さて、何の報告も無しに勝手に結婚してしまった馬鹿ども(風雷とハナ)には厳しいルールを設けてやったが。
問題は自分の家庭だ、と、リュウキは頭を抱えていた。
ただいま、リュウキの仕事終わりを確認して会う事を取り付けたマナと別荘の一つに来ている。そして、リビングで二人きりで話し合いをしている最中である。
「…はあ〜。俺は仕事で疲れてるんだ。それに、少し休んだら家でもやらなければならない仕事もある。
離婚だとかくだらない話なら却下だ。離婚するつもりはない。そもそも、ショウにはなんて言うんだ?」
と、眠気覚ましのブラックコーヒーを口に含みながら、くだらないとばかりにリュウキはマナに聞いた。
「いやいや!あのね、そもそも冷めきった夫婦生活。
しかも、私がショウを産んでから今までずーーーっとエッチレス。
挙げ句の果ては、各国それぞれの地域にリュウキの家庭がいくつも存在していて、子供までいる。
たくさんの恋人もいるし、遊びのつもりか分からないけど一晩限りのエッチする美女さん達がいーーーーっぱい!めちゃくちゃ離婚理由になるよね?」
そう言って、自分の欄に自分の分をしっかり記入した離婚届をテーブルに置いた。
それを見て、リュウキは面倒くさそうにため息を吐くと
「確かに、俺はお前を性的対象として見れない。だから、レスになるのは当然だ。
だが、お前にはそれ以上のものを感じている。お前は、俺のかけがいのない大切な“家族”だ。それに、俺達が離婚したら“家族”の縁は切れて法律上他人になってしまう。俺達が離婚したら、ショウが悲しむだろ?ショウの気持ちも考えたらどうだ?」
と、静かにマナを諭してきた。
「あら!あなたには、大切な家族が他にもたくさんいるでしょ?離婚と結婚を繰り返してるから×が幾つ付いてるか分からないけど。
なら、私だって離婚しても何ら変わりないでしょ?×が一つ増えるだけで。今さら、×の数なんて気にしてないかな?もしかして、最初から気にしてないの?」
そう言い返してくるマナに
「法律上、しっかりと婚姻関係を結んでいるのはお前だけだ。お前以外の俺の嫁達とは、婚姻届も出してない事実婚だ。」
「あなたの子供達はどうしてるの?父親として、子供達の面倒も見なきゃいけないじゃない?」
「…ハア、…しつこいな。子供ができても、自分の子供とは認知しない。俺の子供はあくまでショウただ一人と決めている。
だが、父親の居ない子供の事は不憫だと感じているからな。会えば母親の恋人だと言って“父親代わりとして”面倒は見ている。」
そんな会話が続き
「…そっか。根本的に私とリュウキの恋愛や結婚の価値観が違うって事が分かった。
私、あなたのその価値観、とてもじゃないけど受け入れられない。あなたは私の事家族として大切に思ってくれてるのは嬉しいけど、夫婦として終わってるね。だったら、離婚しても何ら問題ないよ。」
なんて言ってくるマナに、リュウキはウンザリしてイライラしていた。
「だって、あなたは仕事だけでも多忙で世界中を飛び回る事は多いし、その先々で家族を作ったり恋人ができたり。私の事を大切な家族っていう割になかなか私と会う機会も少なければ、時間が空けば私を連れてショウのいる屋敷で家族として過ごすだけ。
なら、離婚しても今までと何も変わらないよ。
だって、どうあがいてもショウにとってリュウキはお父さんだし、私はお母さんなんだもん。離婚の事を話さなければ何も問題ないよ。」
確かに、マナの言うことは一理あるが…
「…だが、離婚して困るのはお前だろ?」
「どうして?」
「お前の容姿は良くて中の下、悪くて下の中といったところか。そんな見たくれの悪い女を異性として見てくれる男なんていない。恋人どころか結婚なんて夢のまた夢だろう。
女として絶望的なお前に同情して、俺が拾ってやったんだ。そこで、女としての喜びも教え与えてやった。
今では、俺という夫がいてショウという娘までいる。平凡だが幸せに暮らしているだろう?それ以上の幸せがどこにある?」
リュウキは、上から下までマナの姿を見て馬鹿にするようにフッと含み笑いしていた。
……ズキッ!
