リュウキは、新たな命を産んだという事実婚の妻の元へと癒しを求め向かった。
もう既に病院から退院し、数ヶ月は経っているとの事。
今から、そっちに向かうと連絡をし祝いの品と出産を頑張ってくれた妻へ労いの高価なプレゼントを持って家の中に入った。
「今、帰った。」
そう声を掛けると、奥から赤毛のスレンダー美人が赤ん坊を抱いてリュウキの元へやってきた。
「おかえりー、あなた。」
そう言って、赤ん坊ごとリュウキの胸に体を預けた妻を抱き寄せるリュウキ。赤ん坊の温かい体温も感じ幸せな気持ちでいられたのは一瞬の事で、直ぐに違和感を感じた。
「……その赤ん坊は、誰の子供だ?」
違和感の正体に気付き不快感を露わにしたリュウキに
「何、変な事言ってるの?私とフィオレの子供に決まってるじゃない。」
と、妻のナタリーは答えた。ここら辺の地域では、リュウキはフィオレと名乗っていて、金髪、スカイブルーの目、タトゥーのシールを貼り変装している。
だが、S級魔道剣士であるリュウキには分かる。
ナタリーの産んだ子供は、ナタリーと自分でない誰かとの“気”“魔力”を感じる。確実に自分の子供ではない事が分かる。
「残念ながら、傭兵であり魔力鑑定を得意としている俺にはその赤ん坊が俺の子供でない事が分かる。」
「冗談でも、いい加減にしないと怒るわよ?この金色の髪や青い目を見て?フィオレ、そっくりよ?」
と、シラをきり続けるナタリーの演技は素晴らしく、気や魔力を鑑定できるリュウキでなければ普通に騙されるレベルだ。
「なら、科学で鑑定してもらう。」
「なんで、そこまでする必要があるの!?私が浮気をしてる疑ってるの?こんな可愛い赤ちゃんの事まであなたは疑うわけ!!?信じられない!!!」
と、浮気をしてリュウキに托卵を目論み、挙げ句子供を盾に使ってきた事にリュウキは、ナタリーの人なりやモラルの無さに幻滅し子供には罪はないがナタリーを切り捨てる事にした。
「ならば、こうしよう。科学鑑定で、その赤ん坊が俺の子供と認められたら今まで通りの生活を送ろう。そして、当初約束していた通りその赤ん坊の認知はしないが成人するか学生であったなら学生を卒業するまでは子供の父親代わりとなり金銭面を含め面倒をみよう。
だが、その赤ん坊が俺の子供でない場合は話は別だ。」
「……えっ?」
思わず、声を出すナタリーにリュウキは非情な言葉を言い放った。
「浮気や不倫をして俺を裏切っていたのなら離婚だ。
そして、その子供が俺の子供でない場合。その赤ん坊共々即刻俺が与えてやったこの屋敷から出て行ってもらう。」
「…そ、そんな…っ!」
「もちろん、お前やその赤ん坊とも他人になるのだから、一切お前達には何の関与もしない。当たり前だが、今まであった仕送りなどもなくなるという訳だ。赤の他人なんだからな。」
凍り付くような恐ろしい雰囲気を纏ったリュウキに、そんな事を言われ
「…ここを追い出されて、仕送りも無くなるなんて!私はどうやって生きていけばいいのよ!」
窮地に追いやられたナタリーは癇癪を起こし叫んだが
「簡単な話だ。働いて生活費を工面すればいい。」
と、リュウキは淡々とそう言ってきた。
「無理よ!赤ちゃんもいるのよ?赤ちゃんの面倒は誰がみるの?赤ちゃんの事、可哀想だと思わないの!?」
「残念ながら、俺の子供ではない赤の他人の赤ん坊だからな。赤ん坊には罪はないが、ナタリーお前自身が招いた事だ。
自分のした事は自分達で何とかしろ、母親だろ?母親であるお前とその赤ん坊の父親が、赤ん坊を命懸けで守って当然だ。」
と、言ってリュウキはさっさと家を出て行ってしまった。
家の中では
「あなたは、悪魔よーーーっっっ!!!酷い…こんなの酷すぎるわーーー!!あんまりよーーー!!
数ヶ月に一回くらいしか帰って来ないくせに!
あなたこそ、本命の奥さんがいるくせに!私が浮気しただの言える立場じゃないじゃない!!!」
と、ナタリーはキーキー泣き叫んでいた。
こんな風にリュウキは各国各地域に家庭を持っていてもナタリーのように浮気して、別の男との子供を作ってもリュウキに托卵しようと目論む美女達も少なくない。
そういう場合は、今のようにきっぱりスッパリと切り捨てている。
子供はリュウキの子供で間違いないが、浮気をしていた妻達には子供を取り上げ信用ある子供のできない夫婦達に養子に出し
やはり、ナタリー同様の事をする。
また、リュウキが妻に飽きたり粗が見えて嫌になった時は離婚をして、リュウキは来る事はなくなるが
代わりに屋敷をプレゼントして一般家庭の月々の平均的な給料を仕送り。自分の子供がいれば養育費と学費を出している。
そんな風に対処して上手くやり過ごしてきたのだが、またも最悪な事が起きてしまった。
たくさんの妻や恋人達がいて、子供もたくさんいるのはいいとして……身分や身元を隠す為、争い事を避ける為に、それぞれ違った変装や名前、国籍、職業で偽ってきたせいなのか。
ショウと同い年くらいの恋人同士が、ラブホテルに入って行くのを目撃したのはいいが問題は別にあった。
両方とも、自分と血の繋がりがある子供達…つまり、その恋人達はきょうだいだったのだ。
リュウキが自分を偽ってたくさんの家庭を作った報いなのか…本人達は、自分達がまさかきょうだいだと知らず恋をして体の関係まで持っているようだ。
しかも、本人達はまだ気付いてないが女の子のお腹の中には新しい命が宿っている。
それを見て、さすがのリュウキも青ざめた。
さすがに、これはまずい。マズ過ぎると…
どうにかするにしても、どうにもならない。なるようにしかならない状況だ。
それを見て、さらに不安がよぎる。自分には、他にもたくさんの子供達がいる。
その子達が成長し、みんな自分達がきょうだいとは知らず交際、結婚までする可能性が少なからずあるのだ。
妻や恋人達が、激突しないよう同じ国内でも離れた地域で彼女達と交際している。
今、ラブホテルに入って行った子供達なんて国すら違う。どうやって、巡り合い知り合ったのか分からないが、あまりにも良くない奇跡が重なり出会ってしまったのだろう。
…最悪だ…
……と、絶望していた時
フとリュウキの頭に思い浮かんだ人物がいた。
コイツしかいない!
