…イーニシュフェルト魔導学院、学生寮近くにて。

放課後。3人の女子生徒が、雨の中学生寮に歩いて帰っていた。

「はー、疲れた疲れた。ナジュ先生の実習って、本当分かりやすいよね〜」

「そうそう。こっちが分からないところをピンポイントで教えてくれるよね」

「まるで私達が何考えてるのか分かってるみたい。凄いよね〜」

「そういえば、ナジュ先生って彼女いるんだよね」

「らしいね。でも、天音先生とデキてるって噂もあるじゃん?」

「誰が本命なんだろう。気になるよね〜」

などと、他愛ないお喋りをしながら歩いていた…、

そのときだった。

「…にゃー」

「…ん?」

小さな鳴き声を聞き留めた女子生徒が、ふと立ち止まった。

「?どうしたの?」

「ねぇ、今猫の鳴き声聞こえなかった?」

「え?猫?」

つられて、残る二人も足を止めて耳を澄ます。

すると、再び。

「…にゃー」

「あっ…」

確かに聞こえた微かなその鳴き声に、三人共顔を見合わせた。

聞き間違いではない。本当に聞こえた。

三人は鳴き声の主を探して、学生寮の裏庭に向かった。

すると、そこに。

「にゃー…」

「…いた!」

びしょ濡れの薄汚れた猫が、木陰に蹲るようにして鳴いていた。

三人は急いで猫に駆け寄った。

「見て、足を怪我してる…!」

「回復魔法かけてあげよう」

一人が杖を取り出し、怪我をした猫にそっと回復魔法をかけた。

本来回復魔法は対人にのみ使われる魔法だが、魔力を加減すれば、人間以外の動物にも有効である。

そしてその程度の応用魔法は、イーニシュフェルト魔導学院の学生なら容易いものだった。

みるみるうちに、足の怪我は治った。

しかし、雨に濡れて奪われた体温までもが戻る訳ではない。

「すぐ温めてあげないと…」

「私、友達を呼んでくる。ちょっと待ってて」

「私はタオルを持ってくるわ」

…このような経緯で。

一時間後には、イーニシュフェルト魔導学院女子学生寮の一室に、一匹の迷い猫が保護されることになった。