そんなこんなで、2日後、ナターリエは魔獣鑑定士の筆記試験を受けた。王城にあるこれまた別棟でそれは行われ、案外広い部屋に、ナターリエがぽつんと一人だけ。考えれば、スキル鑑定の派生スキルなのだから、その試験も10年に一度ほど。魔獣研究所で働いている職員の多くは、鑑定スキルを所持していないのだし。
(筆記試験を作るのも、人生で一度や二度程度なのでしょうね。というか、もしかしたら前回と同じ試験内容だとか、そんなことは……)
そんなことは、あった。勿論、前回の試験内容をナターリエは知らなかったが――前回その試験を受けた者と面識もなければ情報も開示されないため――それほど魔獣鑑定士になろうという人物は少ないのだ。
「ハーバー伯爵令嬢は筆記試験に合格をしました。続いて実地試験を行ないますので、後にお知らせをいたします」
「ありがとうございます。お待ちしております」
試験官から資料を受け取ると、ナターリエは一礼ののち、退出した。感情の高ぶりが抑えきれず、王城の通路を歩く足取りがついつい早くなってしまう。
(やったわ! あとは実施試験をクリアすれば……)
「魔獣鑑定士に合格できる……!」
いけない、高揚してついつい声が出てしまった。伯爵令嬢にあるまじき行いだと慌てて周囲を見渡すが、幸運なことにその通路には誰もいない。ひっきりなしに人が行き交う王城なのに、今日の自分は「もっている」などと更に浮かれ気分でエントランスへ向かう。
「ユッテ、お待たせ」
王城のエントランスを抜けて外に出れば、入城を許されなかった者のために待合室がある。そこにはユッテが待っていた。
「いかがでしたか?」
「合格したわ! 後は実施試験だけなのよ。うふふ」
「まあ、それはよかったですね。お屋敷に戻って、伯爵様と奥様にご報告をしませんと」
「その前に、カリテのお店でケーキを食べましょう~!」
「はい!」
伯爵令嬢ともあろう者が、城下町でケーキなぞ……とハーバー伯爵には難しい顔をされるが、今日は無礼講だ。2人は喜び合って、馬車に向かう。
「ああ~、やっと、やっと魔獣たちの鑑定を出来るようになるなんて。これでわたしの完璧な人生設計に一つ近付いたものだわ……」
そのナターリエの言葉に、そうっと、そうっとユッテは突っ込みをいれる。
「完璧な人生設計とは、ちょっと違う気が……」
完璧な人生設計ならば、婚約者に逃げられたりはしない。そういえば、第二王子については、国王が婚約破棄を認め、隣国に嫁いでもいいから一旦王城に戻れ、という話になったようだった。それすら、もしやナターリエには「過去のこと」で、何も自分には関係がないと思っているのだろうか……と、ユッテは言いたいのだ。
「ユッテ、何か言った?」
「何も申しておりません」
何も申していないとユッテは言うが、当然のようにナターリエの耳には彼女の言葉が聞こえていた。
「だって、仕方がないじゃない? まず、わたしが第二王子と婚約をしていたのはスキル鑑定のスキルのせいだし、それに……第二王子が……駆け落ちまがいのことをしなければ……ううん、逆に婚約破棄をしていただけて、ありがたいと思っているのよ」
「お嬢様がスキル鑑定のスキルを持っていることを、人に知らせることが出来ませんからねぇ……王族との婚約も止む無しでしたから……」
「ええ。でも、第二王子はたしでは不服だったみたいですものね。勿論、わかっているのよ。わたしが王子に合わせたのではなく、王子がわたしに合わせたのですもの。そりゃあ、お嫌に決まっているわ」
思い出せば、婚約破棄は少しだけ悲しい。だが、少しだけだ。逆に、第二王子に同情をする。だって、第二王子はほぼ被害者だとナターリエは思う。よく知りもしない自分と婚約させられて、申し訳なかったと思う。だが、ナターリエはナターリエで「わたしも好きでスキル鑑定士になったわけではないし、こっちも被害者なのだ」と少しばかりは思っている。
「お嬢様、カリテのお店では何を食べるんですか?」
話を切り替え、ユッテはそう言いながら馬車のボックスのドアを開けた。
