「やっと帰ってきたのね」

 開口一番、母に文句を言われた。

 まあそうだろう。帰国から5日も経っていて、父には何度も会っているのに母とは会っていなかったんだから。

「ただいま」
「帰国したんなら、普通は実家に真っ先に顔を出すわよね?」
「悪かったよ……。帰国するなり父さんにだまされて見合いしたんだぞ。あれがなかったら帰れてたよ」

 俺のせいではない。父親のせいだと言うことを強調しておく。

 ぐつぐつと煮えている鍋から母親特製の鶏団子と野菜をお玉で掬い、俺の前に椀を置きながらも小言は続く。

「お父さんにも困ったものだわ……。でもお父さんの気持ちもわかるのよ? あなたもういい年なんだから――」

 あ、まずい。ここでも結婚だの子供だのという話になりそうだ。

「俺は男。まだ30にもなっていないのに、別に急ぐ必要はないだろう? あ、そっちの薬味取って」
「はい。光希くんはもう二人目が生まれているのよ?」

 また光希の話か。あいつが早いだけなのに。それに光希の方が年上じゃないか。

「女なんだろう? 出産祝いまだしてないんだ。何を持って行ったらいい?」
「そうねぇ……。もう何でも揃っていそうだからお祝い金の方が良さそうだけど、それだと味気ないわよね」

 正直出産祝いなんて全く想像がつかない。
 そこへ妹の千鶴が帰ってきた。