湯浴みをして、夕食をとって、ヒースとナターリエはすっかりくつろいだ。ヒースの体格が良すぎて、着替えとして用意をしてもらった服が入らなかったハプニングがあったが、急遽仕立て屋に出来あいのシャツ類を持ってこさせて対応をした。
彼は「今日着て来た服をそのまま着れば良いし、眠る時は脱ぐだけで良い」と言っていたが、ハーバー伯爵がそれを許さなかった。むしろナターリエまで「そうですよねぇ」とヒースに同意をしたのだから、よろしくない。感化されている、とハーバー伯爵は頭を抱えた。
「ヒース様」
ナターリエの世話を焼くのが久しぶり、と女中たちが湯浴み後にもわざわざ新品の室内着を用意をした。柔らかなピンク色のドレスを身に纏っているナターリエは、ヒースの部屋に現れた。
「何かお困りになっていませんか。大丈夫ですか」
「ああ。大丈夫だ。気にかけてくれてありがとう」
ハーバー伯爵邸の客室はいつ誰が来ても良いほど整っている。よく親族が泊りに来るのだが、まったく血が繋がっていない来客は久しぶりだ。粗相がないかと、ナターリエはなんとなくもじもじとして気がかりだ。
ヒースは紺色のトラウザーズに新品の柔らかいシャツを気楽に羽織っていたが、それはどちらも結構高級なものだ。ハーバー伯爵が、辺境伯子息に対してそれなりの見栄を張った様子がわかって、ナターリエは少しくすりと笑う。
「良ければ、ちょっと話さないか」
「はい」
客室にはカウチやソファがある。ハーバー伯爵邸の客室は、長期滞在が出来るようになっており、結構豪華だ。それも、親族が家族を連れて宿泊に来るからなのだが、ヒースにはいささか広すぎる様子だ。
「あっ、このお部屋、バルコニーがあるんですよ」
「うん? ああ、そうだな?」
「今日はたくさん星が出ています。リントナー領に比べたら、夜の暗さは足りないのですが。それから、バルコニーから庭園を見下ろせるんですよ」
そう言ってナターリエは大窓を開け、バルコニーに出て行った。ヒースは小さく微笑んでその後をついていく。
「ほら。夜のお庭です。我が家の庭園も、そう悪くない……と言っても、夜だからわかりませんね?」
「そうだな。明日の朝なら、よくわかるだろうが」
バルコニーから体を乗り出して庭園を覗き込むナターリエ。その横にヒースは立つ。
「ヒース様」
「うん?」
「あの、陛下の前で、その、話してくださったこと……あれは、本当でしょうか」
ヒースの鼓動が跳ねる。が、それを必死に抑えようとして「ああ、本当だ」と答えた。
「では、あの、わたしがお願いをしたら、その……ヒース様の婚約者にしていただけるんでしょうか?」
「……!」
恥ずかしくて、ヒースの顔を見られない。ナターリエは、薄暗くあまり見えない庭園に視線を落として続けた。
「そのう、ディーン様の……第二王子との婚約破棄から、そう日が経っていませんが……ですから、その、人には色々言われるかもしれませんが……ご迷惑をおかけするかもしれませんが……」
「ナターリエ嬢」
彼女の言葉を遮るヒースの声音は優しい。恐る恐るナターリエは、隣に立っているヒースを見上げた。
彼は「今日着て来た服をそのまま着れば良いし、眠る時は脱ぐだけで良い」と言っていたが、ハーバー伯爵がそれを許さなかった。むしろナターリエまで「そうですよねぇ」とヒースに同意をしたのだから、よろしくない。感化されている、とハーバー伯爵は頭を抱えた。
「ヒース様」
ナターリエの世話を焼くのが久しぶり、と女中たちが湯浴み後にもわざわざ新品の室内着を用意をした。柔らかなピンク色のドレスを身に纏っているナターリエは、ヒースの部屋に現れた。
「何かお困りになっていませんか。大丈夫ですか」
「ああ。大丈夫だ。気にかけてくれてありがとう」
ハーバー伯爵邸の客室はいつ誰が来ても良いほど整っている。よく親族が泊りに来るのだが、まったく血が繋がっていない来客は久しぶりだ。粗相がないかと、ナターリエはなんとなくもじもじとして気がかりだ。
ヒースは紺色のトラウザーズに新品の柔らかいシャツを気楽に羽織っていたが、それはどちらも結構高級なものだ。ハーバー伯爵が、辺境伯子息に対してそれなりの見栄を張った様子がわかって、ナターリエは少しくすりと笑う。
「良ければ、ちょっと話さないか」
「はい」
客室にはカウチやソファがある。ハーバー伯爵邸の客室は、長期滞在が出来るようになっており、結構豪華だ。それも、親族が家族を連れて宿泊に来るからなのだが、ヒースにはいささか広すぎる様子だ。
「あっ、このお部屋、バルコニーがあるんですよ」
「うん? ああ、そうだな?」
「今日はたくさん星が出ています。リントナー領に比べたら、夜の暗さは足りないのですが。それから、バルコニーから庭園を見下ろせるんですよ」
そう言ってナターリエは大窓を開け、バルコニーに出て行った。ヒースは小さく微笑んでその後をついていく。
「ほら。夜のお庭です。我が家の庭園も、そう悪くない……と言っても、夜だからわかりませんね?」
「そうだな。明日の朝なら、よくわかるだろうが」
バルコニーから体を乗り出して庭園を覗き込むナターリエ。その横にヒースは立つ。
「ヒース様」
「うん?」
「あの、陛下の前で、その、話してくださったこと……あれは、本当でしょうか」
ヒースの鼓動が跳ねる。が、それを必死に抑えようとして「ああ、本当だ」と答えた。
「では、あの、わたしがお願いをしたら、その……ヒース様の婚約者にしていただけるんでしょうか?」
「……!」
恥ずかしくて、ヒースの顔を見られない。ナターリエは、薄暗くあまり見えない庭園に視線を落として続けた。
「そのう、ディーン様の……第二王子との婚約破棄から、そう日が経っていませんが……ですから、その、人には色々言われるかもしれませんが……ご迷惑をおかけするかもしれませんが……」
「ナターリエ嬢」
彼女の言葉を遮るヒースの声音は優しい。恐る恐るナターリエは、隣に立っているヒースを見上げた。