残されたナターリエは、溜息をひとつ。
「大体、スキル鑑定士はその存在を人に知らせてはいけないなんて、話がおかしいわ。だからこんなことになっちゃうんじゃない」
ヴィルロット王国には、現在スキル鑑定のスキルを持つ「スキル鑑定士」が8人ほど。その中でも、ナターリエの力は2番目に強く、他のスキル鑑定士が「見えない」らしい、細やかなスキルや発動条件、今後覚醒をする可能性があるスキルまでをも見ることが出来る。
そのスキルは希少なものだったが、「他人のスキルを見る」ことはあまりよろしくない。よって、スキル鑑定士は「国に仕える」制約を持ち、その肩書きを人に明かさず、国のためだけにその力を使うことを義務付けられている。
そういうわけで、ナターリエがスキル鑑定士であることは、王族とハーバー伯爵家、そして王城の数人の臣下と、誓約を行なった神官だけの秘密になっている。当然、本来は嫁入り先に明かすことも出来ないため、彼女は第二王子と婚姻を結ぶことになってしまったのだ。
「わたしも第二王子とはそう仲良くお話もしていなかったし、国から逃げようとなさるぐらいのお相手がいるんだったら、それはそれで……」
少しだけ心が痛むが、捨てられたのだからそれは仕方がない。
第二王子は、ナターリエのことをあまり好ましく思っていなかった。スキル鑑定のスキルを持って生まれたからといって、どうして……と文句も言われたし、仕方がない。彼は彼で、政略結婚ならば受け入れるが、それにも満たない――と彼は思っている――ナターリエのための婚姻には納得がいかなかったのだろう。
「悲しんでいてもどうしようもないものね。ううーん、魔獣鑑定士の試験勉強をしなくちゃ」
さて、幼い頃からスキル鑑定士として働いて来たナターリエだったが、この度「魔獣鑑定」のスキルに覚醒した。大人になってから現れるスキルを「潜在スキル」や「予兆スキル」という。また、もともと魔獣鑑定のスキルは派生スキルなので、その前段で必ずスキル鑑定のスキルを得ている前提となっていた。
とはいえ、その「スキルを持っている」だけでは魔獣鑑定士という職業にはなれない。魔獣の知識がなければ、鑑定をしても「よくわからない魔獣のよくわからないスキル」がぼんやり見えるだけになる。要するに、魔獣の知識がなければどうにもならない。
「第二王子には申し訳ないことをしたけれど、魔獣鑑定士試験に合格したらスキル鑑定のスキルは封印してしまうし、これで心置きなく王族と離れることが出来るわ」
「国王陛下からお許しいただけると良いですねぇ。スキル鑑定のスキルは稀有な才能ですから、手放したくないのでしょう?」
黙って2人の会話を聞いていた女中ユッテは、難しい表情でそう言う。確かにそうなのだ。ナターリエにとっては、魔獣鑑定のスキルの方が大切なものなのだが、一般的にはスキル鑑定のスキルが重宝されている。
「そうなのよねぇ。陛下は相変わらず、スキル鑑定のスキルを封印することを、良く思ってくださらなくて……でも、そうしなければ魔獣鑑定士にはなれないんですもの。仕方がないわ」
むしろ、そうまでして魔獣鑑定士になりたい令嬢がいることの方が驚きなのだが、ナターリエは呑気に呟く。
「だって、魔獣の鑑定よ? 魔獣はわたしの憧れですもの。まさか、自分が魔獣鑑定のスキルに覚醒するとは思っていなかったし、夢のよう……」
そう言って、ナターリエは幸せそうに、ぼんやりと宙を見つめる。
「ええ、ええ、お嬢様ほど魔獣のことに詳しい人を、わたしは知りませんからね」
と、少し粗雑に答えるユッテ。
「でも、まだまだなのよ。小さい頃から魔獣に憧れて来たけれど、現物を見たことはほとんどないし。うん。くよくよしていても仕方がないわ。王城の図書館に行って来ようかしら。馬車の用意をしてくれる?」
「かしこまりました」
悩んでいても、既に起きたことは仕方がない。ナターリエは婚約破棄にくよくよしている暇があるなら、控えている魔獣鑑定士の試験のため勉強をしなければいけないのだ。
