としてだ
我々の仕事は表面上の仕事だけではない
人々の心に寄り添い、思いやりを持って接しなければならない
時には、非情にならなければならない事も多く辛く苦しい時もあるが
そもそも、帝王は自分以外みんな自分と同じ人として見ていない
…いや、実力者と美女に限り思いやりや愛情を持って守る価値があると考えているらしい。その者達が少しでも困っていれば、慈悲深くその手を差し伸べるのだろうな
その一方で、自分や実力者、美女達以外の者達の命や生活は軽石程度にさえ思ってないように見える
いくら、その者達が生きるか死ぬかのドン底にいようと、もがき苦しもうと知った事ではないと冷たくあしらい見放しているようだ
美醜や能力や才能の実力(成功者)だけで人々を判断し、帝王の高すぎる基準より下の者達は容赦なく切り捨てるか…
特に、自分好みの美女には無償であれこれ尽くしているようだ
差別や格差が甚だしいな…
「我々聖騎士団は、唯一帝王に背く事を許される存在。
そして、我々が見限った帝王や王達を容赦なく処分できる唯一である。」
そう言い切ったゲンブに、リュウキは大きく目を見開いた。
…ドックン…!
「大昔の話だ。誰も裁く事もできない上位者達が、余りにも愚かな事ばかりし続け目に余り困り果てた時に決まった制度だ。トップも公平に裁ける組織が欲しいと。
聖騎士団の始まりは、それが原点だ。そこから、どんどんと聖騎士団の仕事が増えていき、その分人数も増えていった。」
…ドックン、ドックン…
「俺に、何か不備でもあったか?俺は、国や民達の為にしっかりと仕事をこなしていると思うが?」
リュウキは、ゲンブの話を聞き一瞬ビビったが
自分は歴代の帝王の中で“偉大なる帝王”と人々から敬れ世界の平和が保たれているのは俺のおかげだと感謝されてるくらいだと自信満々にそう言ってのけた。
「本当にそうか?そうであると言い切れるのか?…と、その話は今した所で、今の帝王では理解できまい。」
…カッチーン!
コイツッ!どこまで、俺を馬鹿にすれば気が済むんだ
リュウキは、ブチ切れ寸前まで怒りが込み上げてきた。
「我らが、尊敬する偉大なるハナ団長を馬鹿にしたのは帝王の方であろう!どこまで、自分を過信し人々を見下せば気が済むのか?」
「…なんだと?絶世の美女だと思って大目に見れば、言いたい放題言ってくれる!」
「帝王の醜い嫉妬から生まれた浅はかな提案は、我々団員達を大きく掻き乱し大事な強化合宿も中断となってしまった。」
「…フッ!それは、お前達の精神力が弱すぎるせいだろ?そんな脆い精神力で、よく聖騎士団を名乗れるもんだ。」
「…話にならない。ハナ団長、いくら帝王の【王命】であっても我々や、特にあなたは気に食わなければ無視していい存在。
そして、副団長含め我々団員はみんな、いくら帝王の命令であっても何があっても動きません。
我々のトップはハナ団長であって帝王ではない。我々を動かせるのはハナ団長のみである事を忘れないでいただきたい。」
ここまできて、ようやくリュウキは感じた。
聖騎士団は特殊特別に確立された集団であり、大雑把に分類すればリュウキ達の束ねる世界とは別の世界。
いわば、ハナは聖騎士団という国の王のようなものなのだろう。自分達は自国の王のみ従い、決して他国の王に従う事はないとそう言っているように聞こえる。
「騎士団の殆どは気付いています。何らかの理由で帝王の【王命】があり、
“わざわざ分かりやすい場所で、嫌がる副騎士団長に性行為を強要するという内容の【幻術】を我々に掛け見せしめている”
と。」
ゲンブは、リュウキから体ごと視線を逸らしハナに向かって話しかけてきた。その内容にハナはギクリとした。
ゲンブの言ってる事は、おおむね合っている。違うのは、幻術など使っておらず本当に性行為をしているという事。
「だが、それが大きな間違いであると気付いてほしい。
何故なら、居場所のないワラワ達に救いの手を差し伸べてくれるだけでなく、我々の事を
“お前達は、俺の家族だ”
と、言ってくれた。その時の感動をワラワは昨日の事のように覚えている。」
兵士達が“家族”?