コイツなら、どうにかできるんじゃないかと!!
ーーーリュウキが今まで使った事のない
山奥の別荘にてーーー
……シィ〜ン……
静まり返った気まずい空気の中、リュウキとその人物はテーブルを挟み対面する形でソファに腰掛けていた。
この別荘はリュウキが今の今まで忘れていた別荘なので手入れもされておらず、廃墟のように朽ちていて埃が積もっているしそこら中の床や壁が脆くなっていて歩くのもままならない状態であった。
わざわざこんな所に、極秘で自分だけ呼び寄せるとは余程の事だろうと思っていたが
…自分が言うのもなんだが、こんな最低最悪なくそクズはなかなかいないだろうと
目の前のクズカスヤロー、リュウキを桔梗は軽蔑の眼差しで見ていた。
もちろん、オンボロ別荘のあまりの汚さに桔梗は仕方ないので水と風、火、草木の魔道の融合、合体魔道を駆使して一瞬で自分達のいる部屋だけ綺麗に掃除し床や壁、天井も補強した。
そうでもしなければ、埃臭くてむせて息はできないし汚いわ床は抜けるわでとてもではないが居られたものではなかった。
「……結果論から言うとさ。あんたの子供はショウ一人だよ。だから、そのきょうだい同士で恋人になったとかいうあんたの偽の子供達は、あんたとは無関係だよ。」
と、リュウキの事が大嫌いな桔梗は、さっさとこの場から立ち去りたいが為に開きたくない口を仕方なしに開いた。
その言葉に、リュウキは驚きを隠せず
「…いや、確かにあの子供達は俺の事実婚の妻達から生まれた子供だ。それに、俺と同じ“気”や“魔道”も魔道で鑑定したから確実に俺の血を引いている。」
と、言ったリュウキに桔梗はジト目になり
「…あんたさ。どんだけ自分を過信してるのさ。」
なんて、呆れたように言う桔梗にカチンときながらも、ここで口論でもすれば解決できるものも何も解決できない。それに、桔梗に限ってまたこうやって自分の手助けをしてくれるとは考えづらい。
今は、桔梗の過去世の事で世話になったから、
“お前に恩を返せないままなのが癪だからさっさと恩を返してチャラにしたい”
という事で、リュウキの手助けにきてくれたに過ぎないのだ。
ここを逃せばリュウキに次はない。今は我慢の時だ。
「俺の見立てだと、あんたの“気”や“魔力”の鑑識のレベルはB級Plus(プラス)って、いったところだろ?」
と、的確に今現在のリュウキの鑑識魔道、気道のレベルを言い当ててきた。しかも、半年に一回ある魔道や波動の階級テストも最近したばかりなので間違いないだろう。
…やはり、コイツはとんでもない奴だな。敵でなくて良かったと心から思う。と、桔梗のレベル鑑定の見立ての的確さにも驚かされた。
「俺はさ。波動が苦手だから、気を探ったりする事はできないけど。代わりに、得意な魔道がある。
だから、俺は魔道だけの観点からしか言えないけど確実だ。俺に間違いなんてないと言えるだけの絶対的な自信があるから言える。」
…ムカッ!
やはり、コイツは生意気でムカつくな
と、リュウキは内心、桔梗に対して腹が立っていたがそれを抑え黙って聞いていた。
「B級Plus(プラス)の鑑識レベルなら、人や動物のDNA鑑定はできるが大雑把だ。細やかな所までは分からない筈だ。
だから、相手が自分と血縁関係の濃い人物で自分により近いDNAを持った人物ともなれば、そのDNAは自分だろうと勘違いしてしまう。
それくらいに、大雑把で確実性がないものなんだよ。
真っ赤な他人なら、分かりやすいから確実に分かるだろうけどね。」
そう、説明してきた桔梗に
「……つまり、今まで俺の子供だと思ってきた子供達はみんな俺の子供ではないという事か?」
驚きを隠せないリュウキが、そう桔梗に問いただした。
「あんたの脳内を覗いて、そこからあんたの事実婚の妻や恋人達の事も大雑把に見たけど。子供がいる、いないにしろ、殆どの奴ら不倫や浮気してるぜ?
ただし、中には健気にあんたを想い待ち続ける妻や恋人達も結構いるみたいだけど。その人達には子供なんていないだろ?」
……は?
