「その声の効果や範囲は」
「飛竜であれば、一刻もすれば回復はするのではないかと……ううん、もっとかかるかしら」
「そんなにかかるのか」
「はい。ただ、その鳴き声を出している間、周囲の魔獣はほとんど動けなくなっていると思うので、ある意味無事かもしれません……」
「そうだといいんだが……他には?」
「本当に、謎の地竜なんですよね……神の竜とも呼ばれていて……これ、本当に眉唾ですから、笑わないでくださいね?」
「うん」

 ナターリエは若干「言いたくなさそう」な表情をしたが、ヒースにはそれが見えない。仕方がない、とリューカーンに関する情報を伝える。

「200年以上生きる竜。産卵期は100年に一度」

 もう、その時点でヒースは「ははは」と力なく笑う。気分的に普通に笑えない、というのもあるが、何よりやはりナターリエが言う「眉唾」の意味がよくわかったからだ。

「100年に一度かぁ」
「はい。100年に一度かどうかなんて人間がわかるわけないのに、100年に一度だと書いてありました」
「まったく、それは眉唾だな……」
「食事は、10日に1回、雑食。10キロほどの肉と木の実を食べる」
「ほう」
「そして、4日は続けて眠っている……というわけです。眉唾ですよね?」

 呆れつつも、仕方なく、という風に話したナターリエがそう言うと、ヒースも「そうだなぁ~」と仕方なさそうに、苦々しく答えた。

「それにしても、ナターリエ嬢はすごいな。よくもその内容をすらすらと覚えていられるものだ」
「そのう……」

 それへの歯切れが悪い。なんだ、とヒースが返答を待っていると、ナターリエは少しばかり恥ずかしそうに言った。

「幼い頃から、リューカーンは……わたしの……心を奪っていた魔獣といいますか……」
「お気に入りというやつか……?」

 よくわからないが、というヒースに「よ、よくわかりませんよね?」と返すナターリエ。

「わたしには、魔獣はどれもおとぎ話の中にいるもののようでした。だって、王城付近にはどれもいませんもの。まだ、魔獣研究所があるとも知らなかった頃は、ええ、ものすごく……」
「絵を、描いたか?」
「えっ?」

 ナターリエは、自分を後ろから支えているヒースを振り返ろうとする。が、空中ゆえ、それがうまく出来ない。

「リューカーンの絵を描いたのか」
「描き、ました……が……」
「が?」
「下手くそで……」

 その、風の音で消えそうだったナターリエの言葉に、ヒースは「下手でもいいだろう」と言った。ナターリエは、今度こそ風の音でかき消される声で「ありがとうございます」と小さく告げた。