例の谷間付近。共に来た他の飛竜は上がれない高さ。ヒースは他の4人に待機を命じて、ちょうど良い岩場に留まるように指示をした。危険はあるが、ナターリエには共に行ってもらう方が良いだろうということで、ヒースはいささか緊張をしながら飛んだ。
「いけるかな……おい、お前、本当にどれぐらい飛ぶんだ? 頼むぞ」
ヒースの飛竜も、高度飛行のスキルはある。が、その谷を越えるほど飛んだことはそれまでなかったのだと言う。
手綱を握り、高度をあげる合図を送る。ぐっと高度をあげた飛竜に、更に同じく合図を送ると、突然、ぐん、と鋭角に空を昇る。あまりに急なことだったので、ナターリエは必死にしがみついた。
「おお、お、お前、こんなに飛べたのか……!?」
「わああああああ!」
予想外に高く飛び、他の飛竜が越えられない山岳地帯を悠々と羽ばたく飛竜。高度をあげるのはほんの少しの間で、それから安定をして高く飛んでいたが、ナターリエがハッとする。
「あっ、ヒース様、これっ……!」
「うん?」
「高度飛行、そんなに長くは持ちません」
「何?」
「スキルの時間制限、5分が限界かと……!」
「案外短いな!?」
ヒースは山岳地帯の高い部分にぽっかりと空いている谷間を覗いた。ごつごつとした岩が左右から交互に出ており、下の方が見えない。が、きっとここを落ちたのだろうと推測をした。
「下降するぞ」
「はい!」
ゆっくりと、翼がひっかからないようにと気を付けて降りると、すぐにぱあっと谷間が開けた。下を見て、ナターリエが声をあげる。
「あっ……あそこに……」
「ゲオルグの飛竜と……それから……!?」
「!」
谷の下に落ちて倒れている飛竜と。
その飛竜の三倍以上の大きさの、地竜が二体。鱗の色は鈍色で、尻尾は長い。飛ばないだろうが翼をもっていて、それは背に畳んでいる。
「あれは……幻の地竜、リューカーン……!」
ナターリエの声が裏返る。鼓動が高鳴るが、それは憧れの魔獣をみつけたからでもあり、その竜に恐怖を感じているからでもある。上空で旋回をして様子を見ると、リューカーンはぐるりと顔を上にあげ、ヒースの飛竜を視界に入れた。
「いかん。落下しても大丈夫な距離に降りなければ……」
リューカーンの物理攻撃の範囲外、と勝手に仮定をした距離を保ち、ヒースの飛竜は高度を下げる。ゲオルグの飛竜は案外とリューカーンに近く落ちていて、そこまでいくとリューカーンの攻撃範囲に入るのではないかと思えた。
「攻撃は、するだろうか」
「リューカーンは穏やかな竜なはずですが……」
「だが、鳴き声でやられるのだろう?」
落下したゲオルグの竜が聴いた「精神攻撃」を乗せた鳴き声を出すのではないか、と思う。一応、魔法防御のシールドは張って来たが、それは過信が出来ない。
「どちらにしても、この竜の高度飛行のスキルは回復するのに少し時間がかかりますし、飛んでいれば、回復に更に時間がかかります。一度、下りませんか」
「そうか」
着陸すべきかどうかと考えあぐねて、飛竜を谷間の途中で旋回をさせていたヒース。が、そのヒースとナターリエに、声なき声が届いた。
『人の子か。ここまで、降りて来るが良い』
「おっ!?」
「今のは……? リューカーン……?」
『ふむ。その名で呼ばれることなぞ、100年、200年ぶりのことか。攻撃はしない。お前の仲間を助けに来たのだろう? こちらの不手際で攻撃をしてしまった。悪かったな』
それは、大きな地竜から発された念話のようなものだった。
「いけるかな……おい、お前、本当にどれぐらい飛ぶんだ? 頼むぞ」
ヒースの飛竜も、高度飛行のスキルはある。が、その谷を越えるほど飛んだことはそれまでなかったのだと言う。
手綱を握り、高度をあげる合図を送る。ぐっと高度をあげた飛竜に、更に同じく合図を送ると、突然、ぐん、と鋭角に空を昇る。あまりに急なことだったので、ナターリエは必死にしがみついた。
「おお、お、お前、こんなに飛べたのか……!?」
「わああああああ!」
予想外に高く飛び、他の飛竜が越えられない山岳地帯を悠々と羽ばたく飛竜。高度をあげるのはほんの少しの間で、それから安定をして高く飛んでいたが、ナターリエがハッとする。
「あっ、ヒース様、これっ……!」
「うん?」
「高度飛行、そんなに長くは持ちません」
「何?」
「スキルの時間制限、5分が限界かと……!」
「案外短いな!?」
ヒースは山岳地帯の高い部分にぽっかりと空いている谷間を覗いた。ごつごつとした岩が左右から交互に出ており、下の方が見えない。が、きっとここを落ちたのだろうと推測をした。
「下降するぞ」
「はい!」
ゆっくりと、翼がひっかからないようにと気を付けて降りると、すぐにぱあっと谷間が開けた。下を見て、ナターリエが声をあげる。
「あっ……あそこに……」
「ゲオルグの飛竜と……それから……!?」
「!」
谷の下に落ちて倒れている飛竜と。
その飛竜の三倍以上の大きさの、地竜が二体。鱗の色は鈍色で、尻尾は長い。飛ばないだろうが翼をもっていて、それは背に畳んでいる。
「あれは……幻の地竜、リューカーン……!」
ナターリエの声が裏返る。鼓動が高鳴るが、それは憧れの魔獣をみつけたからでもあり、その竜に恐怖を感じているからでもある。上空で旋回をして様子を見ると、リューカーンはぐるりと顔を上にあげ、ヒースの飛竜を視界に入れた。
「いかん。落下しても大丈夫な距離に降りなければ……」
リューカーンの物理攻撃の範囲外、と勝手に仮定をした距離を保ち、ヒースの飛竜は高度を下げる。ゲオルグの飛竜は案外とリューカーンに近く落ちていて、そこまでいくとリューカーンの攻撃範囲に入るのではないかと思えた。
「攻撃は、するだろうか」
「リューカーンは穏やかな竜なはずですが……」
「だが、鳴き声でやられるのだろう?」
落下したゲオルグの竜が聴いた「精神攻撃」を乗せた鳴き声を出すのではないか、と思う。一応、魔法防御のシールドは張って来たが、それは過信が出来ない。
「どちらにしても、この竜の高度飛行のスキルは回復するのに少し時間がかかりますし、飛んでいれば、回復に更に時間がかかります。一度、下りませんか」
「そうか」
着陸すべきかどうかと考えあぐねて、飛竜を谷間の途中で旋回をさせていたヒース。が、そのヒースとナターリエに、声なき声が届いた。
『人の子か。ここまで、降りて来るが良い』
「おっ!?」
「今のは……? リューカーン……?」
『ふむ。その名で呼ばれることなぞ、100年、200年ぶりのことか。攻撃はしない。お前の仲間を助けに来たのだろう? こちらの不手際で攻撃をしてしまった。悪かったな』
それは、大きな地竜から発された念話のようなものだった。

