「……俺、ここ用とかいらない」
「え?」
「今朝、藤嗣寺へ行く前に不動産屋へ行ったんだ。まだホテル暮らしだから、住む所を探しに」
「……」
「仮押さえしたけど、断ろうと思ってる」
「断る?」
「ここで一緒に住みたい。だって俺たち結婚するんだよな?」
「そ、そうだけど」
「ダメなのか?」

 そっか。結婚承諾したんだから、これから一緒に住むのは当たり前か……。

 でも、今まで祖母とひなの女3人暮らしだったから緊張するな。

 もちろんそんなこと言ってられないけど。

「……ダメじゃないよ。でも、ここでいいの?」
「ここでって……杏子とひなにとっては大事な場所じゃないのか?」
「確かに私はもう15年近くここに住んでるけど、だから結構古いと言うか……。新婚生活には向かないかも」
「新婚生活……」
「いやっ、も、もう子供もいるんだし、新婚って感じじゃないかもしれないけど」
「……子供がいたって新婚は新婚。杏子がそう言ってくれるのは嬉しいよ」

 なんでそんなにニヤニヤにしてるのよ。
 一応気を使っているんだからね!
 こんな古いマンションでいいのかなって。