そこでふと洗面台の鏡が目に入った。

 私だ。いつもの仕事終わりの精彩を欠く私がそこにいた。
 いつもと違うのは、明らかに泣いた後の目をしていること……。

 泣いた? 誰が……?

 ハッ! どうして気づかなかったの?

 私は鷹也に変身したんじゃない。
 鷹也と入れ替わっていたんだわ!

 考えなくても簡単にわかることだった。
 私の魂は鷹也にの体に入っていた。
 ということはその間、鷹也の魂は?

 そうよ、私の体に入っているに決まっている。
 ファンタジー小説で言うところの『男女逆転』の方だ。

「バレた……?」

 鏡には顔面蒼白になっている私が映っている。
 勝手に子供を産んだこと、鷹也にバレたの?
 どうしよう! 一生知らせるつもりなかったのに!

「ママ? ……どうしたの?」

 ひなが私の様子がおかしいことに気づき、顔をのぞき込んでくる。

「杏子? どうかしたのか? どんぐり飴、喉に詰まったとか……」
「――!」

 頭にタオルを掛け、ボクサーパンツを履いただけの大輝が浴室から出てきた。

 大輝は、いとこと言うよりは姉弟のような関係なので、まったく遠慮も恥じらいもない。
 
 いやそれより大輝が知ってる⁉
 ということは、鷹也はここまで来て大輝を見たの?
 頭が混乱していた。

 鷹也が見たのは、おそらくひなと大輝が仲良くお風呂に入っているところ。
 そして鷹也と大輝は過去に会ったことがない。

 ということは……ひなと大輝を親子だと思っている可能性も、ある?

「杏子? お前顔が真っ青だぞ? 目は赤いし。大丈夫なのか?」
「ママ、しんどい?」

 二人が心配している。
 祖母が亡くなったという悲しい経験をしたところだ。
 私の不調が病的なものじゃないか気になるのだろう。