「で、あんたの与えた屋敷にセフレや恋人達を呼び込んで、あんたの与えた生活費を使って豪遊。…酷いのは、子供達は放置してるか虐待してる奴らが殆どだ。」
…なんだ、それは…
それは、本当に俺が関わってきた女達の話なのか?
「もっと、ヒデーのは幼い自分の子供に売春させたり、彼氏やらセフレが喜ぶからって自分が捨てられたくないあまりに強姦、レイプさせて喜んでるぜ?」
なんて、聞いた瞬間リュウキは全身からサー…っと血の気が引いた。
まさか、自分と関わりのある身近な存在に、そんな犯罪者が多くいたとは…
俺の選んだ妻や恋人達が、そんな恐ろしい事をしているというのか?俺が来た時には、それを丸ごと隠し優しく温かな家庭を装っていた?
彼女達に限って、そんな…
…信じられん…
だが、桔梗が言うのだからそれが事実なのだろう
そうとも知らず、俺はまんまと妻や恋人達に騙されて、癒され安心できる家族だと過ごしていたというのか?
俺が家に帰って来ている間、育児放棄や虐待、売春、性的暴力を受け続けてきた子供は、その時どんな気持ちだったのだろうか?
そんな子供達のSOSも見抜けず、幸せ家族だと思い込んでいた自分の間抜けさに寒気が走る
職業柄、そういう犯罪に対しても、他の家族達の事には敏感に反応し対処してきたというのに
なのに、自分の家族の事は見抜けなかった
…何故、気付けなかった!
と、リュウキは悔しい気持ちでいっぱいになっていた。
…ドクン、ドクン、ドクン…
「さっきの話の続きだけどさ。あんたの祖父母や両親、兄弟達も大勢いるっぽいな。
あんたの血筋だ、色んな所に愛を降り注いで種を仕込んだり、卵にそそがれたりで認知してないだけで、あんたの血筋の奴らは遠縁含めれば数え切れないほどいるぜ?
だから、王族でも何でもない一般人でもあんたの兄弟達や従兄弟達、遠縁の血縁者達がたくさんいるって訳だ。
知らずに、きょうだい、いとこ同士で結婚して子供を産んでるな。」
つまり、そういう事だ。認知こそされてないだけ知らないだけで、リュウキと血縁関係のある人達がゴロゴロといるという事。
その人物とリュウキの妻や恋人達との間にできた子供を、リュウキは自分の子供だと勘違いしていたという事になる。
自分の血縁関係者達が、異性に対してリュウキと同じような考えを持ち似たり寄ったりの事を繰り返していたという事実に、リュウキは自分を含めてなんて最低最悪な血筋なんだと恥ずかし過ぎて頭を抱えてしまった。
「…それで?何故、ショウだけが俺の実子だと分かるんだ?」
そこが不思議でたまらない。
「…ああ。簡単な話だよ、あんたは子種を一粒しか持ってない。あんたは王族だから、幼い頃から精密検査されていてそういう結果も出てる筈だけど?
“…残念ながら、一つしか精子が存在しません。その精子が無くなり次第、リュウキ皇太子は無精子になり子供を残せなくなります。”
そう、医者に言われ急遽、あんたの貴重な一粒の種は厳重かつ大切に保管されてた筈だよ。それを、お義母さんのお腹の中の卵に入れて受精、妊娠、出産してショウが生まれた。…忘れたわけじゃないよね?」
そこまで言われて、ようやくリュウキはハッとしたのだが。無精子症なんて言われても、何も感じなかったし子供ができないという事は女と遊び放題だとむしろ喜んだくらいだ。
なので、自分にとってどうでもいい話だったし、誰もその事について触れてこなかったので自分が無精子症だという事も桔梗に指摘されるまですっかり忘れていたのだ。
「ムカつく話だけどさ、あんたとお義母さんはショウを作る為だけに結ばれたようなものだ。
どういう仕組みかは分からないけど、あんた達からしかショウはできないし生まれる事ができない。多分、誰かによって仕組まれた事なんだろうとしか考えられない。おかげで、俺はショウと出会う事ができて幸せをいっぱい貰ってる訳だけどさ。これからも、ずっと。」
なんて、平然と言ってのける桔梗に
「…俺は、ショウを誕生させる為の道具って事か?」
と、何者かに仕組まれいいように動かされてるような話を聞き、思い当たる節もあった為にリュウキは怒りでどうしようもない気持ちになっていた。
「多分だけどさ。ショウを誕生さえさせたら、あんたとお義母さんは自由なんだと思うよ?