何度、リュウキのこんな姿を見てきては傷付いてきた事だろう。
加えて、マナとリュウキは“レス”なのに
リュウキはマナの他にもたくさんの家庭を持ち、恋人も大勢いる。一晩限りの美女なんて数えきれない。
今までそれを隠してきたくせに、バレたらバレたでそれの何が悪いと開き直る始末。
さらには、マナの容姿を馬鹿にしてきて見た目の悪いお前は異性としての魅力がないからエッチできないという。
だけど、見た目の悪いマナに同情して家族になり、妊娠、出産、子育てという女性の喜びを与えてやったのだから感謝しろとまで言っている。
そこまで言われたマナは…ストン!と、リュウキへの恋も愛情も家族愛も一気に消え失せ、むしろ、一緒の空間にいる事や声を聞くだけでも寒気がする程までに嫌いになってしまった。
リュウキの本音を聞いた瞬間一瞬の出来事であった。
千年の恋も冷めるとは、こういう事をいうのかな?と、マナは冷めた気持ちで考え
何故か離婚しないと頑ななリュウキを頷かせる為に
「リュウキには考えられない話だろうけど。私は、一人の人と永遠の愛を誓い合って、浮気も不倫もないのは当たり前でお互い愛しあって支えあえる結婚がしたかった。」
なんて、マナが言うと
「…ブハッ!なんだ、その漫画みたいなベタな話は?理想と現実は違うだろ?
一人だけを一途に愛してお互いに愛し愛されて支え合って?気持ち悪い考えだな。実際にはあり得ない夢物語だ。気色悪すぎてサブイボが出てしまったぞ?」
リュウキはマナの理想を聞いて本当に寒気が走ったらしくサブイボを掻きながら、マナの話が気持ち悪いと嘲笑っていた。
「もう、この地点で私達は夫婦としてだけじゃなくて家族としても終わってる。私は、浮気や不倫は絶対に許せないの。」
「お前、本当に綺麗事ばかり言うな。
女はお前だけじゃない。世の中には色んな美女がいるというのに、一人だけに自分の一生を捧げるなんて馬鹿馬鹿しい。色んな美女達がいるだけ、それぞれ違った体験ができる。それができないなんて人生損だろ。」
……ゾワッ!
「……………。」
「一度きりの人生だ、自分のやりたいように生きたいだろ。もちろん、法律やモラルに反する事は絶対に許されない。秩序を守りつつ、美女達と触れ合っているつもりだ。それに、こんな事は誰だってしている事だろ?」
…ゾワワ〜…!
「……………。」
「お前の考える現実味の欠片もない馬鹿げた理想論は、モテないドブス女の僻みにしか聞こえないな。」
と、リュウキがマナの事を鼻で笑った所で
「なら、あなたが笑う程、気色悪すぎてブサイクな女とは離婚しても構わないよね?あなたには、大勢の美女達がいるんだから。
私は、あなたの考え方や女性への言動が無理。それこそ、気色悪すぎて一緒にいるだけで気持ち悪いし声すら聞きたくないくらいに大嫌い。
紙切れ一枚の事とはいえ、あなたと夫婦って思うだけで絶対無理!本当に気持ち悪すぎて生理的にうけつけない。勘弁してほしいって思ってるから別れて!」
マナは、長年に渡りリュウキに溜まっていた鬱憤を晴らすかのように自分の気持ちを吐き出した。
すると、みるみるリュウキの表情は怒りに満ちてきて
「…ほう?俺の考え方が気色悪いだと?たかだか、他に女を作っただけで、誰にも見向きもされずモテないお前にそんな言われをされる覚えがないな。
お前、容姿だけでなく中身まで気色悪いな。分かった、離婚の事は承諾する。
だが、ショウの前だけでは仲のいい夫婦を演じろよ?繊細なショウが、俺達の異変に勘付けば桔梗が動く。そして、真実を知ればショウが悲しむ。
そして、深い傷を負わせる事になる。それだけは、絶対に避けたい。」
それを聞いて
「良かった。あなたは、夫として最低最悪のクズゲスの気色悪い男だけど、父親としては素敵だし素晴らしいって思う。ショウの前だけでは、いい夫婦の演技頑張りましょう?ボロ出さないように気をつけてね。」
