学生の頃は、風邪をひいたり頭が痛い時は簡単に休むことが出来たが、社会人になるとなかなかそうもいかず、大学を卒業後就職してからの四年間、希はずっと薬に頼り続けてきた。

「薬には辛い症状を改善するっていうメリットがあるけど、副作用のリスクもあるからね。特に頭痛薬には、使用過多が原因の頭痛があったりもするんだよ」
「あ、知ってます。『薬物乱用頭痛』っていうんですよね」
「そうだよ。多用してると脳が痛みに過敏になって、ちょっとした刺激で強い痛みを感じるようになるんだ。 結果的に頭痛が起こる回数が増えて痛みも強くなって、症状を悪化させることになるんだよ」

 思い当たる節があり、希は思わず眉をひそめた。
 徹は製薬会社に勤めているだけあって、薬にとても詳しかった。そして、やむを得ないとはいえ、薬を多用していると話した希を気にかけた。

「希ちゃんは真面目で責任感が強いんだと思うけど、無理しすぎるのはどうかと思うな。たまには思いきってゆっくり休むことも大事だよ」

 確かに、四年間がむしゃらに仕事に取り組んできた。職場には励まし合って互いを高め合える仲間はいるが、癒してくれることはない。
 徹の温かくて優しい言葉は、希の疲れた心を和ませた。

 そうして今日も二時間ほどで食事を終えると店を出て、待ち合わせたF駅に向かって二人で歩いていたが、本音を漏らせば名残惜しさを感じていた。

 もう少し一緒にいたい……。