【??side】
私は西洋風の図書館の地下を走り回る。
ターゲットがいると聞いて、任務で足を運んだ。
ショートパンツにシャツにロングジレ。
これが正装で制服だ。
ずっと進んでいると、静かな空間からバンっと銃声がした。
そこには、黒スーツに手袋をしたかなりスタイルのいい1人の男と後ろに何人もガタイがいい男がいた。
「…始末完了」
「お疲れ様です!」
何人もの男が彼に向かって頭を下げる。
「それ、処分してて」
彼の顔面は整っていた。
彼が1人になった瞬間、私の方に目線を送ってくる。
「…お前、誰だ」
気づいてたんだ。
彼は銃口をこちらに向ける。
もちろん私もナイフを構えている。
「ファラ・リヴェリ。アンタを殺しに来た」
私は大きい本棚に隠れて喋る。
「俺がそう簡単に殺されると?」
「だから、私が来たんだよ」
「面を見せろ。名を名乗れ」
そんなことを言う彼の声はド迫力。
だが、私はそんなものには物怖じずに、素顔を見せた。
「カレン・スプラウト。燦爛所属だ」
「暗殺者か」
「本当は暗殺しようと思ったけど、声掛けられたから」
「そんなにバカじゃないんでね、俺は」
嘲笑うように言う彼は成人してないのだろう。
どこか幼い。
「さあ、ファラ・リヴェリ。私に大人しく殺されるか。正々堂々と戦うか。それとも逃げるか」
「俺だったらその選択肢は必要ない。俺に反する奴は容赦なく殺す」
そう言った彼の眼差しは鋭い。
「じゃあ、戦おうじゃないか」
「反抗するんだ?」
「大人しく身を投げると思うか?」
私たちは銃とナイフ、お互いに向けて睨み合う。
すると、奥で警察のサイレンが鳴った。
「…残念だけど、私は逃げるよ。バカじゃないんでね。次会った時は絶対殺す」
私は階段に手をかける。
「手加減はしねーよ?」
「むしろするの?」
「どうだろーね?」
彼はそう言って私に微笑む。
「さよなら」
私は階段の手すり使って逃げた。
もちろん、彼がこの後に犯した罪など知らない。

さて。
私・カレン・スプラウトは暗殺者だ。
中国に本部を置いている燦爛という組織に入っている。
そんな私もまだ高校2年生。
今日・6月23日に何にも支障がないような、田舎でも都会でもない高校・戸波高校へ転入。
私には偽名が数え切れないほどある。
私も覚えてないくらい。
本当の名前なんて私以外誰も知らない。
親はいない。何年か前に殺された。
親族もいとこもいない。両親とも一人っ子で親族は会ったことがない。
まあ、興味はないんだけど。
今日から本格的な学生生活が始まる。
私はベテランそうな先生の後ろについて、2−Aの教室に入った。
「はい、おはよう〜、今日は転入生が入ってくるってもう知ってる人もいるよな?間宮花蓮さん、パリの学校からのうちに転入。よろしく〜」
私はその時点で顔を上げる。
と、そこには驚きが隠せない事実があった。
「「(っ!)」」
ファラ・リヴァリ、当人がそこにいたのだ。
しかも、運が悪いことに目が合ってしまった。
私は思わずスカートの下にあるナイフを触る。
彼も忍ばせてあるのだろう、銃のトリガーを押しかける音がした。
こう言う音には敏感なのでいくらうるさくても察知できる。
2人とも我に返って手を抜く。
「間宮は、日本語は大丈夫?」
「大丈夫です」
「じゃあ、1番後ろの席に座ってもらおうかな。華宮の隣」
どうしたんだろう、今日。
私ってこんな不運だったっけ。
まさか、アイツの隣の席、しかも1番後ろだなんて。
だが、名前は特定できた。
おそらく、私と同じ思考で学校を選んだんだろう。
だが、あそこまで慎重なやつだ。
これが本名とは限らない。
ニヤッと笑うと私はソイツに睨まれる。
特定完了。情報を少しずつ集めていこう。
「じゃあ、各自1時間目の準備」
担任はそう言って教室を出て行った。
今日最初の授業は国語。
そして、まさかの班活動。
とことんついていない。
主人公の気持ちを考えろ、だなんて言って班で確認。
「間宮さん、だっけ。一応名前だけ確認しておく?私は森田由里香」
「石橋尚人」「中本美咲」「松川拓也」「伊藤穂花」
そう班の人が名前を並べて言った後、少し沈黙を開けて一瞬睨み、「華宮涼馬」低い声で呟いた。
睨んだ姿は私以外には誰も見えてないらしい。
「あれ、華宮くん調子悪い?」
「ううん、大丈夫だよ」
まさかの猫被り。
爽やか王子そのまんまじゃないか。
だが、ちょっと胡散臭い笑顔。
「ちなみに、華宮くんは学校1モテるんだよ」
私の前の席の森野さんが私の耳元でこう呟いた。
うん、思った通りだった。
「で、問題だけどさ、」
森野さんが仕切って国語の授業は終わった。
慣れない重さの教科書を片付けているとファラ・リヴァリ、いや華宮涼馬は私の耳元で、
「放課後3階の空き教室。4時までに来なきゃ教室で殺す」
とさっきの森野さんへの対応とは全然違うように呟く。
「…」
私はそれに何にも動じず、スルーした。
一応、行ってやろう。

私はナイフをポケットに直に入れ、3階の空き教室に足を運んだ。
少し様子を見てみると、華宮涼馬はこちらを見ていた。
コイツ、洞察力がズバ抜けている。
私は少し警戒して、教室へと入った。
ドアはしっかりと閉めて。
「ファン・リヴェリ、及び華宮涼馬。まあ、偽名だって分かってるけど」
「間宮花蓮」
私たちはお互いに近づく。
私は華宮涼馬の首元にポケットから出した、最高級に切れるナイフを置く。
華宮涼馬は私の頭に銃口を添えた。
「突き止めた」
「それはどっちのセリフだ?」
私はニヤッと笑う。
前、パリにいた時、敵に私が笑うと美しさより怖さが勝つ、などと言われたことがある。
20センチくらい背の差がある私たちはまた睨み合う。
「切ってもいい?」
「じゃあその前に撃ってもいい?」
またまた沈黙。
「…お前に一つ提案だ。俺とお前の共通点は人に知られたら終わりってこと。お前も何人も何人も殺してるだろう」
「…」
余裕そうな華宮涼馬の頬に手を出したくなるが、下手したら撃たれる。
衝動をじっと我慢した。
「プライベートでは手を出さないことを約束しよう。まあ、仕事の時になったら容赦は要らない」
ニヤッと笑みを浮かべる華宮涼馬。
「分かった。学校では一切手を出さない。武器も見せない。破ったら本格的にアンタの奴ら全員潰しに行く」
「ん。了解」
私たちは同時に武器を引く。
私と華宮涼馬は表でも裏でも通じる関係となった。

