セーラは驚いて唇がくっついていたマオを両腕で押し返す。

セーラがマオの魔法が発動すると光るキラキラを確認した。耳の中で弾けた音は、マオの魔法だ。


「ああああ!!もう一晩持つ読みだったのに……!思ったより早かった」

「早かったって何が?」

「雨の勢いだよ」


マオはセーラのあったかいペラ胸に顔を埋めて、暴れ狂う欲を鎮静化させる。豚ぬいぐるみを100体殴り潰しても足りない。


セーラはぐったり力が抜けたマオの金色猫毛をよしよし擦る。また耳の奥がキンと痛み、今度は声が聞こえた。


『王城のパーティ会場へ、今すぐ避難してください』

「避難?避難って、何から?」

「大洪水だよ」


大きく息をついてマオの鉄壁の理性が勝ち誇る。起き上がったマオが、セーラの手を取って立ち上がらせ、セーラのドレスの乱れをさっと整える。

大洪水の単語を聞いてセーラが思い浮かぶのは絵本の「ノアの箱舟」だけだ。


「大洪水が起こるってこと?」

「もうすでに起こったってこと。だから僕の『耳に直接お呼び出し魔法』が発動したんだよ」

「マオ、大洪水が起こるって、前から知ってたってこと?!何で教えてくれないの?!」