「スキル鑑定の勉強って、全部暗記なんです」

 と、ヒースもわかっていたことを言うナターリエ。

「でも、本当に覚えるだけで、その中で役に立つのはほんの一握りです。それは、わたしが鑑定をした人の分だけ。でも、やっぱりたまに見えない人がいて……それが、自分の勉強不足なのか、知られていないスキルなのかはわからないのですが……100覚えても、そのうちの1、いや、それより少ないかもしれませんね……覚えても覚えても、鑑定しなければ忘れてしまうんですよね……だから、ずうっと、覚え直さなくちゃいけなくて……」
「ああ、そうか」
「わからなくても、見えればよかったのですが。でも、わたしのスキル鑑定は、覚えなければ見えないものなので……」

 きっと、たくさん学んだのだ。覚えて、覚えて、覚えて。忘れて、覚えて、覚えて、忘れて、やっぱり覚えて、と繰り返して。だが、その覚えたものは「覚えただけ」で、それに該当するスキルを所持する者と一生出会わないかもしれないのに。だから、覚えても忘れてしまう。だが、覚えていなければ見られない。繰り返し繰り返し、スキルを覚え直すのだと言う。

「なので、わたしももう、嫌になりまして。途中から魔獣の書物を読んでいましたし、ディーン様には『出来ていません』ってお答えして、不興を買っておりました……」

 そうなると、話はお互い様、ということにもなるのか……とヒースは唸った。

「だって、スキル鑑定のスキルのせいでディーン様と婚約をしているのに、スキル鑑定の勉強が出来ないのはおかしいですし、王族の方々が幼少の頃から学んでいることを14歳頃から急に覚えろと言われましても……うう……でも、わかっています……わたしが、その、本当に勉強が出来なかったのは……」

 それは若干言い訳がましかったが、ヒースは「まあ、それはそうだ」と思う。

「と言っても、もう終わったことですし。ただ、もう少しうまくやれたかもしれないのになって、思わなくもないです」

 少しだけ寂しそうに言うナターリエ。

「本当に、なんだか、うまくいかなかったんです」

 ヒースは、自分の前に乗っているナターリエの体を支えつつも、手で彼女の頭を撫でた。

「よく、頑張ったな」
「……はい」

 ナターリエはそれから口を閉ざした。ヒースも、それ以上彼女を追及しなかった。彼女が言うように、第二王子ディーンも、意地悪をしていたわけではなく、彼は彼で王族に相応しい女性にナターリエになって欲しかっただけなのかもしれない。考えれば、第二王子はちょっと子供っぽかったとリントナー辺境伯は言っていた。その子供っぽい考えでは、もしかしたら「それ」が精いっぱいだったのかもしれない、とも。