ーーーその頃のハナと風雷は、聖騎士団の合宿中であったーーー
風雷とハナが結婚した事によって、【王命】が言い渡され今回で二度目となる合宿。
ハナは【王命】が下って最初の合宿の時に
「【お前達全員、プライベート以外俺の優秀な部下だ、お前らの全てを俺に捧げる覚悟を持て。
俺を拒む事は絶対に許されない、そして俺以外の者と性行為を持ち穢れる事も許されない。
それを破った者には、生きていくのが辛くなる程の罰を与える。バレないと思うなよ?“影”の見張り番が、一人一人漏れなく常に見張ってる事を忘れるな。】」
リュウキに、言えと言われた言葉を風雷のテレパシーというカンニングをしながら、聖騎士団全員にそう言い放った。
さすがは、選び抜かれた猛者達。誰一人としてハナの言葉に動じず
「「「ハッ!」」」
と、同意の勇ましい返事が返ってきて、内心ビックリして動揺したのはハナだった。この事を見透かされ、テレパシーで風雷に
『あんたは団長なんだ。動揺するなよ!?驚いた顔を出してはいけない!』
何度も何度も脳内で連呼されたおかげで何とか平静を保つふりはできていただろう。
内心、心臓バックバクなのだが…。
そして、新婚で愛し合う若いカップルの風雷とハナは【王命】により、隠れたフリをして、敢えて部下達に見つかりやすい場所で性欲を満たしていた。
いかにも、ハナが強引に風雷を権力で捩じ伏せ無理矢理に性的欲求を満たしているように見せかけるのは…ウブなハナにとってとても困難であり複雑な気持ちになっていた。
一方の風雷は、このプレイはこんな時でしかできないし“見られてるって背徳感”といつ襲撃が来るか分からない中でする“スリル”から、かなり興奮するとノリノリであったが。
……え?風雷ってMなのか?と、SMとか痛々しそうで見てるだけで嫌なハナは若干引いてしまったが。
悪辣な養護施設(児童施設)で、育ってきたハナはそのトラウマからどうしてもSMといった性的プレイを見聞きするだけでも嫌だった。
王命とはいえ、相手が愛する人でそれに承諾していてもそれに近い性行為は、ハナにとっては精神的に苦痛でしかなかった。
…だが、風雷がそっちの方の才能もトップレベルなのか分からないが、風雷が上手すぎるせいでハナの体は快楽に抗えず、気持ち良くなり夢中になってしまう事に複雑な気持ちになる。
…だって、権力にものを言わせ、自分の欲を満たす為だけに無理矢理性行為を強要(するフリ)をする最悪な行為をしている筈なのに。
嫌がる(フリ)をする風雷を見ていると演技も上手すぎて本当に強要してる気持ちになってしまうので、風雷があまりに可哀想に見えて悲しくなるのに……。
敵や味方関係なく風雷のあまりの美貌に狂うだろう事が安易に想像できてしまった為にリュウキから、魔法衣を着用して顔全体を覆うマスクで隠したうえでフードを深く被り決して敵や味方に風雷の顔を見られないようキツく言われている。
確かに、風雷は人を酔わせ狂わせてしまう程までの美貌だと美醜に少々疎いハナでさえ、そう思うのだ。
それくらいだから、風雷を巡り争い事が起きてもおかしくないし、常に風雷の体が狙われる恐れがあり面倒だ。
さすがに、性行為をする時はおかしく思われないよう風雷はマスクを外し、魔法衣のフードだけで部下達に顔を知られないよう注意深く用心しているつもりではいるが。
だから、真正面からハナは風雷の顔を直視してしまうので、その綺麗な顔を見ただけでウットリ心奪われるってのに
さらに、魔法衣や中に着ている服は淫らにはだけズボンなんてスッポンポンの時が結構あるので……もう、ハナは性的興奮を覚えてお手上げ状態だ。
風雷の人の心を酔わせる美貌とエッチの上手さが加わり、結局風雷との性行為に夢中になってしまう自分にガッカリしてしまう。
…と、そこまでは順調であったのだが。
今回の合宿で、大問題が起きてしまったのだ!!
