自分の体に戻った俺は、居酒屋の待合席に座っていた。

 前回のことも含めて考えてみると、この体をここまで動かしたのは、きっと俺に代わってこの体に入った杏子だ。
 それで前回女子トイレにいたことの説明がつく。

『入れ替わり』か……。

 現代国語でも物語文が苦手だった俺。
 ファンタジー小説なんてとんでもない話だと思っていたけれど、現実に『入れ替わり』を経験してみると、意外と冷静に受け止めている俺がいる。

 実際にこの身に起きたことなんだから認めるしかないのだ。
 それにしても……。
  
「……最悪だ」

 俺は頭を抱えた。
 前回は見合いの最中で、今日はよくわからない女どものハーレムの中に放りこまれていたんだよな。

 俺の印象、最悪だろうな……。
 杏子の幸せそうな家庭と、俺の今置かれている幸せとは無縁の環境を比べて、どっと疲れが押し寄せてきた。

 何もかもが空しい。
 俺が欲しかったものは、もう永遠に手が届かなくなってしまったのだから。

 宴会の席にはいつの間にか親父が参加していた。

 気分が全く浮上しないまま席に戻った俺は、相当顔色が悪かったのだろう。

 何故か親父が俺の代理をすると言って、早々に帰るように命じられた。

 いつもふざけたことばかり言う親父だか、今回ばかりは助かった。

 こうして俺は宿泊しているホテルへ帰ることになった。