秘密の彼氏は、私にだけ甘すぎる



「……何?」


振り返った長嶺くんと目が合い、ドキリとする。


「な、長嶺くんは、毎朝ここで一人で練習してるの?」

「……」


私の問いかけに、長嶺くんの整った眉がピクっと動くのが分かった。


……って、やだ。私ってば、長嶺くんのこと引き止めて何を言ってるの!?


練習するのは個人の自由だし、そんなこと別にわざわざ聞かなくていいじゃない。


「ご、ごめ……」

「ああ、そうだよ。俺サッカーが好きだし、もっと上手くなりたいから」

「そう、なんだ。凄いね」


長嶺くんがあれだけサッカーが上手いのは、彼の努力の賜物でもあったんだ。


「わっ、私、長嶺くんのこと応援してます。練習、頑張って下さい」

「ん。ありがとう」


彼の薄く綺麗な唇が、弧を描く。


うそ、笑った。


「練習、頑張るよ」


私だけに向けられた優しい笑顔が眩しくて、とくんと胸が鳴る。


「それじゃあ」


私に軽くお辞儀をし、走っていく長嶺くんの背中を見つめながら思った。


私は、この人のことが好きだと。


長嶺くんとほんの少しだけど、初めて話せたことが嬉しくて。


この日はしばらく、胸のドキドキがおさまらなかった。