空を飛ぶ飛竜の背から眼下を見て

「ふわあ~……」

 と、ナターリエは間が抜けた声をあげる。鞍にベルトで腰を固定して、手首にベルトを通し、落ちないように握るための棒を掴んで緊張をしていたが、少しずつ慣れていく。

「凄いです……凄い……それに、空の上は、風が冷たいし、ごうごうと音がするのですね」

 飛竜に乗るので外套を羽織った方が良いと言われたが、確かにそれは必要だったとナターリエは思う。

「ああ。大丈夫か。寒くないか」
「はい、大丈夫です」
「半刻飛んだら一度降りて休もう」

 ナターリエは、飛竜が一時間はゆうに飛んでいられる生き物だと知っている。だから、ヒースのその言葉はナターリエを気遣ってのことだとも理解をした。

「ありがとうございます」

 それへ、素直に礼を言う。何にせよ、ナターリエは最初に降りた半刻まで、延々と眼下の景色や飛竜が飛ぶ先の景色に目を奪われ、あれこれと考えていて、あっという間に感じていた。

 そして、ヒースは、途中から言葉もなくあちらこちらを見て感心をするナターリエに声をかけず、淡々と手綱を握る。

「そうだ、ヒース様」
「うん?」
「ヒース様は、魔獣について詳しいのですね? リントナー領に魔獣が多いからでしょうが、それはどうやってお学びになられたのですか?」
「ああ、俺のは本当に目で見て覚えたという感じでな……いくつかの資料はあるものの、人里近くに出る魔獣についてしか、それらには書いていないので」

 今現在彼らが調査をしている古代種のエリアにいる魔獣は、彼もあまり知らない魔獣が多く、いちから勉強をし直したのだと言う。王城に頼んで、いくらかの書物を図書館から持ち出すことを許可してもらい、借りているのだと。

 そうだ、そんなこともあった、忘れていた、とナターリエはようやく気付く。

「あっ、もしかして、それで王城の書物を……」
「ああ、もしかして、王城の図書館の本が必要だったか? すまん。魔獣鑑定の試験なぞ知らず、俺が長期貸し出しを陛下に願い出てしまって……」

 どうも、そのヒースの言葉はいささかボソボソとしている。申し訳なさのせいかと思ったが、それこそ自分は既に魔獣鑑定士になったのだから、とナターリエは特に気にはしていない。

「いえ、古代種に関する書物が多かったので、一体何に使うんだろうと思っていたんです」
「すまない。さすがに、俺も勉強が足りなくてな。親に聞いても、古代種についてはからっきしだったので、仕方なく」

 なるほど、と腑に落ちたナターリエ。どちらかというと、ヒースの方が回答にキレがなく、何かを言いたげだ。

「ああ、そういうことだったのですね。スッキリしました」
「ナターリエ嬢はその……大丈夫だったのか? その書物がなくても……ああ、大丈夫に決まっているよな、魔獣鑑定士に合格したのだし」
「はい。それに、古代種については、閉架書庫に多くの本が残っていましたので」
「それならば、よかった。うん。よかった」

 突然、ヒースはハキハキと答える。ナターリエは「そんなに申し訳ないと思っていらしたのかしら?」と思ったが、敢えてそれ以上は問わなかった。