それに、そんなに怒んなくていい。【運命】が、一人一人みんなにあるように、あんたとお義母さんは運命に導かれただけ。それを操られたと思うのは思い違いだよ。」
「……思い違いだと?」
「そう、思い違い。…だってさ。
強い意志さえ持ち続ければ【運命】は変えられる。
【いい運命】なら、有り難く受け入れればいいしさ。【悪い運命】【嫌な運命】なら、それに抗って強い意志を持って断ち切ればいい。【運命を変える】なんて難しいけど、できない事はない。
それを俺はやってのけた。そして、“アイツらも”。」
それを聞いて、リュウキはだいぶ怒りも収まり冷静さを取り戻していた。
「あんたの事は反吐が出るくらい大嫌いだけどさ。
それでも、ショウを誕生させてくれた事だけは心の底から感謝してる。あんたが居なかったら、ショウは生まれてくる事ができなかったんだから。
…でも、何でショウみたいに純粋純白ないい子が、あんたみたいなドブカスヤローからできるなんて驚きだよね。突然変異としか思えないよ。世の中の七不思議に数えてもいいんじゃない?」
桔梗はぶっきらぼうだけど、誠心誠意リュウキに感謝の言葉を述べた。一言、二言かなりムカつく言葉は余計だが。
しかし、ここでリュウキは考えなければならない。
自分を裏切り続けていた愚かな妻や恋人達への処分と、可哀想な子供達のケア、そしてその子達が幸せに暮らせる家族を一刻も早く見つけてやらねば。
そして、子供達に残虐非道の限りを尽くしてきた大犯罪共に法で裁きを受け、それに見合っただけの罰を与えなければならない。
それが、今まで子供達のSOSに気付けずのうのうと暮らしていた自分のしてやれる最大だ。…今更ながらに、子供達に顔向けもできないし気付いてやれず後悔の念しかない。子供達の事を考えれば、悔しすぎてどうにかなってしまいそうだ。
だが、起きてしまった事は取り返しがつかない。やり直しなんてできない。
だから、自分が思いつく限り最大限の事を子供達にしてあげるしかない。これで、許されるつもりもない。ただの自己満足であるが…。
いくら尽くしたところで子供達の心の傷が治る訳ではなく、一生その傷を背負いその心の苦しみと戦い生きていかなければならないのだから。
次に、リュウキは気になっている事を桔梗に質問してみた。
「俺の妻であるマナの事なんだが……」
と、切り出すと
「別に隠そうとしなくて大丈夫だよ。俺には嘘は通用しないから。さっき、あんたの脳内見たから知ってるよ。離婚したんだろ?なら、お義母さんはあんたの妻でも何でもない赤の他人だよ。」
そこで、リュウキはギクリとした。
本当に、コイツは…!
勝手に人の脳内の記憶を覗くとはプライバシーも何もあったもんじゃない
それもあって、桔梗に会うのが嫌なんだ
「…そのマナなんだが、何処を探しても見つからない。この星に毎日、エネルギーが注がれているから自分の仕事はしているようだが姿が見当たらない。どこに居るか分かるか?」
そう聞いてみると
「分かるよ。」
と、桔梗は答えたのだ。あんなに血眼になって探しても見つからなかったというのに、こんなにもアッサリとマナが何処に居るのか知っているという。
どうなってるんだ、コイツは…
コイツにできない事なんてないんじゃないか?
「…まあ、大概の事はできちゃうよね。俺、この世界の最強だからさ。」
リュウキの心を勝手に読んだのだろう。
とてもムカつく言葉が返ってきた。
本当に嫌だ、コイツ。心の底から嫌いだとリュウキは思った。
「お義母さんが何処に居るかって話だけどさ。
居場所は分かるんだけど、俺達じゃ入れない空間にいるよ。その場所から、大樹に姿を変えて星にエネルギーを注いでるみたい。
今は、ずっと眠った状態みたいだね。それ以上は分からないけど。まあ、無事だし一番安全な場所に居るから気にしなくていいんじゃない?」
桔梗の話を聞いて、リュウキはキョトンとしていた。
「…マナが、大樹に変わる?何の冗談だ?」
…え?まだ、話さなきゃいけないの?面倒くさいって、あからさまな雰囲気を出していたが
桔梗は少しでも早くショウの元へ帰りたくて
「…あんたがお義母さんについて、どこまで知ってるか分からないけどさ。
あんた、さっき“この星にエネルギーを注いでる”って、言ってたけど。
“全ての星に平等にエネルギーを注いでる”
の間違いだよ。あんたの話と実際だと規模があまりに違いすぎるよ。」
と、イライラしながらも口早に説明した内容に
「……全ての星……」
リュウキはピシリと固まり、思わず桔梗の言葉を復唱していた。
「今までは、人として動く為に朝昼晩に分けて膨大な量のエネルギーを星達に一気に注ぎ込んでいたみたいだけどさ。今は何も考えず眠った状態だから、朝昼夜問わず必要なエネルギーを少しづつ注ぎ続けてるみたい。」
なんで、お前はそんな事まで知ってるんだと言いたげなリュウキを無視して桔梗は話を続ける。
「お義母さんは、慈愛・優しさ・思いやりの塊のような聖母と言っても過言ではないような人だよ。
だからさ。膨大な量の魔力量をエネルギーに変えて全ての星へ与えている。だから、俺達はこの星で生きられる。そんな膨大な魔力を与えても、余りある魔力を保持できてる。多分、魔力量だけなら俺以上だよ、あの人は。」
…ドックン…
桔梗以上の魔力量だと…?
…いや、だが桔梗に関しては、まだまだ未発達でこれからも成長していくだろうからな
と、考えていたリュウキに
「俺は俺の成長しきった魔力量を知っている。もちろん、今はまだまだ未発達で何もかもが未熟ではあるけどさ。俺が言ってるのは、俺の魔力量が成熟しきって定まったとしての話だよ?それでも、お義母さんは俺以上の魔力量があるって話。」
そう言ってきた桔梗の言葉に驚きっぱなしのリュウキだ。
「あと、お義母さんの魔道士としての階級は大きく間違ってるよ。」
なんて生意気にも指摘してくる桔梗に、リュウキはピクリと反応した。
「それは、厳選に厳選を重ね選び抜かれた優秀者である魔道、波動のレベル鑑定士達を馬鹿にしているのか?