何を甘ったれた馬鹿な事を言ってるんだ
これは、おままごとじゃないんだぞ
と、リュウキは、ハナの甘ったれた考えと馬鹿さ加減に溜め息しか出なかった。
「そして、ハナ団長は……いや、この事は我ら“家族”内の話だ。それに、我々“家族”にとってかけがえのない話だ。部外者に聞かせる事すら勿体無い。」
ゲンブはハナと団員達について色々と伝えようとしたが、リュウキの絶対に自分の考えが正しいと他の事は一切受け付けずぶった斬る。自分の意見や考えばかりを押し付け視野を大きく広げられない心を感じ取り、コイツに何を言っても無駄だとゲンブはリュウキを切り捨てた。
「帝王はハナ団長の事を“馬鹿”だの何だの見下し言いたい放題言ってくれるが、一体何をどう見てそう思っているのか?ハナ団長の一体何を知り分かったつもりでいるのか?」
厳しい口調でリュウキを叱咤した後
「我々はしっかりと、ハナ団長と風雷副団長を見ているよ?」
と、にこりと笑みを浮かべ二人を見るゲンブの顔は、とても温かく“全部、知ってるよ”とでも言ってるかのようだった。
「我々の多くは、ハナ団長になら何をされても喜んで受け入れるくらいにあなたに心酔している。
今回の事はそれを本気に捉えあなたに恋心、或いは身を捧げられる喜びを感じている者達もなかなかに多い。
中には、ハナ団長が帝王か誰かに妙な提案をされて間に受けたのだと分かりつつ、それを利用してハナ団長と体の関係を持ちたい者までいる。
団員達の殆どは恋ではないにしろ、それほどまでにハナ団長に強い想いを持っているという自覚を持ってほしい。もちろん、団員みんなハナ団長に絶対の忠誠を誓っている!我々の身も心もあなたに預けている。」
…ドクン…
なんて事だ
まさか、聖騎士団の連中がハナに心酔しきってるとは…信じられない話だ
ハナのどこに、そんなカリスマ性があるというんだ?
聖騎士団は馬鹿の集まりなのか?
「そして、何よりも聖騎士団たるもの!
人道やモラルに反する事は絶対にしない!!それは、ハナ団長や聖騎士団全てを裏切る行為だと考えているからだ。聖騎士団のプライドとハナ団長への忠誠心を舐めてもらっては困る。」
と、真っ直ぐにハナを見てゲンブは断言した。
そして、再度リュウキに向き
「見ての通り我が団長と副団長はいくら、聖騎士団のトップとはいえ年端もいかぬ子供でもある。
まだまだ、精神も安定してなければ全てにおいて未熟。
だから、我々大人が間違った方向に行かないよう、正しくあるよう子供達を温かく見守り時には厳しく導いていかなければならない。我々大人が慈悲と慈愛を持って守るべき宝だ。」
静かに自分達のすべき事を口にしたゲンブは、すぐさまカッと目を見開き
「我々、大人は彼らの手本となり正しい道へと導かなければならない。それなのにだ!
帝王、あなたは率先して悪い見本を見せているうえに、プライベートで自分が上手くいかない腹いせに子供達で鬱憤を晴らそうとするなど言語道断!
我らが“光達”に…どの様な酷い事をさせたのか、自分の胸に手を当てしっかり考えろ!」
怒りの籠った表情と口調で、リュウキを叱りつけたのだ。
風雷は、この様子を冷静に見ていて
…ああ、自分達は間違ってなかった…
と、心の底から感動の様なものが込み上げてきて泣きそうになっていた。
あれは、二年ほど前の話だ。
ハナ12才、風雷10才にして、団長、副団長の座は決定していた。それが決定した瞬間に、聖騎士団は荒れに荒れたものだった。
それを鎮めたのが、何を隠そう若干12才のハナであった。
そして、その当時の聖騎士団は
聖騎士団を名乗り悪さをしていたり見るに耐えない酷い有り様だったので全ての聖騎士団を解散させ、反抗し危害を加えようとする者達もハナは圧倒的な力で捩じ伏せ
彼らが働いた悪行の数々を言った後に
“聖騎士団とは、悪の集団なのか”
と、鬼気迫る勢いで雄叫びのように叫んだ。
その気迫に負け、そしてハナの言葉に心打たれようやく自分達がした事への愚かさを認める事ができ罪悪感を感じた彼らは二度と風雷やハナの前に現れる事はなかった。
ゼロからのスタートだった。
そこから、ハナの野生的勘と風雷の魔道をフルに使って、“ハナ達が理想とする聖騎士団に相応しい人材集め”をした。
しかし、それは非常に困難に困難を極め、直ぐにでも投げ出したくなるくらいに途方に暮れるような毎日を送ったものだ。
その途中、何度もフウライは
“あの人も団員に入れたくないって?とても優秀な人材だと思うけど。そんなにこだわってばかりいたら、集まるものも集まらない!”
“……誰一人、ハナの理想とする人材が見つからないじゃないか。もう、いい加減にしろ!
実際に自分達の目で足で優秀な人材を集めたいのは分かる。だが、それも限界があるだろ?
