そう言って、杏子は俺が引き留めるのも聞かずに走り去ってしまった。

 何が起きたのか全くわからなかった。
 俺は今振られたのか?

 何故だ? 実家が森勢商事だと言ってなかったのが気に入らなかったってことか?

 一応名の通った企業だからやっぱり面倒だと思われたのだろうか?
 
 あの親父に捕まったら面倒だから、知らない方がいいと思ったし、なんなら親は無視して結婚してから会わせてもいいかなと思っていたのだが。

 こんなことなら逆に父親に話して、周りから固めた方が良かったのか?

 その後、杏子と全く連絡が取れなくなった。おそらくブロックされていたのだろう。

 年度末で仕事に追われる日々が続き、4月から俺は北九州支店に異動になった。

 異動の前に何とか杏子と連絡を取りたかったが、ブロックが解除されることはなく、急な異動だったため、会いに行くことも出来なかった。


 ◇ ◇ ◇


 あの日の杏子の拒絶が、一体何から来ていたのか確かめるべきだったのに――。

 あまりにも面倒なことが起きて放置してしまったのは俺の責任だ。

 今更だと思う。でも、たとえ杏子が結婚していても、俺は拒絶された理由を聞きたかった。
 そうでないと、俺は一歩も前に進めないままだろう。