彼らの見立てに間違いはない筈だ。」
それは聞き捨てならないとばかりにリュウキが反論すると、桔梗は呆れたように小さく息を吐き
もう既に病院から退院し、数ヶ月は経っているとの事。
今から、そっちに向かうと連絡をし祝いの品と出産を頑張ってくれた妻へ労いの高価なプレゼントを持って家の中に入った。
「今、帰った。」
そう声を掛けると、奥から赤毛のスレンダー美人が赤ん坊を抱いてリュウキの元へやってきた。
「おかえりー、あなた。」
そう言って、赤ん坊ごとリュウキの胸に体を預けた妻を抱き寄せるリュウキ。赤ん坊の温かい体温も感じ幸せな気持ちでいられたのは一瞬の事で、直ぐに違和感を感じた。
「……その赤ん坊は、誰の子供だ?」
違和感の正体に気付き不快感を露わにしたリュウキに
「何、変な事言ってるの?私とフィオレの子供に決まってるじゃない。」
と、妻のナタリーは答えた。ここら辺の地域では、リュウキはフィオレと名乗っていて、金髪、スカイブルーの目、タトゥーのシールを貼り変装している。
だが、S級魔道剣士であるリュウキには分かる。
ナタリーの産んだ子供は、ナタリーと自分でない誰かとの“気”“魔力”を感じる。確実に自分の子供ではない事が分かる。
「残念ながら、傭兵であり魔力鑑定を得意としている俺にはその赤ん坊が俺の子供でない事が分かる。」
「冗談でも、いい加減にしないと怒るわよ?この金色の髪や青い目を見て?フィオレ、そっくりよ?」
と、シラをきり続けるナタリーの演技は素晴らしく、気や魔力を鑑定できるリュウキでなければ普通に騙されるレベルだ。
「なら、科学で鑑定してもらう。」
「なんで、そこまでする必要があるの!?私が浮気をしてる疑ってるの?こんな可愛い赤ちゃんの事まであなたは疑うわけ!!?信じられない!!!」
と、浮気をしてリュウキに托卵を目論み、挙げ句子供を盾に使ってきた事にリュウキは、ナタリーの人なりやモラルの無さに幻滅し子供には罪はないがナタリーを切り捨てる事にした。
「ならば、こうしよう。科学鑑定で、その赤ん坊が俺の子供と認められたら今まで通りの生活を送ろう。そして、当初約束していた通りその赤ん坊の認知はしないが成人するか学生であったなら学生を卒業するまでは子供の父親代わりとなり金銭面を含め面倒をみよう。
だが、その赤ん坊が俺の子供でない場合は話は別だ。」
「……えっ?」
思わず、声を出すナタリーにリュウキは非情な言葉を言い放った。
「浮気や不倫をして俺を裏切っていたのなら離婚だ。
そして、その子供が俺の子供でない場合。その赤ん坊共々即刻俺が与えてやったこの屋敷から出て行ってもらう。」
「…そ、そんな…っ!」
「もちろん、お前やその赤ん坊とも他人になるのだから、一切お前達には何の関与もしない。当たり前だが、今まであった仕送りなどもなくなるという訳だ。赤の他人なんだからな。」
凍り付くような恐ろしい雰囲気を纏ったリュウキに、そんな事を言われ
「…ここを追い出されて、仕送りも無くなるなんて!私はどうやって生きていけばいいのよ!」
窮地に追いやられたナタリーは癇癪を起こし叫んだが
「簡単な話だ。働いて生活費を工面すればいい。」
と、リュウキは淡々とそう言ってきた。
「無理よ!赤ちゃんもいるのよ?赤ちゃんの面倒は誰がみるの?赤ちゃんの事、可哀想だと思わないの!?」
「残念ながら、俺の子供ではない赤の他人の赤ん坊だからな。赤ん坊には罪はないが、ナタリーお前自身が招いた事だ。
自分のした事は自分達で何とかしろ、母親だろ?母親であるお前とその赤ん坊の父親が、赤ん坊を命懸けで守って当然だ。」
と、言ってリュウキはさっさと家を出て行ってしまった。
家の中では
「あなたは、悪魔よーーーっっっ!!!酷い…こんなの酷すぎるわーーー!!あんまりよーーー!!
数ヶ月に一回くらいしか帰って来ないくせに!
あなたこそ、本命の奥さんがいるくせに!私が浮気しただの言える立場じゃないじゃない!!!」
と、ナタリーはキーキー泣き叫んでいた。
こんな風にリュウキは各国各地域に家庭を持っていてもナタリーのように浮気して、別の男との子供を作ってもリュウキに托卵しようと目論む美女達も少なくない。
そういう場合は、今のようにきっぱりスッパリと切り捨てている。
子供はリュウキの子供で間違いないが、浮気をしていた妻達には子供を取り上げ信用ある子供のできない夫婦達に養子に出し
やはり、ナタリー同様の事をする。
また、リュウキが妻に飽きたり粗が見えて嫌になった時は離婚をして、リュウキは来る事はなくなるが
代わりに屋敷をプレゼントして一般家庭の月々の平均的な給料を仕送り。自分の子供がいれば養育費と学費を出している。
そんな風に対処して上手くやり過ごしてきたのだが、またも最悪な事が起きてしまった。
たくさんの妻や恋人達がいて、子供もたくさんいるのはいいとして……身分や身元を隠す為、争い事を避ける為に、それぞれ違った変装や名前、国籍、職業で偽ってきたせいなのか。
ショウと同い年くらいの恋人同士が、ラブホテルに入って行くのを目撃したのはいいが問題は別にあった。
両方とも、自分と血の繋がりがある子供達…つまり、その恋人達はきょうだいだったのだ。
リュウキが自分を偽ってたくさんの家庭を作った報いなのか…本人達は、自分達がまさかきょうだいだと知らず恋をして体の関係まで持っているようだ。
しかも、本人達はまだ気付いてないが女の子のお腹の中には新しい命が宿っている。
それを見て、さすがのリュウキも青ざめた。
さすがに、これはまずい。マズ過ぎると…
どうにかするにしても、どうにもならない。なるようにしかならない状況だ。
それを見て、さらに不安がよぎる。自分には、他にもたくさんの子供達がいる。
その子達が成長し、みんな自分達がきょうだいとは知らず交際、結婚までする可能性が少なからずあるのだ。
妻や恋人達が、激突しないよう同じ国内でも離れた地域で彼女達と交際している。
今、ラブホテルに入って行った子供達なんて国すら違う。どうやって、巡り合い知り合ったのか分からないが、あまりにも良くない奇跡が重なり出会ってしまったのだろう。
…最悪だ…
……と、絶望していた時
フとリュウキの頭に思い浮かんだ人物がいた。
コイツしかいない!