そんなこんなで、何もなく日常生活を送る中で、裏の世界では私は少しピンチになっていた。
「うわっ!」
「カレン・スプラウト。お前の実力はそんなものか」
燦爛のアジト。
燦爛のボスの側近に裏切られ、私は痛めつけられていた。
「特攻隊長よ、私より弱いなんてあるわけがないよな?」
銀色の長髪が靡き、鋭い目が私に少しずつダメージを与える。
男性なのにも関わらず、高身長だが華奢な体。
その細い腕から一撃喰らうだけで骨は折れてしまう。
だからこの人苦手なんだよ。
殴られ、蹴られ、武器は掻っ攫われ、コイツはどんだけストレスが溜まってるんだ。
「反抗してみなさい、カレン・スプラウト」
ニヤッと笑ったその瞬間、誰かが入ってきた。
「エリック・J・ブラウン。私の愛しているファミリーに何をしているのです?」
ボスだ。
超美形でスタイルがいい。
私の2個下、15歳なのにも関わらず何歳の人も束ねることができる実力を持つ。
推定身長163cm、日本ではないどこかのハーフだと思われる。
「ほら、カレンがもうこんなにボロボロだ。君は何をしでかしたか分かっているのですね?」
ボスは私に手を差し伸べてくれる。
だが、私はその手をとってもいいのか分からなかった。
その手を取らずとも起き上がることができるような燦爛の特攻隊長を求めているのか、むしろ手を払ったら失礼なのか。
「発言をお許しください、ボス」
「うん、何?カレン」
「ボスは自立したファミリーが欲しいですか?それとも貴方様に頼ることができるファミリーが欲しいですか?」
うん、うんと頷きよく話を聞いてくれるボス。
「私は…、両方かな。自立してても、たまに頼ってくれると嬉しいです」
「ありがとうございます。ボス」
私はその手を取った。
「カレンは例え話が好きだね」
「…そうでしょうか」
「うん、そんなカレンは可愛いよ」
「ありがたき御言葉です」
私は軽く会釈をする。
「ふふ。…そして、エリック・J・ブラウン。ちょっとお説教しよっか」
「…はい」
さっきの私の声色ではなかった。
低くて、男性っぽくて、いかにもボスの風格が立っている。
本当にその声を聞くと全身鳥肌が立つ。
私はその後仲間に手当てをしてもらった。

翌日、教室に行くとまず1番に華宮涼馬と目があった。
華宮涼馬は驚いた顔をしている。
顔や腕に包帯を巻いて教室に入ったからだ。
「間宮さん!?大丈夫?」
森田さんが気遣ってくれる。
「大丈夫、自転車で転けただけだから」
私は当たり前のように嘘をつく。
というか、ここで本当のことを言うはずがない。
ちなみに言うと、右からの視線が痛い。
もちろん、華宮涼馬だ。
みんなが興味を無くして引いて行った後、すぐにSHRは始まった。
そして今日は1時間目から移動教室であるため、みんな移動する。
私が教科書の整理に手間取っていると、華宮涼馬は話しかけてきた。
「任務か?」
「…言わない」
「見せてみろ」
顔をグイッと持って行かれた。
今のは完全に不可抗力だ。
目の前には国宝級の顔面。
「何?手当てしてもらったんだけど」
「最近ここらでは特に何も起きていない。と言うことは内部での争いか」
なんでもお見通しなんだ、コイツには。
「…そうだよ」
「俺に話してみたら?」
「話すわけないじゃん。敵なのに」
「今はクラスメート」
いえ、そう言う問題じゃなくて。
今はただの高校生でも、裏があるんだから…
「結局、俺に言っても関係ないんじゃね?外部に関わるようなことじゃないんだろ」
ほら言ってみな、と聞いたことのない優しい声で誘いかけてくる。
流石の私もこれには引っかからない。
抵抗しようと思った途端、私は壁に押し付けられた。
「お前の行動は全部分かるんだっての。学習しろ、馬鹿」
まさかの壁ドン。
その人があのレベルになると恐怖でしかない。
「えっ!?」
そんな声が聞こえたと思えば、クラスメートがいた。
「もしかして、華宮くんと間宮さんってそんな関係…!?」
メガネをした覇気のない男子がいた。
「…バレたか」
王子モード発動。
すると、私は華宮涼馬に引き寄せられる。
「俺たち、付き合ってるんだよね。中学が一緒で」
…何を出鱈目なことを…
私が黙り込んでいると、見られないように工夫したのか、手の引き寄せる力をすごく強めてくる。
「そ、そうなんだよね〜、はなみ…、っと、涼馬くんとは中学の同級生で!」
これでいいですか、これで。
ちらっと見て、後ろで背中にグーパンを喰らわす。
「誰にも言わないでもらえたら嬉しいんだけど…」
「わ、分かった。誰にも言わないよ!」
お邪魔しましたっ、とそそくさと逃げていった。
そして足音が無くなった後。
私たちは即座に離れる。
「勝手に変なこと言わないで頂いても?」
「じゃあ、あの状態をなんて説明すればいいの?」
「『俺が襲ってました』」
「お前は真面目にバカ?脳働いてる?」
「うん、アンタこそ大丈夫かな?」
するとチャイムが鳴る。
「「やっべ!」」
私と華宮は争うように走り出した。
もちろん、その速さは普通の速さ。
だけど、距離は長かった。
無心で走っていると、ぼそっと呟くように小さな声で話しかけてくる華宮。
「お前、仲間だろ、その傷」
「は?」
「その傷の箇所と程度。おそらくエリック・J・ブラウン」
なんで、分かるの…!?
私は足が遅くなってしまう。
「…アンタ、本当に何者なの!?」
「普通の男子高校生」
「バカ言うな」
私は華宮の背中ももう一回叩いた。
「手は出さない約束じゃ?」
「アンタにとってこれくらいは手を出した範囲には入らないでしょ」
「よくお分かりで」
やっぱり、コイツは苦手だ。
全て見透かされている。
それに、掴めると思ったら遠くに行ってしまう。
距離感が掴めないんだ。

第2章

そして、また裏の世界へ戻る。
燦爛の会議の後、私は椅子にぐったりする。
すると、また嫌な予感がした。
「まだ今のターゲットに手こずってるらしいね、スプラウト」
この上から目線で言ってくるのはお馴染みのボス側近。
この前しっかりとボスに説教されてたはず…
「ボスからの伝達。今のターゲットの気分転換にもう1人追加。詳細はこの紙にあるからご確認を」
そう言って紙切れを渡された。
「あと。『辛くなったら私のところへおいで』と。…くれぐれも勘違いをしないように」
「はい」
そう私を睨んで側近はスタスタ歩いて行った。
紙切れを見てみると。
『ー今回のターゲットー
 ニコラス・E・ガタリー。本名・細川哲(ほそかわ あきら)。32歳。アクセル。7月10日午後6時3丁目〇〇路地待ち合わせ。
 要望:処刑
 危険人物度:☆☆☆☆★』
その他ズラズラとよくそんなに調べれるなってほどの情報が書いてあった。
アクセルって…、すごい世界的なマフィアじゃなかったっけ?
確か、世界27ヵ国にアジトが配置してあるとかなんとか。
しかも待ち合わせって何?元々取引的なものだったの?
それって騙してるんじゃ…、少し気が遅れる。
まあ、任務は拒否権がない。
提示されたところで感情は表に出せないんだから。
私は支度をしてすぐに出て行った。

上にワンピースを羽織り、離れたところで見てみると、30代くらいの男性がキョロキョロしていた。
このままで話しかけてみるか。
「あの…」
そこまで言ってふと我に帰った。
何を話せばいいの…!?
今思うと話しかけるってだいぶ不審じゃない…!?
内心焦っていると、ターゲットは振り向いた。
「あっ、君か。取引の子」
あ、そういう設定なんだ。
「え、ええ…」
「かわいいね、君。じゃあ、今回は特別に後払いにしてあげよう。アクセルの情報を先に流そうか」
アクセルの情報!?
…これだけもらっていくか。
珍しく私は悪いことを企んでしまったらしい。
「じゃあ、後で私もサービスしてあげる」
私はいつもより幼さを出して喋る。
「おっ、ほんと?嬉しいなぁ」
それから話したのは本当にアクセルの内部の情報だった。
アクセルはつい先日、ボスが亡くなり、それはエンドレスが関わっていること。
その息子が今ボス即位を嫌がっていること。
しかし、息子は今、すごく動いていることなど。
「ありがとう。じゃあ、こっちの番だね」
「うん。例の物は持ってきてくれたんだね」
「それは大丈夫!その前に私のサービス!」
「何かな?」
「細川哲」
さっきまでの声とは一変、低い声でそう言うと、男は少し後ずさった。
「燦爛だ。私のサービスはあんたを殺してあげること。感謝しなさい」
「お前っ!」
男はすぐに地面に倒れた。
私は手を合わせて心の中でごめんなさい、と謝る。
私はいつもこうだ。
暗殺者、という役職に堂々とできない。
毎回毎回、任務のたびに自分の罪が重くなって嫌いになる。
彼も何かを犯していても、立派な人間。
少なくとも私より罪は小さい。
「勝手なことしてごめんなさい」
私は電話で部下を呼んで細川哲を片付けてもらった。
やっぱり私の心の中は黒かった。