マナは、そう言い残すと離婚届をテーブルに置いたままさっさとリビングから出て行った。
「お前こそ、ショウの前でボロ出すなよ?」
扉越しに、リュウキはマナに言葉をかけ怒りのまま離婚届にサインをして部下に城の教会へ提出して
リュウキとマナの離婚は無事成立したのであった。
ーーーそしてーーー
『…ほんに、愚かよのぉ。じゃから、忠告しておったのに。あの男と結婚しても幸せになどなれぬと。』
「うん。…けど、恋人、夫婦として幸せだった時もあったんだよ?ショウを孕って出産して…本当に幸せだった。まさか、離婚すると“この世界”に強制召喚されるなんて知らなかったけど、今はそれが凄くありがたいかな。」
『あの男が、ショウに会う為にマナを呼ぶまでここで“眠る”がよい。お前は“生きている”のだから、娘に会いに行ける。』
と、全身包帯と鎖で巻かれお札まみれの男は、自分の膝の上に眠る“もう一人のマナ”を愛おしそうに撫でていた。
「…もう一人の私は、娘に会えないの?」
『…うむ。もう既に、亡くなっておる故。』
「…そっか。どうして、もう一人の私はずっと眠っているの?」
『このマナが眠っているのは我を拒絶し、愛おしい男が自分を迎えに来ると信じて疑わないからじゃ。』
「……馬鹿だなぁ、“私”。裏切られて傷付くだけなのに。」
『………………。』
「…あれ?もしかして、あなたもリュウキと同じ価値観を持っているの?」
『……我を蔑ろにし存外な酷い扱いをされん限りは浮気や不倫などせんよ。じゃが、我も美しい者しか性的対象には見れんな。』
「…はあ。世の中の全ては容姿で決まっちゃうのかぁ〜。な〜んか、それ聞いちゃったら絶望しか無くて、どうでもいい気持ちになっちゃった。最低最悪な世の中。世の中は残酷でできてるんだね。」
『確かに世の中は残酷で溢れておるが、それだけではなかよ?世の中には、稀ではあるが温かい、慈愛などといった美しい世界も存在しておるよ。』
「…フーン。あんなに容姿が全てみたいな事言っておいて、そんな綺麗事言われても全然説得力ないよ?
ショウに会える日まで、おやすみー。あの男から連絡きたら起こしてねー。」
そう言って、マナは大樹になり深い眠りにつくのだった。
ーーーマナの異変ーーー
リュウキとマナの離婚が成立してから、リュウキの虫どころが悪くいつも機嫌が悪くピリピリとした雰囲気が常となっていた。
そして、仕事でまだまだ子供で学生であるハナと風雷に見せるには、あまりに悲惨かつ残酷な現場に行く仕事がありその時はリュウキは“団長代理”、マナは“副団長代理”としてリュウキとマナだとバレないよう変装をして現場へ赴く。
その事で仕事の依頼を頼むよう部下に頼んだのだが
「…もう少しありません、帝王様。奥様は
“ショウに会う時以外、あなたと会うつもりも依頼を受けるつもりもありません。”
と、メールがきたきり何度連絡しても何ら返答が返ってきません。」
と、いうので
あのくそブスッ!
何様のつもりだ?仕事だぞ?大勢の民達が苦しみもがいている時に、仕事を放棄するだと?
なんて、冷たく酷い女なんだ
自分の事しか考えられないとは人として最低もいい所だ
怒り心頭で、リュウキ自らもマナに連絡したが一切連絡はつかなく仕方がないので、ムカつきながらもわざわざマナが住んでいる別荘の一つへと赴いた。
…しかし、そこへ行ってみれば誰も住んでいる様子もなく換気もされず埃まみれになっている。
…ドクン…
「…どうなっているんだ?」
リュウキは、別荘の様子を見て一気に嫌な予感ばかりがして心が冷たく騒ついた。オブシディアンに、ショウの所にマナが行っていないかと聞くも来た形跡もないという。
なら、マナは一体何処へ行ったというのだろう?