コイツなら、どうにかできるんじゃないかと!!
ーーーリュウキが今まで使った事のない
山奥の別荘にてーーー
……シィ〜ン……
静まり返った気まずい空気の中、リュウキとその人物はテーブルを挟み対面する形でソファに腰掛けていた。
この別荘はリュウキが今の今まで忘れていた別荘なので手入れもされておらず、廃墟のように朽ちていて埃が積もっているしそこら中の床や壁が脆くなっていて歩くのもままならない状態であった。
わざわざこんな所に、極秘で自分だけ呼び寄せるとは余程の事だろうと思っていたが
…自分が言うのもなんだが、こんな最低最悪なくそクズはなかなかいないだろうと
目の前のクズカスヤロー、リュウキを桔梗は軽蔑の眼差しで見ていた。
もちろん、オンボロ別荘のあまりの汚さに桔梗は仕方ないので水と風、火、草木の魔道の融合、合体魔道を駆使して一瞬で自分達のいる部屋だけ綺麗に掃除し床や壁、天井も補強した。
そうでもしなければ、埃臭くてむせて息はできないし汚いわ床は抜けるわでとてもではないが居られたものではなかった。
「……結果論から言うとさ。あんたの子供はショウ一人だよ。だから、そのきょうだい同士で恋人になったとかいうあんたの偽の子供達は、あんたとは無関係だよ。」
と、リュウキの事が大嫌いな桔梗は、さっさとこの場から立ち去りたいが為に開きたくない口を仕方なしに開いた。
その言葉に、リュウキは驚きを隠せず
「…いや、確かにあの子供達は俺の事実婚の妻達から生まれた子供だ。それに、俺と同じ“気”や“魔道”も魔道で鑑定したから確実に俺の血を引いている。」
と、言ったリュウキに桔梗はジト目になり
「…あんたさ。どんだけ自分を過信してるのさ。」
なんて、呆れたように言う桔梗にカチンときながらも、ここで口論でもすれば解決できるものも何も解決できない。それに、桔梗に限ってまたこうやって自分の手助けをしてくれるとは考えづらい。
今は、桔梗の過去世の事で世話になったから、
“お前に恩を返せないままなのが癪だからさっさと恩を返してチャラにしたい”
という事で、リュウキの手助けにきてくれたに過ぎないのだ。
ここを逃せばリュウキに次はない。今は我慢の時だ。
「俺の見立てだと、あんたの“気”や“魔力”の鑑識のレベルはB級Plus(プラス)って、いったところだろ?」
と、的確に今現在のリュウキの鑑識魔道、気道のレベルを言い当ててきた。しかも、半年に一回ある魔道や波動の階級テストも最近したばかりなので間違いないだろう。
…やはり、コイツはとんでもない奴だな。敵でなくて良かったと心から思う。と、桔梗のレベル鑑定の見立ての的確さにも驚かされた。
「俺はさ。波動が苦手だから、気を探ったりする事はできないけど。代わりに、得意な魔道がある。
だから、俺は魔道だけの観点からしか言えないけど確実だ。俺に間違いなんてないと言えるだけの絶対的な自信があるから言える。」
…ムカッ!
やはり、コイツは生意気でムカつくな
と、リュウキは内心、桔梗に対して腹が立っていたがそれを抑え黙って聞いていた。
「B級Plus(プラス)の鑑識レベルなら、人や動物のDNA鑑定はできるが大雑把だ。細やかな所までは分からない筈だ。
だから、相手が自分と血縁関係の濃い人物で自分により近いDNAを持った人物ともなれば、そのDNAは自分だろうと勘違いしてしまう。
それくらいに、大雑把で確実性がないものなんだよ。
真っ赤な他人なら、分かりやすいから確実に分かるだろうけどね。」
そう、説明してきた桔梗に
「……つまり、今まで俺の子供だと思ってきた子供達はみんな俺の子供ではないという事か?」
驚きを隠せないリュウキが、そう桔梗に問いただした。
「あんたの脳内を覗いて、そこからあんたの事実婚の妻や恋人達の事も大雑把に見たけど。子供がいる、いないにしろ、殆どの奴ら不倫や浮気してるぜ?
ただし、中には健気にあんたを想い待ち続ける妻や恋人達も結構いるみたいだけど。その人達には子供なんていないだろ?」
……は?