リュウキ叔父様にお願いして優秀な人材を募集してもらおう。”
“……もう、辞めにしよう。いい加減、諦めてリュウキ叔父様に頼ろう。”
なんて、激突して喧嘩した事は数知れず。
それでも、ハナは前を向き自分の信念を貫いていた。
その姿に最初こそ夢だの理想だの甘い事言ってられないのに!と腹が立ちイライラしてハナを叱りつけ喧嘩ばかりするようになっていた。
だが、それでも真っ直ぐで揺らぐ事のないハナを見ていて徐々に諦めモードに入っていったフウライは、勝手にしてくれと途中からハナの理想の人材探しから抜けた。
だけど、ハナは一人でも人材探しをしていた。
そして、数ヶ月の間ハナを放置していたフウライだが、ハナの無謀過ぎる人材集めをして頑張り続ける危なっかしい姿を陰でハラハラしながら見続け、罪悪感そして熱く胸を打たれるものがあり我慢の限界から仕方ないなと悪態を吐きながらも再度ハナと一緒に人材を探し歩いたのだった。
そこから、今までの探し方では見つからないと、試行錯誤を繰り返し目標に向かい二人はひたすらに走り続けた。
その甲斐があってハナ達の住む星は飛び越してしまったが、ゲンブという出来すぎた素晴らしい人材との出会いがあり
そこから、苦労や困難を乗り越え仲間が一人、また一人と増えていった。
そして、10人程心から信用できる仲間達が揃った所で、みんなそれぞれで自分達の目でしっかりと見極めた者達を集め
ハナと風雷をはじめ、10人の上層部達の面接とテストで合格してようやく聖騎士団に入団できる。
それを繰り返し
今では、聖騎士団は1000人もの人数がいる。
それを少ないと思うがなかれ。
一番下の団員たった一人で、リュウキが誇る世界一と評される帝国軍を数時間もしないうちに壊滅できる力を持っているのだ。
一番下の騎士団一人でこれだ。
ならば、上にいけばいくほど……
上層部の10名、特にその中の四天王ともなれば…
四天王の中には“英雄”と呼ばれる存在が二人、“伝説”として絵本や神話に残されてる人物もいる。
それくらいに、風雷とハナはとんでもないバケモノ集団を創りあげたのだ。
その事実をリュウキは知らない。
リュウキが知ろうともしないのでハナと風雷も話さなかった。
彼らの基地は、風雷を筆頭とした魔道、錬金術などを得意とする者達が一丸となって異空間を作り出し、そこへ彼らの基地を作った。
だから、桔梗かマナ(ショウの母親)くらいしか聖騎士団の基地は見つけ出す事などできないであろう。
「……四天王のリーダーが、エンペラーエルフとくれば。まさかとは思うが、四天王みんなエンペラーエルフに匹敵するほどの地位や権力、能力を持つものばかりな気がしてきたな。」
と、冗談半分でリュウキが探りを入れてみると
「ああ、そんな感じだよ。四天王だけじゃない、聖騎士団みんな凄い奴らばかりだよ。あはは!
みんな、私には勿体無いくらいに自慢できる奴ばかりだ。本当に凄いんだよ!…うーん、もっと上手く伝えたいな。……ほんっっとうにマジで凄い奴らなんだ!
…あれ?これじゃ言ってる事同じだな…本当に凄いんだよ…」
ハナは、待ってましたと言わんばかりに、キラキラと目を輝かせながら自分の部下達の自慢をしてきたが、
あまりの語彙力の無さと頭の悪さのせいで、自慢の部下達がいかに素晴らしく立派で凄いのかという事が伝えられずハナは段々とションボリ肩を落としていった。
すると
「……ハナ団長っ!ハナ団長の気持ちが凄く伝わってきて…そんなにワラワ達の事を大切に、そして自慢だと思ってくれているなんて……ッッッ!!!?
…ありがとうございます。帰ったら、団員達みんなにもハナ団長の気持ちを伝えます。みんな、とても喜びますよ?」
ゲンブは、感激のあまり嬉しくて泣き笑いしてハナを見ている。
「…いや、泣くほどか?私は思った事を言っただけなんだけどなぁ?みんな、ちょっとオーバーな所あるよな。ちょっと感情激しめっての?そこも含めて私は好きだけどね!」
なんて、ハナは照れながらもニカっと笑ってゲンブに自分の気持ちを伝えた。
ハナとゲンブのやり取りを見ていて、風雷は胸にとても込み上げるものがあった。
確かにリュウキや他の兵士達は
ハナの理想を掲げ作り上げた聖騎士団は生温い、そんな事で国や民達を守れるものか。そんな風に感じ、舐めているのかと腹を立てる者も多くいるだろう。
だが、実際は
一人一人の結束力は半端ではなく、ハナに対し絶対的な忠誠心を持っている者達しかいないので団員の結束と精神は決して揺らぐ事などない。
“家族”の絆は、伊達じゃない。
みんな互いに思いやりを持って支え合い、助け合いながら日々成長している。
自分達の仲間だというのに、リュウキを含め人間族は知らないだろう
そんな自分達だからこそ
…桔梗ではないが“宇宙最強の軍隊”とまで評されているのだ。
それすら知ろうとしない、我が世界の帝王や各国の王達、兵達は、そんなものかと内心呆れてはいるが。
いくら世界の帝王といえど、宇宙最強の軍団を創り上げるという偉業を成したハナを馬鹿にされる筋合いはない
そして、その活躍ぶりすら容姿の美醜や能力・実力でばかり判断する人間格差の激しい帝王は知らないのだろう
若干15才にして、“歴代最強の英雄”と呼ばれているハナの事を
風雷が、そう考えていると
「…いや、“ハナ団長が”じゃない。“ハナ団長と風雷副団長が”の間違いですよ。
我々はハナ団長と風雷副団長でワンセットだと考えている。きっと、ハナ団長だけではこの聖騎士団は完成しなかっただろうし、風雷副団長だけでも完成しない。
凸凹な二人が一緒に動く事によって、できた“最強集団”だと我々は認識している。
副団長はハナ団長を持ち上げるだけでなく、自分に厳しいのは良いが、もっと自分を認めるべきだ。
あなたはとても凄い。あなたとハナ団長無くして、この聖騎士団はない。」
と、ゲンブは風雷に微笑んできた。
…ドクン…!
「今更、何当たり前な事言ってるんだ?