そこで、これはマズイと今回の合宿は急遽取り止め、風雷とハナは急いでリュウキの元へと向かったのだった。
ーーーーーーーー
ーーー
ーーー帝王城、帝王書斎室にてーーー
「………何?」
リュウキは酷く驚いた様子で、説明をした風雷の後ハナを見た。
ハナは、かなり気まずそうに頭をボリボリ掻き風雷に助けを求めた。
「…ですから、帝王の言う通りハナは忠実に【王命】を実行しました。
普段なら【王命】だろうが、ハナが気に食わなければ無視していますが、今回俺と結婚した事に何故か負い目を感じているようなんですよね。何となく、ハナの考えそうな事はだいたい分かりますが。…そしたら…ハア…」
と、説明の途中で、まさかの事態が起こりその事を考えると面倒な事になってしまったとつい深い溜め息が出てしまった風雷の代わりに
「…全くもって信じられん話だが…。聖騎士団の合宿中に
“何故、ハナ団長は自分を抱きに来てくれないのか”
と、上層部に怒りと悲しみの声がだいぶ寄せられていると…。しかも、わざわざ“今日の夜伽は自分にさせて下さい”と願い出て来る者達も多いって……みんな、男か?」
なんて、面白そうに聞いてくるリュウキに
コイツもコイツで、どうしようもねーな!他人事だと思いやがって!
風雷は内心カチンときながらも
「男性、女性の両方です。しかも、騎士団の中でも時に優秀な人が多い。…騎士団の隊長や指揮官長……四天王数名までも上層部の人達も熱心にアプローチしてきたくらいですよ。」
と、額に青筋を立てながらあくまで冷静さを保ち話した。
「……凄い事になってるな。…ハナ、お前モテるんだな。俺なら、お前なんて圏外も圏外絶対に受け付けないがな。聖騎士団は変わり者ばかりいるのか?」
なんて言ってくるリュウキに、新たな青筋を増やして風雷はリュウキの質問に答えていく。
「帝王はご存知ないでしょうが、ハナの人なりをよく知っている聖騎士団の人達の中にはハナに特別な感情を寄せている者も少なくないんですよ。」
「……このゴリゴリのゴリラにか?」
……コイツ!!
リュウキをブン殴ってやりたい気持ちを必死に堪え、リュウキの言葉を無視して話を続ける。
「我が聖騎士団は、それこそ“恋愛感情が無くともハナになら何をされてもいい”という“絶対的忠誠”を持っている団体と言っても過言ではない。
ハナが、今すぐ自分の首を切れと命じれば喜んで自分の首を切れてしまうくらいに自分の全てをハナに捧げる覚悟を持つ忠誠心の塊のような人達の集まりだ。
だから、ハナが欲求不満だから体を差し出せと言えば、喜んでその身を捧げハナに喜んでもらえるようご奉仕も頑張るんでしょうね、きっと。」
「……忠誠心だけで、そこまでするか?」
「…ハア。だから、さっきから言ってるように……ーーー」
と、風雷が怒りを露わに説明しそうになった所で
…コンコン!