「で、あんたの与えた屋敷にセフレや恋人達を呼び込んで、あんたの与えた生活費を使って豪遊。…酷いのは、子供達は放置してるか虐待してる奴らが殆どだ。」
…なんだ、それは…
それは、本当に俺が関わってきた女達の話なのか?
「もっと、ヒデーのは幼い自分の子供に売春させたり、彼氏やらセフレが喜ぶからって自分が捨てられたくないあまりに強姦、レイプさせて喜んでるぜ?」
なんて、聞いた瞬間リュウキは全身からサー…っと血の気が引いた。
まさか、自分と関わりのある身近な存在に、そんな犯罪者が多くいたとは…
俺の選んだ妻や恋人達が、そんな恐ろしい事をしているというのか?俺が来た時には、それを丸ごと隠し優しく温かな家庭を装っていた?
彼女達に限って、そんな…
…信じられん…
だが、桔梗が言うのだからそれが事実なのだろう
そうとも知らず、俺はまんまと妻や恋人達に騙されて、癒され安心できる家族だと過ごしていたというのか?
俺が家に帰って来ている間、育児放棄や虐待、売春、性的暴力を受け続けてきた子供は、その時どんな気持ちだったのだろうか?
そんな子供達のSOSも見抜けず、幸せ家族だと思い込んでいた自分の間抜けさに寒気が走る
職業柄、そういう犯罪に対しても、他の家族達の事には敏感に反応し対処してきたというのに
なのに、自分の家族の事は見抜けなかった
…何故、気付けなかった!
と、リュウキは悔しい気持ちでいっぱいになっていた。
…ドクン、ドクン、ドクン…
「さっきの話の続きだけどさ。あんたの祖父母や両親、兄弟達も大勢いるっぽいな。
あんたの血筋だ、色んな所に愛を降り注いで種を仕込んだり、卵にそそがれたりで認知してないだけで、あんたの血筋の奴らは遠縁含めれば数え切れないほどいるぜ?
だから、王族でも何でもない一般人でもあんたの兄弟達や従兄弟達、遠縁の血縁者達がたくさんいるって訳だ。
知らずに、きょうだい、いとこ同士で結婚して子供を産んでるな。」
つまり、そういう事だ。認知こそされてないだけ知らないだけで、リュウキと血縁関係のある人達がゴロゴロといるという事。
その人物とリュウキの妻や恋人達との間にできた子供を、リュウキは自分の子供だと勘違いしていたという事になる。
自分の血縁関係者達が、異性に対してリュウキと同じような考えを持ち似たり寄ったりの事を繰り返していたという事実に、リュウキは自分を含めてなんて最低最悪な血筋なんだと恥ずかし過ぎて頭を抱えてしまった。
「…それで?何故、ショウだけが俺の実子だと分かるんだ?」
そこが不思議でたまらない。
「…ああ。簡単な話だよ、あんたは子種を一粒しか持ってない。あんたは王族だから、幼い頃から精密検査されていてそういう結果も出てる筈だけど?
“…残念ながら、一つしか精子が存在しません。その精子が無くなり次第、リュウキ皇太子は無精子になり子供を残せなくなります。”
そう、医者に言われ急遽、あんたの貴重な一粒の種は厳重かつ大切に保管されてた筈だよ。それを、お義母さんのお腹の中の卵に入れて受精、妊娠、出産してショウが生まれた。…忘れたわけじゃないよね?」
そこまで言われて、ようやくリュウキはハッとしたのだが。無精子症なんて言われても、何も感じなかったし子供ができないという事は女と遊び放題だとむしろ喜んだくらいだ。
なので、自分にとってどうでもいい話だったし、誰もその事について触れてこなかったので自分が無精子症だという事も桔梗に指摘されるまですっかり忘れていたのだ。
「ムカつく話だけどさ、あんたとお義母さんはショウを作る為だけに結ばれたようなものだ。
どういう仕組みかは分からないけど、あんた達からしかショウはできないし生まれる事ができない。多分、誰かによって仕組まれた事なんだろうとしか考えられない。おかげで、俺はショウと出会う事ができて幸せをいっぱい貰ってる訳だけどさ。これからも、ずっと。」
なんて、平然と言ってのける桔梗に
「…俺は、ショウを誕生させる為の道具って事か?」
と、何者かに仕組まれいいように動かされてるような話を聞き、思い当たる節もあった為にリュウキは怒りでどうしようもない気持ちになっていた。
「多分だけどさ。ショウを誕生さえさせたら、あんたとお義母さんは自由なんだと思うよ?