「今の限定品って何かしら? 楽しみね!」
その心遣いに気づいて、ナターリエはユッテに笑いかけながら馬車に乗り込むのだった。
(筆記試験を作るのも、人生で一度や二度程度なのでしょうね。というか、もしかしたら前回と同じ試験内容だとか、そんなことは……)
そんなことは、あった。勿論、前回の試験内容をナターリエは知らなかったが――前回その試験を受けた者と面識もなければ情報も開示されないため――それほど魔獣鑑定士になろうという人物は少ないのだ。
「ハーバー伯爵令嬢は筆記試験に合格をしました。続いて実地試験を行ないますので、後にお知らせをいたします」
「ありがとうございます。お待ちしております」
試験官から資料を受け取ると、ナターリエは一礼ののち、退出した。感情の高ぶりが抑えきれず、王城の通路を歩く足取りがついつい早くなってしまう。
(やったわ! あとは実施試験をクリアすれば……)
「魔獣鑑定士に合格できる……!」
いけない、高揚してついつい声が出てしまった。伯爵令嬢にあるまじき行いだと慌てて周囲を見渡すが、幸運なことにその通路には誰もいない。ひっきりなしに人が行き交う王城なのに、今日の自分は「もっている」などと更に浮かれ気分でエントランスへ向かう。
「ユッテ、お待たせ」
王城のエントランスを抜けて外に出れば、入城を許されなかった者のために待合室がある。そこにはユッテが待っていた。
「いかがでしたか?」
「合格したわ! 後は実施試験だけなのよ。うふふ」
「まあ、それはよかったですね。お屋敷に戻って、伯爵様と奥様にご報告をしませんと」
「その前に、カリテのお店でケーキを食べましょう~!」
「はい!」
伯爵令嬢ともあろう者が、城下町でケーキなぞ……とハーバー伯爵には難しい顔をされるが、今日は無礼講だ。2人は喜び合って、馬車に向かう。
「ああ~、やっと、やっと魔獣たちの鑑定を出来るようになるなんて。これでわたしの完璧な人生設計に一つ近付いたものだわ……」
そのナターリエの言葉に、そうっと、そうっとユッテは突っ込みをいれる。
「完璧な人生設計とは、ちょっと違う気が……」
完璧な人生設計ならば、婚約者に逃げられたりはしない。そういえば、第二王子については、国王が婚約破棄を認め、隣国に嫁いでもいいから一旦王城に戻れ、という話になったようだった。それすら、もしやナターリエには「過去のこと」で、何も自分には関係がないと思っているのだろうか……と、ユッテは言いたいのだ。
「ユッテ、何か言った?」
「何も申しておりません」
何も申していないとユッテは言うが、当然のようにナターリエの耳には彼女の言葉が聞こえていた。
「だって、仕方がないじゃない? まず、わたしが第二王子と婚約をしていたのはスキル鑑定のスキルのせいだし、それに……第二王子が……駆け落ちまがいのことをしなければ……ううん、逆に婚約破棄をしていただけて、ありがたいと思っているのよ」
「お嬢様がスキル鑑定のスキルを持っていることを、人に知らせることが出来ませんからねぇ……王族との婚約も止む無しでしたから……」
「ええ。でも、第二王子はたしでは不服だったみたいですものね。勿論、わかっているのよ。わたしが王子に合わせたのではなく、王子がわたしに合わせたのですもの。そりゃあ、お嫌に決まっているわ」
思い出せば、婚約破棄は少しだけ悲しい。だが、少しだけだ。逆に、第二王子に同情をする。だって、第二王子はほぼ被害者だとナターリエは思う。よく知りもしない自分と婚約させられて、申し訳なかったと思う。だが、ナターリエはナターリエで「わたしも好きでスキル鑑定士になったわけではないし、こっちも被害者なのだ」と少しばかりは思っている。
「お嬢様、カリテのお店では何を食べるんですか?」
話を切り替え、ユッテはそう言いながら馬車のボックスのドアを開けた。
「今の限定品って何かしら? 楽しみね!」
その心遣いに気づいて、ナターリエはユッテに笑いかけながら馬車に乗り込むのだった。