リュウキの書斎室にノックの音が響き、慌てて風雷はマスクをして魔法衣のフードを被った。
「失礼する!聖騎士団 総司令官の玄武(ゲンブ)だ。ここに、我が騎士団長と副団長が来ているようなので、私も話に加わりたく来た。入って、よろしいか?帝王。」
と、聖騎士団No.3の人物がやって来た。
聖騎士団は、風雷とハナくらいしか関わる事のないリュウキなので、しっかりと面を合わせるのは初めてであろう貴重な人物とのご対面である。
見れば、スラリとしたスレンダー美女で
流れるようなアッシュグレーの膝まで長いストレートヘアー。サファイアの青とグレーが混ざり込んだような目の色で、儚くも可憐で優しげなまるでまるで絵本に出てくる聖女を思わせるような容姿である。
何よりの特徴は、彼女の長く尖った耳。そして、両耳に非常に希少価値の高い緑色と青色の魔石をオシャレなチェーンピアスにしている。
そして、一切魔力を感じ取れない。おそらくは、桔梗や風雷同様に魔力を隠しているのだろう。
つまりは、S級以上の魔道士であり高い能力を持っている可能性が非常に高い。
そもそもだ、彼女は聖騎士団に所属。しかも、聖騎士団のNo.3で四天王のリーダーとくれば言わずもがなだ。
えげつない力と能力を持っているであろう彼女の種族はおそらく…と、リュウキはゲンブの事を見解していた。
纏う空気はピリリと凍りつくように冷たく笑顔一つない厳しい表情からは、とても厳格で厳しそうな雰囲気を纏っていてかなり近寄りがたく思えた。
容姿だけなら、リュウキの好みドストライクなのだが。
「率直に言わせてもらう。我が、団長と副団長に妙な提案をし遊ばないでほしい。」
と、帝王であるリュウキに何も臆する事なく、ピシャリと言い放った。
…ゲッ!
見た目にそぐわないキツイ性格しているな
さすがは、No.3とでもいうのか
怖い、怖い
なんて、余裕をかましていたリュウキは
「遊んだ覚えはないな。そして、お前の態度は帝王に対して無礼極まりないな。」
そう言ってゲンブを脅した。
すると
「我ら、聖騎士団のトップは団長であり帝王ではない。
まさか聖騎士団が何故あるかよもや、忘れてはいないだろうか?」
と、厳しい口調で問われ、リュウキは…はて?と、考えた。
聖騎士団は、世界一のトップの軍隊。だが、通常の軍隊とは違いおいそれと簡単に戦場や現場には行かない。
聖騎士団が動くのは、世界の危機や帝王や各国の王の反乱など、どの軍隊や勇者達でさえお手上げな時に動く特別な存在。だから、滅多な事が起きない限り聖騎士団は動く事がない。
聖騎士団が動く時、世界の終わりに直面する時だとも言われるくらいに聖騎士団が動けば、世界の破滅を恐れ恐怖すると同時に聖騎士団さえ動いてくれれば世界が救われるという希望や光でもある。
そして、普段の仕事は
起きてはならない時に備え、厳しい訓練に明け暮れる事はもちろん。各国の城内や民達の様子など、それぞれの兵士やメイド、一般市民になりすまして調査し情報を集め活動をしている。
だが、そういった活動をしている事を知っているのは聖騎士団の他に帝王しか知らない。各国の王や王族達にすら知られてない極秘事項なのだ。
そして、聖騎士団の基地が何処にあるのか誰にも知られていない。帝王であるリュウキでさえ、聖騎士団が何処を拠点にし活動しているのか知らない。
と、いった無くてはならない謎の多い特別な存在だとリュウキは考えていた。…だが
「確かに、それも我らの仕事の一環であるが。もう一つ、大事な事を忘れている。」
…ゾワッ!
…こいつ、俺の脳内を覗けるのか!?
と、桔梗と同じ事ができるなんて恐ろしい奴だと寒気が走った所に
「私は心を読める能力こそないが、相手がどんな事を考えているのか“感覚と直感”で感じ取る事ができる。」
なんて、ゲンブが言った事からリュウキは“エルフ”の能力の一つか?と、考えた。
「帝王も23才と若い。まだまだ青二歳だな。
ワラワと“エルフ”を一緒にしてもらっては困る。」
…この俺が、“青二歳”だと…?
いちいち鼻にかかる奴だ
お前がなんだって言うんだ?
世界のトップを怒らせたいのか?