「ねぇねぇ、間宮さんと華宮くん!2人って今年夏祭り行けたりする?」
あれから数日後。
話しかけてきたのはクラスメートの女子だった。
「「は?」」
まさか華宮と同じ時に同じ言葉を発する。
一瞬イラッとしてしまったが抑えた。
「実は、クラスみんなで今月末にある夏祭りに行こうってなってるんだけど…」
今月末の夏祭り…、何かあったっけ…?
できれば行きたくはない。
…しまった、任務だ。
夏祭りで見つかってしまったらなんとも気まずい空気が流れるだろう。
「「大丈夫」」
「ほんとっ!?良かった!じゃあそう言っておくね!」
さて、ここで問題なのは、コイツが一緒なことだ。
「…へぇ、夏祭り行くんだ〜?」
私は嫌味たっぷりで華宮に問いかける。
普通の会話のように言いながら相手を探る。
「色々あってね」
王子スマイルで返される。
間宮花蓮に15のダメージ。
まあ色々、とは裏のことだから…って、目的一緒だったりしないよね?
これは…、変えてもらうしかない。
確か、今回のターゲットってみんながいるから下手なことはできないし、コイツも一緒だったら負担が半端ない。
私はひっそり椅子の上でそう決意した。
決意したの、だが…
「ん〜、ちょっとそれは無理かな〜」
ボスはこの通り。
「他の子たちは忙しいんだよ。カレンに妥当なお仕事で他の子もそれが合ってるからさ…、ごめんね」
残念。
私は今月末、地獄のような時間を過ごさないといけないらしい。

「あのさ!うち着物とかの着付けやってるんだけどさ、特別に班のみんなやっていかない?夏祭りにどうかなって思って。あ、お金は大丈夫だから」
ある日の昼休み、森田さんがそう言った。
浴衣かな。
いや…、着物を着たら着替えるの大変だしな。
「私は、」
「マジ!?やったぁ!」
しまった、タイミングが悪かった。
同じ班の…、中本さんが大声でこう言った。
あんまり浴衣を着る機会なんてないからなぁ。
「じゃあ、6人分言っておくね!ありがとう!」
なんか入っちゃってるんだけど…
「えっと、あの、」
「そうそう!希望とかある?うちいろんなの揃ってはいるんだけど、目星ぐらいつけておこうかなって」
このなかなか喋れない状況に横の華宮が笑っていた。
アンタだって入ってるのに…
私は思いっきり華宮を睨みつける。
「私はピンクと白がベースのものがいいなぁ」
呟く班員。
「おっけ!あ、間宮さんと華宮くんは私に任せて!ちょうどいい浴衣があるんだ!」
そう言う森田さんはご機嫌のようだった。
無論、私と華宮は苦笑い。
ただ、私には華宮の目的は分からなかった。

夏祭り当日。
私は任務と高校生の青春を全うするため、まず森田さんのお家にきた。
今日は着付けとやらをしてもらうため、下に任務の時の服を着ることができない。
どこかトイレで着替えるしかないのだろう。
少し緊張しながらもインターホンを鳴らした。
『はい!』
「間宮です」
『入って入って〜!』
着物の着付けができるからなのか、森田さんのお家の外見は和風だった。
「よし。間宮さんも来たことだし、これで全員かな」
どうやら私が1番最後だったらしい。
と言うことは、華宮も先に来ていたのだろうか。
「間宮さんは、私がやってあげるね!」
「他にもいるの?」
「うん、いつもお母さんと一緒に働いてくれてる人が特別にやってくれてる」
すごいなぁ。
「間宮さんはこの黒い生地に寒色系のハスが似合うと思ったんだ。実際、名前にもハスは入ってるでしょ?」
本当だ。
今更だけど、名前に蓮が入ってる。
「帯は水色。似合うじゃん!よし、ちょっと待ってねぇ」
そして着付けられ、髪も緩くハーフアップ。
鏡で見た私がいつもとは違う雰囲気を出していた。
素直にこんなことができる森田さんがすごいと思った。
「すごく可愛いんだけど…、我ながらやってやった感!」
森田さんも満足そう。
「これで、みんなに見せたらどんな反応するかな?」
私が部屋を出ると、みんなも完成していたようだ。
「間宮さん…、すっごく綺麗…!」
「いや、そんなことないけど…」
「ね!石橋」
「あ、えっ!?う、うん」
1人の男子がおどおどしながらそう言った。
なんか言わせてしまって申し訳ない感が…
すると、視界にパッと入ったのが華宮涼馬だった。
黒で揃えられており、あの不敵な笑みをすると和風の悪魔同然だ。
…まあ、容姿がいいことは認める。
「じゃあ、行こっか!」
森田さんの家から出て会場へと向かった。

