神殺しのクロノスタシスⅤ〜後編〜

…おかしいのは、俺の方なのか。

俺が…勝手に、唐突に不可解なことを口にしているように見えているのか。

俺は、あくまで本当なことを言っているつもりなのに…。

自分が信じているはずの記憶が、揺らいだ。

まさか、本当にそうなのか?

本当に…間違っているのは、俺なのか…?

「…まぁ、ちょっと落ち着きましょうよ。羽久さん」

俺の心の中が修羅場になっているのを、読心魔法で察したのだろう。

ナジュは表情を和らげて、励ますような口調で言った。

「何だか混乱しているようですし…。数日ゆっくり休んで、考えを整理してみては?」

「…」

「そうしたら、本当のことを思い出すかもしれないじゃないですか」

…本当のこと。

まるで、今俺が主張していることは真実ではないみたいじゃないか。

「とりあえず一晩。一晩、ゆっくりしてみては?明日になったら、少しは落ち着いてますよ」

「…あぁ」

ひび割れた声で、俺は返事をした。

…一晩…ゆっくりしたところで、状況が好転するとは思えないが。

この場でこれ以上、俺が真実…だと思っていることを口にしても。

とてもじゃないけど、ナジュ達に信じてもらえるとは思えなかった。

いや…信じてもらえたとしても、それが真実だと理解して貰えそうにない。

…何か、別の方法を見つけなくては。

その為にも…天音やナジュの言う通り、少し落ち着いて、頭を冷やす必要がありそうだ。

「…明日、また来る」

「えぇ、そうしてください」

俺はくるりと踵を返し、ナジュとリリスを残して稽古場を後にした。

…どう表現したら良いのか分からないが。

この世の全てから見離されたような、世界で自分だけ一人ぼっちになったような。

そんな…酷い気分だった。