さて、ナターリエはリューカーンの谷から戻ってきて、ゆっくりと一日休みをとった。それはもう、だらだらと、ゆっくりと。ユッテからは「そもそも伯爵令嬢というものは、だらだらとゆったりとお過ごしになるものですよ」と言われ、考えれば妹のカタリナは確かにそうだったな……と思う。
「ナターリエ嬢、いるか?」
夕方近く、もうすぐ夕食、という時刻にヒースがやって来た。
「どうなさいました?」
「明日、町に行って、それから、リントナー家に行くが」
「はい」
「一緒にどうだ?」
ナターリエはぱちぱちと瞬きをする。それから「えっと……」と困惑の声を振り絞った。
リントナー家に行く、ということは、第二王子を軟禁、いや、お預かりをしていた場所に行くと言うことで、その話が出るのではないかと彼女は考えた。と、その様子を見たヒースは、はっとなり
「ああ、違う違う。第二王子関係ではなくてだな。もしよかったら、リントナー家にある、魔獣に関する資料を見に行かないか、という話だ」
「えっ」
やはり、魔獣関係への食いつきは違う。目を輝かせるナターリエに「どうだ?」と尋ねると「はい! 是非!」と、次は躊躇も何もなく前のめりだ。
「そう長くは飛竜には乗らないので、それなりに動きやすいドレスで行けると良いかな……? いや、気にしないかな……」
「あっ、そうですね。リントナー家にお伺いするのであれば、ドレスでなければ。ご挨拶もしませんといけませんし。わかりました!」
大喜びのナターリエに、ヒースは「あ、ああ」と頷いて「では」と部屋から出た。ナターリエは満面の笑みだ。
「まあ、まあ、リントナー家の資料ですって。楽しみだわ……」
「ほんと、お嬢様って……」
「なぁに、ユッテ」
「いえ、なんでもございません」
そのユッテに、軽く唇を突き出して、不満そうに話すナターリエ。
「でもね、わたしだって少しは悩みがあるのよ。第二王子が国境を越えようとして……それを、リントナー家で保護をしたんですって」
「えっ、そうなんですか!?」
「そうなの。だからね、その、ヒース様のご実家に行くとなると、ちょっとだけ……こう、緊張してしまうというか……第二王子から、何か、その……よろしくないことをお聞きしてないのかなとかね……ああ、これが婚約破棄をされた令嬢かと……思われたら……いえ、それは思われるわよね。事実ですもの」
そう言って、少ししょんぼりするナターリエ。ユッテは慌てて
「大丈夫ですよ、お嬢様。きっと、何かあっても、ヒース様が守ってくださいますし!」
と、わけがわからないことを言い出した。だが、そのわけがわからないことに、ナターリエもまた
「そうよね。ヒース様が、守ってくださる……わよ、ね」
と返す。返してから、しみじみと考えるナターリエ。
(ヒース様に守っていただいたためしは別にないというか、実際にピンチになったことなんてそもそもないけれど、何故か、守っていただけると、わたし本当に思っているんだわ……)
そわっと胸の奥が不思議と温かい。それが一体何なのかはわからなかったが、ナターリエは「そうよね」とぽつりと呟いた。
「ナターリエ嬢、いるか?」
夕方近く、もうすぐ夕食、という時刻にヒースがやって来た。
「どうなさいました?」
「明日、町に行って、それから、リントナー家に行くが」
「はい」
「一緒にどうだ?」
ナターリエはぱちぱちと瞬きをする。それから「えっと……」と困惑の声を振り絞った。
リントナー家に行く、ということは、第二王子を軟禁、いや、お預かりをしていた場所に行くと言うことで、その話が出るのではないかと彼女は考えた。と、その様子を見たヒースは、はっとなり
「ああ、違う違う。第二王子関係ではなくてだな。もしよかったら、リントナー家にある、魔獣に関する資料を見に行かないか、という話だ」
「えっ」
やはり、魔獣関係への食いつきは違う。目を輝かせるナターリエに「どうだ?」と尋ねると「はい! 是非!」と、次は躊躇も何もなく前のめりだ。
「そう長くは飛竜には乗らないので、それなりに動きやすいドレスで行けると良いかな……? いや、気にしないかな……」
「あっ、そうですね。リントナー家にお伺いするのであれば、ドレスでなければ。ご挨拶もしませんといけませんし。わかりました!」
大喜びのナターリエに、ヒースは「あ、ああ」と頷いて「では」と部屋から出た。ナターリエは満面の笑みだ。
「まあ、まあ、リントナー家の資料ですって。楽しみだわ……」
「ほんと、お嬢様って……」
「なぁに、ユッテ」
「いえ、なんでもございません」
そのユッテに、軽く唇を突き出して、不満そうに話すナターリエ。
「でもね、わたしだって少しは悩みがあるのよ。第二王子が国境を越えようとして……それを、リントナー家で保護をしたんですって」
「えっ、そうなんですか!?」
「そうなの。だからね、その、ヒース様のご実家に行くとなると、ちょっとだけ……こう、緊張してしまうというか……第二王子から、何か、その……よろしくないことをお聞きしてないのかなとかね……ああ、これが婚約破棄をされた令嬢かと……思われたら……いえ、それは思われるわよね。事実ですもの」
そう言って、少ししょんぼりするナターリエ。ユッテは慌てて
「大丈夫ですよ、お嬢様。きっと、何かあっても、ヒース様が守ってくださいますし!」
と、わけがわからないことを言い出した。だが、そのわけがわからないことに、ナターリエもまた
「そうよね。ヒース様が、守ってくださる……わよ、ね」
と返す。返してから、しみじみと考えるナターリエ。
(ヒース様に守っていただいたためしは別にないというか、実際にピンチになったことなんてそもそもないけれど、何故か、守っていただけると、わたし本当に思っているんだわ……)
そわっと胸の奥が不思議と温かい。それが一体何なのかはわからなかったが、ナターリエは「そうよね」とぽつりと呟いた。

