一瞬何事かと思ったが、腕を引っ張る小手には見覚えがあった。
「よぅ、手伝え」と戦場に似合わぬ呑気な声を掛けてきた相手は、彼女の上官である騎士だった。
厳つい全身鎧の彼と、ヘルム越しに目が合う。
頑強な鎧の刀傷は昨日よりも増えていた。

「戻りますか?」という女戦士の問いに、彼は緩く首を振り、彼女の背後に回る。
「どこも同じだ。援軍が来る迄、凌ぎ切るしかねぇな。つーわけで、そっち側頼むぜ。」
上官の苦笑した顔が容易に想像出来た彼女は、溜息一つ付いて再び剣を構えた。


戦況は最悪。
されど、だからこそ、意気昂揚。
2人の戦士は、裂帛の気合と共に、一歩を踏み出した。