夏祭りの会場は大勢で賑わっていた。
本当にここで任務を遂行しないといけないのか…
今回のターゲットは射的の店でやっている長本仁(ながもと ひとし)。
ここでは密売の予定をしているらしい。
一回偵察にでも行ってみるか。
クラスのほどんどが集まった。
こんなに集まって迷惑じゃないかの方が気になってしまう。
通りでみんなに馴染めないわけだ。
「花火まで全然時間あるね。店でも回る?」
森田さんはクラスでも中心となっている人物。
「待って、森田さんの班ってみんな浴衣!?可愛い〜!」
どこかの女子がそう言う。
「王子が輝いているっ!」
なんとでも言うがいい。
本性は極悪人だからな…!
私はそれが顔に出ていたのか王子に睨まれる。
よく人前でできるよ。
「わ、金魚すくいじゃん。なんか夏祭りってめっちゃ久しぶりだわ。行こうぜ!」
この大勢で行くのかと思いきや、いくつかに分かれた。
もちろん、しれっと私は射的の方に行く。
「間宮さんは射的に行きたい感じ?」
「えっ!あ、うん!」
「俺もついていくよ」
まさかの華宮。
やっぱり華宮にも別任務があるのかな。
「じゃあ、2人でいいかな。私たちはあっちの方にいるね!」
そう言ってみんなは逃げていった。
何この気まずい空間。
話すことなんかないし…
「おお、いらっしゃい!射的やっていく?」
「2人、お願いします」
ターゲットに答える華宮。
長本が何やら準備している間にボソッと呟く華宮。
「賭けでもする?」
「何を賭けるの?」
私がそう言うともっと小さい声でこう言う。
「商品を多くとった方がアイツを仕留めに先に動ける」
私は一瞬ハッとした。
華宮も同じ目的だったんだ。
「乗った」
長本はこっちに来て、射的の球を渡してくれる。
「どうぞ」
「ありがとうございます。で、絶対アンタが勝つから2つハンデ頂戴」
「仕方ねぇな。2つな」
もちろん、華宮くらいの実力になると、一気に複数倒せるだろう。
私も日常からナイフを扱ってるため、それなりにはできるだろうけど…、勝てる気がしない。
私と華宮は並んで射的を構える。
バンっと華宮が打つが、ヒョロッと落ちる球。
射的の威力が弱いんだろう。
私のもそうだ。
…もしかして、細工してる?
もう一回構える華宮。
その姿は、悔しいけど綺麗だった。
夜空を背景にライトに照らされ射的中の華宮。
私でも一瞬揺らいだくらいだから、これを他の女子が見たら悶えるだろうな、と思いながらもう一回撃つ。
が、やっぱり商品まで届かない。
「これ、威力弱くないですか?」
「さあ、知らんがね」
確信犯だ。
ナイフでも投げてやろうかな。
横を見てみると、一回も取れないことにイライラしている様子の華宮が見えた。
「すみません、違うタイプのってあります?」
「お、こっちに挑戦するか?」
それは…、ピストルタイプ!?
そんなの聞いてないよ!?
「そっちの方が難しいよ?」
長本が鼻で笑うようにこう言った。
「大丈夫です」
華宮がそう言って撃った球は見事に商品に当たり、すぐ横の2個も倒れた。
「ま、待て!なんで…」
長本が動揺している。
「勝った」
私は0個。華宮は3個。
完敗だ。
「諦めないから!」
「それはご自由に」
うっ…、悔しい…
「じゃあ、お先に」
本当に悔しい。悔しくてしょうがない。
「あっ!間宮さん!あれ、華宮くんは?」
この子は…、中本美咲さんだったっけ。
確か、同じ班だった気がする。
「えっと…、お手洗いかな〜」
不自然に誤魔化す私。
「ああ、そっか。間宮さんは射的でなんか取れたの?」
「ううん、1個も取れなかったよ。華宮くんは取れてたけど」
「え〜、すごいね」
さすがだね、華宮くん、と私は素の感情を抑え込んで話を合わせた。
今は6時50分。
長本の取引は7時だ。
ヤバい、急がないと間に合わない!
「ちょっと私もお手洗い言ってくるね!」
私はその場から逃げた。
一応服を持ってきてはいるのだが、私はこう言うことには不器用なため、浴衣を着れない。
仕方ないけど、このまま行くしかなさそう。
私は、賑わっている場外は別に、木が植えてある少し森になっているところに言った。
浴衣だから余計に動きにくい。
少しずつ進んでいくと、声が聞こえてきた。
華宮なんかに取られたくない。
私は幹の後ろに隠れて様子を伺う。
2人いるから同時には難しいから、先に長本を仕留めて…、
私は、スーツケースが手に渡った瞬間、長本に向かって走り出した。
気配は消した。
少し気が緩んでいたのか、銃声に気づくのが遅くなってしまって焦る。
ナイフで飛んできた弾丸を弾き飛ばした。
弾丸は真っ赤に染まっていた。
もしかして…!
「おやすみ」
華宮だ。
浴衣を着ている。
長本を見ると、倒れていた。もちろん、相手側の人も。
「あんた…!」
「これが俺の職業だ。何か文句が?」
華宮の目はさっきの賭けを申し込んできた時と違った。
もっともっと冷ややかで、私も押されそうになった。
私はカッとなってナイフを華宮に向ける。
何回するんだろう、このくだり。
互いに睨み合い、矛先を向けて、殺し合う。
仕方ないじゃないか、これが華宮との関係なんだから。
なのにどこかムズムズしている私がいる。
すると、華宮に一瞬隙ができた。
普通にナイフを投げれば当たるのに。
チャンスなんか滅多にないのに。
ナイフを手放すことができなかった。
これに酷く戸惑う私に銃口は向けられた。
だが、弾丸は飛んでこない。
華宮を見えると、少し驚いていたような顔をした。
「華宮、今日は一旦撤収するよ。みんなが待ってるかもしれないから。先に私が行くね」
私は走って逃げた。
なんで、打てなかったんだろう。
そんなことを考えてばっかりだった。

私がクラスメートのところに帰ると、華宮も同じタイミングで帰ってきた。
「え、なになに?もしかして、2人揃って抜け出したとかそう言うこと?」
森田さんが盛大な勘違いをするので焦ってしまう。
だけど、違うとは言えない。
石橋くんには前、華宮が出鱈目を言っちゃったし。
「あ、みんなで記念に写真撮ろ!」
森田さんはそう言ってスマホを構える。
私も慌ててピース。
「はい、チーズっ!」
すると、私の頭の上に固いものが乗せられた。
瞬時に顎だと分かった。
上を見てみると、華宮だった。
私と視線を交わすわけでもなく、何もなかったように夏祭り会場を見ている。
「ねぇねぇ、ちょっと来て!」
班の人に連れられて来たのは崖みたいなところだった。
けど、柵が張ってあり、なんならベンチだって置いてある。
多分ここは景色を見るために作られたんだろう。
伊藤さんは私の耳元で、
「あとは2人でどうぞ」
と言ってみんなが逃げていった。
「へっ!?」
2人っきり、と言うことはそんな望んでいるようなシュチュエーションがあるんじゃなくてですね…
だけど、華宮は柵に座ってまた会場を眺めていた。
私はベンチに座って華宮に問いかける。
「まだ誰かいるの?」
「別に」
また声のトーンが下がった。
「そんな人を見て楽しい?」
私は素朴な質問だったけど、口調が感じ悪くなったかもしれない。
言った後で後悔した。
「別に」
「機嫌悪くない?」
「別に」
何も話すことがなさすぎて気まずい。
「…追い打ちをかけるようで悪いけどさ。華宮、頭痛いでしょ?」
「っ、は!?」
不意打ちをつかれたように顔を顰める華宮。
「大丈夫、今は何も出さないから。私は退くからベンチ座りなよ」
とても珍しく、素直にこっちに来た。
私がベンチから立とうとすると腕を掴まれる。
「どうしたの?」
「ここいて」
華宮は素の甘えたような顔をしていた。
ものすごく珍しく、本性を晒け出したように見える。
私も内心焦っていたので言いなりのまま座った。
「本当大丈夫?」
「うん。まあ、あいつらがいなくなったのが不幸中の幸いだった」
そうだった。
みんなの前では王子くんなんだったな。
すると華宮はこっちに寄って来た。
私との距離は0センチ。つまり横向き密着状態。
「(っ!?)」
声にならない驚きで固まってしまう。
すると、華宮の手がぽんっと頭に乗せられた上に、首が強制的に華宮側にグイッと傾く。
「何してんのっ」
「寄っ掛からせて」
私の頭は華宮の肩に丁度の高さで乗った。
しかも私の頭の上に華宮の頭があるのだ。
「マジで大丈夫!?本気で心配になってきた」
「静かにしろ。頭に響く」
「ごめん…」
その後何を言えるわけもなく、ただ少し曇った夜空を見ていた。
どよっとした空とは反対に、私の心臓はとても働いている。
言ってみたら私も今は普通の女子高生。
そう言うお年頃なんだろうから今のは不可抗力だ。
ただただコイツが生憎顔面が国宝級ってだけで、決して華宮だからでは…
って何私は弁解しているのか。
「お前、冷たくね?」
ボソッと私に問いかけた声はいつもの馬鹿にしたような声色じゃなかった。
なんと言うか、普通の男子高校生の体温が感じられる。
「これが私の平常体温なんです。人より自分のことを心配してください」
華宮はクスッと笑った。
「お前マジで普段ならそんなこと言わないよな」
「誰にも言ったことないよ」
すると、私の背もたれにあっただろう華宮の右手が私を抱きしめた。
こんな華宮、知らない。
どうしよう。
心臓の鼓動は早まるばかりだ。
絶対華宮には知られたくない。
「もう花火上がる時間じゃね?」
スマホのロック画面を見てそう言う。
「あんたは大人しくしてなさいよ」
「ほぼ寝っ転がってるも同然だからご心配なく」
何が寝転がってるも同然だよ、堂々と座ってるじゃんか。
するとアナウンスが流れ、花火が豪華に花を咲かせた。
「うわ、綺麗」
私は無意識にそう呟いていた。
「俺花火初めて見たかも」
このベンチは誰もいない挙句、特等席だった。
前に人がいて混み合ってるわけでもないし、からと言って寂しいわけでもない。
花火だけが見える、なんとも憧れる場所。
「私も生では初めて見た」
いつも絵本か動画とか写真しか見たことなかったから。
「「でも一緒に見るのがあんた(お前)だったのが玉に瑕だわ」」
見事にハモったことに思わず笑いが出てしまう私と華宮。
「最悪じゃん。せっかく花火が綺麗なのに」
「こっちのセリフだよ」
今までにないように打ち解けたように話す。
「まあ、いいよ。実際私が本性でいられるのって華宮の前だけだし」
私がそう言うと、華宮は黙って頭を上げた。
何か言っちゃいけないことを言ったのかと見た。
と、そっぽを向いたのはいいけど、耳が赤くなっていた。
「華宮?」
「なんでもねぇ」
なんでもあるでしょ、その顔は。
もしかして…、照れたとか!?
いやいや、そんなことあるわけがない。
だってあの華宮だよ?あの感情がないやつだよ!?
無慈悲なやつがそんな、ねぇ。
「何してんの」
私が考え込んでいると今度は華宮が冷静になったらしい。
「別になんでもないけど」
「そう」
その後何も喋らずに花火を見た。
まだ華宮に抱きしめられてるのは疑問だったけど。
花火はフィナーレで1番大きな花火が上がり、花火大会は無事終わった。
華宮は席を立つ。
すると、柵の方まで歩いたと思いきや、立ち止まって振り向いた。
その目はとてつもなく優しかった。