風雷の魔道で、マナを探すも
「……叔母様の魔力の気配も気も一切感じられません。おそらく、この星にはいないと思われます。宇宙全体を見回しても叔母様の気配は感じ取れない。異空間とも考え、気配を窺っても何ら気配もない。
…これは、この世には居ないと考える他ないと思いますが“ショウには会いに行く”と、必要最小限のメールが届き、しかも会える状態である事から生きてはいるでしょう。」
と、どこかでマナが生きているという言葉に安堵するも、風雷の魔道でもマナの行方が分からない。
しかし、風雷は宇宙全体から一人の気配を感じ取れる事にも酷く驚いたが、異空間までも気配を探れるようになったとは…もはや天才を通り越して神的力を持っているとしか思えない。
我が甥っ子ながら、化け物じみた力や能力を持っているな
と、リュウキは風雷の能力や力に驚きを隠せなかった。
何処を探しても見つからないマナの事は、どうしようもないので当てにするのはやめて
今回は、自分と上級魔道士数十名を引き連れ現場へ赴いた。そこで、いつもなら苦戦しなくていい所で大苦戦し困難を極め、この程度の現場ならばさほど疲れもなく数日で現場を治め帰還する事ができていたというのに
今回…酷く長引き半年以上にわたる激闘の末、ようやくこの場を治める事ができた。死者を出す事はなかったものの負傷者の数があまりに多すぎて城の病院だけでは足りず、多くの一般病院へと兵達が送り込まれる事態となってしまった。
そこで思う事は、まだまだ何事も青く未熟であり、まだ子供だというのに、ハナと風雷は団長、副団長としていかに素晴らしい人材かという事。目を見開き何度も見返す程の実績を出し続けている英雄と名前が上がりはじめている二人だ。
そんな二人は、今だけの活躍か、このまま素晴らしい実績を積み重ねていくか…それ以上のとんでもない逸材と化すか将来が楽しみである。
それも、そうと今回の事で分かったのはハナや風雷が、いかに迅速かつ素早く現場を治める事ができている事に感心せざるを得ないし、やはり二人は天才の種類は違えど天才であったという事だ。素晴らしい、凄いと絶賛の声をあげたいくらいだ。
この二人を選んだ自分を褒めたいくらいだ。
しかしだ。今回、それだけでなく考える事があった。
…悔しくて認めたくはないが…
いかにマナの力に頼り、助けられてきたかという事。
どうしようも、まだハナと風雷に出張させられない現場や会談なども多い。その時は、他の誰にも任せられないので帝王自らが正体を隠し、現場や会談へ赴く。
そして、ハナや風雷が団長、副団長として何かに赴く時は、みんなが団長、副団長が動いたぞとどよめく程までに非常事態な時くらいだ。
彼らのそれ以外の仕事といえば、事務関係はもちろんの事。身分を隠し変装をして、城内の兵達の様子やメイド、大工、外仕事をしている植木職人などなど不審な動きをしていないか内部調査が主な仕事だ。
事件があったり、何か悪い事が起こりそうな時は、民に扮して調査をして民達の安全も守っている。その合間に、体と精神を鍛える訓練は怠らない。
なので、かなり多忙である。
自分もかなり多忙ではあるが、ハナと風雷も学生もしながらなので多忙である。
ハナ達が学生でなくなり本業に本腰を置けば、多忙がかなりの多忙に変わり逃げ出したくなるような事ばかりが多くなるだろうが、それに耐え頑張ってもらわなければ困る。
そして、一刻も早く学校を卒業して我々を助けてほしいものだ。ハナが、高校を卒業してからだから…あと、約4年か。…長いな。
と、マナの助けが無くなった事により、これからは酷く不安定で困難ばかりが続くであろう事は安易に予想できる。なにせ、今回の現場で嫌というほど実感させられたのだから。
だから、マナの機嫌をとり依頼を引き受けてもらわなければ、リュウキだけでなく自分の所の選りすぐりな優秀者達や各国の優秀者達も限界を迎え世界各国が悲惨な状況に陥る事が目に見えている。
せめて、ハナや風雷が高校を卒業するまでは、どうしてもマナの力が必要だ。
桔梗とも思うだろうが、桔梗だって風雷と同い年の子供だ。それに、ショウが関係なければ微塵も動かない。
まさか、大事な愛娘を人質に桔梗を使うなんて事はできるはずもない。
…と、城内の特別病室で怪我の手当を受けながら、リュウキは悶々とそんな事を考えていた。
…マナさえいれば…
しかし、何故今になって離婚なんて言い出してきたんだ?
…クソッ!