風雷がとんでもなく凄い奴だって事は、みんな知ってる事だろ?こんな完璧人間どこをどう探したっていないよ。完璧過ぎて、毎回ビックリさせられる。風雷が居なかったら、私はやりたい事があってもどう頑張っても足掻いても何も達成できない自信がある。
私だけだと、無茶な事して失敗に終わるだけなのが丸わかりだからね。あはは!
いつも、風雷にはすっごく感謝してるよ。もちろん、団員のみんなにもね。」
と、風雷は無くてはならない素晴らしい人物だという事が当たり前過ぎると豪快に笑うハナと、ハナと風雷二人で一つなのだとどちらが欠けてもならないというゲンブの言葉に
風雷はみんなに自分が認められている事実に胸にジィ〜ンと感動のような嬉しい感情が込み上げ、泣きたい気持ちをグッと堪え「…ありがとう。」と、小さく呟いた。
「ハナ団長もそうだが、風雷副団長もまだまだ伸び盛り。これから、もっと力をつけていくだろう。
二人の日々の心と体や力の成長を近くで見守る事ができて我々はとても嬉しく感じているよ。この感情は、我が子の成長を見ているような感覚に近いのだろうな。」
…あ、やばい…
と、思った時には遅かった。
ハナの細い目から、大粒の涙が溢れ落ちてきてハナは慌てていた。
「…あはは!なーんでかね?勝手に涙が出ちまう。花粉症か?あはは!」
と、誤魔化すハナに思わず
…ギュッ!
「…いいんだ、ハナ。泣いていいんだ。頑張ったからな。…本当に、お前はよくやってる。だから、みんなハナが大好きなんだ。だから、みんなハナに着いていく。もちろん、俺も。」
風雷はハナを抱き締め、我慢しきれず自分も涙を流していた。
「…なんだ、これ?しみったれた事は苦手なんだがな。」
ハナは、無理に笑おうとすればするほど涙が込み上げてきて、その度に「大丈夫だ。ハナはよくやってる。」と、風雷は声を掛け続け「…それは、お前の方だろうが。あはは!そして、団員みんなのおかげ…」
なんて感動を分かち合う二人を
ゲンブは我が子の成長を見守る母のように、リュウキは白けたように詰まらなそうに見ていた。
そして、ようやく二人が落ち着きを取り戻し
「…あはは!恥ずかしいとこ、見せちまったな。ワリー、ワリー!」
と、ハナは照れ隠しに笑いながらリュウキに適当に謝った。
「そういう事ですから、帝王の【王命】は無視しますね。どうやら、優秀が過ぎる団員達にはバレバレだったようなので。」
風雷は、リュウキにそう言うと
次にゲンブは
「“今回の馬鹿げた帝王の提案に”団員達の半数は、我々の幼い団長や副団長は帝王か誰かに唆されていると感じているようですが、残念ながら半数は間に受けている状態。
今回の事は団員達に団長から下手に説明すれば、団長達の怒り反感の矛先が帝王に向き世界を滅ぼしかねない。
だから、副団長にそこを上手い具合に団員達に説明をしてほしくて此処にきた。
そして、無知な帝王に我々聖騎士団について最小限の事を知ってもらおうという理由もあっての訪問だ。」
そう言って、ハナを馬鹿にしたお返しとばかりにリュウキに挑発する様な言葉を残し、二人を連れ自分達の基地という名の“我が家”へと帰って行ったのだった。
ハナや風雷、ゲンブがその場から消えた瞬間
……ダンッ!!
と、あまりにムカつき過ぎてリュウキは自分の机を叩き
「…あのゲンブという女…っ!俺をコケにしやがって!!」
怒りの言葉を叫んだ。
リュウキはキキョウの他に、ゲンブというエンペラーエルフなる伝説上でしか知らなかった人物が大嫌いになった。
考えたくないが、四天王や上層部の中には彼女と同等な存在がいるのかもしれない
…いや、下手をすれば超最難関である聖騎士団のテストを受かっている事自体、もはや……
…知りたくなかったが知れて良かった
まさか、こんな頼もしい味方がいるなんて考えも及ばなかった
リュウキは、聖騎士団は特殊に凄い集団だと認識していたが、まさか自分が考えも及ばない程までに次元が違う集団だとは今の今まで知らなかった。
思わぬ、朗報である。
「本人は気付いていないが、人間族から生まれてきてはいるが風雷副騎士団長も人間族ではない。」
そう言ってきた、ゲンブの言葉にみんな驚きを隠しきれず思わずゲンブを凝視した。
「ハナ団長は……」
…ドキドキ…
やはり、ハナも人間ではない別の種族か?それならば、ハナの力を考えれば“獣人族”の可能性が極めて高いな
と、リュウキは予測し見立てていた。
「ハナ団長は、どこからどう見ても人間族で間違いない。」
なんて、言ってきたゲンブにリュウキはズッコケそうになった。
「……しかし、残酷でひ弱なうえ頭の弱い種族というのが、我々の常識であったが…
ハナ団長はどこからどう見ても人間族に変わりはないはずなのに、我々ですら太刀打ちできない程の圧倒的な力を持ち何より美しく清らかで寛大な心の持ち主だ。」
と、ウットリとした表情でハナを見るゲンブに、つい
「…少し、待て。ハナが“美しく清らかで寛大な心”って…ブハッ!
