「おい、お前、何やってんだよ」

「……?」

 聞こえるはずのない、ずっと聞きたかった声が私の後ろから聞こえてきて、信じられないような気持になる。

 あ、朝比くん?

 それとも、私が来てほしすぎて聞こえてきた、幻聴?

 私が振り向く……と同時に。

 私は、朝比くんの腕の中にいた。

 え……え?

「ちょっ、朝比くん!? きゅ、急にどうし――」

 慌てて顔を上げると……、朝比くんは見たこともないくらい険しい表情をしていた。

「お前、紅月になんもしてねーよな」

 そんな彼から発せられたのは、威嚇するような低い声。

 いつも明るい朝比くんとは、全然違う。

 こんな朝比くん、初めてだよ。

「何もしてないよー、ただ連絡先を交換しようと思っただけ。別にいいでしょ、そのくらい」

 朝比くんの態度に対して、やっぱり背の高い男の子は軽い調子でひらひらと手を振る。

「よくねーよ。……好きな女子が、見知らぬ男子と連絡先なんか交換してたら」

 え……?

 い、今、朝比くん、なんて言った?

「……ふうん。まあ、いいけど。みんな、行こ」

 急に興味をなくしたように、男の子は班の女の子たちを連れて歩いていった。