「セーラ、やだ……楔打ってないよ、聖女は魔王に楔を打たなきゃ消えないんだよ!!」


賢いマオが、セーラがどうなるかを悟り、泣きじゃくって大声を上げる。


生涯セーラを裏切らないと愛の楔を胸に受けたマオが、人を傷つけないと誓った。


もう、魔王を殺す五寸釘の出番などなかった。


「マオがとってもいい子だから、楔なんていらないんだよ?」


用意していた言葉がいっぱいあるのに。


どれも上手に出て来なくて、セーラは触れられない手でマオの頬を撫でて泣きながら笑った。



「マオ、いい子でね」



その一言を残して、セーラは光に溶けるように消えてしまった。



「セーラあぁああ!!」



聖女は元の世界に帰った。

魔王の脅威を退けたから。



聖女が消えた場所に、一輪の金色の薔薇だけが転がっていた。


マオの煌いた金色の瞳が

一瞬で光を失った。



「いい子になんか……ならなきゃよかった」




その場に残された一輪の薔薇を見つめて、マオの擦れた声が虚空へ消えた。