お前達の美醜感覚は我が人間族とは違うのか?それに、“清らかで寛大”って、何処をどう見ればそうなるんだ?何を考えてるのか分からない掴みどころのない馬鹿の間違いじゃないのか?」
リュウキは、ツッコミを入れてしまった。
それに対しゲンブは、「…これだから、人間族は嫌いだ」と、呟き
「我らも美醜感覚は、人間族と至って近い感覚を持っている。ワラワが言いたいのはハナ団長の人なり、内面の話だ。ハナ団長の内面は極めて素晴らしく、そこに好感を持てば外側だって常から愛嬌があり愛おしく感じるも様々な場面に合わせて愛らしくも勇ましくも見える。それすらも分からないのか?…愚かな人間族めが。
…これ以上、帝王と話していても時間の無駄とみた。
だから、本来伝えるべき事だけ伝えワラワは仕事へと戻る。」
リュウキのハナをあまりに軽んじる雰囲気や言動に、ゲンブは怒りを通り越して呆れてしまっていた。
…こんな奴が、人間族のトップ…
まだまだ若く恐れ知らずにして経験不足
…おそらくは、多くの仕事をこなす為に
自分の仕事を最大限まで抑え、自分以外の者達でも解決できる所まできたら次の仕事をする
実に効率良く無駄のない仕事さばきだ
しかし、その為に大事なものを見落とし続けている
それに気づこうともせず、どんどん仕事さえこなしていけばいい。仕事はこなしてもこなしても新たな問題が出てきて無くならない。さっさと仕事をこなさなければ、増える一方だ
そう考えているだろうさ
実に理想的かつ迅速に対応解決していく様は、理想の帝王であろう
だが、それは帝王としてだ
我々の仕事は表面上の仕事だけではない
人々の心に寄り添い、思いやりを持って接しなければならない
時には、非情にならなければならない事も多く辛く苦しい時もあるが
そもそも、帝王は自分以外みんな自分と同じ人として見ていない
…いや、実力者と美女に限り思いやりや愛情を持って守る価値があると考えているらしい。その者達が少しでも困っていれば、慈悲深くその手を差し伸べるのだろうな
その一方で、自分や実力者、美女達以外の者達の命や生活は軽石程度にさえ思ってないように見える
いくら、その者達が生きるか死ぬかのドン底にいようと、もがき苦しもうと知った事ではないと冷たくあしらい見放しているようだ
美醜や能力や才能の実力(成功者)だけで人々を判断し、帝王の高すぎる基準より下の者達は容赦なく切り捨てるか…
特に、自分好みの美女には無償であれこれ尽くしているようだ
差別や格差が甚だしいな…
「我々聖騎士団は、唯一帝王に背く事を許される存在。
そして、我々が見限った帝王や王達を容赦なく処分できる唯一である。」
そう言い切ったゲンブに、リュウキは大きく目を見開いた。
…ドックン…!
「大昔の話だ。誰も裁く事もできない上位者達が、余りにも愚かな事ばかりし続け目に余り困り果てた時に決まった制度だ。トップも公平に裁ける組織が欲しいと。
聖騎士団の始まりは、それが原点だ。そこから、どんどんと聖騎士団の仕事が増えていき、その分人数も増えていった。」
…ドックン、ドックン…
「俺に、何か不備でもあったか?俺は、国や民達の為にしっかりと仕事をこなしていると思うが?」
リュウキは、ゲンブの話を聞き一瞬ビビったが
自分は歴代の帝王の中で“偉大なる帝王”と人々から敬れ世界の平和が保たれているのは俺のおかげだと感謝されてるくらいだと自信満々にそう言ってのけた。
「本当にそうか?そうであると言い切れるのか?…と、その話は今した所で、今の帝王では理解できまい。」
…カッチーン!
コイツッ!どこまで、俺を馬鹿にすれば気が済むんだ
リュウキは、ブチ切れ寸前まで怒りが込み上げてきた。
「我らが、尊敬する偉大なるハナ団長を馬鹿にしたのは帝王の方であろう!どこまで、自分を過信し人々を見下せば気が済むのか?」
「…なんだと?絶世の美女だと思って大目に見れば、言いたい放題言ってくれる!」
「帝王の醜い嫉妬から生まれた浅はかな提案は、我々団員達を大きく掻き乱し大事な強化合宿も中断となってしまった。」
「…フッ!それは、お前達の精神力が弱すぎるせいだろ?そんな脆い精神力で、よく聖騎士団を名乗れるもんだ。」
「…話にならない。ハナ団長、いくら帝王の【王命】であっても我々や、特にあなたは気に食わなければ無視していい存在。
そして、副団長含め我々団員はみんな、いくら帝王の命令であっても何があっても動きません。
我々のトップはハナ団長であって帝王ではない。我々を動かせるのはハナ団長のみである事を忘れないでいただきたい。」
ここまできて、ようやくリュウキは感じた。
聖騎士団は特殊特別に確立された集団であり、大雑把に分類すればリュウキ達の束ねる世界とは別の世界。
いわば、ハナは聖騎士団という国の王のようなものなのだろう。自分達は自国の王のみ従い、決して他国の王に従う事はないとそう言っているように聞こえる。
「騎士団の殆どは気付いています。何らかの理由で帝王の【王命】があり、
“わざわざ分かりやすい場所で、嫌がる副騎士団長に性行為を強要するという内容の【幻術】を我々に掛け見せしめている”
と。」
ゲンブは、リュウキから体ごと視線を逸らしハナに向かって話しかけてきた。その内容にハナはギクリとした。
ゲンブの言ってる事は、おおむね合っている。違うのは、幻術など使っておらず本当に性行為をしているという事。
「だが、それが大きな間違いであると気付いてほしい。
何故なら、居場所のないワラワ達に救いの手を差し伸べてくれるだけでなく、我々の事を
“お前達は、俺の家族だ”
と、言ってくれた。その時の感動をワラワは昨日の事のように覚えている。」
兵士達が“家族”?