「…浴衣、似合ってる。今日のお前、綺麗だよ」

そう言った瞬間、華宮の後ろに大きな花火が上がった。
背景に、赤色ような橙色のような暖かい花火がひとつ。
風で、華宮のセンターパートの前髪が揺れる。
花火の前にふっと柔らかく小さく咲いた笑顔に思わず赤面してしまった。
ちょっと上から目線だけど。満面の笑みってわけじゃないんだけど。
全然友人でもなければ、仲良くしてるわけでもない。
ただ生死を争う敵なのに。
本当にどうしよう、ドキドキしてる。
「あ、ありがとう」
今日ぐらいはいいよね、ちょっとくらい気を許したって。
すると、華宮は手で口と鼻を覆った。
ほんのり見える頬は赤く染まっていた。
「お前のが映るだろーが」
私はふふっと笑う。
何の猫をかぶるわけでもなく、本当の私で笑えていた。
私は華宮の方に近づいて下の夏祭り会場を見る。
「あれ、りんご飴割引の看板が出されてる。そういえば、今日私何も食べてなければ何も収穫してないじゃん」
「行く?」
華宮が問いかけてくる。
「うん。私は行きたいけど…、華宮頭大丈夫なの?」
「大丈夫」
「じゃあ行こっか」

実際、下に降りてみると帰る人でいっぱいで押し返されそうになる。
こんなに人がいたんだな。
「手」
「はい?」
華宮が手を差し伸べてくる。
「はいも何も一つしかないだろ」
「それは、そう言うことなんですか?」
私は華宮の手に遠慮がちに手を添える。
「まあ、お前が流されないためだけど」
「知ってるよ」
手をグイッと引かれ倒れそうになるのを華宮が支えてくれる。
もうなんなんだ、コイツは。
全然掴めない。
優しいのか非道なのか。
「ごめん」
「いや?」
その後、2人してりんご飴を買って食べながら帰った。
ふと思った。
もしかしたら私、いざ任務で会った時すぐにナイフを向けれないのではないか。
これが華宮が計画した戦略だとしても。
あの笑顔は忘れることができないだろう。
翌日。班の人に、
「昨日のことは黙っておくから安心して」
とニマニマされながら言われたので私は余計に居心地が悪くなってしまったのは言うまでもない。

