魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う

 さて、重ねてになるが、スキル鑑定士には大きな制約がある。
 みだりに人を鑑定してはいけないため、国王と神官立ち会いのもと、誓約を行う。
 基本的に王城で王の命がある場合のみスキル鑑定を行うこと。個人で行う時は正当な理由であると証明出来る立会人をもうけること。そして、どうしても不測の事態が起きて必要に迫られた時は、ひとつきに3度までは許される。

 ゆえに、スキル鑑定士の多くは公に当人がスキル持ちだとは知らされない。
 スキル鑑定を行う場では、鑑定士は姿を見せないことがほとんどだ。よって、魔獣鑑定士になって、スキル鑑定のスキルを封じることで、初めてその名を人々に言えるというわけだ。

 魔獣の鑑定は人の鑑定よりも更に難しいし、何より「スキル」に限らない。
 そして、危険を伴う立場になるため誰もがなりたがらない。
 その上、現存する魔獣に対する知識も必要だ。魔獣の名をまず知らなければいけないし、魔獣のスキルは多岐に及ぶことや、時にはその魔獣の生態を知らなければ「スキル名」がわかっても効果を理解出来ないこともある。
 だからこそ、魔獣の知識がない者は魔獣鑑定士にはなることが出来ない。スキルさえあれば良いというものではないのだ。

 よって、ナターリエは数年前から、王城近くにある貴族のみ使用が許された図書館で魔獣に関する書物を読み漁り、それでもまだ足りないと、今は王城内の図書館で古い文献と格闘しているのだ。今日もまた、彼女は図書館に来ている。

(とはいえ、実施試験はちょっとドキドキするわねぇ~! うふふ、ついに、魔獣たちに会えるなんて、嬉しいわ……!)

 実施試験は魔獣研究所で保護をしている魔獣を使うらしいが、そこに出入りを出来る資格を彼女は持っていない。よって、どの魔獣も彼女にとっては初めてのものだ。

(っていうか、わたしが鑑定をして、それが正解かどうかわかるのかしら? 魔獣鑑定士が魔獣研究所に、今はちゃんといらっしゃるのかしら……)

 と、考えても仕方がないことを考えながらページをめくる。彼女が読んでいる文献には、古の魔獣について書いてあり、それらは今は『古代種』と呼ばれて絶滅しているという。だが、魔獣研究所にもしや子孫がいるかもしれない、と念には念を入れて復習をしているところだ。

「ああ、竜も、この文献が出た頃は古代種だったのね……」

 その文献には多くの竜のことが書かれている。絶滅種だと言われていた竜が、実はそうではなかったとわかったのは50年前。そこから人間の手で増やされて、今のヴィルロット王国の数カ所では飛竜騎士団が結成をされているほどだ。

「そうだわ! 竜! 忘れていた!」

(明日のグローレン子爵主催のパーティーは面倒だからぎりぎりでお断りしたかったけど、子爵が小型の竜を飼い慣らしていると聞いているわ。ちょっと声をかけてお話をしたら、本物の竜を見せてもらえないかしら……)

 そうだ。そうしよう。魔獣鑑定士の実地前に、それで気分をあげよう、と思う。

「見せてもらえますように……」

 なんだかんだ彼女は魔獣が好きなのだ。竜と会えることを考えて頬が緩む。文献に目を落として、竜の種族についてほわほわとあれこれ想像しているうちに、どんどん時間は経過してしまった。