どうして
人は気持ちが揺れ動くのだろう。

ずっと同じ人を好きで居続けることは
本当に運命的な人でないと
ダメなのか。

仕事も恋人も家族、
そして食べ物でさえも
ずっとずっと
好きで居続けるパワーは
凄まじいもの。

倫理に反することは
人間同士許されることではないが、
ロボットではない。

人間は間違う生き物。

絶対に完璧に生きることは
ロボットより難しい。


天気だって
晴れ続けることはないし
雨が降り続くこともない。


誰が決めたか
わからない。

たった
1人だけ愛しなさいと
いうルール。

国によっては一夫多妻制がある。

ましてや、
今の時代では
男女を超えた
同性カップルを
認める法律も
出てきた。

契約してるから
こっちが先だからと
人間が勝手に決めたルールに
そって生きている。


これが動物の世界なら
それが動物だからねと
誰も何も文句言わない。

もちろん
動物の中でも
争いはある。

争いを防ぐための法律だが、
お互いに、納得する結婚と
離婚なら誰も
何も文句言わないだろう。


人に何と言われようとも
幸せならそれでいいのだ。


美羽は
拓海の部屋に
明らかに誰か別な女性が
置いて行ったアクセサリーや
歯ブラシ
化粧品があることに
気づいていたが
今はそれさえもどうでも
よくなっている。


イラだちさえも消えた。


もう拓海への執着は
なくなったみたいだ。


今はただ1人、あの人の所に
行きたいだけ。


息を荒くさせては
アパートの一室のドアの前に
立ち止まった。

美羽は、チャイムを鳴らす。

寝ぼけ眼の颯太が
パジャマ姿で
静かにドアを開けた。



「はい、どちらさま?」


誰だか分からずに開けたドアの前に
美羽だと気づく頃には
首にしっかりと手を回されていた。


「颯太さん!」


ハッと目が覚めて、
そっと美羽の腕を
おろす。


「美羽?!
 朝早くから、どうしたの?」


「私、どんな颯太さんでも
 受け入れるから
 一緒にいさせて、お願い!!」

 ガシッと颯太の腰に手を回して
 体にしがみついた。


(困ったなあ…。)


 そう思いながらも、
 颯太は美羽の背中をさすった。

 玄関の右側の壁側に美羽を寄せて
 理性が飛んだ。

 必死でおさえていた気持ちが
 滝のように一気に流れ落ちていた。

 奥の寝室で寝ている紬のことを
 頭の片隅で考えながら
 美羽に夢中になった。


 本音を隠して
 常識とか子どものこととか
 家族のこととかを考えると
 自由に行動してはいけないという
 ストッパーがかかっていた。


 どんな自分でも良いという言葉に
 想い惹かれて
 自己肯定感があがった。


 濃厚なキスに夢中になって
 それ以上はできなかった。

 
 奥の部屋でガタガタと、物音が聞こえて
 ヒヤッとして冷静さを
 取り戻した。

 
 颯太の手に美羽の髪が絡まっていた。

 
「あ、ごめん。」


「うん、大丈夫。」


「もし、良ければ
 ご飯食べてく?」


「あ、そうだね。
 ちょうどお腹空いてた。」


「まあまあ、上がって。
 散らかってるけどさ。」


 颯太は、部屋の奥へ誘導する。
 美羽に遠慮することなく、
 素のままで、接することにした。

 もう隠すことは何もない。


 紬も起きてきて、
 初めての3人の朝ごはんを
 食べることになった。


 紬はすごく喜んで
 美羽に次から次と
 いろんなことを話し始めた。


 あいづちを打っては
 真面目に聞いてあげる
 美羽だった。

 
 ふんわりとした空気が流れた。

 
 窓の外では
 地面から屋根に
 数羽のスズメたちが
 ちゅんちゅん鳴きながら
 飛び立っていた。