忌引き明け、金曜日午前中のアポイントは築11年の平松邸。
 家族構成はご主人、奥様、高校生の双子の女の子。
 平松邸は姉妹が幼稚園の頃に建てられた。

 訪問し、勧められるまま手作りのパウンドケーキをいただき、リフォームの相談を伺う。

 正直なところ、この家はまだまだこのままの状態で住める。電気機器の入れ替えは必要になってくるが、建物自体は問題ない。

 家を見ればわかるのだが、とても綺麗に、丁寧に生活されているのだ。

 にもかかわらず奥様はかなりリフォームに乗り気だった。

 子供達が大きくなり、もう少し洗練されたインテリアに入れ替えたい。
 それならいっそのことリフォームし、全く違う雰囲気の家に住みたいのだと。

 有り体に言えば、飽きた、ということだ。
 経済的に余裕があり、住居にこだわるお客様にはよくあることだった。

 もったいないとは思うけれど、お客様の意見を尊重し、お客様のご希望に寄り添うのが私の役割。

 平松様のご希望を聞き取り、ラフで簡単な設計図と完成予想図をスケッチする。

「あら、まあ……和久井さん絵がお上手なのね。そうそう、まさにこんな感じよ!」
 
 平松様が気に入ってくださったようだ。

 設計図……久しぶりに書いたな。
 大学ではいっぱい書いたけど、入社して施工管理に配属されてからは自分で書くことはなくなった。

 本当は設計に行きたかったけれど、配属は選べないのよね。
 最大手と名高い住宅メーカーに入れただけでも満足しなきゃね。
 こんな風にお客様と距離が近いカスタマーの仕事も私は気に入っているんだし。
 
 次回は設計士と共に訪問することを約束し、平松邸を後にした。