……なにそれ。


そんな悲しい環境で生きてるの。


誰も心配してくれないなんて、そんな寂しいこと…。


「口では“大丈夫?”って心配してくれるけど、結局撮影には参加させられるし、“休んでいいよ”なんて言ってくれる人は一人もいない」


そんな…。


「だからこっちも“大丈夫”としか言えない。それに、病院行こうとすると嫌な顔されるし。不調なんか訴えてらんねー。結局、大丈夫なフリをするしかない」


…トップアイドルって、こんな過酷な労働環境なの…?


おかしくない…?


だって、まだ高校生だよ…?


「ロケ、延期できないの?」


「むり」


「……なんで、アイドルやってるの?」


純粋な疑問だった。


苦しい過去を持ち、厳しい環境で、なぜアイドルを続けられるのか。


東雲碧は、ふっと悲しげに笑った。


「愁斗から全てを奪った俺が辞めれるわけねーじゃん」


と。


何も言えなかった。


励ましも、慰めも、フォローも、何も浮かばない。


「…じゃあな」


見慣れた無表情に戻った彼が、静かに扉を閉めた。