そんなことがあった翌日。
否が応でも朝日は昇ってくる。


「まぁ、酷い隈よ!」


クラスメイトが心配そうに話しかけてくる。
そりゃ無理ないよ。
昨日のアレで全然眠れなったんだもん。


「えぇ。 少し寝れなくてね」
「夜更かしは美容の大敵ですわよ?」
「ふふ。 おかげで今日はぐっすり眠れそうだわ」
「それならいいですけど。 もし辛いようなら中庭にある薔薇園へ行ってみたらどうかしら?」
「薔薇園?」
「えぇ。 ここの薔薇園ってとても入り組んでてあまり訪れる人がいないそうですわ。 一人になりたいときにピッタリの場所ですの!」


パチリとウインクしながら告げる彼女。
昨日の出来事からクラスメイトに囲まれたり、至る所で話しかけられているのを見て気を使ってくれたのね。
純粋な優しさに私は嬉しくなり笑顔で「そうするわ」といい中庭に向かった。


「本当に入り組んでるのね」


薔薇園に入ったら驚いた。
本当に迷路のように入り組んでいる薔薇の壁。
所々にベンチがあり、一番中央には小さな噴水があるようだ。
これは確かに一人になるにはうってつけの場所かも。


「にしてもこの噴水どこかで見たことあるような…?」


始めてみるはずの噴水にどこか既視感が生まれる。
どこで見たのか思い出そうと顎に手を当てていると二人の男女の話声が聞こえてくる。

そっか。
一人になりたときにも丁度いいけど、二人きりになるのにも丁度いいってことね。
私は一人頷きながら邪魔しないように来た道を戻る。
少し曲がったそこは噴水のベンチのすぐ裏側。
ここにもベンチがあるので邪魔しないように静かに座った。

ここからだと話が丸聞こえね。
そう思いながら静かに目を閉じると、恋人たちは噴水の場所についたのか声が鮮明に聞こえ始める。


「まぁ! 素敵な場所ね! ルヘン!」
「そうですね。 姉上」
「私ルヘンより一年もここに長くいるのにこんな場所ちっとも知らなかったわ」
「僕も偶然知ったんですよ。 どうしても姉上に教えたくて。 姉上が知らなくてよかったです」
「本当にルヘンは物知りね。 私も頑張らなくっちゃ!」


ルヘンとリリー!
そうだ!
この噴水、ルヘンがリリーに色々教えるためにくる情報リサーチの場所!
最初の頃は通ってたけど何回もやり直している内に暗記するから来なくなったのよね。
完全に忘れてたわ。


「ところで姉上、どなたか気になっている殿方はいますか?」
「またその話…。 ルヘン恋バナがしたいなら何も姉である私じゃなくてもいいでしょう?」
「姉上だから気になるのです。 気になる方がいたら調べてきますよ。 姉上のお役に立ちたいのです!」


あった。 あった。
こんな会話あったわー。
それで一回の噴水イベントに一人聞けるんだっけ。
リリーは誰のことを聞くのだろうか?
空の国のハイン? それとも陸の国のマイン? それとも海の国のレイン?


「気になるわけないんだけど最近レイン様から話しかけられることが多くなって困ってるの」


まさかのレインかぁー。
一番難易度が高い人を選んだねリリー。
『ネイチャードリーム1』には難易度が存在する。
難易度が一番簡単なのが婚約者であるハイン。 ハインの好感度が半分でも特定のイベントさえクリアしてしまえば必ずハインルートになってしまうってぐらいの優しさ。
おかげで他の人のルートにいけなくて何度ハインを落としたか。
二番目は幼馴染の陸の国マイン王子。 こっちは隣国ということで小さい頃から知り合い好感度が高ければハインのルートをぶち壊しに来るイベントが発生する。
正直マインは好感度上げるだけだから普通くらいの難易度。
そして一番ハードモードがレイン。 いうまでもなくハインルートと被りイベントが多く、ハインルートに行きやすいのもあるが、一番の問題は…。


「レイン様ですか、彼にはいい噂をお聞きしませんでした。 何でも凄く女性にだらしないんだとか…。 僕は姉上が心配です! レイン様よりもハイン様やマイン様なんていかがでしょうか? こちらのお二人からはいいお噂しか聞きませんよ?」


ルヘンが邪魔をしてくること。

レインルートの一番の難関はルヘン。
基本的に誰がどこにいるかの情報は全てルヘンが持っている。
だからルヘンに攻略したい王子の名前を伝え、ルヘンが場所と話題を提供しそれが選択肢に加わる。
だけどルヘンはレインの情報を真逆で教える。
ルヘンがレインは南のグラウンドにいますよと言えば北のグラウンドにいるなど真逆を伝えてくるのだ。
話題もそう。
好きな食べ物がトマトだと聞いて差し入れすればそれは嫌いな食べ物だったとか。
何度ルヘンによってハインルートに戻されたことか…。
しかも大体逆の場所にハインがいるんだよねぇ。


