だが平和な現代日本で、一般人として平凡に暮らしていたセーラには、権力の使い道がさっぱりわからなかった。

毎日衣食住を満たしてもらっていて満足で「無欲な聖女様素晴らしい……!」などと噂されている。いや、普通なだけです。


大きな聖女屋敷で崇め奉られ慣れてきたころ、セーラは真っ昼間から聖女屋敷の裏にある広大な花畑を散歩していた。


暇なのだ。


石ころを蹴って転がして、

蹴って転がして意味なく歩く。


セーラは花畑を歩きながら、召喚士アイビンに何度も聞いた説明を思い出す。


聖女屋敷のテラスで、アイビンがセーラにお茶を振舞ってくれていた時の話だ。


『聖女って結局、何をする人なの?』

『聖女様には魔王の胸に楔を打ち込んで殺して頂きます』

『こ、殺す?!』

『これが楔です』

(五寸釘!!)


アイビンが見せてくれたのは、どう見ても日本の古来ゆかしい「五寸釘」だった。


五寸釘を魔王の胸にぶっ刺して殺す。

それが聖女の役目だ。


セーラの母国である日本なら、人を呪うならば五寸釘を使うのは定番の方法である。


その五寸釘がこの異世界では魔王への唯一有効な手立てなのだ。


(聖女は魔王に五寸釘をぶっ刺して殺す、最終兵器的存在か。聖女強いな)