「俺からひとつ、白井さんにお願いがあるんだけど」
「お願い? 私にできることなら……」
「俺らが付き合ってることは、誰にも言わないで欲しいんだ」
「誰にも?」
「うん。ダメかな?」
長嶺くんにそんなお願いをされた私は、どうして? と思ったけれど。
「ううん、いいよ。わかった。誰にも言わない」
彼の望みだし、長嶺くんと付き合えるのならそれでもいいかと、このときは深く考えずに了承した。
そうして私は長嶺くんと交際していることを親や友達、周りの誰にも言わずに今日までやって来たというわけなんだけど。
「んんっ」
「理帆。なにボーッとしてるの?」
少し膨れっ面の長嶺くんが、私の鼻を軽くつまんだ。
「なっ、長嶺くんと付き合い始めた頃のことを思い出してたの」
「ふーん。俺のこと考えてくれてたんだ」
途端に、嬉しそうな顔になる長嶺くん。
「理帆が他の男のこと考えてたら、どうしようかと思った」
ふわりと微笑んで、長嶺くんがこつんと私に額を重ねる。
「そんなわけないでしょ。私が好きなのは、長嶺くんだけだよ」
すると、長嶺くんの人差し指が私の唇に当てられる。
「ねぇ、理帆。俺たち、付き合ってもうすぐ1年になるんだし。そろそろ俺のこと、“ 長嶺くん ” って呼ぶのやめにしない?」
「え?」
「今日から俺のことは、“ 翔也 ” って呼んでよ」