いくら考えたって、俺達は離婚して今はもう赤の他人だ
俺の怪我が治り次第、ショウの所へ帰るからその時にマナに依頼はしっかり受けてほしい趣旨を伝えるか
マナに会える方法は、ショウに会いに行く時だけだからな
と、リュウキはむしゃくしゃした気持ちで、変装をして今、新たな命が生まれたというリュウキの妻の元へと向かったのであった。
そこで、衝撃的展開がリュウキを待っているのだが…
問題は自分の家庭だ、と、リュウキは頭を抱えていた。
ただいま、リュウキの仕事終わりを確認して会う事を取り付けたマナと別荘の一つに来ている。そして、リビングで二人きりで話し合いをしている最中である。
「…はあ〜。俺は仕事で疲れてるんだ。それに、少し休んだら家でもやらなければならない仕事もある。
離婚だとかくだらない話なら却下だ。離婚するつもりはない。そもそも、ショウにはなんて言うんだ?」
と、眠気覚ましのブラックコーヒーを口に含みながら、くだらないとばかりにリュウキはマナに聞いた。
「いやいや!あのね、そもそも冷めきった夫婦生活。
しかも、私がショウを産んでから今までずーーーっとエッチレス。
挙げ句の果ては、各国それぞれの地域にリュウキの家庭がいくつも存在していて、子供までいる。
たくさんの恋人もいるし、遊びのつもりか分からないけど一晩限りのエッチする美女さん達がいーーーーっぱい!めちゃくちゃ離婚理由になるよね?」
そう言って、自分の欄に自分の分をしっかり記入した離婚届をテーブルに置いた。
それを見て、リュウキは面倒くさそうにため息を吐くと
「確かに、俺はお前を性的対象として見れない。だから、レスになるのは当然だ。
だが、お前にはそれ以上のものを感じている。お前は、俺のかけがいのない大切な“家族”だ。それに、俺達が離婚したら“家族”の縁は切れて法律上他人になってしまう。俺達が離婚したら、ショウが悲しむだろ?ショウの気持ちも考えたらどうだ?」
と、静かにマナを諭してきた。
「あら!あなたには、大切な家族が他にもたくさんいるでしょ?離婚と結婚を繰り返してるから×が幾つ付いてるか分からないけど。
なら、私だって離婚しても何ら変わりないでしょ?×が一つ増えるだけで。今さら、×の数なんて気にしてないかな?もしかして、最初から気にしてないの?」
そう言い返してくるマナに
「法律上、しっかりと婚姻関係を結んでいるのはお前だけだ。お前以外の俺の嫁達とは、婚姻届も出してない事実婚だ。」
「あなたの子供達はどうしてるの?父親として、子供達の面倒も見なきゃいけないじゃない?」
「…ハア、…しつこいな。子供ができても、自分の子供とは認知しない。俺の子供はあくまでショウただ一人と決めている。
だが、父親の居ない子供の事は不憫だと感じているからな。会えば母親の恋人だと言って“父親代わりとして”面倒は見ている。」
そんな会話が続き
「…そっか。根本的に私とリュウキの恋愛や結婚の価値観が違うって事が分かった。
私、あなたのその価値観、とてもじゃないけど受け入れられない。あなたは私の事家族として大切に思ってくれてるのは嬉しいけど、夫婦として終わってるね。だったら、離婚しても何ら問題ないよ。」
なんて言ってくるマナに、リュウキはウンザリしてイライラしていた。
「だって、あなたは仕事だけでも多忙で世界中を飛び回る事は多いし、その先々で家族を作ったり恋人ができたり。私の事を大切な家族っていう割になかなか私と会う機会も少なければ、時間が空けば私を連れてショウのいる屋敷で家族として過ごすだけ。
なら、離婚しても今までと何も変わらないよ。
だって、どうあがいてもショウにとってリュウキはお父さんだし、私はお母さんなんだもん。離婚の事を話さなければ何も問題ないよ。」
確かに、マナの言うことは一理あるが…
「…だが、離婚して困るのはお前だろ?」
「どうして?」
「お前の容姿は良くて中の下、悪くて下の中といったところか。そんな見たくれの悪い女を異性として見てくれる男なんていない。恋人どころか結婚なんて夢のまた夢だろう。
女として絶望的なお前に同情して、俺が拾ってやったんだ。そこで、女としての喜びも教え与えてやった。
今では、俺という夫がいてショウという娘までいる。平凡だが幸せに暮らしているだろう?それ以上の幸せがどこにある?」
リュウキは、上から下までマナの姿を見て馬鹿にするようにフッと含み笑いしていた。
……ズキッ!
