元カレと再会ワンナイトで愛を孕んだので内緒の出産をしましたが入れ替わったらバレました

「すみません。小さいときに祖母に連れられてこちらに来たことはあるのですが、お参りの仕方までは覚えていなくて……」
「そうですか。ここややこしいんですよ。もちろんごく普通に手を合わせていただいてもいいんですが、せっかくならこの通りにされた方が御利益があるかと……」

 そう言いながら、小さな冊子を渡してくれた。
 その冊子には寺の由来と、お参りの手順が写真と文字で丁寧に書かれていた。

 ここは通称『融通さん』と言われているお寺で、祈念すれば何かと融通をきかせてくれるという謂れのお寺。そのためのお参りの手順があるってことなのね。

「もしよろしければ一緒に回りましょうか?」
「え」
「あ、ナンパじゃないですよ。私、妻も子供もおりますので」
「……ハッ、あ、いや、そんな風には思っていません! でも……私一人のためにいいんですか?」
「もちろんです」

 親切なお坊さんだわ。

 それからそのお坊さんはロウソク2本とお線香21本を持った私に正しいお参りコースを案内してくれた。
 
「本堂に入る前にまずこちらの常香炉で全ての線香に火をつけます」
「は、はい」
「その線香を3本ずつ、常香炉の左右に差してください」

 私は言われたとおり、広い常香炉の端と端にお線香を3本ずつ差した。

「次にこちらの5つの寺社にもお願い事をし、3本ずつお供えください」
「はい……」

 3本ずつ、3本ずつ、3本ずつ……。
 私はせっせと小さな寺社にお線香とお賽銭を供え、お参りを繰り返す。
 急がないと火をつけたお線香はどんどん短くなっていく。

「終わりましたか? では本堂へご案内します」

 え、待って、待って。
 ここのお参り、忙しくない!?

 本堂ではロウソク、お線香、般若心経……とこちらも盛りだくさん。
 これは案内してもらわないと絶対に分からないわ。

「ようお参りなさいました。お疲れ様でしたね」
「は、はい……」

 本当に疲れたよ。
 この手順、慣れるまで大変だ。