「大体、スキル鑑定士はその存在を人に知らせてはいけないなんて、話がおかしいわ。だからこんなことになっちゃうんじゃない」
ヴィルロット王国には、現在スキル鑑定のスキルを持つ「スキル鑑定士」が8人ほど。その中でも、ナターリエの力は2番目に強く、他のスキル鑑定士が「見えない」らしい、細やかなスキルや発動条件、今後覚醒をする可能性があるスキルまでをも見ることが出来る。
そのスキルは希少なものだったが、「他人のスキルを見る」ことはあまりよろしくない。よって、スキル鑑定士は「国に仕える」制約を持ち、その肩書きを人に明かさず、国のためだけにその力を使うことを義務付けられている。
そういうわけで、ナターリエがスキル鑑定士であることは、王族とハーバー伯爵家、そして王城の数人の臣下と、誓約を行なった神官だけの秘密になっている。当然、本来は嫁入り先に明かすことも出来ないため、彼女は第二王子と婚姻を結ぶことになってしまったのだ。
「わたしも第二王子とはそう仲良くお話もしていなかったし、国から逃げようとなさるぐらいのお相手がいるんだったら、それはそれで……」
少しだけ心が痛むが、捨てられたのだからそれは仕方がない。
第二王子は、ナターリエのことをあまり好ましく思っていなかった。スキル鑑定のスキルを持って生まれたからといって、どうして……と文句も言われたし、仕方がない。彼は彼で、政略結婚ならば受け入れるが、それにも満たない――と彼は思っている――ナターリエのための婚姻には納得がいかなかったのだろう。
「悲しんでいてもどうしようもないものね。ううーん、魔獣鑑定士の試験勉強をしなくちゃ」
さて、幼い頃からスキル鑑定士として働いて来たナターリエだったが、この度「魔獣鑑定」のスキルに覚醒した。大人になってから現れるスキルを「潜在スキル」や「予兆スキル」という。また、もともと魔獣鑑定のスキルは派生スキルなので、その前段で必ずスキル鑑定のスキルを得ている前提となっていた。
とはいえ、その「スキルを持っている」だけでは魔獣鑑定士という職業にはなれない。魔獣の知識がなければ、鑑定をしても「よくわからない魔獣のよくわからないスキル」がぼんやり見えるだけになる。要するに、魔獣の知識がなければどうにもならない。
「第二王子には申し訳ないことをしたけれど、魔獣鑑定士試験に合格したらスキル鑑定のスキルは封印してしまうし、これで心置きなく王族と離れることが出来るわ」
「国王陛下からお許しいただけると良いですねぇ。スキル鑑定のスキルは稀有な才能ですから、手放したくないのでしょう?」
黙って2人の会話を聞いていた女中ユッテは、難しい表情でそう言う。確かにそうなのだ。ナターリエにとっては、魔獣鑑定のスキルの方が大切なものなのだが、一般的にはスキル鑑定のスキルが重宝されている。
「そうなのよねぇ。陛下は相変わらず、スキル鑑定のスキルを封印することを、良く思ってくださらなくて……でも、そうしなければ魔獣鑑定士にはなれないんですもの。仕方がないわ」
むしろ、そうまでして魔獣鑑定士になりたい令嬢がいることの方が驚きなのだが、ナターリエは呑気に呟く。
「だって、魔獣の鑑定よ? 魔獣はわたしの憧れですもの。まさか、自分が魔獣鑑定のスキルに覚醒するとは思っていなかったし、夢のよう……」
そう言って、ナターリエは幸せそうに、ぼんやりと宙を見つめる。
「ええ、ええ、お嬢様ほど魔獣のことに詳しい人を、わたしは知りませんからね」
と、少し粗雑に答えるユッテ。
「でも、まだまだなのよ。小さい頃から魔獣に憧れて来たけれど、現物を見たことはほとんどないし。うん。くよくよしていても仕方がないわ。王城の図書館に行って来ようかしら。馬車の用意をしてくれる?」
「かしこまりました」
悩んでいても、既に起きたことは仕方がない。ナターリエは婚約破棄にくよくよしている暇があるなら、控えている魔獣鑑定士の試験のため勉強をしなければいけないのだ。