何度、リュウキのこんな姿を見てきては傷付いてきた事だろう。
加えて、マナとリュウキは“レス”なのに
リュウキはマナの他にもたくさんの家庭を持ち、恋人も大勢いる。一晩限りの美女なんて数えきれない。
今までそれを隠してきたくせに、バレたらバレたでそれの何が悪いと開き直る始末。
さらには、マナの容姿を馬鹿にしてきて見た目の悪いお前は異性としての魅力がないからエッチできないという。
だけど、見た目の悪いマナに同情して家族になり、妊娠、出産、子育てという女性の喜びを与えてやったのだから感謝しろとまで言っている。
そこまで言われたマナは…ストン!と、リュウキへの恋も愛情も家族愛も一気に消え失せ、むしろ、一緒の空間にいる事や声を聞くだけでも寒気がする程までに嫌いになってしまった。
リュウキの本音を聞いた瞬間一瞬の出来事であった。
千年の恋も冷めるとは、こういう事をいうのかな?と、マナは冷めた気持ちで考え
何故か離婚しないと頑ななリュウキを頷かせる為に
「リュウキには考えられない話だろうけど。私は、一人の人と永遠の愛を誓い合って、浮気も不倫もないのは当たり前でお互い愛しあって支えあえる結婚がしたかった。」
なんて、マナが言うと
「…ブハッ!なんだ、その漫画みたいなベタな話は?理想と現実は違うだろ?
一人だけを一途に愛してお互いに愛し愛されて支え合って?気持ち悪い考えだな。実際にはあり得ない夢物語だ。気色悪すぎてサブイボが出てしまったぞ?」
リュウキはマナの理想を聞いて本当に寒気が走ったらしくサブイボを掻きながら、マナの話が気持ち悪いと嘲笑っていた。
「もう、この地点で私達は夫婦としてだけじゃなくて家族としても終わってる。私は、浮気や不倫は絶対に許せないの。」
「お前、本当に綺麗事ばかり言うな。
女はお前だけじゃない。世の中には色んな美女がいるというのに、一人だけに自分の一生を捧げるなんて馬鹿馬鹿しい。色んな美女達がいるだけ、それぞれ違った体験ができる。それができないなんて人生損だろ。」
……ゾワッ!
「……………。」
「一度きりの人生だ、自分のやりたいように生きたいだろ。もちろん、法律やモラルに反する事は絶対に許されない。秩序を守りつつ、美女達と触れ合っているつもりだ。それに、こんな事は誰だってしている事だろ?」
…ゾワワ〜…!
「……………。」
「お前の考える現実味の欠片もない馬鹿げた理想論は、モテないドブス女の僻みにしか聞こえないな。」
と、リュウキがマナの事を鼻で笑った所で
「なら、あなたが笑う程、気色悪すぎてブサイクな女とは離婚しても構わないよね?あなたには、大勢の美女達がいるんだから。
私は、あなたの考え方や女性への言動が無理。それこそ、気色悪すぎて一緒にいるだけで気持ち悪いし声すら聞きたくないくらいに大嫌い。
紙切れ一枚の事とはいえ、あなたと夫婦って思うだけで絶対無理!本当に気持ち悪すぎて生理的にうけつけない。勘弁してほしいって思ってるから別れて!」
マナは、長年に渡りリュウキに溜まっていた鬱憤を晴らすかのように自分の気持ちを吐き出した。
すると、みるみるリュウキの表情は怒りに満ちてきて
「…ほう?俺の考え方が気色悪いだと?たかだか、他に女を作っただけで、誰にも見向きもされずモテないお前にそんな言われをされる覚えがないな。
お前、容姿だけでなく中身まで気色悪いな。分かった、離婚の事は承諾する。
だが、ショウの前だけでは仲のいい夫婦を演じろよ?繊細なショウが、俺達の異変に勘付けば桔梗が動く。そして、真実を知ればショウが悲しむ。
そして、深い傷を負わせる事になる。それだけは、絶対に避けたい。」
それを聞いて
「良かった。あなたは、夫として最低最悪のクズゲスの気色悪い男だけど、父親としては素敵だし素晴らしいって思う。ショウの前だけでは、いい夫婦の演技頑張りましょう?ボロ出さないように気をつけてね。」
