魔獣鑑定士令嬢は飛竜騎士と空を舞う

 馬車で登城をして、エントランスで王城図書館の利用を申し出る。身分証明のカードを受け取って、王城の奥にある大きな図書館にナターリエは辿り着いた。

 ここはヴィルロット王国屈指の図書館だ。しかし、残念ながら利用者の量は多くはない。そのほとんどは魔術師たちで、魔術に関する書物は図書館でもエリアが別になっているほどだ。

 ナターリエが必要とする書物は、魔術に関するものに比べれば相当少ない。いつものように「よく使っている」書架の前に行くと、あちらこちら書物が抜かれていることに気付く。

(書物が減っている気がするわ。わたし以外の誰かが魔獣について学んでいるのかしら……?)

 王城の図書館には、魔獣について書かれた書物がいくつか存在していた。が、その半分ほどが現在貸し出されていることにナターリエは気付く。

(どれも、とっくの昔に一度や二度は読んだものだけど……)

 誰がいつまで借りているんだろう。ナターリエは、貸出担当者の元へ行き、貸し出しの履歴を確認した。

「魔獣に関する書物は、つい先程リントナー辺境伯のご子息のヒース様が、長期貸し出しで持ち出していらっしゃいますね」
「リントナー辺境伯……? 長期貸し出し? あら、まあ」
「はい。半年ほどでしょうかね。誰も読まないだろうということで……」

 わたしが読むのに、とナターリエはちょっとだけ唇を突き出して「ううん」と唸った。

(リントナー辺境伯領は緑が多く、魔獣の出没も多い場所だと聞くわ……でも、リントナー領には、リントナー領で作られた書物や、ええっと、記録のような? そういうものがあるお話をお聞きしたけど……)

 と、考えるナターリエに、担当者は「どうしますか? 返却されましたら、ご連絡をいたしましょうか?」と尋ねる。

「いえ、大丈夫です。では、閉架書庫の閲覧申請をさせていただいても?」
「はい。鍵をご用意いたします。では、こちらに利用者のご記入をよろしくお願いいたします」
「はぁい」

 ないならないで、ある場所に潜れば良い、とナターリエは既に閲覧をほとんどされないと言われている閉架書庫の利用申請をした。魔獣についての書物がどこにどれだけあるのかは、幼い頃から通っていた彼女にはよくわかるのだ。

(大丈夫、大丈夫。きっと、わたしなら合格できるわ……スキル鑑定のお勉強だって、なんとかなったんですもの)

 それに。貸出されている書物の半分が、古代種について書かれたものだ。古代種とは、既に絶滅している魔獣のことなので、魔獣鑑定のテストといっても、筆記の歴史部分に少し出て来る程度のものだと彼女はわかっていた。

(古代種なら、ほとんど魔獣鑑定のテストに出ないし……それに、古くなった閉架書庫の書物の方が多く掲載されているぐらいですものね。それにしても……)

 どうして、リントナー辺境伯子息は、よりによって古代種の書物を借りたのだろうか。少しばかり、そこには疑問が残ったのだった。