どこかなぁ。


確かここらへんだったような。


...あ、あった!


わたしはロッカー側の床に落ちていたヘアピンを手のひらで包む。


よし、部屋に戻ろ。


するとひとりの女の子の声が聞こえてきた。


「わたしこの前ね、優くんにキスしよって誘ってみたの」


...え?


唐突に聞こえてきた会話に頭が真っ白になる。


ーーーゴンッ!!


いったぁぁ...。


いきなりすぎる爆弾発言に動揺したわたしは、ロッカーの角に足をぶつけた。


「そしたら優くん、あの微笑みで『今はおあずけね?』って言ったの!」


「きゃー!プレイボーイ宮野 優、さすがだねぇ」


「さすがでしょ?しかもこれには続きがあってね、その時校庭に...」


優くんの話をしながら脱衣所を出る女の子達。


え.....っと。


これはさ、つまり...あー、うん、えっとね。


グルグルしている脳内で必死に考えていると、だんだんと目に涙がたまってくる。


女の子に言った「今はおあずけ」という言葉。


わたしに言った「もう少しだけまってて」という言葉。


言葉は違うけど、意味は同じような気がする。


涙がこぼれそうになったわたしは上を向いた。


やっぱり、優くんの中には何も特別な感情なんてなかったんだ。


優くんにとってわたしはただの隣の席の人、同じ班のメンバー。


それ以上もそれ以下もない。


手を繋いできたのもほっぺにキスをしてきたことも、きっと何かの気まぐれだろう。


そう思いながら、今日のことを考える。