どうもナターリエの説明があまりよろしくないのか、ヒースは不思議そうな表情だ。それへ、ナターリエは突如饒舌に語り始める。

「勿論、人間のスキルもそうだったんですが、魔獣は更に面白いです。たとえば、空を飛ぶグリフォンなんかも今は絶滅寸前ですが、グリフォンの中には、何故か投擲スキルを持つものもいるんですよ。面白いですよね? 手がないのに投擲スキル。どうそのスキルを使うんでしょう? って思うんですが、それって、本当は翼で風を起こしてものを飛ばすスキルなんですよ。なのに、投擲スキルと表示されるんです。それというのは……」

 突然のオタク語りにヒースは驚く。放っておくと、いつまでも話を続けそうな勢いだ。さすがにグリフォンの話までは聞いたが、その次の魔獣の話になったところで、彼は止めた。

「わかった。わかった、ナターリエ嬢。その話はそれなりに面白そうだが、フォークを振り回すのは、はは、ちょっと勘弁してくれ」

 笑いながら彼女をどうどうと落ち着かせるヒース。

「あっ、あっ、わたしったら……」

 気付けば、タルトを切っていたナイフとフォークを両手に持って、それを振りかざしてあれこれと話をしていたようだ。ナターリエはかあっと頬を染めて

「す、すみません、夢中になりすぎました……」

と、小さくなる。

「いい、いい。なるほどなぁ。我ら人間は、人間として使えるスキルしか持たないし、魔獣もそうだと思っていたが、違うんだな」
「そうなんです。ただ、それは魔獣の進化の過程でついたスキル、あるいはもう忘れても良いスキルの場合もありますし……とても、興味深いです」
「魔獣鑑定士となったということは、その前はスキル鑑定士だったのだな?」
「はい。でも、魔獣鑑定士になったことで、スキル鑑定士のスキルは王城で儀式を行って封じて来ました。少し惜しい気もしますが、スキル鑑定士は良いことがそんなにないので……」

 とはいえ、スキル鑑定士も人手不足だ。彼女が魔獣鑑定士に合格したことを聞いて、国王は相当にしょんぼりとした。第二王子との婚約破棄はどちらにしても回避出来なかったのだということと、単純にスキル鑑定士の数が減ったことへの悲しみだ。が、前もって、魔獣鑑定のスキルが顕現したことは国王には話をしていたため「仕方ない」と、最後には諦めざるを得なかったのだが。

「しかし、その封印を解けばスキル鑑定は出来るんだな?」
「はい。ですが、スキル鑑定士は秘匿とされていますので、わたしのように魔獣鑑定士に一度なってしまえば、それが通らなくなるので……」
「なるほど。一大決心というわけか。スキル鑑定士をやめてでも、魔獣鑑定士になりたかったのか」
「はい。ずっと、スキル鑑定のスキルから派生しないかと願っていたので、覚醒して本当に嬉しいです」

 そう言ってタルトを食べて微笑むナターリエ。

「本当に美味しい! あっ、こ、これもいただいてよろしいでしょうか……」
「全部食べてくれ。全部」
「さすがに全部は無理ですが! でも、あの、もっと、いただいても?」

 素直に聞くナターリエに、ヒースは快く「勿論だ」と答えた。