「確かに困ってるけど、そんなに言っちゃだめよ」
「…はい。 申し訳ありません」
「もう少し彼と話してみて、悪い人か良い人か判断するわ。 ルヘン、彼がどこにいそうか知ってる?」
「えぇ。 噂だと南のグラウンドにいるそうですよ」


じゃあ北のグラウンドだね。


「そうなのね。 少し話してくるわ! ルヘン素敵な場所を教えてくれてありがとうね!」


そういうとリリーは足早に薔薇園から姿を消した。
私も静かに立ち上がり、ルヘンにバレないように教室に向かった。

教室に戻ると後ろからルヘンが入ってくる。


「やあ、ナユ。 どこに行ってたの?」
「少しお散歩してただけよ。 ルヘンは?」
「僕は姉上と会ってたよ」


うん。 
ごめん、後ろで話聞いてました。


「そうなの」
「本当は君と一緒に居たかったんだけどね」


そういいながらルヘンは私の髪を手ですくうとそっと口付けをした。
その行動に私の顔は赤くなる。
本当にこのゲームはよく口説いてくるんだから!


「でもリリー様との時間も大切にしなくっちゃ。 リリー様はスカイハーツ様と婚約が決まっているんだし、卒業後は空の国に行っちゃうんでしょう?」
「うん。 だから卒業したら僕は一人になるんだよ」
「そんなことないわよ」
「ナユも一緒に山の国に来てくれる?」


おうおうおう。
怒涛じゃないか。 こりゃ惚れちゃうぞ!


「私じゃなくても素敵な子はたくさんいるでしょう? それに女王様や王様だって山の国いるでしょう?」
「ナユがいてくれたら寂しくなくなるんだけどなぁ」
「まあ…遊びに行くくらいなら?」
「本当!?」
「えぇ。 それぐらいなら問題ないわよ」
「じゃあ約束ね」
「はいはい。 約束ね」


ルヘンの純粋な笑顔に私は毒気を抜かれ自然と笑顔になった。
このままルヘンと付き合うのも悪くない。
そう思い始めていた。



「また、来ちゃった」


薔薇園でのリリーとルヘンの会話を聞きに毎回薔薇園に来ている私。
あれ以来結構な頻度で来ている。
だってだって! 
ゲームの進展具合を知れるし、ついつい好奇心が…。
静かにベンチに座っていると噴水側から二人の声が聞こえ始めた。


「それで姉上はまだレイン様が気になるのですか?」
「だから気になるってわけじゃないのよ。 少しお話をしてみたいくらいで、私にはハイン様っていう婚約者もいるわ」


お、ついにリリーからハインの名前がでた。
ということはハインルートに戻ったな。


「そうですよね。 やっぱり姉上にはハイン様が一番お似合いです」
「そうね。 彼優しいし、とっても素敵な王子様よ。 そういえばルヘン、これハイン様から」
「これは?」
「ハイン様からの招待状。 ここに来るときにあったヒマワリ花壇の傍でティーパーティーをするんだって」
「ティーパーティーですか。 絶対に行きますね」
「そうして、あ! ララちゃんと一緒に来てもいいからね?」
「ララ様とですか…?」
「え、だってルヘン小さいときからララちゃんのこと好きじゃない。 一度四国合同のパーティーであって以来いつも言っていたわ」


え?


「確かにララ様は素敵ですが…」
「ほら漆黒の綺麗な髪に、綺麗なブルーの瞳。 神秘的な美しさだって私に何度も話してくれたでしょう?」


こんな話あったっけ?
そう思うの同時に納得する。

ルヘンが私に構うのは私がララに似ているからだと。


だから『ネイチャードリーム2』で最初から好感度高いんだね。
『ネイチャードリーム2』は『ネイチャードリーム1』でハインとリリーが付き合った後の世界になる。
その為ヒロインはリリーからララに変わる。
その攻略対象であるルヘンは最初から好感度が高かった。

冷静な頭とは裏腹に私の瞳から涙がこぼれ落ちる。
あぁ。




私、ルヘンことが好きになってたのか。


私はそこにいるとこに耐えれず、その場を後にした。





「姉上、確かに僕はそういってましたけど、ララ様じゃありませんよ」
「え?」
「僕がいってたのはそのパーティーに来ていた海の国の貴族です。 ララ様じゃありません」
「そうだったの!?」
「確かにララ様に似ているので勘違いされたかもしれませんが…」




だからこんな会話をしていたなんて全く知らなかったのだ。