何を甘ったれた馬鹿な事を言ってるんだ
これは、おままごとじゃないんだぞ
と、リュウキは、ハナの甘ったれた考えと馬鹿さ加減に溜め息しか出なかった。
「そして、ハナ団長は……いや、この事は我ら“家族”内の話だ。それに、我々“家族”にとってかけがえのない話だ。部外者に聞かせる事すら勿体無い。」
ゲンブはハナと団員達について色々と伝えようとしたが、リュウキの絶対に自分の考えが正しいと他の事は一切受け付けずぶった斬る。自分の意見や考えばかりを押し付け視野を大きく広げられない心を感じ取り、コイツに何を言っても無駄だとゲンブはリュウキを切り捨てた。
「帝王はハナ団長の事を“馬鹿”だの何だの見下し言いたい放題言ってくれるが、一体何をどう見てそう思っているのか?ハナ団長の一体何を知り分かったつもりでいるのか?」
厳しい口調でリュウキを叱咤した後
「我々はしっかりと、ハナ団長と風雷副団長を見ているよ?」
と、にこりと笑みを浮かべ二人を見るゲンブの顔は、とても温かく“全部、知ってるよ”とでも言ってるかのようだった。
「我々の多くは、ハナ団長になら何をされても喜んで受け入れるくらいにあなたに心酔している。
今回の事はそれを本気に捉えあなたに恋心、或いは身を捧げられる喜びを感じている者達もなかなかに多い。
中には、ハナ団長が帝王か誰かに妙な提案をされて間に受けたのだと分かりつつ、それを利用してハナ団長と体の関係を持ちたい者までいる。
団員達の殆どは恋ではないにしろ、それほどまでにハナ団長に強い想いを持っているという自覚を持ってほしい。もちろん、団員みんなハナ団長に絶対の忠誠を誓っている!我々の身も心もあなたに預けている。」
…ドクン…
なんて事だ
まさか、聖騎士団の連中がハナに心酔しきってるとは…信じられない話だ
ハナのどこに、そんなカリスマ性があるというんだ?
聖騎士団は馬鹿の集まりなのか?
「そして、何よりも聖騎士団たるもの!
人道やモラルに反する事は絶対にしない!!それは、ハナ団長や聖騎士団全てを裏切る行為だと考えているからだ。聖騎士団のプライドとハナ団長への忠誠心を舐めてもらっては困る。」
と、真っ直ぐにハナを見てゲンブは断言した。
そして、再度リュウキに向き
「見ての通り我が団長と副団長はいくら、聖騎士団のトップとはいえ年端もいかぬ子供でもある。
まだまだ、精神も安定してなければ全てにおいて未熟。
だから、我々大人が間違った方向に行かないよう、正しくあるよう子供達を温かく見守り時には厳しく導いていかなければならない。我々大人が慈悲と慈愛を持って守るべき宝だ。」
静かに自分達のすべき事を口にしたゲンブは、すぐさまカッと目を見開き
「我々、大人は彼らの手本となり正しい道へと導かなければならない。それなのにだ!
帝王、あなたは率先して悪い見本を見せているうえに、プライベートで自分が上手くいかない腹いせに子供達で鬱憤を晴らそうとするなど言語道断!
我らが“光達”に…どの様な酷い事をさせたのか、自分の胸に手を当てしっかり考えろ!」
怒りの籠った表情と口調で、リュウキを叱りつけたのだ。
風雷は、この様子を冷静に見ていて
…ああ、自分達は間違ってなかった…
と、心の底から感動の様なものが込み上げてきて泣きそうになっていた。
あれは、二年ほど前の話だ。
ハナ12才、風雷10才にして、団長、副団長の座は決定していた。それが決定した瞬間に、聖騎士団は荒れに荒れたものだった。
それを鎮めたのが、何を隠そう若干12才のハナであった。
そして、その当時の聖騎士団は
聖騎士団を名乗り悪さをしていたり見るに耐えない酷い有り様だったので全ての聖騎士団を解散させ、反抗し危害を加えようとする者達もハナは圧倒的な力で捩じ伏せ
彼らが働いた悪行の数々を言った後に
“聖騎士団とは、悪の集団なのか”
と、鬼気迫る勢いで雄叫びのように叫んだ。
その気迫に負け、そしてハナの言葉に心打たれようやく自分達がした事への愚かさを認める事ができ罪悪感を感じた彼らは二度と風雷やハナの前に現れる事はなかった。
ゼロからのスタートだった。
そこから、ハナの野生的勘と風雷の魔道をフルに使って、“ハナ達が理想とする聖騎士団に相応しい人材集め”をした。
しかし、それは非常に困難に困難を極め、直ぐにでも投げ出したくなるくらいに途方に暮れるような毎日を送ったものだ。
その途中、何度もフウライは
“あの人も団員に入れたくないって?とても優秀な人材だと思うけど。そんなにこだわってばかりいたら、集まるものも集まらない!”