それに、そんなに怒んなくていい。【運命】が、一人一人みんなにあるように、あんたとお義母さんは運命に導かれただけ。それを操られたと思うのは思い違いだよ。」
「……思い違いだと?」
「そう、思い違い。…だってさ。
強い意志さえ持ち続ければ【運命】は変えられる。
【いい運命】なら、有り難く受け入れればいいしさ。【悪い運命】【嫌な運命】なら、それに抗って強い意志を持って断ち切ればいい。【運命を変える】なんて難しいけど、できない事はない。
それを俺はやってのけた。そして、“アイツらも”。」
それを聞いて、リュウキはだいぶ怒りも収まり冷静さを取り戻していた。
「あんたの事は反吐が出るくらい大嫌いだけどさ。
それでも、ショウを誕生させてくれた事だけは心の底から感謝してる。あんたが居なかったら、ショウは生まれてくる事ができなかったんだから。
…でも、何でショウみたいに純粋純白ないい子が、あんたみたいなドブカスヤローからできるなんて驚きだよね。突然変異としか思えないよ。世の中の七不思議に数えてもいいんじゃない?」
桔梗はぶっきらぼうだけど、誠心誠意リュウキに感謝の言葉を述べた。一言、二言かなりムカつく言葉は余計だが。
しかし、ここでリュウキは考えなければならない。
自分を裏切り続けていた愚かな妻や恋人達への処分と、可哀想な子供達のケア、そしてその子達が幸せに暮らせる家族を一刻も早く見つけてやらねば。
そして、子供達に残虐非道の限りを尽くしてきた大犯罪共に法で裁きを受け、それに見合っただけの罰を与えなければならない。
それが、今まで子供達のSOSに気付けずのうのうと暮らしていた自分のしてやれる最大だ。…今更ながらに、子供達に顔向けもできないし気付いてやれず後悔の念しかない。子供達の事を考えれば、悔しすぎてどうにかなってしまいそうだ。
だが、起きてしまった事は取り返しがつかない。やり直しなんてできない。
だから、自分が思いつく限り最大限の事を子供達にしてあげるしかない。これで、許されるつもりもない。ただの自己満足であるが…。
いくら尽くしたところで子供達の心の傷が治る訳ではなく、一生その傷を背負いその心の苦しみと戦い生きていかなければならないのだから。
次に、リュウキは気になっている事を桔梗に質問してみた。
「俺の妻であるマナの事なんだが……」
と、切り出すと
「別に隠そうとしなくて大丈夫だよ。俺には嘘は通用しないから。さっき、あんたの脳内見たから知ってるよ。離婚したんだろ?なら、お義母さんはあんたの妻でも何でもない赤の他人だよ。」
そこで、リュウキはギクリとした。
本当に、コイツは…!
勝手に人の脳内の記憶を覗くとはプライバシーも何もあったもんじゃない
それもあって、桔梗に会うのが嫌なんだ
「…そのマナなんだが、何処を探しても見つからない。この星に毎日、エネルギーが注がれているから自分の仕事はしているようだが姿が見当たらない。どこに居るか分かるか?」
そう聞いてみると
「分かるよ。」
と、桔梗は答えたのだ。あんなに血眼になって探しても見つからなかったというのに、こんなにもアッサリとマナが何処に居るのか知っているという。
どうなってるんだ、コイツは…
コイツにできない事なんてないんじゃないか?
「…まあ、大概の事はできちゃうよね。俺、この世界の最強だからさ。」
リュウキの心を勝手に読んだのだろう。
とてもムカつく言葉が返ってきた。
本当に嫌だ、コイツ。心の底から嫌いだとリュウキは思った。
「お義母さんが何処に居るかって話だけどさ。
居場所は分かるんだけど、俺達じゃ入れない空間にいるよ。その場所から、大樹に姿を変えて星にエネルギーを注いでるみたい。
今は、ずっと眠った状態みたいだね。それ以上は分からないけど。まあ、無事だし一番安全な場所に居るから気にしなくていいんじゃない?」
桔梗の話を聞いて、リュウキはキョトンとしていた。
「…マナが、大樹に変わる?何の冗談だ?」
…え?まだ、話さなきゃいけないの?面倒くさいって、あからさまな雰囲気を出していたが
桔梗は少しでも早くショウの元へ帰りたくて
「…あんたがお義母さんについて、どこまで知ってるか分からないけどさ。
あんた、さっき“この星にエネルギーを注いでる”って、言ってたけど。
“全ての星に平等にエネルギーを注いでる”
の間違いだよ。あんたの話と実際だと規模があまりに違いすぎるよ。」
と、イライラしながらも口早に説明した内容に
「……全ての星……」
リュウキはピシリと固まり、思わず桔梗の言葉を復唱していた。
「今までは、人として動く為に朝昼晩に分けて膨大な量のエネルギーを星達に一気に注ぎ込んでいたみたいだけどさ。今は何も考えず眠った状態だから、朝昼夜問わず必要なエネルギーを少しづつ注ぎ続けてるみたい。」
なんで、お前はそんな事まで知ってるんだと言いたげなリュウキを無視して桔梗は話を続ける。
「お義母さんは、慈愛・優しさ・思いやりの塊のような聖母と言っても過言ではないような人だよ。
だからさ。膨大な量の魔力量をエネルギーに変えて全ての星へ与えている。だから、俺達はこの星で生きられる。そんな膨大な魔力を与えても、余りある魔力を保持できてる。多分、魔力量だけなら俺以上だよ、あの人は。」
…ドックン…
桔梗以上の魔力量だと…?
…いや、だが桔梗に関しては、まだまだ未発達でこれからも成長していくだろうからな
と、考えていたリュウキに
「俺は俺の成長しきった魔力量を知っている。もちろん、今はまだまだ未発達で何もかもが未熟ではあるけどさ。俺が言ってるのは、俺の魔力量が成熟しきって定まったとしての話だよ?それでも、お義母さんは俺以上の魔力量があるって話。」
そう言ってきた桔梗の言葉に驚きっぱなしのリュウキだ。
「あと、お義母さんの魔道士としての階級は大きく間違ってるよ。」
なんて生意気にも指摘してくる桔梗に、リュウキはピクリと反応した。
「それは、厳選に厳選を重ね選び抜かれた優秀者である魔道、波動のレベル鑑定士達を馬鹿にしているのか?
彼らの見立てに間違いはない筈だ。」
それは聞き捨てならないとばかりにリュウキが反論すると、桔梗は呆れたように小さく息を吐き