マナは、そう言い残すと離婚届をテーブルに置いたままさっさとリビングから出て行った。
「お前こそ、ショウの前でボロ出すなよ?」
扉越しに、リュウキはマナに言葉をかけ怒りのまま離婚届にサインをして部下に城の教会へ提出して
リュウキとマナの離婚は無事成立したのであった。
ーーーそしてーーー
『…ほんに、愚かよのぉ。じゃから、忠告しておったのに。あの男と結婚しても幸せになどなれぬと。』
「うん。…けど、恋人、夫婦として幸せだった時もあったんだよ?ショウを孕って出産して…本当に幸せだった。まさか、離婚すると“この世界”に強制召喚されるなんて知らなかったけど、今はそれが凄くありがたいかな。」
『あの男が、ショウに会う為にマナを呼ぶまでここで“眠る”がよい。お前は“生きている”のだから、娘に会いに行ける。』
と、全身包帯と鎖で巻かれお札まみれの男は、自分の膝の上に眠る“もう一人のマナ”を愛おしそうに撫でていた。
「…もう一人の私は、娘に会えないの?」
『…うむ。もう既に、亡くなっておる故。』
「…そっか。どうして、もう一人の私はずっと眠っているの?」
『このマナが眠っているのは我を拒絶し、愛おしい男が自分を迎えに来ると信じて疑わないからじゃ。』
「……馬鹿だなぁ、“私”。裏切られて傷付くだけなのに。」
『………………。』
「…あれ?もしかして、あなたもリュウキと同じ価値観を持っているの?」
『……我を蔑ろにし存外な酷い扱いをされん限りは浮気や不倫などせんよ。じゃが、我も美しい者しか性的対象には見れんな。』
「…はあ。世の中の全ては容姿で決まっちゃうのかぁ〜。な〜んか、それ聞いちゃったら絶望しか無くて、どうでもいい気持ちになっちゃった。最低最悪な世の中。世の中は残酷でできてるんだね。」
『確かに世の中は残酷で溢れておるが、それだけではなかよ?世の中には、稀ではあるが温かい、慈愛などといった美しい世界も存在しておるよ。』
「…フーン。あんなに容姿が全てみたいな事言っておいて、そんな綺麗事言われても全然説得力ないよ?
ショウに会える日まで、おやすみー。あの男から連絡きたら起こしてねー。」
そう言って、マナは大樹になり深い眠りにつくのだった。
ーーーマナの異変ーーー
リュウキとマナの離婚が成立してから、リュウキの虫どころが悪くいつも機嫌が悪くピリピリとした雰囲気が常となっていた。
そして、仕事でまだまだ子供で学生であるハナと風雷に見せるには、あまりに悲惨かつ残酷な現場に行く仕事がありその時はリュウキは“団長代理”、マナは“副団長代理”としてリュウキとマナだとバレないよう変装をして現場へ赴く。
その事で仕事の依頼を頼むよう部下に頼んだのだが
「…もう少しありません、帝王様。奥様は
“ショウに会う時以外、あなたと会うつもりも依頼を受けるつもりもありません。”
と、メールがきたきり何度連絡しても何ら返答が返ってきません。」
と、いうので
あのくそブスッ!
何様のつもりだ?仕事だぞ?大勢の民達が苦しみもがいている時に、仕事を放棄するだと?
なんて、冷たく酷い女なんだ
自分の事しか考えられないとは人として最低もいい所だ
怒り心頭で、リュウキ自らもマナに連絡したが一切連絡はつかなく仕方がないので、ムカつきながらもわざわざマナが住んでいる別荘の一つへと赴いた。
…しかし、そこへ行ってみれば誰も住んでいる様子もなく換気もされず埃まみれになっている。
…ドクン…
「…どうなっているんだ?」
リュウキは、別荘の様子を見て一気に嫌な予感ばかりがして心が冷たく騒ついた。オブシディアンに、ショウの所にマナが行っていないかと聞くも来た形跡もないという。
なら、マナは一体何処へ行ったというのだろう?