“……誰一人、ハナの理想とする人材が見つからないじゃないか。もう、いい加減にしろ!
実際に自分達の目で足で優秀な人材を集めたいのは分かる。だが、それも限界があるだろ?
リュウキ叔父様にお願いして優秀な人材を募集してもらおう。”
“……もう、辞めにしよう。いい加減、諦めてリュウキ叔父様に頼ろう。”
なんて、激突して喧嘩した事は数知れず。
それでも、ハナは前を向き自分の信念を貫いていた。
その姿に最初こそ夢だの理想だの甘い事言ってられないのに!と腹が立ちイライラしてハナを叱りつけ喧嘩ばかりするようになっていた。
だが、それでも真っ直ぐで揺らぐ事のないハナを見ていて徐々に諦めモードに入っていったフウライは、勝手にしてくれと途中からハナの理想の人材探しから抜けた。
だけど、ハナは一人でも人材探しをしていた。
そして、数ヶ月の間ハナを放置していたフウライだが、ハナの無謀過ぎる人材集めをして頑張り続ける危なっかしい姿を陰でハラハラしながら見続け、罪悪感そして熱く胸を打たれるものがあり我慢の限界から仕方ないなと悪態を吐きながらも再度ハナと一緒に人材を探し歩いたのだった。
そこから、今までの探し方では見つからないと、試行錯誤を繰り返し目標に向かい二人はひたすらに走り続けた。
その甲斐があってハナ達の住む星は飛び越してしまったが、ゲンブという出来すぎた素晴らしい人材との出会いがあり
そこから、苦労や困難を乗り越え仲間が一人、また一人と増えていった。
そして、10人程心から信用できる仲間達が揃った所で、みんなそれぞれで自分達の目でしっかりと見極めた者達を集め
ハナと風雷をはじめ、10人の上層部達の面接とテストで合格してようやく聖騎士団に入団できる。
それを繰り返し
今では、聖騎士団は1000人もの人数がいる。
それを少ないと思うがなかれ。
一番下の団員たった一人で、リュウキが誇る世界一と評される帝国軍を数時間もしないうちに壊滅できる力を持っているのだ。
一番下の騎士団一人でこれだ。
ならば、上にいけばいくほど……
上層部の10名、特にその中の四天王ともなれば…
四天王の中には“英雄”と呼ばれる存在が二人、“伝説”として絵本や神話に残されてる人物もいる。
それくらいに、風雷とハナはとんでもないバケモノ集団を創りあげたのだ。
その事実をリュウキは知らない。
リュウキが知ろうともしないのでハナと風雷も話さなかった。
彼らの基地は、風雷を筆頭とした魔道、錬金術などを得意とする者達が一丸となって異空間を作り出し、そこへ彼らの基地を作った。
だから、桔梗かマナ(ショウの母親)くらいしか聖騎士団の基地は見つけ出す事などできないであろう。
「……四天王のリーダーが、エンペラーエルフとくれば。まさかとは思うが、四天王みんなエンペラーエルフに匹敵するほどの地位や権力、能力を持つものばかりな気がしてきたな。」
と、冗談半分でリュウキが探りを入れてみると
「ああ、そんな感じだよ。四天王だけじゃない、聖騎士団みんな凄い奴らばかりだよ。あはは!
みんな、私には勿体無いくらいに自慢できる奴ばかりだ。本当に凄いんだよ!…うーん、もっと上手く伝えたいな。……ほんっっとうにマジで凄い奴らなんだ!
…あれ?これじゃ言ってる事同じだな…本当に凄いんだよ…」
ハナは、待ってましたと言わんばかりに、キラキラと目を輝かせながら自分の部下達の自慢をしてきたが、
あまりの語彙力の無さと頭の悪さのせいで、自慢の部下達がいかに素晴らしく立派で凄いのかという事が伝えられずハナは段々とションボリ肩を落としていった。
すると
「……ハナ団長っ!ハナ団長の気持ちが凄く伝わってきて…そんなにワラワ達の事を大切に、そして自慢だと思ってくれているなんて……ッッッ!!!?
