<sideー匠真ー>


『先生、脈が落ちてます!』


外来中、病棟のナースからコールがあった。
一瞬にして、血の気が引く。

俺は隣にいた大貫先生に事情を告げ、急いで病棟へと向かった。

全速力で廊下を走り、エレベーターに乗り込む。
……5階まで、遠すぎだろ。

早く、早く……。
焦る気持ちをなんとか抑えつつナースステーションに向かうと、同時に理学療法士の野瀬がナースステーションに現れた。

なにか言いたそうにしていたが、それどころではない。


「葵は?」

「今、酸素量増やしてます。でも、もう脈が……」

「すぐに家族に連絡」

「ドクターコールの前に連絡しました」


「了解」と吐き捨てるように言ってから、急いで葵のいる病室へと向かった。

頼む……頼むから間に合ってくれ。
まだ意識があるうちに、もう1度言いたいんだ。


『愛してる』と。
それだけ、伝えさせてくれ……。



「葵!」


ノックもせずに病室へ入ると、担当の大貫が酸素を増量していたところだった。

酸素10ℓでも、Spo2――血液酸素濃度は80%を切っている。
通常の酸素濃度は90%以上だ。


「い……五十嵐先生っ……」


半泣き状態になりながら、大貫は俺の指示を待っている。

乱れた呼吸を整えてから。
俺は静かに首を横に振った……。