やがて、山岳地帯の中でも大きく拓けた場所に出る。

「ここからが、古代種が多く出る場所だ。細い谷間の中に住んでいるものが多いため、そちらにいるのだろう魔獣はこの飛竜では追えない。よって、この広い場所に出入りをするものだけに限るのだが……多分、ここに繋がるあちこちの谷間で、多くの古代種が生きているのだと思う。それらは、こちらに出てこない、要するにこの山岳地帯からは出ないので、問題が発生しないとは思うんだが」

 開けた場所にはところどころ緑がある岩場になっている。そして、あちらこちらには、閉ざされている道、いや、道ともいえない谷間に繋がる亀裂が多く見える。

「では、魔獣研究所に連れて行くのは」
「ここに現れた魔獣になる。今日はまだ古代種はまったく見えないが、数日に一度はどれも姿を見せるので、何日か通えば一通りは見られるんじゃないかなぁ……」
「わかりました。エルドと、あと、トルルークに、亜種なのかどうなのかわからないものがいるんですね?」
「ああ。俺達で確認をしたのはその辺りだ。エルドに似ているが、どうも違うようにも見えるものと、トルルークにも同じようなものがいてな……体の大きさから、その二体は是非とも捕まえたいのだが」

 前もって、ヒースたちが発見をしていた古代種の一覧は見せてもらっていた。そして、その中で、亜種らしきものがいるものも。魔獣研究所も施設に限りがあるため、同じ種族を2体は受け入れていない。亜種ならば番以外は受け入れないが、亜種ではなく「似ているが違うもの」だったら、それは受け入れるというわけだ。

「他の古代種も見て欲しい。俺が古代種だろうと思ったものだが、もしかしたら魔獣の亜種なのかもしれないし」
「わかりました」
「飛竜から降りずに見られるかな……?」
「ううん、とりあえずは、ここから見てみますが、そもそも魔獣たちの姿があまり見えませんね」
「そうだな、みな隠れているようで……ここで旋回を繰り返して様子を見ていよう」

 飛竜たちはばらばらに飛んで旋回を繰り返す。古代種の魔獣が現れるのを待つためだ。飛竜を倒すほどのものはここにはいないらしく、飛んでいれば何も危害は加えようとしない。

 だが、飛竜も一定の時間で降りたくなるものなので、ここでの活動時間は限られている。

「なかなか、いませんね……あら、あれはフーアですね」
「おう。水辺に現れる馬だな……ここには小さな水源があるので、よく姿を見せる。あそこには、リスの魔獣、ラタトスクの亜種がいる」

 そう言ってヒースは岩場を指さす。すると、岩と岩の間に、リスのような魔獣がちらりちらりと姿を見せていた。

「まあ……あんな小さい魔獣まで、ヒース様はよく見えますね。この距離では、わたしには鑑定が出来ないぐらい曖昧な小さな動物に見えてしまいます」
「うん。視力は良い。あれぐらいのサイズの古代種はいないとは思うんだが、もしも、いたら飛竜から降りないといけないな」
「ううん、そうですね……」
「時間がないな。仕方がない。今日は帰ろうか……うん?」

 見れば、前を飛ぶ騎士から何かの合図が。

「ナターリエ嬢。あれを」
「えっ……あっ、あれは……!」

 ナターリエは驚きで目を見開く。大慌てで指をそちらに向け、鑑定スキルを発動した。

「古代種、ハラーヌですね……! まあ、本当に今も生きているなんて……!」

 岩場の亀裂から出て来たのは、大体成人男性の腰より下程度のサイズの古代種だ。亀裂の先には亀裂から出て来られないものがいると思っていたが、そうとは限らないということがわかる。確かに、その中で多くの魔獣が共存をしていなければ、肉食のものは生きられないだろう。

 のっそりと四足歩行で歩き、犬のように見えるが犬ではない。魔獣であるケルベロスに近く見えるが、似ているだけでまったく違う種族だ。

「何匹も出て来たな」
「あれは、まだ捕まえていませんか?」
「おう。ハラーヌは警戒心が強いので、飛竜で近付くとすぐに逃げてしまう。飛竜から降りて捕獲する方法を考えなければいけないな」

 ナターリエは少しばかり考え込んでいるようだ。と、その間に、ハラーヌ数頭は姿を消してしまう。

「あっ、逃げてしまったわ……」
「ひとまず、今日のところは帰ろう。おおよそ、どんな感じの場所なのかを見て欲しかったから、今日はこれでいい」
「はい。わかりました」

 ナターリエが頷くと、ヒースはみなに合図を送って、ぐるりとやってきた道に戻った。その、彼らの背に響く鳴き声が。

――ケェェーーーーーーーーーーーーン――

――ケェェーーーーーーーーーーーーン――

「あの声は?」

「よくわからないんだ。亀裂の中から聞こえて来るようでな。だが、鳴き声の大きさから、きっと体のサイズも大きいのだと思うんだが……」
「確かに」
「どちらにしても、あそこからは出られないので、問題はない……よし、帰ろう!」

 そう言ってヒースは飛竜を操る。みなは、一気に山岳地帯を抜けて、森に戻っていったのだった。