私は思わず駆けだして助け起こそうとした。
 でも私を追い抜かし、先にその子を助け起こした人がいたのだ。それが鷹也だった。

 鷹也が車道から子供を抱き上げた瞬間、バイクが猛スピードで走りすぎた。危機一髪だった。
 
「本っ当にありがとう! あなた、命の恩人よ!」
「いえ……当然のことをしただけです」
「でもあんなに素早く駆けつけてくれなかったら、あのバイクに跳ねられていたかもしれないわ」

 一部始終を見ていたからわかる。
 頭から落ちたあの子は動けない状況だった。
 素早く抱き上げなければ、猛スピードで走ってきたバイクは、男の子を避けきれず轢いてしまっていただろう。

 幸いにも男の子は頭を打つようなことはなく、おでこと手と膝を少し擦りむいただけのようだった。
 でも、落ちたショックと擦り傷で今も泣き続けている。
 
  「……もう結構ですから。無事で良かったです」

 そう言って、泣いている男の子の頭をポンポンと撫でた。
 男の子は一瞬鷹也を見上げたものの、さらに泣き出してしまった。

「あらあら……ごめんなさい! りくくん、このお兄さんが助けてくださったのよ? ありがとうって言わないとね」

 保育士さんが感謝の言葉を促すも、男の子は保育士さんにしがみついたままだ。

「あの……本当にもう……」
「いいえ! 助けてもらったのにそんなわけには――」
「い、いや、失礼します」