風雷の魔道で、マナを探すも
「……叔母様の魔力の気配も気も一切感じられません。おそらく、この星にはいないと思われます。宇宙全体を見回しても叔母様の気配は感じ取れない。異空間とも考え、気配を窺っても何ら気配もない。
…これは、この世には居ないと考える他ないと思いますが“ショウには会いに行く”と、必要最小限のメールが届き、しかも会える状態である事から生きてはいるでしょう。」
と、どこかでマナが生きているという言葉に安堵するも、風雷の魔道でもマナの行方が分からない。
しかし、風雷は宇宙全体から一人の気配を感じ取れる事にも酷く驚いたが、異空間までも気配を探れるようになったとは…もはや天才を通り越して神的力を持っているとしか思えない。
我が甥っ子ながら、化け物じみた力や能力を持っているな
と、リュウキは風雷の能力や力に驚きを隠せなかった。
何処を探しても見つからないマナの事は、どうしようもないので当てにするのはやめて
今回は、自分と上級魔道士数十名を引き連れ現場へ赴いた。そこで、いつもなら苦戦しなくていい所で大苦戦し困難を極め、この程度の現場ならばさほど疲れもなく数日で現場を治め帰還する事ができていたというのに
今回…酷く長引き半年以上にわたる激闘の末、ようやくこの場を治める事ができた。死者を出す事はなかったものの負傷者の数があまりに多すぎて城の病院だけでは足りず、多くの一般病院へと兵達が送り込まれる事態となってしまった。
そこで思う事は、まだまだ何事も青く未熟であり、まだ子供だというのに、ハナと風雷は団長、副団長としていかに素晴らしい人材かという事。目を見開き何度も見返す程の実績を出し続けている英雄と名前が上がりはじめている二人だ。
そんな二人は、今だけの活躍か、このまま素晴らしい実績を積み重ねていくか…それ以上のとんでもない逸材と化すか将来が楽しみである。
それも、そうと今回の事で分かったのはハナや風雷が、いかに迅速かつ素早く現場を治める事ができている事に感心せざるを得ないし、やはり二人は天才の種類は違えど天才であったという事だ。素晴らしい、凄いと絶賛の声をあげたいくらいだ。
この二人を選んだ自分を褒めたいくらいだ。
しかしだ。今回、それだけでなく考える事があった。
…悔しくて認めたくはないが…
いかにマナの力に頼り、助けられてきたかという事。
どうしようも、まだハナと風雷に出張させられない現場や会談なども多い。その時は、他の誰にも任せられないので帝王自らが正体を隠し、現場や会談へ赴く。
そして、ハナや風雷が団長、副団長として何かに赴く時は、みんなが団長、副団長が動いたぞとどよめく程までに非常事態な時くらいだ。
彼らのそれ以外の仕事といえば、事務関係はもちろんの事。身分を隠し変装をして、城内の兵達の様子やメイド、大工、外仕事をしている植木職人などなど不審な動きをしていないか内部調査が主な仕事だ。
事件があったり、何か悪い事が起こりそうな時は、民に扮して調査をして民達の安全も守っている。その合間に、体と精神を鍛える訓練は怠らない。
なので、かなり多忙である。
自分もかなり多忙ではあるが、ハナと風雷も学生もしながらなので多忙である。
ハナ達が学生でなくなり本業に本腰を置けば、多忙がかなりの多忙に変わり逃げ出したくなるような事ばかりが多くなるだろうが、それに耐え頑張ってもらわなければ困る。
そして、一刻も早く学校を卒業して我々を助けてほしいものだ。ハナが、高校を卒業してからだから…あと、約4年か。…長いな。
と、マナの助けが無くなった事により、これからは酷く不安定で困難ばかりが続くであろう事は安易に予想できる。なにせ、今回の現場で嫌というほど実感させられたのだから。
だから、マナの機嫌をとり依頼を引き受けてもらわなければ、リュウキだけでなく自分の所の選りすぐりな優秀者達や各国の優秀者達も限界を迎え世界各国が悲惨な状況に陥る事が目に見えている。
せめて、ハナや風雷が高校を卒業するまでは、どうしてもマナの力が必要だ。
桔梗とも思うだろうが、桔梗だって風雷と同い年の子供だ。それに、ショウが関係なければ微塵も動かない。
まさか、大事な愛娘を人質に桔梗を使うなんて事はできるはずもない。
…と、城内の特別病室で怪我の手当を受けながら、リュウキは悶々とそんな事を考えていた。
…マナさえいれば…
しかし、何故今になって離婚なんて言い出してきたんだ?
…クソッ!
いくら考えたって、俺達は離婚して今はもう赤の他人だ
俺の怪我が治り次第、ショウの所へ帰るからその時にマナに依頼はしっかり受けてほしい趣旨を伝えるか
マナに会える方法は、ショウに会いに行く時だけだからな
と、リュウキはむしゃくしゃした気持ちで、変装をして今、新たな命が生まれたというリュウキの妻の元へと向かったのであった。
そこで、衝撃的展開がリュウキを待っているのだが…

