「姫歌ちゃんは悪くない!」
至近距離から飛んできた大声に驚いて、私の瞼がガッと開く。
でも次の瞬間、見開いた私の目から涙がこぼれたのは、直月君が叫んだからじゃない。
――あれは。
目の前に立つ直月君のずっと後ろ。
私たちから離れたところにそびえる、見事なまでに色づいたイチョウの木の下。
女子生徒に優しくに微笑む絢人先生が、私の瞳に飛び込んできたせいなんだ。
先生の袖を掴んで、大人っぽい笑顔を煌めかせているあの子。
学園のマドンナって呼ばれている子だ。
圧倒的投票数で、2年連続ミスコン優勝者。
名前は……そう!
稲森麗さん。