あれから数日経った。
華宮と何かあったわけでもないし、任務の方でも別件はない。
だけど、少し変わったことと言ったら、私が華宮と目が合うとすぐに逸らしてしまうことだ。
どれだけ我慢しても恥ずかしくなってしまう。
自分が何を思っているのか分からないけど、これがとてつもなく気持ち悪い。
多分、華宮に対する敵意なのだとは思うけど確かではない。
只今、13時50分。5時間目の数学だ。
数学教師の担任の長い長い説明に眠くなっていると、急に大きな音がした。
爆発音…!?
『火災警報が鳴りました。生徒、教師のみなさん、急いで運動場に避難してください』
放送で教頭らしい声がした。
来た。
私はみんなに見えない小さく微笑む。
私が急いで席を立つと、華宮も席を立った。
私たちは争うように走り出す。
「おい!華宮と間宮!どこに行くんだ、早く戻ってきなさい!」
私はそんな担任の声を無視して走った。
隣に華宮がいるのは気に入らないけど、そんな場合ではない。
着いたのは屋上。
「開かないんだけど!」
屋上は普段立ち入り禁止だから鍵もかかっていて、さらに錆びている。
何年か前、ここは不良の溜まり場で事故も起きたため、鍵は厳重なんだとか。
さらに、屋上のドアは分厚いとか、このドアはドアの形をした偽物でまた別に隠しドアがあるとか噂は色々だ。
早くしないと、逃げられちゃう!
「貸せ!」
華宮は足でドアを蹴る。
が、びくともしない。
「仕方ねぇな」
華宮はどこから出したかも分からない銃でドアノブ部分と後いくつか穴を開ける。
「間宮!」
華宮は焦っている。
「行くよ!せーのっ」
2人でドアに体当たりしてやっと開いた。
すると、案の定ヤツはいた。
私と華宮は一斉に凶器を相手に向ける。
「あらら、穏便じゃありませんねぇ?」
そこにいたのは30代男性。
シルクハットに白いスーツを着ている。
「私はマリリン・カーター・タップ。エンドレスのものです。どうぞ、マリリンとお呼びください」
綺麗にお辞儀をするマリリン。
燦爛にも元々情報は入っていた。
戸波高校の爆発事件をマリリンは予告状を出していたのだとか。
おそらく目的は私か華宮。
華宮はあれだけ目立っていりゃあ目をつけられる。
私の可能性は低い傾向にありそうだ。
「何を目的にここに来た」
チラッと横を見てみると、華宮は冷めた目をしていた。
温かみを感じない。
「それはもちろん、あなたを抹殺するためですよ。ファラ・リヴェリ様」
マリリンもさっきの敬意をもつ目ではなくなっていた。
口は愉快そうに大きく微笑み、本当に楽しんでいるような顔だった。
「横にいる方は…、すみませんがご存知ありません。お嬢さんのお名前をお伺いしても?」
ここで、言うべきなのか。
暗殺者として名が知れるのは好ましいことではない。
「レベッカ・クラーク」
だいぶ前の偽名だ。
久しぶりだな、この名前も。
華宮は少し動揺したようだった。
「レベッカ・クラーク様ですね。レベッカ嬢と呼ばせていただいても?」
「ご勝手に」
なんかこの人、悪人なはずなのに妙に親しみを感じるんだけど。
…美をとてつもなく信仰している人とかそう言うことなのかな?
「レベッカ嬢はどこにおられてですか?」
「どこにもいない。たまにこうやって遊んでるだけ。その割には私強いんだよ」
私は少し攻めてみる。
「そうでございましたか。本当はレベッカ嬢を巻き込みたくなかったのですが、貴女からお越しいただいた訳ですから…少し遊んで差し上げましょうか」
マリリンは大きなライフル銃を2本出した。
「(っ!)」
私は少しびっくりしてしまった。
あれって、確かイタリア産の…
すると、ドアが豪快にバンッと開いた。
マリリンは私と華宮の間に2発の弾丸を通した。
それは見事にドアを開けた担任の腕と足に丁度当たる。
「担任!」
腕を押さえ込んで崩れ落ちる担任。
私は、担任の方に寄って止血を試みる。
「マリリン、と言ったな」
その間に華宮がマリリンに話しかけた。
「ええ、なんでしょう」
「お前は一般人を巻き込んだことがない」
「そうですね」
「だが今、この教師に被害が出た」
「私は別に一般人に被害が出るのは性に合わないとか、そう言うわけじゃないんですよ。ただ単にめんどくさかっただけです」
ニッコリと微笑む方に言うマリリン。
「下にはたっくさんの一般人…、それも可愛らしい女子高校生がいる」
「ほぅ」
興味深そうに頷くマリリン。
「先に、警察に連絡される一般人を消しておきたいと思わないか?もちろん、俺やコイツは警察に通報されると不利でしかないからしない」
何を言ってるの、華宮…
「なるほど。賭けをしようとのことですか」
「ま、待て…、生徒には…生徒には手を出すな…!」
担任が苦しみながらそう言う。
すると、華宮が私の方を向いて口パクでこういった。
「(守れ)」
そして向き直る。
「じゃあ、下に降りようか」
すると、2人とも屋上の柵を跨いで下に飛び降りた。
ライフル銃2つを持っているため、華宮1人じゃ厳しい。
…いや、そんなことないかもしれない。
今の華宮なら余裕でマリリンを倒せる。
だけど、一応生徒に被害を出さないようにするため私がついていく。
「先生、下に降りましょう。保健室で保健養護の先生に見てもらってください。私もできますが、こう言う時は専門家に頼るのが1番です」
私は先生を立たし、私の肩先生の腕を乗せる。
「間宮…、お前は何者なんだ」
階段をゆっくり降りながら担任がそう聞く。
「…裏世界の者です」
「裏世界…?」
「ん〜、密売人とか、殺し屋とかマフィアとか」
担任は目を見開いた。
「華宮も…?」
「はい」
「危ないから…やめておけ。俺の生徒が何か酷い目に遭うのは嫌だ」
担任らしい。
教師としてはとてつもなくいい教師なのだろう。
「裏世界に入ると、何かが起こらない限り素顔で表世界には出れないんですよ」
「えっ…」
「先生は、生徒を裏世界に行かせないような教師になってください。私と華宮は例外ですが」
「世界に行かせないように?」
「はい。不良とかは特に行きやすいので。戸波高校では、もう少し強化してください」
今思うと、こんなに一般人に裏世界のことを喋ったのは初めてかもしれない。
「私はもうここには帰ってこれないので。あ、今の間宮花蓮の情報をたどってもダメですよ。全てフェイクなんで」
「全部…、偽ってるのか」
「はい」
ここで、保健室に着いた。
私は先生をソファに座らせた。
「お前の本当の名前は…?」
この教師はどこまでもいい教師なのか。
私はその場にしゃがみ、担任の質問に答える。
「本名…、ではないですが、カレン・スプラウトってインターネットでも検索したら出てきますよ」
「スプラウト?日本人じゃないのか?」
「さあ、どうでしょう?」
「俺にも息子がいるんだけどな。妻と息子が離れたところにいるんだよ。単身赴任ってやつ。でも、妻が元々犯罪者でな。俺はそれを乗り越えて結婚した。息子はどうしてるかな」
「…杜若翔太先生でしたっけ、あなた」
「ああ」
「杜若先生、今までありがとうございました。どうぞ、2Aをよろしくお願いします」
私は保健室を出た。
「間宮!」
担任の大きな声が響く。
もう一度保健室を覗くと担任はこっちを見ていた。
「なんですか?」
すると、担任は笑ってこう言った。
「スプラウトかなんか知らないけど間宮。幸せになれよ」
私は息を呑んだ。
担任が優しい笑顔だったから。
「お前にも、色々やることがあるんだろう。だが、判断を間違えるな。普通なら今すぐやめろとか言うんだろうけど、俺はそんな無責任なことは言えない。だから、お前はどっちでもいい、この世界で正しく幸せになることを望め。そして、いい男捕まえろよ」
ニッと笑ってそういう担任。
「それ、一部を華宮に伝えてもおきますね。今保健養護の先生呼んでくるのでもうちょっと待っててください。…では」
「ああ、またな」
私はドアを閉めると、任務と同じ速度で走る。
10分も時間をとってしまった。
早く養護教師を呼んでこないと!

【華宮涼馬side】
俺とマリリンは屋上から飛び降りた。
もちろん、2人とも無事着地。
小さい頃から鍛錬を積んでいるため、このくらいは楽勝。
だが、ここからどうするかだ。
降りたところは全校生徒の前。
間宮が来るまで生徒を守りながらマリリンを倒さないといけない。
別に俺はどうでもいい。
学校でこんなことをしていたら生徒や教師に犠牲が出てしまうのも仕方がないことだと思う。
だが、間宮は違う。
悪人以外に被害が出るのを極端に嫌っている。
燦爛でそんな掟があるのか、間宮の優しさ故なのか。
そんなことを考えていると周りがザワザワし始め、現状理解ができたようで叫び始める生徒が出てきた。
「可愛らしいお嬢さんがたくさん…!」
コイツ、紳士じゃなかったのかよ。
下心丸見えだろ。
俺はわざと外してマリリンの顔の真横に撃つ。
「そんなに眺めてていいのかよ?」
すると、悲鳴が聞こえた。
そうだ。
こんな大勢の中コイツを殺めてしまえば追跡されるかもしれない。
「おっと、これは失礼。それじゃあ、始めましょうか?」
今、俺は生徒に背を向けている。
対面しているマリリンはいつでも撃ち放題だ。
これは…、大仕事じゃね?
「華宮!何をしているんだ、早く避難しなさい!警察には連絡したから!」
教頭がそう叫ぶ。
余計なことしてくれたな。
油断している間に弾丸は飛んでくる。
俺が避けたたら他の生徒の方へ飛んでいく。
これは…、撃ち落とすしかない。
俺がマリリンの相手をしていると、やっと間宮が来た。
「遅い」
「仕方ないでしょ、担任が最後まで話が長かったんだから」
間宮は手を叩き合わせて、はぁ、とため息をつく。
だが、少しスッキリした顔をしていた。
「ほら、生徒にはなんの被害も出ていない。今は一時休戦だ。エンドレスだからな」
「生徒を逃して、マリリンを仕留める」
「ああ」
「レベッカ嬢。遅れてのご登場ですか」
マリリンがまた面白そうに挑発する。
「マリリンはエンドレス幹部。ちなみにDだからそこまでじゃない」
エンドレスは、ボス、側近、幹部で構成されている。
幹部は5人で強い方からA、B、C…と名付けられており、マリリンはその中のD。
まあまあのレベルだ。
「とりあえず、学校から出るように誘導。出た後は焼くなり煮るなりなんでもどうぞ」
「お前は?」
「私は生徒の安全確認とか。最後までキッチリしたいから」
俺は無意識に間宮の頭を撫でていた。
「えっ」
間宮は案の定、少し引くように声を出した。
俺の驚きは声には出ず、ひたすら自分にびっくりしていた。
「…ごめん、気にするな」
「うん。…じゃ、行こっか」
俺はマリリンに向き直り、間宮は生徒の方を向いて一緒のタイミングで走り出した。