帝王である自分を全く敬う事もないゲンブの態度に、だんだんとリュウキは苛立ってきていた。
「ワラワは【エンペラーエルフ】、エルフ族全ての頂点に立つもの。地位で言えばリュウキ殿と同じだが、なにせ生きてる年数が違う。」
つまりは、人間族のリュウキと異なるエルフ族。その頂点に立つ者であり、長い間エルフ達が平和で健やかに暮らしていけるのはエンペラーエルフであるゲンブが治めているから。
そもそも、神聖なるエルフ族がどこに住んでどの様な暮らしをしているのかは謎であるし、エルフという種族は神話や伝記などの架空の種族だとばかり考えていた。実在するとは驚きだ。
ゲンブの地位はリュウキと対等であるらしいが、長らくエルフ族を束ねているゲンブの実績と功績はリュウキを遥かに上回るので尊重しなければならない存在である。
では、そんな彼女が何故、人間族のしかも聖騎士団のNo.3にいるのか?そこが不思議である。
「何故、ワラワが人間族につき聖騎士団に所属したかは今の帝王には言いたくない。
それよりもだ。帝王、何故に聖騎士団が存在するのか。そもそも、聖騎士団に入団できる基準さえ知らぬようだ。それなのに、自分は帝王だぞ!と威張り腐りふんぞり返ってるリュウキ殿を見ていると非常に情けなく残念に思う。」
そのエンペラーエルフにして、聖騎士団のNo.3がリュウキに説教し始めた。
「公にできない事だから内密にな?
そもそも、聖騎士団は超特殊部隊。国だけで無く、無数に存在する星に住む高い知能と能力をもつ種族達もたくさんいる。その中で、やはり良からぬ事を考える者達も少なくはないのだ。この星を侵略、滅ぼそうと目論んだりな。」
……は?
何か、とんでもなく大規模な話になってないか?
と、ショウとマナの姿が浮かびデジャブ。
「侵略や滅亡を阻止するため、そっちの方は特に力を持っている上層部達が主に情報を集め警備もしている。
そして、口外してはならない事ではあるが、聖騎士団の殆どがお前達のいう“宇宙人”とやらだ。だから、この星出身でない私も人間族からすれば“宇宙人”と、いう事になるな。
聖騎士団には人間族はごく少数しか存在しない。人間族は、どうしても我々にとってはか弱く知能や能力の低い生き物なのでな。」
…とんでもない話になっていないか?
と、ただただ驚き、ゲンブの話を聞いているリュウキはこれは現実か?と、自分は幻術でも掛けられたんじゃないかと疑いたくなるような気持ちだった。
「ここまで聞けば分かる通り、ハナ団長に魅せられた宇宙人達が我こそはと集まりできたのが今の聖騎士団。
聖騎士団は他を寄せ付けない圧倒的な力と鉄壁なまでの知能の集まり。ハナ団長が、団長になる前の聖騎士団とは次元が違う。
その猛者達を束ねているのが、我らがハナ団長だ。」
……はあ?
マナはともかく、ショウは“特別な存在”だ
それこそ、最上界・天上界・中界(宇宙)・下界・魔界・地獄界・奈落界全ての世界から選び抜かれた特別に選び抜かれた強者達がショウを守護している
桔梗だって種族は魔界生まれの大魔王族と天美艶族(テンビエン)とのハーフらしい。だから、桔梗は異次元な美貌や力を持っている事にも納得できる。
オブシディアンも隠密族という特殊な種族だ。大昔に、隠密族の星が命尽きようとした時に、当時の人間族の一人がみんなを説得し隠密族を自分達の星に受け入れた。
それが帝国の始まりであり、隠密が帝王に恩義を尽くしたいと、自らが望み誰にも見つからない場所に“隠密の里”を作り代々の帝王達の影として動いてくれている。
…しかし…
ショウとは立場や役割は違えど、ハナもまた人間族には収まらず様々な種族達を従えているとでもいうのか?
…馬鹿な!どうやって、他の種族と関わり合えるというんだ?
人間族以外の種族達の殆どは、人間族を軽蔑し嫌っていると聞いた事がある
そんな奴らが、人間族であるハナの下につくとは到底思えないんだが?

