よく考えてみれば、私は部下達と特に親しくしていた覚えはない。
 そういった面も考えると、私はあちらの王国において、あまりいい立場という訳ではなかったのかもしれない。

「……すまない。余計なことを聞いてしまったか?」
「え? いえ、そんなことはありませんよ」

 私の表情が変わったからか、アグナヴァン様は心配そうに声をかけてきた。
 少し前から思うようになったことだが、彼は意外と心配性である。私が少し暗い顔をするだけで、かなり心配してくるのだ。
 それは、彼の優しさ故のことなのだろう。そんな彼のことを、私は素晴らしい人だと思っている。

「まあ、私は慕われていたという訳ではないと思います。特に親しい人もいませんでしたし……」
「……そうか」

 私の言葉に、アグナヴァン様は少し悲しそうな笑みを浮かべていた。
 やはり、彼はとことん優しい人である。

「でも、助けてくれる人はいたんですよ? ほら、パストマン教授は、私の味方をしてくれていた訳ですし……」
「それは……そうだな」

 ドルマニア王国に 私の味方はほとんどいなかった。
 だが、先生のように心強い味方がいたのだ。数少ないとはいえ、彼のような味方がいた私は、充分恵まれていたといえるだろう。