【間宮花蓮side】
私は、生徒の方に行って何も被害がないか確認する。
こんな悪人の所為で一生懸命純粋に生きている学生が傷つくなんて考えられないから。
「怪我をした人はいますか〜?」
掛け声がベタな気がするが気にしない。
「いない?銃とか飛んできてない?」
反応がない。
大丈夫だったんだ。
さすが華宮と言うべきか。
「生徒、教師は隅によっていてください」
私が後ろを振り向くと、華宮とマリリンはいなかった。
一応、成功…、かな?
「間宮!何をしているんだ!」
おっと…、教頭だ。
教頭は生徒の中でも評判が悪い。
いちいち面倒臭いらしい。
まあ、教頭なりに色々やっているんだろうけど、今は生徒の方に同感だ。
私はナイフを出す。
「おっ、お前、間宮!」
「大人しくしておいてください。じゃないと、私が何をしでかすか分かりませんよ?」
「…っ」
何も言えなくなったんだろう。
「じゃあ、終わったからさよならかな」
私は運動場のフェンスを飛び越え、逃げていった。
少し寂しいと言う気持ちに蓋をしながらどこか遠くへ。

私は使われていない倉庫に来た。
だいぶ大きいが何も置かれておらず、錆びまくった倉庫。
そこに私は、背を向けて大きい声を出した。
「中本美咲と石橋尚人、だっけ。アンタら」
そこにいたの私と同じ班の2人だった。
「間宮花蓮」
聞いたことのない石橋の低い声が倉庫中に響き渡る。
振り向くと、メガネを外した石橋と髪を上げた中本がいた。
「じゃなくて、レベッカだっけ。えっと?マリリンにによると、レベッカ・クラーク。スナイプだったっけ」
スナイプとは、私がだいぶ前に所属していたマフィア組織だ。
今では弱小組織となっている。
「エンドレスの幹部A・杜若輝緒(かきつばた てお)と幹部・Cの中山咲良。情報は入ってるよ」
私はナイフを出す。
石橋尚人と中本美咲の本名。
仲間がハッキングして掴んだらしい。
すると、本名を知られたからか2人とも銃を出した。
「スナイプなら簡単だよ」
「そんな余裕なのも今だけだろ」
そして、私が地面を蹴ると、中本はトリガーを押した。
けど、飛んでくる球はそんなに言うほど的確じゃない。
あの華宮よりは何倍も避けやすい。
重点的に中山を狙いながら、石橋の攻撃を避けて中本に1撃をくらわせた。
もちろん、ナイフは使ってない。
柔術で倒したのだ。
「おい、咲良!」
石橋は取り乱した心配していた。
私の攻撃より先に中本の方に駆け寄ったのだ。
「お前、何してんだよ」
倒れた中山の前にしゃがむ。
「ご、ごめん輝緒…って後ろ!」
私は石橋を後ろから蹴った。
見事に勝利。
石橋は体を地面に打ち付けられたが、痛みに耐えるように起きあがろうとする。
「仲間を心配するのもいいけど、相手の存在を忘れちゃだめだよ?」
私は2人から少し距離を取って地面に座る。
「お前、何者だ…!?」
どこかの漫画で読んだことあるようなセリフを吐いた石橋。
「カレン・スプラウト。燦爛のセンターやらせてもらってます」
「カレン・スプラウトって、暗殺者…!?あの1000人斬りとか言う…」
中本が目を見開いて言う。
「ふ、ははっ!1000人斬り?そんなにやってないよ。どこからそんな情報が漏れ出したんだろ」
「彼氏はマフィア、彼女は暗殺者、か。異次元のカップルだな」
石橋はそう呟いた。
「…石橋。勘違いしてるみたいだけど、私と華宮は付き合ってないよ?」
「は?」
「むしろ敵。今でも殺し合う仲」
「だ、だってお前、転入してきた日に壁ドン…」
石橋はこう呟く。
「あれは脅されてただけ」
「夏祭りの時は?」
中山も勢いに乗って聞いてきた。
まあ、隠すことでもないし、話してもいっか。
「エンドレス長本の任務で被っただけ」
「はぁ…?じゃあさっきの頭ポンポンは?」
「あれは…、知らない」
なんか魔が差したんだろう。
「じゃあ、まあボスに報告かな」
「ちょ、ちょっと待て!ボスってまさか、燦爛のボス!?」
それ以外何があるんだろうか。
「燦爛のボスなんか嫌よ!やっぱり、アンタを…」
私はごちゃごちゃ言う中山にナイフを向けた。
「ごちゃごちゃ言うんじゃないよ。それでも、よく気づかなかったよね。私の偽名にも入ってたのに。カレンって」
「華宮…、いやファラ・リヴェリは知ってた。だが、下手に手を出すとやられてしまう」
それもそうか。
「…分かった。今回は私のクラスメートに免じてトドメは刺さない。けど、私の言うことを聞いて」
少し沈黙が流れた後、2人は頷いた。
「エンドレスの分かってる情報全部吐いて」
「は、はぁ?」
「燦爛の目標は燦爛が動かなくてもいいような世界にすること。それまで燦爛は好事も悪事も全てやり尽くす。だけど、それにはエンドレスが邪魔なのね?」
「邪魔って…」
「アンタら、何をしでかしてるか分かるの?誘拐に不法薬物の栽培、窃盗に殺人まで。まあ、殺人は人のこと言えないけどさ」
石橋と中本は少し悔しい顔をしていた。
「エンドレスってなんだっけ。世界征服が目標なんだっけ」
「それがなんだよ」
「悪で世界征服したところでなんの意味があるの?言っておくけど、燦爛は悪人しかターゲットにしないから」
私は遠くにあった銃に手を伸ばす。
「フランス産の銃か」
性能の良いものを持っている。
「今日担任にも言ったけどさ。裏世界で2人が結ばれても意味がないからね」
「なっ」
「その様子じゃ分かるよ。2人、両思いなんでしょ」
私がそういうと2人とも少し顔を赤くした。
エンドレスとかなんとか言っても2人はやっぱり高校生。
そういうお年頃でもあるのだ。
「ちゃんと足を洗ってから、罪を償ってから付き合いな。じゃないと、ずっと悪人のままだよ。転機があるんだからさ、それをちゃんと自分で掴まなきゃ」
2人とも下を向いた。
「そういえば、石橋のお父さんが言ってたよ。息子に会ってないから心配だって。今度ちゃんと会った時、担任をがっかりさせるのも嫌でしょ」
「お前っ、なんで担任が父親だって分かってるんだよ!」
「杜若ってここら辺で聞かないから。それに、2人ともよく似てるよ」
私がそこまで言うと、後ろから銃声がした。
振り向くと、何人もの男たちがいた。
「嬢ちゃん、うちの上司に何をしてくれてるんだかね?」
サングラスをかけてスーツを着たいかにも悪人の下っ端感。
私は典型的なものに少し固まってしまった。
「石橋かな?呼んだのは」
「正解〜」
2人とも立ち上がってさらに別の銃を構える。
この人数じゃあちょっと厳しいかも。
エンドレスだって幹部とすぐその下なんだから。
「ふふ、いいよ。かかってきな。…みーんな、土に還らせてあげるよ」
私は精一杯の笑顔でこう言った。
ナイフを持ち構えて左手にはさっき奪った銃。
遠距離と近距離の二刀流。
実際に、二刀流はやったことがない。
ナイフで襲いかかってきたものを倒し、銃で他のところを撃つ。
「あ、アイツ、マジでヤバい…」
中本の声が聞こえる。
だけど、制服のスカートが邪魔だった。
いつもなら短パンだからそんなことないのに…
私の足や頬、手にも少しずつ傷が入ったてきた。
だけど、大半はもう倒せたから後は幹部と4分の1程度。
この4分の1が手強かった。
一人一人の体格に比例して腕力も、的確さも違う。
私は、倒れ込んだ男に引っかかり転んでしまった。
すると隙をついたように1人の男が襲ってくる。
待って、対処法が思いつかない!
私が焦っていると、倉庫にまた違う音の銃声が響き渡った。
「コイツら、マリリンの部下?」
華宮だ。
私の目の前にいた男がこっちに倒れ込んでくるのを腕力で翻した。
「えーっと、お前ら誰だっけ」
呑気な華宮。少しずつ近づいてくる。
エンドレスの要員は少し怖がっているように見える。
「石橋と中本」
私がボソッと呟くと納得したようにああ、と呟く。
「メガネとポニーテールだ」
その間に男たちは銃を鳴らす。
だけど、その前にもう華宮はトリガーを押しているのだ。
数人の男が倒れ込む。
「幹部Aの杜若輝緒と幹部Cの中山咲良。借りはこれで返した」
「情報で返したと?」
「そうだけど」
「…まあ、いい。とりあえずコイツら全員やれ」
「命令口調が腹立つ」
私はナイフを使い、華宮はその場で弾丸を自由自在に的確に敵を倒していく。
すると、華宮のサポートもあったらしく石橋と中本までも全員地面に倒れていた。
私の蹴りで2人とも苦しんでいる。
「久しぶり」
華宮は2人にニコッと王子スマイルを浮かべた。
「知ってるんだったらいいんじゃないの」
私がそういうと、華宮はそれもそうかと表情筋がすぐに死んでしまった。
すると、私の方に銃口を向けて2人に喋る。
何も喋るなってことだろうか。
私もさっき奪った銃を華宮に向けた。
「エンドレス、か」
そう呟いた華宮の声は威圧感が凄まじかった。
「しかも、幹部AとC?実際働いてんのはボスか?」
嘲笑うように言う華宮。
「お前だって、」
石橋が反抗しようとすると華宮は石橋に銃口を向けた。
「何か文句が?」
「い、いや、何も」
迫力がすごいんだよ、華宮は。
「上の情報を吐いて。そしたら逃がすって約束でしょ」
「お前勝手に話すんじゃねぇ」
私が喋ると華宮が睨みつけてくる。
私は1番小さいナイフを投げた。
「私の方が先だったんだし。勝手に仕切んな」
すると、華宮はだいぶイライラしていたらしく襲ってきた。
銃がいくつも飛んでくるのを避けながらナイフを操る。
すると私がまたつまづいてしまい、華宮を下にしたままこける。
「うわぁっ」
ギリギリのところで右足を地面に付き、体勢は保つことができた。
私の頭には銃口。華宮の首にはナイフ。
またこの体勢だ。
だが私の体温は上がるばかり。
自分が顔に赤みは出にくいタイプであることに感謝しかない。
「何襲おうとしてるの?」
無駄に顔がいい。しかも、キメ顔。
そんな顔が近いってことが私に恥ずかしさを募らせた。
「先に襲ってきたのはアンタでしょうが」
そんな学生の会話だが周りの気温は冷えている。
私は華宮から離れて2人の前に行く。
「さて、情報を吐いてください」
「お前、本当にアイツと付き合ってないの?」
「付き合ってないから。さあ、録音機持ってきてるので」
「…分かったよ。ボスの名前は———」
そこから私は石橋から情報を抜き取り、2人を解放した。
最後ちょっと脅したけど。
聞き取っている間に華宮はいなくなっていた。