…ありがとうございます。帰ったら、団員達みんなにもハナ団長の気持ちを伝えます。みんな、とても喜びますよ?」
ゲンブは、感激のあまり嬉しくて泣き笑いしてハナを見ている。
「…いや、泣くほどか?私は思った事を言っただけなんだけどなぁ?みんな、ちょっとオーバーな所あるよな。ちょっと感情激しめっての?そこも含めて私は好きだけどね!」
なんて、ハナは照れながらもニカっと笑ってゲンブに自分の気持ちを伝えた。
ハナとゲンブのやり取りを見ていて、風雷は胸にとても込み上げるものがあった。
確かにリュウキや他の兵士達は
ハナの理想を掲げ作り上げた聖騎士団は生温い、そんな事で国や民達を守れるものか。そんな風に感じ、舐めているのかと腹を立てる者も多くいるだろう。
だが、実際は
一人一人の結束力は半端ではなく、ハナに対し絶対的な忠誠心を持っている者達しかいないので団員の結束と精神は決して揺らぐ事などない。
“家族”の絆は、伊達じゃない。
みんな互いに思いやりを持って支え合い、助け合いながら日々成長している。
自分達の仲間だというのに、リュウキを含め人間族は知らないだろう
そんな自分達だからこそ
…桔梗ではないが“宇宙最強の軍隊”とまで評されているのだ。
それすら知ろうとしない、我が世界の帝王や各国の王達、兵達は、そんなものかと内心呆れてはいるが。
いくら世界の帝王といえど、宇宙最強の軍団を創り上げるという偉業を成したハナを馬鹿にされる筋合いはない
そして、その活躍ぶりすら容姿の美醜や能力・実力でばかり判断する人間格差の激しい帝王は知らないのだろう
若干15才にして、“歴代最強の英雄”と呼ばれているハナの事を
風雷が、そう考えていると
「…いや、“ハナ団長が”じゃない。“ハナ団長と風雷副団長が”の間違いですよ。
我々はハナ団長と風雷副団長でワンセットだと考えている。きっと、ハナ団長だけではこの聖騎士団は完成しなかっただろうし、風雷副団長だけでも完成しない。
凸凹な二人が一緒に動く事によって、できた“最強集団”だと我々は認識している。
副団長はハナ団長を持ち上げるだけでなく、自分に厳しいのは良いが、もっと自分を認めるべきだ。
あなたはとても凄い。あなたとハナ団長無くして、この聖騎士団はない。」
と、ゲンブは風雷に微笑んできた。
…ドクン…!
「今更、何当たり前な事言ってるんだ?
風雷がとんでもなく凄い奴だって事は、みんな知ってる事だろ?こんな完璧人間どこをどう探したっていないよ。完璧過ぎて、毎回ビックリさせられる。風雷が居なかったら、私はやりたい事があってもどう頑張っても足掻いても何も達成できない自信がある。
私だけだと、無茶な事して失敗に終わるだけなのが丸わかりだからね。あはは!
いつも、風雷にはすっごく感謝してるよ。もちろん、団員のみんなにもね。」
と、風雷は無くてはならない素晴らしい人物だという事が当たり前過ぎると豪快に笑うハナと、ハナと風雷二人で一つなのだとどちらが欠けてもならないというゲンブの言葉に
風雷はみんなに自分が認められている事実に胸にジィ〜ンと感動のような嬉しい感情が込み上げ、泣きたい気持ちをグッと堪え「…ありがとう。」と、小さく呟いた。
「ハナ団長もそうだが、風雷副団長もまだまだ伸び盛り。これから、もっと力をつけていくだろう。
二人の日々の心と体や力の成長を近くで見守る事ができて我々はとても嬉しく感じているよ。この感情は、我が子の成長を見ているような感覚に近いのだろうな。」
…あ、やばい…
と、思った時には遅かった。
ハナの細い目から、大粒の涙が溢れ落ちてきてハナは慌てていた。
「…あはは!なーんでかね?勝手に涙が出ちまう。花粉症か?あはは!」
と、誤魔化すハナに思わず
…ギュッ!
「…いいんだ、ハナ。泣いていいんだ。頑張ったからな。…本当に、お前はよくやってる。だから、みんなハナが大好きなんだ。だから、みんなハナに着いていく。もちろん、俺も。」
風雷はハナを抱き締め、我慢しきれず自分も涙を流していた。
「…なんだ、これ?しみったれた事は苦手なんだがな。」
ハナは、無理に笑おうとすればするほど涙が込み上げてきて、その度に「大丈夫だ。ハナはよくやってる。」と、風雷は声を掛け続け「…それは、お前の方だろうが。あはは!そして、団員みんなのおかげ…」
なんて感動を分かち合う二人を
ゲンブは我が子の成長を見守る母のように、リュウキは白けたように詰まらなそうに見ていた。
そして、ようやく二人が落ち着きを取り戻し
「…あはは!恥ずかしいとこ、見せちまったな。ワリー、ワリー!」
と、ハナは照れ隠しに笑いながらリュウキに適当に謝った。
「そういう事ですから、帝王の【王命】は無視しますね。どうやら、優秀が過ぎる団員達にはバレバレだったようなので。」
風雷は、リュウキにそう言うと
次にゲンブは
「“今回の馬鹿げた帝王の提案に”団員達の半数は、我々の幼い団長や副団長は帝王か誰かに唆されていると感じているようですが、残念ながら半数は間に受けている状態。
今回の事は団員達に団長から下手に説明すれば、団長達の怒り反感の矛先が帝王に向き世界を滅ぼしかねない。
だから、副団長にそこを上手い具合に団員達に説明をしてほしくて此処にきた。
そして、無知な帝王に我々聖騎士団について最小限の事を知ってもらおうという理由もあっての訪問だ。」
そう言って、ハナを馬鹿にしたお返しとばかりにリュウキに挑発する様な言葉を残し、二人を連れ自分達の基地という名の“我が家”へと帰って行ったのだった。
ハナや風雷、ゲンブがその場から消えた瞬間
……ダンッ!!
と、あまりにムカつき過ぎてリュウキは自分の机を叩き
「…あのゲンブという女…っ!俺をコケにしやがって!!」
怒りの言葉を叫んだ。
リュウキはキキョウの他に、ゲンブというエンペラーエルフなる伝説上でしか知らなかった人物が大嫌いになった。

