「そういうわけで、あの、お父様、ヒース様と婚約したいんですけど」
「ちょっと待ってくれんか!?」

 翌日、朝食の席で突然ナターリエが爆弾宣言をして、ハーバー伯爵邸の人々はみな驚きを隠せない。正直、ヒースも驚きを隠せない。朝食を終えてから自分が声をあげようと思っていたのに、一体何がどうしてこうなった、と慌てて咳き込む。

「んぐっ……」
「ヒース様、大丈夫ですか?」
「う、うっ、大丈夫だ……だが、大丈夫じゃない。ナターリエ嬢。その話は、食事時の話としてはどうかと思うんだが……」

「だって、食事を終えたら今日はお兄様はアカデミーの後輩を町に連れて行かれるとお聞きしておりましたし、カタリナもガートン侯爵邸でのお茶会のため用意をしますもの。お父様とお母様だけでしたらそれでも良いのですが、折角なので……」

 それへは、兄のマルロが苦笑いを見せ、話を進めた。静かではあるが、この長男は案外としっかりしている様子だ。

「気を使ってくれたということだね。ありがとう。そうか。ヒース殿は、それで、妹との婚約をしたいということで良いのでしょうか?」

「はい。突然の話であることは重々承知の上なのですが。ナターリエ嬢と結婚をしたいと思っております。お許しいただければと思います」

 ハーバー伯爵夫妻は顔を見合わせ、それから伯爵が肩を落とす。

「断る理由がないのだが、リントナー家に嫁ぐとなると遠すぎるな……」
「お父様、大丈夫です。わたし、わたし一人でも飛竜に乗れるようにしますので、そうしたら!」

 それへヒースは「うっ」と呻く。やはり彼はナターリエを一人で飛竜に乗せることにはあまり賛成をしないようだった。

「だ、大丈夫です。その、今からすぐに結婚をするわけでもありませんし、その、月に一度はナターリエをこちらにお送りしますし……」
「本当かね!?」

 そう言う伯爵に、夫人が笑いながら

「第二王子に婚約破棄をされてしまった、ということになっているナターリエでも良いだなんて、それはもう喜ばしいことですわ。それに、リントナー家に入るとなれば、魔獣研究所にナターリエは入らなくても良いということになりますものね?」

 とあっさりと答える。

「はい。その、正直な話魔獣鑑定のスキルはリントナー家にとっては非常にありがたいのです。魔獣の調査が順調に進むということは、その分国境の守りを強化出来ますし。ですが、そのスキルがなくても、ナターリエ嬢と婚約をしたいと思います」

 そのヒースの言葉を聞いて、妹のカタリナが嬉しそうに拍手をする。

「お姉様、おめでとう!」
「ありがとう!」

 まだ、正式に返事をしていないぞ、とハーバー伯爵は言おうとしたが、あっという間に室内はお祝いムードに包まれた。

「うう……」

 かすかに呻くハーバー伯爵を見ながら、ヒースは「お察しします……!」と思うのだった。