「あいつ、電話を切った時は彼女に会いに行かないって言ってたよ。
だけど心は向こうに行ってた。
だから、つい……一発殴っちまった」
「殴ったぁ~!?」
上半身を太郎さんに乗り出し叫んだ私に、
太郎さんは初めて申し訳なさそうに視線を落とした。
「悪い。手が勝手に……って言っても言い訳にもならないよな」
「翼君は!? 怪我はしなかった!?」
「あいつは無傷だよ。
そのかわり……トナカイの鼻がとれた」
だからトナカイの鼻が毛糸玉になってたんだ……。
赤鼻のトナカイが黒鼻のトナカイに。
どうして赤い毛糸にしなかったんだろう……
そう思った時、なんだか可笑しくてくすっと笑った。
「何が可笑しいんだよ」
「ん? 別に……」
くすくすと笑う私を不思議そうに見ている太郎さんを見ると、よけい笑ってしまう。