誰もいないところで私は、倒れた男を前にしゃがんで手を合わせた。
静寂に包まれたここで男たちへの罪悪感と自分への憎しみが募りに募りまくる。
この時、私は自分のやっていることがなんの意味になるのか分からなくなるのだ。
だけど合掌をしなければしないで人を殺めたことにまた違う意味で後悔する。
なんで燦爛に入ったのか。なんのために人を殺めているのか。
わざわざ罪を犯して私は生きる意味があるのか。
そう考えた時、頭にポンポンと温かみがあるものが乗った。
目を開けて右にはやっぱり華宮がいた。
「いつもこうやってんの?」
「…関係ないでしょ」
「やってんだ」
私の頭に手を乗せたまま周りを見渡す華宮。
「思ったより人数が多いんだな」
「エンドレス幹部の部下だからじゃない」
私は言い方が冷たくなってしまう。
いや、これが通常なんだ。だって今は学校生活でも個人的に用事があってここにきているわけでもない。
一応任務中なのだから、これが正解なはずなのに華宮は違う。
なぜだか夏祭りの時のような人間としての温かみを感じる。
「お前暗殺者と名乗っておきながらお人好しだよな」
「それはどっちだか」
すると横からぎゅっと抱きしめられた。
コトっとまた私の首を自分の肩に乗せる華宮。
「あとあと後悔してんだよな、お前」
「えっ…」
「なんで私は生きてるんだろうとか考えてんじゃねーの?」
図星だ。
「組織のために生きているか金のために生きているのか自分の存在価値を示すために生きているのか。それまた愛情を探して生きているのか。大体ここにいるやつはそんな理由だよ」
「アンタはどうなの」
「さあ。俺は生きる価値の理由なんかないと思う。まあ、強いて言うなら自分のためかな。人間みんな恵まれて生まれたんだから。その後苦しかったり辛かったりするけど全てを全うしてから死ぬのがベストじゃね?」
華宮の言っていることは正解か分からないけど、なぜか説得力があった。
「ここにいる奴らは全員全うできたんじゃない?これがもし本人にとって正解であっても間違いであっても目の前のことは成し遂げた。大体ここにいる奴らは自分の意思で入ったんだろ。今この状況でお前が手を出さずに死んでたらエンドレス撲滅はもっと遅かっただろうな」
華宮は自分のことしか考えないはずなのに。
拳銃だって持って目的のためなら手段を選ばない性格だったはずなのに。
なんでこんなに優しいんだろう。
「お前はどうなの。って、理由なんかないとか言った俺が言うのもなんだけど」
声色がいつもよりもっともっと優しい。
「…分からない。華宮が言った例の中に自分は入ってない気がする」
華宮はちょっと黙ってこう言った。
「今の間宮の目標は俺を殺すこと。その先の目標は?」
華宮を倒した後の目標…?
「エンドレスを倒す」
「その後は?」
エンドレスの後…
「ない。エンドレスが終わったら地味なものになると思うし」
「じゃあその後はこっちじゃなくてあっちの世界でやりたいことを見つける」
華宮も私を表世界に出したいのかな。
でも、華宮は死んでいるはず…
「っていうか、なんで華宮が私の心配なんかしてるの?さっさと銃でも突きつけたらいいんじゃない?」
私は華宮の優しさに飲み込まれそうになったのを回避して睨む。
これも策略のうち。
そう簡単に引っかかるわけにはいかない。
「残念ながら俺は相手の弱みにつけ込めるほどクズじゃないんでね」
良かった、いつもの華宮に戻った。
私は敵意の他にどこかでこう安心していた。
「実際つけ込んでるくせに何を言うか」
すると、私の頬にある切り傷を華宮は細い親指で優しく撫でた。
「別に。ただ単に心配して上げただけですけど何か?」
スルッと触れた頬に華宮の体温が残る。
…本当に言っているのだろうか。
策略とかではなく?
「ま、そう言うのは考えるだけ無駄じゃね?」
そう言って立ち上がる華宮。
ふっと見下すような笑顔を送ってくるけど恐怖は感じない。
「あんたが深く考えさせたんでしょうが!」
ムッとなって言い返して私も立ち上がる。
すると、華宮はまたあの優しい笑顔を作った。
その笑顔を見て私の頬に一粒、また一粒と涙が流れる。
なんで涙が流れたのか分からない。
だけど、華宮相手に安心してしまったのだろう。
「おまっ、なに泣いてんだよ!?」
珍しく分かりやすいように焦る華宮。
「なんでもないから」
「…いや、なんでもなくないとお前は泣かねーよ」
そう言ってまた背中に手を回してとんとんと優しく叩く華宮。
ああ、もうどうしよう。
こんなんじゃ、堂々と燦爛なんて言えないよ。

天敵を好きになっちゃったらもう殺せないじゃない。